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11章
馬ライダー
しおりを挟む声をかけることもはばかられ、そのまま見守っていると、馬達が発光し始めた。
「え!?」
「何だ?」
〈ほう。面白い〉
光が収まった馬は先ほどまでとは様子が違っていた。
一番大きい馬は首や足にウロコが生え、背中には大きな翼……というよりもグレンみたいな羽。他の馬達も羽はないものの、光をキラリと反射するウロコが目立っている。
〈怒りで進化したか。珍しいものを見たな〉
「えぇ!?」
『ブルルル』
「へ?」
一番大きな馬が私に向かって一度頭を下げると、他の五頭もそれに倣った。
〈助かった。不思議な人の子よ。感謝する。だそうだぞ〉
今回はグレンが通訳してくれるらしい。
「えっと……どういたしまして。全員助けられなくてごめんなさい……」
〈ん? 相談って何だ?〉
「相談?」
〈子供を埋葬して欲しい?〉
「それはもちろん。ここでいいの?」
〈安心して眠れるところ……って、何故セナがそこまでしなきゃならん〉
「安心……」
グレンは通訳というよりもオウム返しに聞き返している。
安心っていうと、守られているところだよね? そうなると……キヒターの教会かグーさんの森くらいしか思い付かないんだけど……
〈見返りは? 助けただけで充分だろう〉
え!? まさかの交渉ですか??
私は馬の言葉はわからないから、通訳してくれるのを待つしかない。
〈ふむ。なるほどな……〉
「はい? グレンさん、通訳お願い」
〈クラオル、グレウス……いや、全員ちょっと来い。アルヴィンもだ〉
ネラース達やアルヴィンまで呼んで、グレン達と馬達で話し合いを始めてしまった。
「えぇ……」
「お前も苦労するな……」
困惑する私をガルドさんが苦笑いしながら慰めてくれた。
放置されること一時間、暇すぎてガルドさん達とお茶を飲んでいた私を見て、グレンが〈ズルいではないか!〉と声を上げた。
「グレンが私のこと放置したんじゃん」
〈むっ……おい、ガルド〉
「ここで俺に振るなよ……」
「セナっちは放ったらかしにされたから拗ねてるんだよー」
『主様ったらご機嫌直して』
『主っ、主っ』
走って私の肩に登ってきたクラオルとグレウスがスリスリしてくれるのが可愛い。ポラルまでいつの間にかいつものポジションであるおなかにグリグリと頭を押し付けている。
くそぅ。絆されてしまう!
「んもう、この可愛さは罪だよ……それで、よくわからないけど、どうなったの?」
〈こやつらがガルド達と契約することになった〉
「ブフォッ! ゴホッゴホッ」
グレンから名前を呼ばれたガルドさんは飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。
そんなガルドさんに「汚いー」とタオルを投げるジュードさん。コルトさんが無言で背中を撫でてあげている。
「ゴホッ、ゴホゴホッ……ちょ、ちょっと待て。俺達? セナじゃなくてか?」
〈前に足が欲しいと言ってただろ?〉
「そりゃ言ってたが……」
〈こやつらは龍走馬だからな。使えるぞ〉
「いや、そうじゃなくてな……」
〈何だ? 不満なのか?〉
グレンが不満発言をすると、馬達がショボンと目を伏せてしまった。
それを見たガルドさんは「いや、そうじゃねぇ! そうじゃねぇんだよ!」と大慌て。
「あーあーあー、ん゛ー…………契約してくれるのか?」
『ヒヒン!』
〈関係ない顔をしているが、ジュードとモルトとコルトもだからな〉
「えぇー!? オレっち達も!?」
三人は驚愕に目を見開いた。
〈ガルド達と言っただろ〉
「えぇ!? ホントにー? いいのー??」
『ヒン!』
ガルドさん達それぞれに馬が寄っていき、鼻を擦り寄せた。
『主様とジルベルトもよ』
「へ!? 私とジルも?」
「僕もですか!?」
「私はいいんだけど、みんなは納得してるの? 大丈夫??」
『ふふっ。拗ねているのはニヴェスだけよ。馬車を引く役目が取られちゃうって』
ちょっと元気のないニヴェスを呼んでモフモフさせてもらう。
「可愛いなぁ、もう。いつもニヴェスには助けてもらってるんだよ。もちろんネラース、アクラン、ルフスにもね」
『ご主人様の役に立てなくまりますン』
「そんなことないよ。いつも狩りに行くとき、さり気なくハーブとか薬草とかも採取してくれてたのニヴェスでしょ? 私は大助かりだよ」
『本当ですン?』
「本当だよ。大好きなんだから」
ニヴェスは瞳をウルウルとさせてペロペロと私の顔を舐め始めた。
「ふふっ。くすぐったいよ~」
『ズルいの!』
アクランが寄ってきたと思ったらネラースやルフスも寄ってきて、揉みくちゃにされた。
うふふふ。私の癒しのモフモフは素晴らしい!
〈ふむ。契約だな。ガルド達も名前を付けてやれ〉
「私と契約してくれるのはどっち?」
残っていた一番大きな馬と、それに寄り添うように並んでいる馬に問いかける。
私に向かって歩いてきたのはまさかの羽持ちの一番大きなお馬さんだった。
「わぉ、よろしくね。よく見るとキミのウロコは黒っぽいシルバーなんだね」
毛並み自体は全頭白っぽい灰色だけど、それぞれ額と首と足のウロコの色が違っている。
ジルの馬は深緑色、ガルドさんの馬は真っ黒、ジュードさんの馬は薄い黄色、モルトさんの馬は濃い紫色、コルトさんの馬はゴールドだ。
「名前ねぇ……グリネロっていうのはどう?」
『ブルル』
名前を呼ぶと、私の額に額をくっ付けてきた。ウロコがひんやりと冷たくて気持ちいい。馬が返事をすると、いつもの契約の光が私達を包み込む。
『主人。よろしく、頼む』
「よろしくね」
私がグリネロを撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めた。
「セナ様! 僕も契約できました!」
「オレっちもー!」
「俺もだ……」
「自分達もです」
ジルとジュードさんは初めての契約だと喜んでいて、ガルドさんは「契約できるもんなんだな」なんて感心、モルトさんとコルトさんは嬉しいのかひたすら撫でている。
ジルはアルヴィンと契約しているけど、従魔は別らしい。アルヴィンはジルの様子に苦笑が漏れていた。
「じゃあこの子は私が引き取るね」
『頼む。埋葬するときは呼んで欲しい』
「もちろん。お墓作ってあげようね!」
『おはかとは?』
「〝ここに大切な人が埋められいますよ〟って示す印がある埋葬地のことだよ」
『なるほど。人の風習か……感謝する』
クラオルに聞いてみると、大抵は外で違う魔物に殺られて死ぬことが多いから、食い荒らされてしまうそう。住処で死んだときは埋めるけど、墓標みたいなものは建てないらしい。
「みんな契約したし、もうお昼だからご飯にしようか? 食べるのによさそうな広場っぽいところ、この辺にあるかな?」
〈それならあっちにあったぞ〉
グレンの案内でぞろぞろと移動する。
馬達はその場を離れる前に、死んでしまった子馬がいた場所を名残惜しそうに見つめていた。
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