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8章
衝撃のボンバーヘッド
昨日帰ってきてからグレンとジルに甚平を着てもらうと、これまた想像以上に似合っていてイケメンはなんでも似合うんだなと痛感させられた。
そりゃあ浴衣が似合ってたから甚平も似合うだろうけどさ……アニメが具現化したみたいで、「二次元かよ!」と心の中でツッコまずにはいられなかった。
グレンは浴衣よりも甚平が気に入ったらしく、寝るときも甚平のままだった。「もう一着作ってくれ」と言っていたから、一着はたぶんパジャマ化すると思う。
◇
今日は生憎の曇り空で、今にも雨が降り出しそう。午後までにお城に行かなきゃいけないので、午前中に面倒なことをやっちゃおうと冒険者ギルドにきた。
応接室に案内されて待っていると、ノック音と共に入ってきたのはガッシリした体格の獣族の男性とポワンポワンと揺れる蛍光ムラサキ色のアフロの男性だった。
「やァー! セナ様初めましテ! お目にかかれて嬉しく思いますヨ!」
「…………」
アフロがテンション高く話しかけてくるけど、頭が気になって反応ができなかった。
「おやァ? セナ様ァー? どうしたんですカー?」
「……いっ、いえ。すみません」
アフロは私がやっとの思いで反応すると、ヒラヒラと振っていた手を下ろしてニンマリと笑った。
「ワタクシ、シュグタイルハン国の王都マルマロの商業ギルド、ギルド長ボンヘドと申しマス。以後お見知り置きを」
「冒険者ギルドのギルドマスター、グティー。虎族だ」
ボンヘドってボンバーヘッドじゃん! ヤバい! ツボりそう! なんでほっぺに黄色い袋のマークがあるの!? それ描いてるの!?
噴き出しそうになり、必死に我慢して震える声で「よろしくお願いします」と返すのが精一杯だった。
『((主様どうしたの?))』
「((アフロがアフロだよ!))」
『((あふろ?))』
「((無理ぃ……笑っちゃいそうぅぅ))」
クラオルが心配して念話を飛ばしてくれたけど、笑いを我慢している私のプルプルは止まらない。
少しでも落ち着くようにと、クラオルとグレウスを肩から膝の上に下ろしてモフモフさせてもらう。
「セナ様がお売りする素材は最高級品だと窺っておりマス。ムレナバイパーサーペントだけではなく、マザーデススパイダーもお持ちだトカ?」
「冒険者ギルドはムレナバイパーサーペントとニャーベルの街で新発見のダンジョンの素材を頼む」
「はいぃ……これ、売れる素材一覧ですぅ……」
アフロを見ないように、冒険者ギルドのギルマスであるグティーさんを見て、朝書き出した一覧表をテーブルの上に乗せる。声が震えちゃうのは許して欲しい。
「素材を見せてもらえませんカナ?」
「ぐっ」
アフロにコテンと首を傾げられて、耐えきれずにちょっと息が漏れてしまった。
話せない私の代わりにジルが「全てですか?」と聞くと、「ムレナバイパーサーペントの鱗を」と素材を指定されたのでテーブルの上に出した。
「オォォー! 素晴らしいですネ! 色艶、外傷ナシ!」
「ぐふぅ」
動く度に揺れるアフロが「オォォー!」のところで生き物のように小刻みにフルフルして、私は再び噴き出しそうになった。
「大丈夫か?」
「だ、だいじょぶ……」
グティーさんがケモ耳をピクピクさせながら私を訝しげに見ているけど、取り繕えない私はもう涙目だ。
今ほどポーカーフェイスのスキルが欲しいと思ったことはない。
「セナ様が持っている素材は最高級品ばかりです。それを念頭に置いて買い取りの素材を決めた方がよろしいかと思います」
「かしこまりですヨ!」
「わかった。このレアドロップ品である真珠も見せてもらえないか?」
グティーさんに言われて、真珠の劣悪品からちょっと悪いくらいのをテーブルの上に出すと、グティーさんは「んん?」と片眉を上げた。
「これが一番いいやつか?」
〈なぜそう思う?〉
「通常ならば納得だが、この量を考えるともっと良質な物があるのかと思ったんだ」
なるほど。グティーさんはギルマスとしても優秀らしい。
良質だと思われる真珠を出すと、再び「オォォー!」とアフロがモワンと揺れた。
グティーさんを見ているのに、正面に座るアフロはどうやっても視界に入る。ピントが合っていなくても、ボンヘドさんのアフロが動くのがわかってしまう。
こんなところで一人“笑ってはいけない”を体験することになるとは……なんでみんな平気なの? と思っていると、プルトンがアフロで遊びだした。
《これすごいわ! モワモワよ! うはぁー! 柔らかい!》
《絡まるなよ》
〈「うぐっ」〉
『『ぶっ』』
プルトンはアフロを押したり叩いたりして《面白ーい!》とはしゃぎ始めてしまい、私とグレンは必死に笑いを堪える。
クラオルとグレウスは堪えられないらしく、私の膝の上でプルプル。
ジルは無表情をキープしているけど、口元がピクピクしているから、彼も笑いそうなのを我慢しているんだと思う。
「本日中に決めていただき、明日納品ということでよろしいでしょうか?」
「かしこまりですヨ」
「わかった。ただ、やはり真珠はモノを見て決めたい。この魔道具もだ。この二つは一通り出してもらっても構わないか?」
変わらずプルトンが遊んでいて話せない私はコクコクと頷いて、テーブルの上に真珠とニャーベルの街で買い取られなかった魔道具を乗せていく。
「では、僕達はこれから王城に向かいますので」
ジル、ナイス! 早くこの笑い地獄から脱したい!
「それなんだが、陛下から迎えの馬車がきている」
「ワタクシも王城に用がありますのでご一緒してもよろしいですカナ?」
嘘でしょ!? この試練、まだ続くの!?
拒否りそうなグレンは、アフロで遊ぶプルトンを見ていて話しを聞いてないっぽい。
「全員が乗れるのですか?」
「いや、俺たちは別馬車で後ろから付いていく」
助かったー! ってか、グティーさんも行くのね。
◇
王城からの迎えの馬車に乗ってようやく人心地付けた。
「んもう! 頑張って耐えてたのにプルトン笑わせないでよぉ~」
《だって気になったんだもん。アレすごかったわ! 引っ張ると伸びるの!》
プルトンはどれだけホワホワしていて面白いかを力説して、エルミスも一緒にどうかと誘い始めた。
「プルトンが見えていないにしても、グティーさんが普通なのがビックリだよ。ボンヘドさんが王城に何の用があるのかは知らないけど、またアレやられたら今度こそ笑っちゃいそう」
「そうですね。僕もプルトン様がイタズラする前までは耐えられましたが、アレは笑ってしまいそうでした」
楽しそうにしていたジルは、お城が近付くにつれて表情が固くなっていく。
おそらく、過去を知っていてあの場所にいたアーロンさんに会うことが怖いんだと思う。
ジルが不安などを口にしていないのに私が指摘するのは違う気がして、ジルの手を握って「大丈夫だよ」と言ってあげることしかできなかった。
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