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15章
閑話:残された王族達
しおりを挟むジャレッドはニキーダから受けた連絡にため息を吐いた。
「またセナは……何故こうも次々と問題を起こすのか……まぁ、今回は事が事だから仕方あるまい。だが何も指輪を選ばずとも……」
「お爺様、どうかしましたか?」
「ちょっとな……アリシア、ヴィルシル……いや、キアーロもだな。両国にすぐに集まるように伝えてくれ」
「はい。かしこまりました」
部屋でお茶を淹れていたアリシアは、ジャレッドに言われて部屋を後にした。
不思議そうな顔を向けてくるスタルティに「驚くとは思うが、大丈夫だ」とジャレッドは頭を撫でた。
通常であれば、例え国王であっても前もって連絡をしておかなければ会うことは叶わない。
だがアデトア王子の一件からこの街にいる間は三ヶ国に限り、そのような時間のかかる手間は不要となった。
ジャレッドしかニキーダと連絡が取れないからだ。
ジャレッドはニキーダから随時報告される内容の中から、報告が必要だと思ったものだけ伝えている。
三十分も経たずに集まった両国は、何かあったのかと落ち着かない様子だった。
会議室でアリシアが淹れた紅茶が渡るのを待って、ドヴァレーが質問を投げかけた。
「緊急とお聞きしましたが」
「……うむ。セナがアデトア王子に指輪を渡した……」
「まぁ! アデトア殿下は受け取ったのですか?」
ジャレッドの気まずそうな態度よりも内容を速やかに読み取ったキアーロ国の王妃――デライラが嬉しそうな声を上げた。
ブラン団長達やスタルティ、ヴィルシル王は驚きに目を見開いている。
「小指ではあるが、すでにはめられたそうだ。それはセナ以外に着脱不可だという」
「まぁ!」
「なんと!」
デライラとヴィルシル王が驚く中、ドヴァレーは発言に「ん?」と片眉を上げた。
「ジュラル殿、その言い方だとある種の呪いのような気がしますが……」
「ふっ。アデトア王子も同じセリフを言っていたそうだ」
「と、言うと合意ではないということですか?」
「指輪は魔力制御のためにセナが作った魔道具。かなり強力なもの故、盗まれないようにそうしたらしい」
「セ、セナ殿は魔道具まで作れるのですか?」
「あぁ。公にはしていないため他言無用だ。スタルティ、ピアスを」
呼ばれると思っていなかったスタルティは、ハッと我に返ってからセナに渡されていたピアスを外して見せる。
「スタルティのはこのようにエメラルドだが、アデトア王子のは一センチほどの黒真珠。品質的にはこのエメラルドと同等で、使われている金属は神銀だそうだ」
ジャレッドの説明を聞いて王族達は揃って顔を引き攣らせたが、中でもヴィルシル王がひどかった。
目玉が飛び出そうなくらい目を剥き、口をパクパクとさせている。
「王子の魔力の暴発を防ぐために他にも魔道具を作っているらしいが……婚姻する気はないため、他の人物に疑われぬように買い取ってくれとのことだ。これにはアデトア王子も賛成している」
セナが普通に使っている神銀は俗にいうレア素材。それを扱える人物も限られている。超高級品であり、例え王族といえどおいそれと手を出せる代物ではない。
しかもその希少な鉱物を使った魔道具ともなれば価格は跳ね上がる。
ヴィルシル王は「神銀……魔道具……」と心ここに在らず、呟くので精一杯だ。
今回、関係のないドヴァレーは、やはり国に欲しい人物であると再認識していた。
知っていた鑑定やアイテムボックスの能力も然ることながら、目撃することになった結界や魔法のスキル。古代龍もいるのだ。さらに魔道具を作れる人材は貴重。神銀の出処も知りたい。
あのプラティーギア邸の敷地を押し付けたのは正解だった──と思いながら、流れを壊さない話題を振った。
「セナ殿は狙ったんですか?」
「いや、セナは貴族の習わしを何一つ知らん。以前レインだったか? そんな名前の少年から紋章の入った手袋を渡されたそうだが、パーティー会場でその紋章がヴィルシル国のものであると知った途端、返そうとしたらしい。一つ知れば、他のことも知ってることが求められる。いくら己らと繋がりがあるとはいえ、貴族でも王族でもないセナにそれを求めるのはコクだろう。例え、嘘を見破る魔道具を使われたとしても、一切合切何も知らなければシラを切り通せるからな。これからもセナに話すつもりはない」
「レイン……」
「な、なるほど……」
貴族が紋章入りの手袋を渡すのは、相手が同性であれば〝友情〟や〝懇意〟、王族なんかは〝自分に仕えて欲しい〟となる。
しかし異性だった場合は〝あなたとお近づきになりたい〟、〝あなたと手を取り合いたい〟という意味をもつ。
一度受け取られたモノを返されるのは、その意向が反故、もしくは拒否されること。その場で受け取られないことよりも、後から返されるほど惨めなことはない。それが衆前であればなおさらだ。
あのパーティーでスタルティが止めたのはレインのプライドのため。あのセナの発言だけでレインには充分わかったことだろう。セナは自分に一切興味がないことを。
「それにセナは基本的に貴族を好いていない。理由は……まぁ、想像に難くないだろう。セナ本人は自ら貴族に関わる気はないから、知らなくとも問題はそうそう起きないと踏んでいる」
今回は魔力を扱う上で指輪が最適であると天狐が判断した……とジャレッドは続けた。
「天狐さんが言うならそうなのでしょう。あの御方はとても聡明でいらっしゃるもの。もう二度とあのような魔力の暴走が起こらないことを考えれば安い買い物と言えるかもしれませんね。それに天狐さんがおっしゃっていたでしょう? 左右非対称の色で迫害するなんてバカらしいと。差別を撤廃するのに一役買ってくれる可能性もありますわ」
感心したように発言したのはデライラ。
天狐が蒔いていたタネが芽吹いた瞬間だった。
思わぬところからの援護に、顔に出さないまでもジャレッドは内心驚いた。
ヴィルシル王は覚悟を決める。自分の子供のことを思えば、もう買い取るしかないのだ。
「……そうだな。そう願おう。その魔道具の金額はどれくらいが妥当なのだ?」
「正直値段は付けられないが、スタルティのピアスを見たときに天狐が『どう見積もっても宝石だけで最低十五億はくだらない』と言っていた。さらに神銀。魔道具としての効能を考えるに、二十億以上は確実にするだろう。他のも作っているということだから、かなりの金額になるはずだ」
「……に、二十億を超えるかなりの金額……」
「戻り次第書面にて詳細を提出するそうだ」
ジャレッドに告げられた衝撃的な金額を聞き、ヴィルシル王は血の気が失せた顔で力なく「わかった」としか返せなかった。
「もう一つ」
「……ま、まだ何か?」
「セナは立ち寄った街で野菜を大量購入しているらしい。おそらく、商業ギルドで新しい料理のレシピを登録することになるだろう。そうなれば他国への輸出は飛躍的に増える。魔道具は高い買い物となるだろうが、わりと早く回収できると己は思う。…………まぁ、セナに嫌われなければだが」
「──っ」
少し不安が解消された矢先、付け足された最後の言葉にヴィルシル王は息を呑んだ。
それは言外に脅しではないのかと腹を立てかけたものの、ジャレッドの視線は自分ではなく、真っ直ぐドヴァレーに向けられていることに気が付いた。
それはジャレッドだけではなく、スタルティやブラン団長達も同じだった。
ジャレッドはヴィルシル王だけではなく、ドヴァレーにも牽制したのだ。
いや、むしろドヴァレーへの牽制がメインだろう。肌を刺すような魔力が漂ってくる。
それを理解した瞬間、ヴィルシル王は一瞬にして肝が冷えた。
日頃貴族の回りくどい言い回しや嫌味の応酬の世界に慣れている身ではあるが、ジャレッドはひと味もふた味も違う。自分が敵う相手ではないと本能で理解してしまった。
そんなヴィルシル王の隣で、内心戦慄していたドヴァレーは口を開いたデライラによって救われた。
「天狐さんにお聞きしましたわ。とてもとても苦労をされてきた子であると、だからこそ自由にさせてあげたいと。一度失った信頼は取り戻すのは難しいですが、ブラン様が繋げて下さっためぐり合わせですもの。ムダには致しませんわ。そうですわよね、旦那様?」
「え……えぇ。もちろんです」
自身の思惑を否定することになったが、一刻も早く、この針のむしろに座っているかのような状況を打破したかったドヴァレーは同意を示した。
それを聞いたジャレッドは僅かに放出していた魔力を収めた。
ここまでわかりやすい警告を受けたのだ。流石にもう利用しようとは思わないだろうと推察したブラン団長は話題を変えることにした。
「……セナはなんの野菜を?」
「野菜の名前までは報告に来ていない。ただ、セナ自身は苦手だと一口も食べなかったようだ。ガルド達が食べたがったために買ったとのことだ」
「……セナにも苦手な野菜があるのか……」
「ふっ。同じことをジュードが言っていたらしく、セナがむくれていたと書かれていた。セナのことだ、登録したらカリダの街でも許可されるだろう」
「……それは楽しみだ」
ブラン団長達はセナの新しい料理が食べられることに期待を寄せて顔を綻ばせた。
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