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聖女カリアナ 自ら命を絶つ
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毒草を握った時、自分が泣いていることに気が付いた。
その涙が傷口に染みて、声が出そうになる。きっと自分は、酷い顔をしているだろう。ふと視線を落とすと、私の肌は、赤色や黒色だらけ……。どこにも肌色が見当たらない。聖女であるからには、見た目くらいは気を使おうと努力していたが、死ぬと決めてからは、それもどうでもよくなった。
聖女として祈りを捧げることを辞めさせられたのは、一か月ほど前。
当初、理由は伏せられていた。しかし、何とかして情報を手に入れたところ……。耳も疑いたくなるような事実が隠されていたのだ。
私の祈りは、民の傷、心を癒し、明日の平和を紡ぐ。
……それが、国によって、秘密裏に行われていた、人体実験の妨げになっていたのだという。
どんな対策をしても、私の祈りは、この国だけではなく、かなり広範囲に渡って、効果を為してしまう。だから、国王のオレクシア・ガーデンは、私の祈りを無理やり辞めさせたのだ。
結果、民たちは毎日、苦しみの声をあげるようになった。古傷が痛み、心は乱れる。街では暴動が起き始めていた。
――何を思ったのか、国王はそれを、私の呪いだと言い始めた。
いや、何を思ったのか……。なんてことは、今となればわかる。私が反抗する前に、民の総意による国外追放を行おうとしたのだろう。
私は必死で耐えた。大人たちの投げる石は、なんとか耐えることができても、子供たちの泣き顔、泣き声、怒り……。それらを無視することはできず、日々心が消耗していった。
兵による暴力も始まった。万が一、私が革命軍を立ち上げ、国に逆らうことなどないように。
私は聖女だ。自ら争いを起こすことが、あるはずもない。それなのに、毎日毎日、酷い暴力を受けた。服を着ることすら許されず、固い床に傷口が擦れ、大声で叫びながら、眠れない日々を送った。
それがうるさいからと、また殴られ、また叫び……。いつか、これは自分では無いとすら、思うようになった。私はどこか、別の幸せな場所にいて、酷い悪夢を見ているのだと。夢はいずれ覚める。だから今は耐えろと……。
……無理だった。
外で兵たちに、いかがわしい拷問を受け、捨てられた。しばらくしたら牢獄に戻され、また殴られる。それまでのわずかな休憩時間。そこには水があった。そして……。毒草が生えていたのだ。
今まで生きてきて、こんなに運が良いと思ったことはない。ついに私は、自ら命を絶つことができる。何日ぶりかもわからない、明るい感情が、心を支配した。
毒草を持つ手が震える。この草を齧り、口内を毒液まみれにしたあと、水を飲めば……。
遠くから、兵がこちらに向かって来るのが見えた。私は慌てて、毒草を口に含む。強い痛みに襲われながら、必死で顎を動かし、
「あっうぅぅっ!!!!あががあ!!」
うめき声を上げながら、なんとか水を飲んだ。体が動かなくなるまで飲んでやる。胃が溢れるまで――。
突然、体が軽くなった。そして、私はどうやら、地面に横たわったらしい。
そこで意識が途絶えた。
胃の中を走り回る強烈な痛みは、兵から受けた拷問よりも、よっぽどマシだと思えた。
心までは、傷つけられないから――。
その涙が傷口に染みて、声が出そうになる。きっと自分は、酷い顔をしているだろう。ふと視線を落とすと、私の肌は、赤色や黒色だらけ……。どこにも肌色が見当たらない。聖女であるからには、見た目くらいは気を使おうと努力していたが、死ぬと決めてからは、それもどうでもよくなった。
聖女として祈りを捧げることを辞めさせられたのは、一か月ほど前。
当初、理由は伏せられていた。しかし、何とかして情報を手に入れたところ……。耳も疑いたくなるような事実が隠されていたのだ。
私の祈りは、民の傷、心を癒し、明日の平和を紡ぐ。
……それが、国によって、秘密裏に行われていた、人体実験の妨げになっていたのだという。
どんな対策をしても、私の祈りは、この国だけではなく、かなり広範囲に渡って、効果を為してしまう。だから、国王のオレクシア・ガーデンは、私の祈りを無理やり辞めさせたのだ。
結果、民たちは毎日、苦しみの声をあげるようになった。古傷が痛み、心は乱れる。街では暴動が起き始めていた。
――何を思ったのか、国王はそれを、私の呪いだと言い始めた。
いや、何を思ったのか……。なんてことは、今となればわかる。私が反抗する前に、民の総意による国外追放を行おうとしたのだろう。
私は必死で耐えた。大人たちの投げる石は、なんとか耐えることができても、子供たちの泣き顔、泣き声、怒り……。それらを無視することはできず、日々心が消耗していった。
兵による暴力も始まった。万が一、私が革命軍を立ち上げ、国に逆らうことなどないように。
私は聖女だ。自ら争いを起こすことが、あるはずもない。それなのに、毎日毎日、酷い暴力を受けた。服を着ることすら許されず、固い床に傷口が擦れ、大声で叫びながら、眠れない日々を送った。
それがうるさいからと、また殴られ、また叫び……。いつか、これは自分では無いとすら、思うようになった。私はどこか、別の幸せな場所にいて、酷い悪夢を見ているのだと。夢はいずれ覚める。だから今は耐えろと……。
……無理だった。
外で兵たちに、いかがわしい拷問を受け、捨てられた。しばらくしたら牢獄に戻され、また殴られる。それまでのわずかな休憩時間。そこには水があった。そして……。毒草が生えていたのだ。
今まで生きてきて、こんなに運が良いと思ったことはない。ついに私は、自ら命を絶つことができる。何日ぶりかもわからない、明るい感情が、心を支配した。
毒草を持つ手が震える。この草を齧り、口内を毒液まみれにしたあと、水を飲めば……。
遠くから、兵がこちらに向かって来るのが見えた。私は慌てて、毒草を口に含む。強い痛みに襲われながら、必死で顎を動かし、
「あっうぅぅっ!!!!あががあ!!」
うめき声を上げながら、なんとか水を飲んだ。体が動かなくなるまで飲んでやる。胃が溢れるまで――。
突然、体が軽くなった。そして、私はどうやら、地面に横たわったらしい。
そこで意識が途絶えた。
胃の中を走り回る強烈な痛みは、兵から受けた拷問よりも、よっぽどマシだと思えた。
心までは、傷つけられないから――。
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