国に裏切られ、自ら命を絶った聖女。ネクロマンサーによって蘇らされ、悪魔と化す。

冬吹せいら

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蘇生

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目を覚ますと、闇の中だった。
自分の姿はもちろん、周りに何があるのかも把握できない。

「目覚めたかい?聖女カリアナ」

どこからか、声が聞こえた。

「誰?」
「僕は……。デリッサだ」
「……デリッサ!?」

私が驚き、大きな声を出すと、デリッサは大きな声で笑い始めた。

「驚くのも無理はないよ。聖女である自分が、まさか―ー。魔王軍の幹部に、命を拾われるだなんてね」
「ありえないことです。私の魂は光に包まれている。闇に屈するはすがない」
「……可哀そうに。自分の心に、ヒビが入っていることにすら、気が付かないなんて」
「ヒビですって……?」
「おそらく、肉体の損傷が酷いのに、回復を行わなかったからだ。あらゆる認識が低下していたのだろうね」

そんな……。聖女である、この私が?魔族に侵入を許した?
信じがたいことだけど、それほどまでに消耗していたという事実は、確かに認めざるを得なかった。

「私をどうするつもりですか。有無を言わぬ死体として蘇らせるのか、それとも、低級魔族の欲を吐き出すための袋にするのか……」
「どちらでもない。君ほどの力を持つ人間を……。そんなしょうもない使い方で、終わらせると思うかい?」
「だったらどうするのです」
「決まってるだろう?魔王軍の兵として、働いてもらう」
「……ありえません」

例え、侵入を許したとしても、心まで奪われるつもりはない。

「ネクロマンサーは……。蘇らせた魂を、魔法で作り上げた肉体に閉じ込め、操ると聞きます。ですが、私は腐っても聖女です。コンロトールすることは不可能ですよ」
「そんなことはわかってる。つべこべ言わずに、いい加減目を開けたらどうかな」
「目……?目なら、開けています」
「人の目じゃないよ。魔族の目だ」
「魔族の?」
「……仕方ないなぁ。こじ開けてあげるよ」
「っ……」

いきなり、視界が明るくなった。
目の前に、灰色の髪の、背の高い男が立っている。こいつが……、デリッサか。

広い部屋だ。まるで王宮の一室を思わせる、豪華な作り。
中央に置かれたベッドが、存在感を放っている。

「元聖女にふさわしい部屋……。そうは思わないかい?」
「……私は、藁の上で眠っていました。こんな華やかな部屋に、身を置いたことはありません」
「……なんと」

デリッサが驚いている。
聖女は、祈りを捧げるだけの生き物――。部屋など、眠ることさえできればいい。そんな思考が普通で、与えられた物は少なかった。

「鏡で、自分の姿を確認してみてくれ。あぁ。歩くのは、人間の足では無く、魔族の足だよ。間違えると、そこから一歩も動けないまま、夜が明けてしまうからね」

この体は、やはり魔族の物らしい。肌が異常なほど白く、長い爪が生えている。
デリッサの言った通りに、体を動かしてみた。手、足……。徐々に感覚を掴んでいく。

ようやく、鏡の前にたどり着いた。

赤い髪の少女だ。人間だった時よりも背が低く、耳が長い。エルフのような特徴だが、この爪では弓を引くことはできないだろう。随分中途半端な体に閉じ込めてくれたものだ。

「エルフを錬成していたんだ。それこそ、低級魔族の遊び道具としてね……。だけど、失敗した。戦闘能力の高い個体が出来上がってしまったんだ。魔力の高まりを感じるだろう……?聖女である君なら、わかるはず」

確かに、この体であれば、覚えている限りの魔法を、満足に使うことができるだろう。
……今ここで、こいつを焼き払うことだって。

「おっと。今、僕に反抗する意思を持ったね?残念だけど、そういう時は、こうさせてもらう」

デリッサが指を鳴らすと、体の力が抜け、その場に立っていられなくなった。

「逆らうことはできないよ。君は何もしないか……。人間を殺すか。この二つしか、行動を選択できないんだ」
「……そうですか」
「今はそうやって、余裕をかましていればいいさ――。すぐにわかるよ。魔族の体になるということが、何を意味するのか」

おやすみ。
そう言い残して、デリッサは出て行った。

……これから私は、どうなってしまうのだろうか。
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