15 / 15
田舎娘をバカにした令嬢の末路
しおりを挟む
「えぇっと……。ディアナ・カルホーン。で、よろしかったかな?」
呼びかけられた女性は、何も答えない。
医師は、受け取っていたカルテを読みながら、ため息をついた。
鉄格子の向こう側にいるディアナは……。
まるで、魂の抜けた人形のように、ボーっと空中を見つめている。
「ディアナ・カルホーン。耳は聞こえていると信じて、君の問診を始めよう」
カルテには、こう書いてある。
『ディアナ・カルホーン オーロラ・レンジ―と、ナイザー・エリオットのパーティに忍び込み、スピーチの最中、オーロラにナイフを持って、襲い掛かった』
『精神を病んでおり、質問には答えない。こちらでは手に負えないので、処理はそちらに任せる』
……なんと、無責任なことか。
医師は、気分が沈んだ。
バッテンデンは大国だが、それであるが故に、精神的に参った患者に、適切なケアをしようとする医師がいない。
良くも悪くも、弱肉強食。
手に負えなければ、牢獄にぶち込んでしまう。
今回は、かなりの大罪を犯した患者、ということで、わざわざ異国から、名医である彼が呼ばれたのだ。
治療ではなく、バッテンデンは、動機が知りたいのだろう。
医師は、そう睨んでいた。
再発を、防ぐため……。
単なるサンプルとして、彼女のことを考えているのだ。
医師は、催眠魔法を唱え……。ディアナの心の解放を試みた。
すると、ディアナの目に、少しだけ、光が戻った。
「……あれ?」
「気が付いたか。ディアナ・カルホーン」
「私は、なぜ……。ここは牢獄? あなたは……」
「私は君を担当する医師だ。……オーロラ・レンジ―に、ナイフを向けた時のことを、詳しく聞きたい」
「……あぁ」
ディアナが、不敵な笑みを浮かべた。
催眠魔法の効果が続くのは、三分程度。
その間に、必要な情報を聞き出す必要がある。
「だって、おかしいじゃない。私があそこにいないとダメだもの」
「おかしい、とは? 詳しく聞かせてくれ」
「私は、ナイザー・エリオットの妻だから。学園を卒業して、彼と結婚して……」
「君は学園を退学し、その後は、秘書として、様々な場所を転々とし……。最終的には、部屋から出られないほど、精神を病んでしまった。そういう風に、このカルテには、書いてあるが」
「それは間違いね。だって私は……。あの時、オーロラという、大ウソつきを倒した」
これは……。手遅れだ。
医師は、もはや諦めていた。
彼女は救えない。
この牢獄で、一生を終えるだろう。
「なぜか、ナイザー様の横に、私じゃない女が立っていたの。おかしいと思って、殺さなきゃって思って……。だけど、殺せなかったから、私はここにいるのよね? あの時、ナイザー様を奪い去ろうとした女を殺せなかった罪を、背負い続けるんだわ。ごめんなさい。ごめんなさい。次は頑張ります。不正はしません。必死で努力します。お父様。許して。ナイザー様……」
「ディアナ。聞こえるかい?」
「私が不正をしました。しました。許してください。結婚します。ナイザー様、お願いします。一番です。試験はしました。オーロラは殺します……」
「ディアナ……」
催眠魔法が、もはや効かないほどに、ディアナは壊れてしまっていた。
医師は、大きく息を吐いた後、立ち去った。
カルテをビリビリに破き、その場に放り捨てる。
「……彼女の来世が、きっと素晴らしい人生になりますように」
静かに……。そう祈った。
呼びかけられた女性は、何も答えない。
医師は、受け取っていたカルテを読みながら、ため息をついた。
鉄格子の向こう側にいるディアナは……。
まるで、魂の抜けた人形のように、ボーっと空中を見つめている。
「ディアナ・カルホーン。耳は聞こえていると信じて、君の問診を始めよう」
カルテには、こう書いてある。
『ディアナ・カルホーン オーロラ・レンジ―と、ナイザー・エリオットのパーティに忍び込み、スピーチの最中、オーロラにナイフを持って、襲い掛かった』
『精神を病んでおり、質問には答えない。こちらでは手に負えないので、処理はそちらに任せる』
……なんと、無責任なことか。
医師は、気分が沈んだ。
バッテンデンは大国だが、それであるが故に、精神的に参った患者に、適切なケアをしようとする医師がいない。
良くも悪くも、弱肉強食。
手に負えなければ、牢獄にぶち込んでしまう。
今回は、かなりの大罪を犯した患者、ということで、わざわざ異国から、名医である彼が呼ばれたのだ。
治療ではなく、バッテンデンは、動機が知りたいのだろう。
医師は、そう睨んでいた。
再発を、防ぐため……。
単なるサンプルとして、彼女のことを考えているのだ。
医師は、催眠魔法を唱え……。ディアナの心の解放を試みた。
すると、ディアナの目に、少しだけ、光が戻った。
「……あれ?」
「気が付いたか。ディアナ・カルホーン」
「私は、なぜ……。ここは牢獄? あなたは……」
「私は君を担当する医師だ。……オーロラ・レンジ―に、ナイフを向けた時のことを、詳しく聞きたい」
「……あぁ」
ディアナが、不敵な笑みを浮かべた。
催眠魔法の効果が続くのは、三分程度。
その間に、必要な情報を聞き出す必要がある。
「だって、おかしいじゃない。私があそこにいないとダメだもの」
「おかしい、とは? 詳しく聞かせてくれ」
「私は、ナイザー・エリオットの妻だから。学園を卒業して、彼と結婚して……」
「君は学園を退学し、その後は、秘書として、様々な場所を転々とし……。最終的には、部屋から出られないほど、精神を病んでしまった。そういう風に、このカルテには、書いてあるが」
「それは間違いね。だって私は……。あの時、オーロラという、大ウソつきを倒した」
これは……。手遅れだ。
医師は、もはや諦めていた。
彼女は救えない。
この牢獄で、一生を終えるだろう。
「なぜか、ナイザー様の横に、私じゃない女が立っていたの。おかしいと思って、殺さなきゃって思って……。だけど、殺せなかったから、私はここにいるのよね? あの時、ナイザー様を奪い去ろうとした女を殺せなかった罪を、背負い続けるんだわ。ごめんなさい。ごめんなさい。次は頑張ります。不正はしません。必死で努力します。お父様。許して。ナイザー様……」
「ディアナ。聞こえるかい?」
「私が不正をしました。しました。許してください。結婚します。ナイザー様、お願いします。一番です。試験はしました。オーロラは殺します……」
「ディアナ……」
催眠魔法が、もはや効かないほどに、ディアナは壊れてしまっていた。
医師は、大きく息を吐いた後、立ち去った。
カルテをビリビリに破き、その場に放り捨てる。
「……彼女の来世が、きっと素晴らしい人生になりますように」
静かに……。そう祈った。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
2,880
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(121件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ご感想ありがとうございます!
ご感想ありがとうございます!
最後まで読んでくださり、ありがとうござました!