悪役令嬢に難癖をつけられ、飼い犬と共に国外追放されましたが、私は聖女、飼い犬は聖獣になりました。

冬吹せいら

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事件発生

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ランバーを連れて、できるだけ人通りの少ないルートを通ることに決めた。

「ばうっ!ばうっ!」
「ちょっとランバー!早いよ!」

ランバーにリードを引っ張られながら、必死で付いて行く。誰もいない裏道。捨てられているゴミの匂いが鼻にまとわりつくみたいだった。
カーペンハイト家と出くわさないためとはいえ、この道はとても辛い。リードを引いて、戻ろうとした、その時。

「ほんっとに無能なのね!このダメ執事!」
「申し訳ございません……」

……カーペンハイト家の令嬢、マレンヌ様だ。
執事を怒鳴りつけ、頭を叩いている。かわいそうに。

人前だと目につくから、こうして裏道を使ってるんだ。良くないものを見てしまった。バレないうちにこっそり……。

「ばうばう!」

ちょっと……。ランバー……。

「誰!?」

あぁ。バレてしまった。
私はランバーを抱きかかえて、マレンヌ様の元へ向かった。

「すいません。犬が吠えてしまって」
「……誰って訊いてるの。理解できない?」
「……シーナ・アリオンです」
「知らないわね。ボスティ。知ってる?」
「……確か、孤児院の」

どうやらボスティさんは、私を知っているらしい。メリカーさんと面識があるのかもしれないなぁ。

「シーナ。あなた、その犬のしつけがなってないわね。吠えたら叩く。それで簡単に言うことを聞くようになるわ」
「な、なるほど……。ありがとうございます。では私はこれで」
「待ちなさいよ」
「痛っ!」

マレンヌ様に、思いっきり髪の毛を引っ張られてしまった。

「あなた……。孤児の癖に、綺麗な髪をしているのね」
「そんな……、滅相もっっ」

また引っ張られた。何本か髪が抜けたような気がする。

「私、癖毛なのよ。こんな綺麗な髪で生まれていたら、どれだけ良かったことか……。憎たらしい。全部剃ってやりたいくらいだわ」

マレンヌ様が笑った。ボスティさんも、仕方なくと言った様子で、合わせるように笑っている。

「お、お嬢様。この辺りで……」
「いいえ。まだ腹の虫が収まらないわ。あなた、こちらに頬を出しなさい」
「えっ……」
「一発叩くのよ。それで許してあげる」

許すもなにも……。私は何もしていないのに。

……だけど、ここで出会ってしまったことが、運の尽きだったと思うしかないだろう。私は右頬を、マレンヌ様に向けた。

「じゃあ、いくわよ……」

マレンヌ様が、手を高く振り上げた、そして、勢いをつけて――。

「ばううう!!!」

その手が、私の頬に触れる瞬間だった。

ランバーが、私の腕から飛び出し、マレンヌ様の腕に噛みついたのだ。

「いやああああ!!!!!」
「お嬢様ぁ!!!」

マレンヌ様が、腕を抑えて蹲る。
あぁ、大変なことになってしまった。

抑えている箇所から、血が滲んでいる。最悪だ。

「……シーナ・アリオンっ」

まるで人殺しのような目で私を睨みつけると、マレンヌ様は、何も言わず去って行った。ボスティさんにかばわれながら、ゆっくりと歩いている。

その背中を、ただ茫然と見つめることしか、私にはできなかった。
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