文字の大きさ
大
中
小
290 / 502
第三部 12章
女神との軋轢
「何があった!?」
「スタルティ様と一緒に魔物図鑑を見ていたら、急に倒れてしまったんです!」
ジャレッドは走りながら、なんでこうもセナは次から次へとトラブルを起こすのかと頭痛を起こしそうだった。
セナはベッドに寝かされていたが、頭を抱えて唸っている。
そんなセナを心配そうにスタルティは見つめていた。
「何だこれは……」
ジャレッドはセナの体を中心に、周りにまで溢れた魔力が蠢いているのがわかり、息を呑んだ。
「セナ様、ジャレッド様が戻られましたよ」
「ジィジ……」
セナに呼ばれ近付いたジャレッドにセナは首を傾げた。
手を伸ばされ、ジャレッドがしゃがむとセナは「いたい?」と心配そうにジャレッドの頭を撫でる。
ジャレッドが虚を突かれると、セナはニッコリと微笑んで目を閉じた。
「セナ様!?」
「大丈夫。眠っただけだ……」
ジャレッドの言葉にアリシアは胸を撫で下ろす。
「天狐さんからいただいたポーションも効かなくて……昨日のこともそうですが、セナ様はいったいどうしてしまったのでしょうか……」
「わからん。様子を見るしかあるまい」
数十分後、駆け付けた天狐が調べてもセナが倒れた原因はわからず、三人はセナがいつ目覚めても大丈夫なように交代で見ることにした。
◇
夜、天狐にセナを任せ、ジャレッドは一人あの日から厭悪していた城の教会を訪れた。
この教会はジャレッドが城の中に造らせたもの。あの日……別れの日までは、妻のアマンダと一緒によくお祈りしていたのだ。
あれ以来この場所は立ち入り禁止にしている。
王族用の教会は新しく城外に造らせ、ジャレッドは近付くこともしなかった。
「……アマンダとの約束とは何だ? セナのあれは〝人と関わりを持つな〟と己への嫌がらせか? 己を忌み嫌うのなら、なぜ己にしない……!」
ジャレッドは創世の女神像を睨みつける。
答えが返って来ないことはわかっていても、ジャレッドは問いたださずにはいられなかった。
ふと、笑い声が聞こえた気がしてジャレッドは辺りを見回す。
すると突然、女神像から光りが発せられ、ジャレッドは眩しさに目を閉じた。
「ヒャーヒャッヒャ。久しいのぅ。あろうことか教会に来るとは思うとらんかった」
ヴィエルディーオの声に目を開けたジャレッドはヴィエルディーオの空間に招致されていた。教会とは違う場所にいることも気にせず、ジャレッドは眉を吊り上げた。
「……よくそのような態度を取れるもんだな! アマンダとの約束とは何だ!? ヴィー! 答えろ!」
「それは……言えぬ。そういう約束じゃ……」
昔と同じように愛称で呼ぶジャレッドにヴィエルディーオは首を振る。
「ヴィエルディーオ様、もうよろしいんじゃないですか? あれから何千年も経っていますし、セナ様のおかげで脅威もほとんどなくなったじゃないですか」
「お前は誰だ……」
「イーヒッヒ。初めまして。ヴィエルディーオ様の神使をしているインプです。以後お見知り置きを」
「セナを知っているのか……」
「イーヒッヒ! もちろんですよ。ヴィエルディーオ様のお孫様ですから」
「孫……」
「イーヒッヒ! 正確には違いますがね。セナ様のご両親はおろか、祖父母もおられません。そうですね……生きておられるのは遠い親戚くらいでしょうか? イッヒッヒ。混乱しておられますねぇ」
「インプ、今は遊ぶでない」
ヴィエルディーオに窘められ、インプは「すみませんねぇ」と謝った。
「セナについては他の者も呼んでからにしようかの。お主は……本当にアマンダの真実が知りたいかい? 例えそれが残酷なことであってもかい?」
「当たり前だ」
ジャレッドが頷くのを見て、ヴィエルディーオは当時のことを話し始めた。
「お主に初めて会うたのは戦場じゃったな……鎧を血に染め、ケガをした仲間を護ろうとしておった……」
――ヴィエルディーオは創った世界で人の争いが広がっていくのに頭を悩ませていた。そんな折に現れたのがジャレッドだった。
ジャレッドの優しい心……人を護りたいという心を気に入り、ヴィエルディーオはジャレッドに加護を与える。
ジャレッドもヴィエルディーオに感謝を示すため、当時は教会を頻繁に訪れていた。ヴィエルディーオはジャレッドと話すようになり、お互いを愛称で呼ぶようになる。
そのうち、ジャレッドには恋人ができた。ジャレッドはアマンダに夢中だったが……同じ時期、ヴィエルディーオの加護を得たジャレッドを狙う魔女が現れた。ジャレッドの力を奪い取り、己の力としようとしたのだ。
ジャレッドに相手にされなかった魔女は、恋人であるアマンダを亡き者にしようと付け狙う。
戦争を治め、ジャレッドが建国した後もそれは続いた――
「あの女か……」
「そうじゃ。アマンダはジャルのことを案じておった。それで約束したんじゃ。ジャルを護るとな……」
ヴィエルディーオは目を細め、ジャレッドのことを当時と同じ愛称で呼んだ。
「あの日、あの女は神界へ干渉してきた。たくさんの生きとし生けるものを犠牲にしての。その隙にアマンダの体が乗っ取られてしまったんじゃ……そしてあの事件が起きた……」
ヴィエルディーオはそこで痛みを耐えるように目を伏せた。
そんなヴィエルディーオに代わってインプが口を開く。
「神界は殺された者の負の感情で溢れ返りました。その混乱に乗じて、あの女はあろうことかヴィエルディーオ様をも殺そうとしたんです。深手を負わされたヴィエルディーオ様は、あなたを護るという約束のため、アマンダさんのあなたを想う気持ちの力を借り、神力を使いました。しかし、それはヤツの〝女神を利用して、あなたを殺そう〟とする思惑だったのです。ヤツの〝呪い殺してやる〟という思いと、アマンダさんの〝死なないで欲しい〟という相反する想いの相乗効果であなたは不老不死となってしまったんですよ」
ジャレッドは真相を聞いて目を伏せた。
ヴィエルディーオから嫌われ、死なない呪いをかけられただけだと思っていたのだ。自身のせいで神界が大変だったことも、ヴィエルディーオが大ケガを負ったことも……何も知らなかった。
「己は知ろうともせず、ヴィーのせいだと決めつけ、勝手に恨んでいたのか……すまない……」
ジャレッドは真相を聞き、何千年と続いた己の過ちを知った。
謝って済む問題ではないと思いつつも、謝罪の言葉が口をつく。
「いや、結果的にジャルが呪いに侵されたことは変えようもない事実じゃ。ちゃんと護れず、面目ない……」
「ヴィーは約束を守っただけだろう? ……もうケガは大丈夫なのか?」
「ヒャッヒャッヒャ。あれから何年経ったと思っている?」
「そうか……そうだな……」
ジャレッドは情けなさそうに眉尻を下げた。
そんなジャレッドにヴィエルディーオは微笑んだ後、表情を引き締める。
「セナのおかげでその体の呪いも解けかけておる。ジャルが望むのならば、解放できるが……どうするかの?」
「解いたらどうなる? 己は死ぬのか?」
「それは……わからぬのが本音じゃ。解いた瞬間終わるのか、だんだんと歳をとるのか……」
「……己はこのままでいい」
ジャレッドはスタルティやセナの成長を生きて見守りたかった。
「そうか……なら、本題のセナを治してやらねばの」
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。