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田舎娘をバカにした令嬢の末路
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「えぇっと……。ディアナ・カルホーン。で、よろしかったかな?」
呼びかけられた女性は、何も答えない。
医師は、受け取っていたカルテを読みながら、ため息をついた。
鉄格子の向こう側にいるディアナは……。
まるで、魂の抜けた人形のように、ボーっと空中を見つめている。
「ディアナ・カルホーン。耳は聞こえていると信じて、君の問診を始めよう」
カルテには、こう書いてある。
『ディアナ・カルホーン オーロラ・レンジ―と、ナイザー・エリオットのパーティに忍び込み、スピーチの最中、オーロラにナイフを持って、襲い掛かった』
『精神を病んでおり、質問には答えない。こちらでは手に負えないので、処理はそちらに任せる』
……なんと、無責任なことか。
医師は、気分が沈んだ。
バッテンデンは大国だが、それであるが故に、精神的に参った患者に、適切なケアをしようとする医師がいない。
良くも悪くも、弱肉強食。
手に負えなければ、牢獄にぶち込んでしまう。
今回は、かなりの大罪を犯した患者、ということで、わざわざ異国から、名医である彼が呼ばれたのだ。
治療ではなく、バッテンデンは、動機が知りたいのだろう。
医師は、そう睨んでいた。
再発を、防ぐため……。
単なるサンプルとして、彼女のことを考えているのだ。
医師は、催眠魔法を唱え……。ディアナの心の解放を試みた。
すると、ディアナの目に、少しだけ、光が戻った。
「……あれ?」
「気が付いたか。ディアナ・カルホーン」
「私は、なぜ……。ここは牢獄? あなたは……」
「私は君を担当する医師だ。……オーロラ・レンジ―に、ナイフを向けた時のことを、詳しく聞きたい」
「……あぁ」
ディアナが、不敵な笑みを浮かべた。
催眠魔法の効果が続くのは、三分程度。
その間に、必要な情報を聞き出す必要がある。
「だって、おかしいじゃない。私があそこにいないとダメだもの」
「おかしい、とは? 詳しく聞かせてくれ」
「私は、ナイザー・エリオットの妻だから。学園を卒業して、彼と結婚して……」
「君は学園を退学し、その後は、秘書として、様々な場所を転々とし……。最終的には、部屋から出られないほど、精神を病んでしまった。そういう風に、このカルテには、書いてあるが」
「それは間違いね。だって私は……。あの時、オーロラという、大ウソつきを倒した」
これは……。手遅れだ。
医師は、もはや諦めていた。
彼女は救えない。
この牢獄で、一生を終えるだろう。
「なぜか、ナイザー様の横に、私じゃない女が立っていたの。おかしいと思って、殺さなきゃって思って……。だけど、殺せなかったから、私はここにいるのよね? あの時、ナイザー様を奪い去ろうとした女を殺せなかった罪を、背負い続けるんだわ。ごめんなさい。ごめんなさい。次は頑張ります。不正はしません。必死で努力します。お父様。許して。ナイザー様……」
「ディアナ。聞こえるかい?」
「私が不正をしました。しました。許してください。結婚します。ナイザー様、お願いします。一番です。試験はしました。オーロラは殺します……」
「ディアナ……」
催眠魔法が、もはや効かないほどに、ディアナは壊れてしまっていた。
医師は、大きく息を吐いた後、立ち去った。
カルテをビリビリに破き、その場に放り捨てる。
「……彼女の来世が、きっと素晴らしい人生になりますように」
静かに……。そう祈った。
呼びかけられた女性は、何も答えない。
医師は、受け取っていたカルテを読みながら、ため息をついた。
鉄格子の向こう側にいるディアナは……。
まるで、魂の抜けた人形のように、ボーっと空中を見つめている。
「ディアナ・カルホーン。耳は聞こえていると信じて、君の問診を始めよう」
カルテには、こう書いてある。
『ディアナ・カルホーン オーロラ・レンジ―と、ナイザー・エリオットのパーティに忍び込み、スピーチの最中、オーロラにナイフを持って、襲い掛かった』
『精神を病んでおり、質問には答えない。こちらでは手に負えないので、処理はそちらに任せる』
……なんと、無責任なことか。
医師は、気分が沈んだ。
バッテンデンは大国だが、それであるが故に、精神的に参った患者に、適切なケアをしようとする医師がいない。
良くも悪くも、弱肉強食。
手に負えなければ、牢獄にぶち込んでしまう。
今回は、かなりの大罪を犯した患者、ということで、わざわざ異国から、名医である彼が呼ばれたのだ。
治療ではなく、バッテンデンは、動機が知りたいのだろう。
医師は、そう睨んでいた。
再発を、防ぐため……。
単なるサンプルとして、彼女のことを考えているのだ。
医師は、催眠魔法を唱え……。ディアナの心の解放を試みた。
すると、ディアナの目に、少しだけ、光が戻った。
「……あれ?」
「気が付いたか。ディアナ・カルホーン」
「私は、なぜ……。ここは牢獄? あなたは……」
「私は君を担当する医師だ。……オーロラ・レンジ―に、ナイフを向けた時のことを、詳しく聞きたい」
「……あぁ」
ディアナが、不敵な笑みを浮かべた。
催眠魔法の効果が続くのは、三分程度。
その間に、必要な情報を聞き出す必要がある。
「だって、おかしいじゃない。私があそこにいないとダメだもの」
「おかしい、とは? 詳しく聞かせてくれ」
「私は、ナイザー・エリオットの妻だから。学園を卒業して、彼と結婚して……」
「君は学園を退学し、その後は、秘書として、様々な場所を転々とし……。最終的には、部屋から出られないほど、精神を病んでしまった。そういう風に、このカルテには、書いてあるが」
「それは間違いね。だって私は……。あの時、オーロラという、大ウソつきを倒した」
これは……。手遅れだ。
医師は、もはや諦めていた。
彼女は救えない。
この牢獄で、一生を終えるだろう。
「なぜか、ナイザー様の横に、私じゃない女が立っていたの。おかしいと思って、殺さなきゃって思って……。だけど、殺せなかったから、私はここにいるのよね? あの時、ナイザー様を奪い去ろうとした女を殺せなかった罪を、背負い続けるんだわ。ごめんなさい。ごめんなさい。次は頑張ります。不正はしません。必死で努力します。お父様。許して。ナイザー様……」
「ディアナ。聞こえるかい?」
「私が不正をしました。しました。許してください。結婚します。ナイザー様、お願いします。一番です。試験はしました。オーロラは殺します……」
「ディアナ……」
催眠魔法が、もはや効かないほどに、ディアナは壊れてしまっていた。
医師は、大きく息を吐いた後、立ち去った。
カルテをビリビリに破き、その場に放り捨てる。
「……彼女の来世が、きっと素晴らしい人生になりますように」
静かに……。そう祈った。
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