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回り始めた世界。
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「お、お嬢様、お待ちを……」
「遅いわよカレン!ほら!早く!」
「はぁ……。はぁ……」
「しょうがないわね。一旦休憩にしましょう……」
「……もう、無理です」
カレンがその場に寝転んでしまった。私は持参していた水を手渡す。
「ありがとうございます……」
「カレン。あなた、体力自慢のメイドだって、自分で言っていたじゃない」
「……面目ない」
レーンがよく愚痴っていた。カレンは体力バカで、それをすぐに見せびらかしてくるのだと。
メイド養成学校では、どうやら一番運動ができたそうだ。大国で行われた大会に出て、賞をもらったこともあるらしい。だから、少し期待していたけど……。そうでもなかった。
確かに、ポテンシャルはすごいものを秘めている。が、体の使い方が甘い。能力が高いせいで、適当に足を動かしても、人よりスピードが出てしまう。それに甘えている部分が、カレンにはあった。
だから、体力で劣るはずの私にも、簡単に負けてしまうのだ。
「カレン。少し休憩したら、もう五周、この庭を回るわよ」
「なっ!?」
「当たり前よ。まだ五周しかしてないもの。一日最低十周。私がそれだけやるのだから、メイドのあなたにも、そのくらいしてもらわないと」
カレンが絶望したような表情を見せた。
……フェンシアは、体力に自信がなかったので、無理をさせなかったが、カレンは違う。きっと私についてくることができる。
今のレーンの体は、客観的に見ても、痩せていると言えるくらいにはなった。だけど、それだけだ。これからは、よりエネルギーを摂取できる食事に変更して、運動の強度を上げていく。これまでと違って、精神的にきついことも増えてくるので、一緒に高め合うことのできる仲間が必ず必要なのだ。
「……お嬢様。一体、何があったのですか?」
「カレン、その質問は何回目?」
「しかし……。明らかに異常です。これまでは、私がどれほど強い口調で言っても、一切体を動かさなかったお嬢様が、とうとう私を遥かに超える運動量をこなすようになって……。まるで人が変わったようですよ!」
……実際に、人が変わったのだから、当然だ。
私の口から、それについて言及することは、魔女の呪いによって不可能。だけど、少しづつ私は、この体でしか得られないメリットについて、気が付き始めていた。
ナンナの体は、魔法の鍛錬において、かなり長けていた。おそらく賢者である先祖の血が優勢だったのだと思う。
しかし、レーンの体は、明らかに剣士に適した作りをしていた。魔法はおそらく、前のようには使えないが、それ以上に、剣の腕前を極めることができる。
……女性として、今まで一度も誕生したことがない、剣神。
この体であれば、可能性はあるだろう。
だから、この程度で満足していてはいけない。私はもっと高みを目指す。
レーン・セラピーニャとして、歴史に名を残すため。
「カレン。立って」
「うぅ……。もう少しだけ」
「ダメよ。私たちがこうして休憩している間にも、ライバルは剣を振っているのだから」
「ら、ライバル?剣?」
「いいから、ほら」
私はカレンの手を引っ張り、立ち上がらせた。
――その時。
私の体が、こちらを見ていることに気が付いた。
「わわっ!?」
そっちに気が取られて、私はカレンの手を放してしまった。その場に尻もちをついたカレンが、抗議の視線を向けてくる。
私はそれに構わず――レーンに声をかけた。
「レーン!」
しかし、レーンは窓を閉じ、部屋に戻ってしまった。
「……」
「……お嬢様?」
「……なんでもないの」
もう一度カレンの手を引いて、立ち上がらせた。
……レーン。あなたは、大丈夫なの?
少しだけ見えた姿が、随分肥えているように思えた。
考えても仕方のないことだろう。あの子が望み、こうなったのだから。きっと私の体を、うまく使ってくれるはず。
そう信じて、私は走り始めた。
「遅いわよカレン!ほら!早く!」
「はぁ……。はぁ……」
「しょうがないわね。一旦休憩にしましょう……」
「……もう、無理です」
カレンがその場に寝転んでしまった。私は持参していた水を手渡す。
「ありがとうございます……」
「カレン。あなた、体力自慢のメイドだって、自分で言っていたじゃない」
「……面目ない」
レーンがよく愚痴っていた。カレンは体力バカで、それをすぐに見せびらかしてくるのだと。
メイド養成学校では、どうやら一番運動ができたそうだ。大国で行われた大会に出て、賞をもらったこともあるらしい。だから、少し期待していたけど……。そうでもなかった。
確かに、ポテンシャルはすごいものを秘めている。が、体の使い方が甘い。能力が高いせいで、適当に足を動かしても、人よりスピードが出てしまう。それに甘えている部分が、カレンにはあった。
だから、体力で劣るはずの私にも、簡単に負けてしまうのだ。
「カレン。少し休憩したら、もう五周、この庭を回るわよ」
「なっ!?」
「当たり前よ。まだ五周しかしてないもの。一日最低十周。私がそれだけやるのだから、メイドのあなたにも、そのくらいしてもらわないと」
カレンが絶望したような表情を見せた。
……フェンシアは、体力に自信がなかったので、無理をさせなかったが、カレンは違う。きっと私についてくることができる。
今のレーンの体は、客観的に見ても、痩せていると言えるくらいにはなった。だけど、それだけだ。これからは、よりエネルギーを摂取できる食事に変更して、運動の強度を上げていく。これまでと違って、精神的にきついことも増えてくるので、一緒に高め合うことのできる仲間が必ず必要なのだ。
「……お嬢様。一体、何があったのですか?」
「カレン、その質問は何回目?」
「しかし……。明らかに異常です。これまでは、私がどれほど強い口調で言っても、一切体を動かさなかったお嬢様が、とうとう私を遥かに超える運動量をこなすようになって……。まるで人が変わったようですよ!」
……実際に、人が変わったのだから、当然だ。
私の口から、それについて言及することは、魔女の呪いによって不可能。だけど、少しづつ私は、この体でしか得られないメリットについて、気が付き始めていた。
ナンナの体は、魔法の鍛錬において、かなり長けていた。おそらく賢者である先祖の血が優勢だったのだと思う。
しかし、レーンの体は、明らかに剣士に適した作りをしていた。魔法はおそらく、前のようには使えないが、それ以上に、剣の腕前を極めることができる。
……女性として、今まで一度も誕生したことがない、剣神。
この体であれば、可能性はあるだろう。
だから、この程度で満足していてはいけない。私はもっと高みを目指す。
レーン・セラピーニャとして、歴史に名を残すため。
「カレン。立って」
「うぅ……。もう少しだけ」
「ダメよ。私たちがこうして休憩している間にも、ライバルは剣を振っているのだから」
「ら、ライバル?剣?」
「いいから、ほら」
私はカレンの手を引っ張り、立ち上がらせた。
――その時。
私の体が、こちらを見ていることに気が付いた。
「わわっ!?」
そっちに気が取られて、私はカレンの手を放してしまった。その場に尻もちをついたカレンが、抗議の視線を向けてくる。
私はそれに構わず――レーンに声をかけた。
「レーン!」
しかし、レーンは窓を閉じ、部屋に戻ってしまった。
「……」
「……お嬢様?」
「……なんでもないの」
もう一度カレンの手を引いて、立ち上がらせた。
……レーン。あなたは、大丈夫なの?
少しだけ見えた姿が、随分肥えているように思えた。
考えても仕方のないことだろう。あの子が望み、こうなったのだから。きっと私の体を、うまく使ってくれるはず。
そう信じて、私は走り始めた。
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