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第三部 12章

スキルを生かし切れない男

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 その後はすんなりとレシピ登録が終わり、ホイップフラワーの買い取り強化についてジィジとギルマスが真剣に商談。
 ギルマスは天狐に決めポーズ付きでアピールをしてから去って行った。
 仕事はできる人なのに天狐に対する発言が残念すぎる……

◇ ◆ ◇

 翌日のお昼すぎに冒険者ギルドに向かうと、何故かすぐに応接室に案内された。ジィジも天狐も一緒じゃないのに……

 ソファに座って待っていると、紫がかった肌の細身の男性が入ってくるなり、「来てくれて助かった。キミ達を探してたんだ」と発言。
 特に心当たりのない私達は顔を見合わせる。

「探していたとは? どういったご用件でしょうか?」
「あぁ、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。もう一人来るから、話しはそれからにしよう。飲み物は薬草茶でいいかな?」

 ジルが警戒を露わにすると、男性はおおらかに返してきた。

〈いらん。ギルドマスターが何の用だ〉
「あれ? 僕を知ってる? あんまり表に出ないんだけどな……」

 グレンは鑑定したみたいだけど、相手はギルマスなのに警戒している。
 しかも何故か私はグレンの手で目隠しされ、部屋の様子がわからなくなってしまった。
 グレンがギルマスだと言った男性は、二十代半ばくらい。肌は薄紫色、爽やかなビジネスマンみたいな髪型で、髪の毛は黒色、瞳は濃いピンク色。切れ長の目がちょっとセクシー。スラリとした体型であまり筋肉がついているようには見えない。乱暴な冒険者もいるのに、その点だけはちょっと意外だ。
 ヤバそうに見えないし、モヤモヤもしないんだけど……何でそんなに警戒するのか……っていうか何で目隠し?

「グレン、見えないよ~。取って?」
〈ダメだ。こいつは……とりあえずダメだ〉

 ダメって二回も言った……!
 そんなに嫌がる理由は何だろうと気配を探って鑑定をかけてみる。
(うわっ! マジか! 種族が吸血族でスキルが魅了とかヤバいじゃん! しかも対女限定の魅了なんて……グレンが警戒する理由がわかったわ……)
 私はパパ達が耐性バッチリにしてくれたから魅了は効かないと思うけど……見なかったことにしよう! 性格知らないのに偏見はよろしくないからね。私は何も知りません!

 そう決めたのに、吸血族ってコウモリに変身できるのかな? 食事は血だけなのかな? なんて考えていると、部屋にノック音が響いた。

「お待たせ……ってどうかしたのか?」
「ちょうどよかった。ちょっと誤解されているみたいなんだ。まぁ、ソファに座ろうか」

 聞こえてきた声から、入ってきたのはおじさんだと思われる。
 ギルマスとおじさんの気配が向かいのソファに移動すると、グレンの手に少し力が入った。

「えっと……まず、キミ達が知っている通り、僕はこの冒険者ギルドのギルドマスター、アランね」
「オレはサブマスのベンジーだ。アランのことを知ってるとは驚きだな。そこの兄ちゃんがその子の目を塞いでるっつーことは種族も知ってるんだな?」
〈…………〉
「そんな睨まなくても大丈夫だ。こいつは誰かれ構わずにスキル使ったりしねぇよ。っつーか、アランは女が苦手で近付けねぇんだよ。ブルブル震え出す」
「ベンジー!?」
「話した方がいいと思うぞ。さっきから兄ちゃんの威圧がやべぇ」

 いつの間にかグレンが威圧していたらしい。グレンの服を引っ張って止めさせる。

「……昔、しょっちゅう姉達に無理矢理女性の格好をさせられて、笑いものにされたんだ。おかげで女性全般、苦手……いや、怖いからなるべく近付きたくもない。さすがにその子のように子供は大丈夫だけど、僕は子供に魅了スキルをかけたりしないよ。と、言うよりも魅了スキルを使ったことないし、僕にとってはいらないスキルなんだよ……」

 思い出したのか暗い声でギルマスが語ると、グレンは〈本当か?〉と確かめた。
 さらに、ジルが「神に誓えますか?」と念を押すと、ギルマスは「もちろんだよ」と即答。するとようやくグレンの手が外された。

「えっと……嫌なこと思い出させちゃってごめんね?」

 悲しそうなギルマスと目が合い謝ると、「大丈夫……」と小さな声で返ってきた。
 うん。全然大丈夫じゃないね! 怖いって相当なトラウマだよね!
 その傷には触れない方がよさそうだと、四十代だと思われるサブマスに質問を投げかける。

「私達に何か用なの?」
「あぁ。三日前にダンジョンで冒険者を助けたっつーのはあんたらだろ? そんときに異変がなかったか?」
「異変? 途中で雪は降ってきたけど……あ! ボスが初級ダンジョンにしては強かったけど、そのこと?」
「いや、それも気になるが……今日あんたらに助けられたっつーパーティから、あったけぇ池が現れたって聞いたんだよ。で、あんたらがダンジョンクリアしていたって聞いてな、知ってるか聞きたかったんだ。ダンジョンに異変が起きたなら調べなきゃなんねぇからな」
「あぁー……」

 ごめん! それ、私のせい!
 グレンとジルから「どうする」と念話が飛んできた。
 調べるとか申し訳ないから言うしかないよね……

「えっとね……それ、セーフティエリアでしょ? 私がお風呂に入りたくて作ったんだよね。湯の花露天風呂」
「は!?」
「寒いから温まりたくて。ダンジョンだから元に戻るかなって放置しちゃっただけで、異変とかじゃないよ。ちなみにボスの続き部屋にも作っちゃった。ごめんね?」
「「…………」」
「直した方がよければまた行くけど……」

 驚きに目を見開く二人に言うと、サブマスにため息をつかれた。

「いや、いい。ダンジョン内に作るなんて……不思議な女の子だって聞いちゃいたが……本当か?」
「え、うん。ダンジョンの中は寒かったから、もう冷めてるかもしれないし、地面も元通りに戻ってるかもしれないけど」

 サブマスはチラりと本棚を見て、「そうか……」と再びため息を吐いた。

「本当みてぇだな。悪いが試させてもらった」
「その石?」
「気付いてたのか?」
「いや、今さっき見て確認してたからそうなのかなって思っただけ」
「……あれは嘘玉。簡単に嘘を見分けるためのものだ。嘘をつくと赤く光る」
「へぇ~。そんなもの使わなきゃいけないなんて大変だね。今日グレンはおやつ抜き!」
〈な!?〉
「あ! ホントだ! 白だったのにちょっと赤くなった!」
〈セーナー〉
「ごめん、ごめん。ちょっと実験したかったんだけど、思いついたのがあれだったの。パンあげるから機嫌直して?」
〈むむむ……われのは特別なおやつだぞ!?〉
「わかった。何か考えとくね」

 スペシャルデザートを求めたけど、今ジャムパンも食べるらしく、出したパンはサッとグレンに奪われた。

「ふふっ」
「ははっ!」

 笑い声にギルマス達の方を向くと、何故か二人して笑っている。
 何か面白いことあった?
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