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第三部 12章
天狐のスキル
しおりを挟むヴィエルディーオはそう告げるなり、パチンと指を鳴らした。
すると、ドン! と音を立ててベッドが現われ、その上に天狐とアリシアが落ちてきた。
「キャア!」
「わっ! 何!? ってジャレッド? と、誰?」
「イーヒッヒ! お二人共、少し黙っていて下さいね」
「~~!」
「セナ様のために」
「「!」」
インプに声を封じられた天狐はパクパクと口を開け閉めして抗議していたが、セナと聞いた途端に黙った。
「ベッドから降りて、ジャレッドさんの方へ」
アリシアは恐る恐る、天狐は訝しげに見ながらもインプの指示に従う。
〝説明しろ〟と目で訴えてくる天狐に、ジャレッドは「女神だ」と一言だけで片付ける。
そんなジャレッドに天狐は何かを言い続けていたが、声が発せられることはなく、ジャレッドに「静かにしろ」とまともに取り合ってもらえなかった。
ヴィエルディーオは再び指を鳴らしてセナを呼び、ベッドの上にセナを寝かせる。
「さて、三人にはセナのためにも話しておいた方がいいじゃろう。本来のセナは……三人が知っているセナとは違う。記憶をなくし、スキルも封印されておる。セナには多くの従魔がいて、一匹は赤いドラゴン、もう一匹はヴァインタミアじゃ」
「「「!」」」
ヴィエルディーオからのヒントで、三人はセナが倒れた理由に察しがついた。
「セナの目を覚まさせるには、記憶を取り戻さねばならん。記憶を取り戻したら、違う人物のように感じてしまうかもしれん。それでもお主達はセナを助けたいと願うか?」
「何を言うかと思えば、そんなこと聞くまでもない」
ジャレッドの言葉に声を奪われたままの天狐とアリシアはコクコクと頷いた。
「ヒャーヒャッヒャ。セナが今までと変わっても態度を変えぬか?」
「セナはセナだろう。愚問だな」
「ヒャーヒャッヒャ! それが実行されることを願ってるよ。お主達は手出し無用、見守っていること。よいな?」
ヴィエルディーオは三人が頷くのを確認してからパチンと指を鳴らす。
そうして現れたのは四神と……ロープでグルグル巻きにされたパナーテルだった。
「俺達を生み出したのはそういう理由だったのか」
「〝地上は面白そうだ〟なんて言っておいて、本当は療養していたとはね」
「ヒャーヒャッヒャ! 実際地上は面白いからの。嘘ではない。……紹介しよう。左からアクエス、エアリル、イグニス、ガイア。後、転がっておるのがパナーテルじゃ」
アクエスとガイアに笑いながら答えたヴィエルディーオは、ジャレッド達に神達を紹介する。
「こいつらは何だ?」
「…………そうか。ジャルは知らんのか……教会を嫌っていたからの。それも仕方あるまい。この子らは、今この世界を護っておる神達じゃ」
「は!?」
ジャレッドは驚きに目を見開き、ヴィエルディーオと現れた四神を交互に見つめる。そんなジャレッドに天狐は〝そんなことも知らないのか〟と衝撃を受けた。
「えっと……先ほど話していた一件で、ヴィエルディーオ様が体を休ませるために僕達を創ったんですよ。それから今に至るまで僕達が見守っていました。なので、あなたのあの教会以外ではちゃんと僕達の像が置かれています」
「話が進まんじゃろ! 質問は後にせい!」
丁寧に説明するエアリルだったが、横からイグニスが声を荒らげた。
「そうじゃの。……では、パナーテル。セナを元に戻してもらおうか? 話はその後じゃ」
「ふんっ。できないわよ。元に戻すつもりなんかなかったもの。もし記憶が戻ったらセナちゃんに嫌われちゃうじゃない。わかっているのにやりたくないわ。どうせ消されるんでしょ? さっさとやればいいわ」
ヴィエルディーオが言うと、パナーテルは顔を背けながら突っぱねた。
「何じゃと!?」
「私がママなのに、一度も会わせてくれないのが悪いのよ! 加護だってあげたのに! 私だけ除け者にして……ママなんだから私が育てたっていいじゃない!」
「何がママだ! セナに迷惑ばかりかけていたくせに、ママなどとよく言えるな!」
イグニスが詰め寄ると、パナーテルは喚き始め、そのパナーテルにアクエスが怒鳴る。
神達の口喧嘩が始まってしまい、ヴィエルディーオは小さくため息をついた。
「ん?」
ヴィエルディーオがちょんちょんと肩をつつかれ、そちらに顔を向けると、天狐が〝声を出せるようにして〟とアピールしていた。
「ん゛ん、あ、あ、あー。うん、ちゃんと声が出せるようになったわ。ちょっといいかしら?」
声が出せるようになった天狐は喉を確認して、言い争っている神達に話しかける。
「何じゃ! お主は黙っとれ!」
「えっと~、ママって我が子のことすごく大事にすると思うの。私だって実の子じゃないセナちゃんを悪いものから護りたかったもの。ジャレッドやアリシアちゃんもそう。ほら、見て。セナちゃん苦しんでるわ。セナちゃんを治せるのはあなただけなんでしょ? あなたがママって言うなら、セナちゃんのツラさを取り去ってあげなくちゃ。ね?」
怒るイグニスに睨まれたが、天狐は優しくパナーテルに語りかける。
神達の会話からパナーテルが要因であることを理解していたが、こういうタイプには怒鳴っても意味がないと思ったからだった。
天狐の言葉に全員の視線は、眉を寄せて荒い呼吸を繰り返しているセナに集中した。
「……でも元に戻す気がなかったから、ちゃんと戻せるかわからないわ……」
「ママは子供を助けるためなら、何でもできるの。少しでも可能性を信じるものよ! やってみなくちゃ!」
天狐は自身が見てきた世の中の母を思いながら言葉を紡ぐ。――とある母は天狐に子供のための霊薬を作ってもらおうと全財産を渡してきた。別の母は霊草を採取するために山に入り、凍傷で己の手足の指をダメにした。
当時は何故そこまで子供のためにできるのかわからなかったが、セナと暮らした今ならわかる。
途中、チクチクとした胸の痛みを感じたが、それを無視してパナーテルのやる気を上げさせた。
「わかったわ……やってみる」
パナーテルが頷いたのを見て、ガイアはパナーテルを縛っているロープを解いた。
パナーテルは両手を前に突き出し、「えい!」と魔力を放つ。
しかし、その魔力はセナの眉間のシワを深くするだけで、中に入る前に消えてなくなってしまった。
「やっぱりダメよ……」
「あなたママじゃないの? ママならできることは全部やらなきゃ! 頑張んなさい!」
天狐の叱咤激励にパナーテルは再び魔力を練り始める。
何回も何回も繰り返したが、セナが苦しむばかりで一向に浸透しない。
「んもう! どうして拒否するの! ママは私よぉぉぉぉ!!」
繰り返すうちにセナに弾かれていることがわかり、パナーテルは叫びながら思いきり魔力をぶつけた。
--------キリトリ線--------
次から視点が元に戻ります。
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