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6章
苦手が集まると恐怖になる
しおりを挟む目が覚めると自分の周りがなんかキラキラしていた。寝起きのボーッとした頭で寝落ちしたんだと思い当たった。
キラキラしている気がしたのはアクランの毛並みに朝日が反射していたからだった。
リバーシをしていたみんなもオールはしなかったらしい。
『んん……主様、おはよう』
『むにゃ……おはようございましゅ』
「クラオル、グレウス、おはよー。朝ご飯作るからみんなを起こしてもらってもいい?」
腕の中にいたクラオルとグレウスに頼んで、朝ご飯のホットサンドを作り始める。
日課のストレッチをして朝ご飯を食べたら出発だ。
今日はニヴェスに乗せてもらい森へ走ってもらう。
野営していた巨石を離れると段々と草の背が高くなり始めた。人があまり来ないから雑草が伸びているんだと思う。今では大人の膝くらいの高さになっていて、私じゃ歩き難くてしょうがない。馬車も車輪に草が絡みそうだ。ニヴェスの上に乗せてもらっていて助かった。
草を刈りながら進むか聞くと、ニヴェス達は特に気にならないらしいのでそのまま進むことになった。
お昼前に森の入り口に到着したので、少しゆっくりお昼休憩をとって午後から森に入ることにした。
久しぶりの森にクラオルとグレウスも嬉しそう。
はしゃいでケガをして欲しくないのでご飯の後またストレッチをしてもらった。
「さて、お待ちかねの森の散策だよ。自由にしていいけど、迷子とケガは気をつけてね。私は適当に採取してるから」
私が言うと嬉しそうに散らばって行った。
森にはそこそこ魔物の気配もあるからグレン達のストレス発散も大丈夫だろう。
《主よ》
「あれ? エルミスも自由にしていいんだよ?」
《ふむ。儂は主と共にいたいのだ。不満か?》
「ううん。ふふっ。心配してくれてありがとう」
私がお礼を言うと、エルミスはクラオルの定位置である右肩に腰を下ろした。
《主よ。皆のために森に来たのだろう? 探し人はよいのか?》
「王都でみんなに我慢させちゃったからね。私のことを優先してくれるのに甘えてたけど、みんなのこともちゃんと考えないとなって反省しっ──うぎゃっ!」
肩から降りて大人サイズになったエルミスに、いきなり抱きかかえられて変な声が出てしまった。
どうしたのか聞いてみると《草で歩きにくそうだったから》だそうだ。いきなりはビックリするから止めていただきたい。
私が頬を膨らませるとクツクツと楽しそうに謝られた。
「ん?」
エルミスと薬草の採取をしていると、弱そうな魔物の気配が集まっていることに気が付いた。
エルミスに頼んでそのまま運んでもらったけど魔物は見当たらない。
《上だな》
エルミスが私を抱えたままフワリと浮かんでくれた先にいたのは、私が苦手とする生き物だった。しかもシュルシュルと鳴き声みたいな音を出している。
「うひぃ! 無理無理! マジ無理!」
ゾワァっと一瞬にして鳥肌が立ち、エルミスに縋り付いてその場を離れてもらう。
「うぅ……気持ち悪い……アレは無理だよぉ」
《アレは攻撃手段を持たないから害はないぞ? しかしアレがいるのは珍しいな》
「そういう問題じゃない。あのウニョウニョって言うかウゴウゴって言うか、とりあえずフォルムが無理! しかもあの大きさにあの数とか恐怖でしかない」
この森でアレと同じくらいの弱い魔物の気配はしないけど、アレがいると思うと気は休まらない。
いつの間にか近くにいて、上から落ちてきたりなんかしたら発狂してしまう気がする。
《ふむ。では儂が聞いてこよう主は「ダメ!」……》
「アレが近くにいるのに一人にしちゃヤダ! エルミス……お願い」
《ふむ。ならばもう少し離れよう》
エルミスの言葉に被せて拒否した。一人になったら腰が抜けて動けない。
エルミスにギュッとしがみついてアレから少しでも離れてもらう。エルミスは移動中宥めるように背中をポンポンとしてくれていた。
『主様! 大丈夫?』
〈セナ! どうした!?〉
みんなと別れた森の入り口近くに戻ってくると、みんなが急いで戻ってきてくれた。
従魔契約をしているから私の動揺が伝わるんだそうだ。ジルベルト君はグレンと一緒にいたためわかったらしい。
「あっちにね、虫がいたの……」
『虫?』
「そう! でっかい幼虫! うわぁ。思い出しちゃった……うぅ……気持ち悪い」
自分を抱きしめるように体をさすっていると、クラオルとグレウスが肩に登って頬をスリスリしてくれた。
あの一メートルはありそうな緑と白色の幼虫が十匹以上集まり、樹上でウネウネと動いている姿をもう思い出したくない。
エルミスが詳しく説明してくれている間も、私はクラオルとグレウスをモフモフして忘れようと努めていた。
《私が聞いてきてあげるわ! セナちゃんはエルミスと一緒にいてね》
「わかった」
私にパチンとウィンクをキメてから、プルトンがアレに向かって飛んでいった。
グレンとジルベルト君は戦っていた魔物を回収しに戻り、ネラース達は近くを散策に行った。
ちょうどここは少し開けているので草を刈って野営の場所にしちゃおう。
風魔法で草を刈り、刈った草にクリーンをかけて草の絨毯にした。
たき火を作ってコンロを出したところでプルトンが戻ってきた。
アレは、カイーコとパピヨンバタフライの幼虫で、お互い狩られて数が減り、生きるために協力し合ってあそこで生活していたらしい。
「カイーコってことは精霊の国で保護したミスリルカイーコの仲間だよね?」
《そうなのよ。それで逆に安全な場所を知らないか聞かれちゃったわ》
「精霊の国で保護してあげるの?」
《私だけじゃ決められないから、セナちゃんにウェヌス呼んでもらおうと思って戻ってきたの》
「なるほど。ちょっと待ってね」
ウェヌスの指輪を握り、ウェヌスを呼ぶとすぐにウェヌスが出てきてくれた。
《セナ様お呼びでしょうか》
「うん。詳しくはプルトンに聞いてもらえる?」
《かしこまりました》
説明をプルトンに丸投げして、私は夜ご飯の準備。ウェヌスもきたから一緒に食べるでしょう。ネラース達も基本丼一杯しか食べないとはいえ、私からしたら大所帯だ。定食屋さんの女将さん気分でご飯を作っていく。
ふと気が付くと、グレンとジルベルト君とネラース達は戻ってきていたけど、プルトンとウェヌスがいなくなっていた。
《プルトンとウェヌスはアレらに精霊の国にくるか聞きに向かった》
「なるほど」
《セナ様!》
エルミスと話しているとウェヌスが戻ってきた。指輪を使って精霊の国にアレを送るから一緒に来て欲しいと言われてしまい、サァっと血の気が引いていく。
《ウェヌスよ。主はワーム系の魔物は苦手だ》
《そうだったのですね。申し訳ございません。セナ様に渡しております指輪をお借りしてもよろしいでしょうか?》
ウェヌスに指輪を渡すとエルミスに頭を撫でられた。
《ウェヌスも無理は言わぬ。精霊の国でも主とは会わなくて済むようにしておこう》
「うん。あの子達に罪はないのはわかってるけど、やっぱり苦手だからそうしてもらえると助かる」
グレンから倒した魔物を受け取り、ウェヌスとプルトンが戻ってきたらみんなで一緒に夜ご飯。
ウェヌスは私が準備しているとは思っていなかったらしくとても喜んでくれた。
まだ仕事が残っているらしく、夜ご飯を食べた後ウェヌスは名残惜しそうに精霊の国に戻って行った。
幼虫達はもういないと聞いているけど不安でしょうがないのでガッチリと結界を張って、今日はニヴェスに枕になってもらった。気持ちのいいモフモフに包まれ、癒されながら眠りについた。
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