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15章

勘違いと読み違い

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 私は今、この状況をどう切り抜けようかと頭を悩ませている。

 昨日、宿のベッドが狭くて硬くてめちゃくちゃ寝心地が悪かったため、ウェヌスを呼んでアデトア君を眠らせてもらった。コテージの使っていない部屋にその彼を寝かせ、私達はみんなで野営スタイルで眠りについた。
 何故か円形で横になったみんなのど真ん中で寝るハメになったんだけど……それはいい。ネラース達のモフモフに包まれていたし。
 朝の目覚めもよかった。ガルドさん達の体調もかなりよくなったみたいでそれも嬉しかった。

 なのに、今はそのルンルン気分が急降下。パイ投げのようにぶん投げてしまいたい……

「ほら、セナちゃん、好き嫌いしちゃダメよ。ちゃんと食べなきゃ」
「ヤダ。いらない。これ嫌い」
「食べないと元気出ないわよ?」
「後でおにぎり食べるもん」
「んもう、ワガママ言わないの。ほら、口開けなさい」
「い゛ー」

 宿の朝食を前にグレンに抱えられ、ニキーダが口元に運んでくる料理から必死に顔を背ける。
 そんな私にニキーダは「どうすれば食べてくれるのかしら」と呆れ気味だ。

 そんなこと言われても全ての料理に大量に、これでもかと使われているピーマンは食べたくない。
 この世界のピーマンは日本のピーマンより遥かにピーマン臭が強い。きっと味も濃いに違いない。
 ただでさえ日本にいたときも嫌いだったのに、こんな進化を遂げたピーマンは食べたくない。

「そんなに嫌ならこれ以外食べればいいじゃねぇか」

 ガルドさん、甘いわ。人間、嫌いなものには敏感なんだよ! 私には存在意義がわからない。
 ピーマン臭も味もダメなのに、濃いピーマン臭が移った料理を食べたいなんて思うわけない。
 ぶっちゃけにおいが充満しているこの空間からも避難したいくらいだ。
 
「んもう、しょうがないわね。ちゃんと後でご飯食べるのよ?」
「うん!」

 元気よく返事をしたら、ニキーダに頭を撫でられた。
 さすがママ。ママが無理矢理食べさせてくるタイプじゃなくてよかったよ。大好き。
 ジュードさんは「セナっちでも嫌いな食べ物があったんだねー」なんて笑っている。
 ってなんだい? って。それはあれかい? 私がスライムの核とか家畜の餌であるシラコメを使うからかい?

「これ、この街の特産品らしいわよ。デラちゃんに聞いたから来たけど、ハズレだったみたいね」

 デライラ――キアーロ国の王妃の名前だ。
 いつの間にか愛称呼びするほど仲よくなってたのね。

「このためにこの街に来たの?」
「どうせならセナちゃんが欲しがるものがある場所がいいと思って」
「そうだったんだ……ありがとう」
「いいわよ。食べる?」
「ごめん、無理」

 即答した私に、ニキーダはふふっと笑った。


 本当は出発予定だったんだけど、ニキーダの鶴の一声で急遽延泊が決定。
 ご飯を食べ終わった私達はアデトア君も一緒にお買い物へと繰り出した。
 アデトア君は今までこういう街をまともに散策したことがないそうで、全てを興味深そうに見ていた。
 ジュードさんにピーマン料理を熱望されたため、ピーマンも買ったよ。


 午後、宿に戻ってきた私達はそれぞれ別行動。
 私とジルはアデトア君にレッスン、ニキーダはお出かけ、グレンやガルドさん達はコテージだ。
 ちょっと心配なのがグレン。
 どうもアデトア君と一緒にいたくないみたいなんだよね。さりげなく避けてる気がするし、いつもよりくっ付いてくる頻度が高い気がする。ただ、どうしたのか聞いても教えてくれないの。大丈夫ならいいんだけど……


 ジルと教えること一時間超、アデトア君は体の隅々まで魔力を循環させることができるようになった。
 私が渡した指輪の魔道具もいい働きをしているようで、この数時間で格段に扱い方が上達。若干とはいえ、魔力への恐怖心も薄れてきたみたい。

 休憩時間、ジルがトイレに行ったタイミングでアデトア君が話しかけてきた。

「……お前は好いたやつがいるのか?」
「好いたやつ? ガルドさん達のことならみんな好きだよ」
「違う。そうじゃない。恋愛としてだ」
「恋愛? それはないかなぁ。みんな優しいけど家族だし、そういうんじゃないんだよね」

 素晴らしきイケメンですけれども。
 大体、私みたいなのと恋愛なんてガルドさん達が拒否するに決まってる。イケメンは鑑賞している方がいい。それに……いや、これは今は考えるのはやめておこう。

「そうか。天狐は……」
「狙ってもダメだからね! 権力使ってもダメだよ!」
「……は? 誰が誰を?」
「アデトア君がママを」
「はぁぁぁぁ!? そんなわけないだろう! どこをどう勘違いしたらそうなる!?」
「だって、何かあるごとに見てたじゃん。オマルの背中に乗ってるときとか、今日の朝ごはんとか、さっきの買い物のときだって」
「それは母親とはああいうものなのかと思っていただけだ!」
「昨日だって襲うって言ってた」
「恋人同士でもない男女が同じ部屋で寝るなんていかがわしいだろう! 危機感のなさを注意して何が悪い!」
「……あ、そうなの? てっきり〝オレも男なんだぞ! 男として見ろ!〟ってことかと思っちゃったよ。紛らわしい」
「紛らわしいのはお前だ!! 何故そういうのは読み取れるくせに、手袋や指輪の意味に気付かない!」
「……え? 手袋と指輪? 指輪って昨日の? 昨日説明したじゃん。手袋って? 手袋欲しいの?」
「セナ様!」

 アデトア君に聞き返したところで、ジルに大声で呼ばれた。

「部屋の外まで声が聞こえております」
「あ、結界解除したままだった。ごめん」
「いえ。かと思います。そうですよね? アデトア殿下」
「あ、あぁ……」
「では戻りましたので再開しましょう。アデトア殿下も慣れてきたようですし、レベルを上げましょうか」
「わ、わかった」

 ジルの笑顔に圧がある気がするのは気のせいだろうか? 怒ってる? でもなんで?
 アデトア君はアデトア君で顔を引き攣らせて目を泳がせている。
 私にはわからないけど、質問できる雰囲気ではないし、聞いても教えてもらえなそうだった。

 宣言通り、ジルのレッスンはスパルタと化し、私は口を挟む隙がない。
 終わったころにはアデトア君は疲労困憊で、ご飯も食べずに寝心地の悪いベッドで爆睡することになった。


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