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7章

野営地

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 やっと満足できる出来になったと思ったら、岩山に差し掛かっていた。
 結局、平地移動の四日間パラソル作りに費やしてしまったらしい。
 次の街に向かうにはこの岩山を越えなければいけない。
 今のところは道幅は広くて余裕で馬車同士すれ違えている。

「この雰囲気、西部劇みたいだねぇー。まともに見たことないけど」
〈セイブゲキがわからんが、こういった場所は野営地が決まっていることが多い。いつものようにスピードは出せないぞ〉
「もちろん。みんなの安全が一番だからね」

 冒険者や、どこかの街の住人に見える一般人も歩いているくらいだから、一般的に使われている道なんだと思う。
 普通の馬車くらいのスピードでニヴェスに走ってもらい、休憩所を目指す。

「魔物はいるのに、こっちに寄って来ないのはなんで?」
《魔物避けに使われる植物が植えられているからだろう》

 私の疑問にエルミスが答えてくれた。エルミスの説明では、ちょこちょこと生えている草がそうらしい。
 私には雑草にしか見えないんだけど……

「魔物避けなのにみんなは大丈夫なの?」
『契約しているからなんともないわ。それに、この香りは弱い魔物にしか効かないのよ』
「そうなんだ」
あるじよ、魔物避けの植物は精霊の国にもある。そこらに生えているものよりキレイなはずだから、必要ならば精霊の国のものを使ってくれ》
「え!? なんで欲しいってわかったの!?」
『主様がわかりやすいのよ』

 そんなにわかりやすいんだろうか……
 まぁ、植えられているものを引っこ抜くより、精霊の国のものがもらえるならそっちの方がいいに決まっているもんね。

 休憩地兼野営地は街道脇に広場のように開けている場所だった。私達が広場に入ると既に先客が三組休憩していた。

「お邪魔しまーす」
「えっ、あ、おう!」

 私が声をかけると冒険者の一組だけが反応してくれて、他の二組は無視だった。
 二組のうち一組は一般人的な出で立ちで、夫婦っぽい男女のペア。この人達は疲れているように見えるから、反応する元気がないのかもしれない。
 もう一組は貴族っぽいから挨拶を返す気なんてさらさらないんだろう。


〈セナ! 今日はラビの照り焼きバーガーが食いたい!〉
「わかった~」

 グレンのリクエストに応えるべく四口よんくちコンロを出して、フライパンでラビ肉を焼いていく。
 ジルベルト君にはバーガーに挟むキャベツの千切りをお願いした。

――――ゴォォォォ
――――グゴォォォォォ

 魔物の鳴き声のような音が聞こえてきたけど、近くに魔物の気配はない。
 出来上がった照り焼きバーガーを食べ始めようとすると、鳴き声が近付いてきた。音の方を見てみると、冒険者が立っている。

「何かご用でしょうか?」

 ジルベルト君がサッと立ち上がり、冒険者達の前に立ちはだかった。

「すまん。あまりにもいい匂いで……少し分けてもらえないだろうか?」

 申し訳なさそうに言う冒険者からは、先ほどより大きな音が聞こえてくる。
 おなかの音だったのね……

「セナ様、いかがいたしますか?」
〈ならん。これはわれらのご飯だ〉

 グレンは譲ってあげるつもりはないらしい。
 たぶんって言うか絶対照り焼きの匂いだよね……普通に作ってたけど、匂いだけ漂わせて分けてあげないのも申し訳ない。他の人に配慮しなかった私が悪いよね。

「他のものなら分けてあげてもいいんだけど……」
「ほんとうか!? タダとは言わん! ちゃんと払う!」
〈セナ!〉
「まぁまぁ。今回は私達のせいだよ。うーん……塩スープとパンでもいい?」

 ブンブンと勢いよく頷く冒険者に待っていてもらい、簡単な卵入り塩スープを作ってあげる。
 無料タダで配るつもりで塩スープにしたのに、いつの間にかジルベルト君が冒険者と交渉していて、スープ一杯とパン一つで銅貨五枚に決まっていた。
 簡単な塩スープなのにぼったくりじゃない?って思ったけど、「セナ様の料理は特別ですので。銀貨一枚でもおかしくありません!」とジルベルト君に力説されてしまった。
 まぁ、冒険者が納得しているならいいんだけどさ。

 町人風の男女ペアもおなかを押さえているから、おなかが鳴らないように耐えているのかもしれない。
 ジルベルト君に頼んで声をかけてもらうと、近付いてきた。
 路銀が心許なく銅貨二枚分とのことだったので、少なめのスープ二人分とパン一つを渡した。
 私的には普通に一杯渡しても良かったんだけど、冒険者がちゃんとお金を払っている手前それはできなかった。
 こっそりと男女ペアに疲れが取れるようにとヒールをかけてあげると、グレンに「優しすぎる!」と怒られた。
 むぅ。バレないようにやったのに……

 冒険者グループと男女ペアに配り終わったら、私達もお昼ご飯。
 ただの塩スープなのに冒険者と男女ペアは大げさに感動していた。

「カァー! ウマかった! 黒パンと干し肉に飽き飽きしてたから助かったぜ」
「こんなお嬢さんが料理作るなんて驚きだねぇ」
「てっきりメイドかなんかだと思っちまったよ」
「俺も俺も。こっちのあんちゃんの付き人だと思った!」

 おかわりをしまくっておなかがいっぱいになった冒険者グループは言いたい放題だ。
 分けてもらえるかもしれないと、余計なことは言わないようにしていたらしい。言われたところで……って思ったけど、言われてたらグレンが許さなかったかもしれないな……とも思った。
 冒険者グループはダンジョンに入るためにミカニアの街を目指しているらしい。
 男女ペアにも聞いてみるとやっぱりご夫婦で、こちらもミカニアの街に向かうんだそう。仕事を探しているらしいので、国境を越える気があるならピリクの街のタルゴーさんを訪ねるといいとアドバイスしておいた。


 仲良くなった冒険者とご夫婦と別れて次の休憩地を目指す。
 私達に続いて貴族も出発して、後ろに付いてきた。貴族の行き先はミカニア方面じゃなかったらしい。

 頂上に近付くにつれて道幅は狭くなり、今では馬車同士のすれ違いがギリギリできる程度。
 ほとんどニヴェスにおまかせだから心配はないんだけど、他の馬車はそうもいかないらしく、前を走っていた馬車に追いついてしまった。


 ノロノロと進み、野営する休憩地に着くころには暗くなり始めていた。
 プルトンや私の結界を見せるより、結界石を使った方がいいとエルミスからアドバイスを受けて、パパ達からもらった結界石を起動してみた。

《うふふっ。さすがねぇ。強力な結界だわ~》

 プルトンが言うには、私が認めた人じゃないと入れない仕様で、例えドラゴンの炎や岩が転がり落ちてきても安全らしい。

 お昼ご飯のときに学んだので、夜ご飯はマンションのキッチンで作った焼きうどんと豚汁。グレンとジルベルト君はさらにパン。

 他の人達と同様に、毛布を敷いて野宿スタイルで眠りについた。

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