クライニング?セクニッション~天才でオタクな彼のラストストーリー

せあら

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偽りの幸せと真実の残酷さ。

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「うっ……」

星野リリは小さな呻き声を上げながら、微睡んだ意識の中でゆっくりと瞳を開いた。
目が覚めたリリは周囲へと視線を向けた。
周囲は薄暗く、使われなくなったコンテナが広い室内の隅に大量に山積みされており、その近くには使われなくなった機械がいくつもその場に存在していた。
どうやらここは廃工場のようだった。
「どうして……こんなところに……」
不安顔で呟く中で、徐々にリリの記憶が蘇っていった。

(そうだ!わたしあの後時雨に会って、それで………)

ハッとし、コンクリートの上に座り込んでいたリリは直ぐに立ち上がろうとした。
だが、その場に身体が縫い止められたかのように動かない。
激しい疑問を覚えながらも、訝しむようにリリは後ろへと目を動かした。
するとそこには、自分の両手は後ろに回され、身体ごと柱にロープで固定するようにして縛られていたのだった。

「えっ……?……嘘でしょ?……なんでこんな
……」

不安と恐怖を強く抱きながら、リリはロープを外そうと必死に身体を動かそうとするが、全く外れる気配はなかった。
そんなリリを嘲笑うかのようにコツとした足音を鳴らし、

「無駄だよ、リリ。それ俺が外れないように強く固定しておいたから」

桐生時雨は薄暗い闇の中から、リリの方へと
歩を進めながら、いつもと変わらない穏やかな口調で言った。
「し……ぐれ………?」
その姿に。その言葉に。
リリは目を見開き、驚愕し、そして恐怖を身体全身に感じながら震える唇で彼の名を発した。

信じたくない……。

信じたくない……。

信じたかった……。

そんな思いを強く感じながら眉尻を下げ、時雨へと彼女は悲しそうな瞳で視線を注いだ。
「お前が悪いんだよリリ。人の忠告も聞かずにアイドルなんってやっているから、だからこんな事になるんだ」
「時雨が犯人なの……?……どうして、どうしてこんな事をするの?……」

お願い!否定して!

そう心の中で彼女は強く叫ぶ。だが彼は、その彼女の想い踏みにじるかのように唇の端を歪め、そして彼女の前へと立ち止まった。
目線を彼女の高さに合わせるかのように、その場にしゃがみ唇を再び動かした。

「どうしてって……お前を取り戻す為だよ」

「え……?」
彼の言葉に疑問の声を発するリリに対して、時雨は柔らかな口調で言葉を続けた。
「お前から”音”を奪えば、またお前は俺のところに帰って来るだろ?だからその為にやったんだよ」
当然のように、にっこりと笑いながら告げる言葉にリリは時雨へと言った。
「でも時雨はあの時、わたしの夢を応援してくれたじゃない!あれは嘘だったの……?」
「嘘じゃないよ。応援はしていた。だけど一通りやって満足したら、また昔のように俺の傍に戻ってきてくれるって思っていたんだ」
「そんな…………それって応援しているって言わないじゃない…………」
リリは酷く悲しそうな瞳で、時雨から視線をふいっと逸らし、小さく呟くように言った。
それに対して彼は小さく自嘲気味にクスリと笑った。
「そうだね。……でも、その前に……」
そう言いながら、何かに気づいた時雨はリリの顔へと手を伸ばした。
ビクリと微かにリリは震えた。だが、時雨はそんなの気にしない素振りで彼女の耳に付けている華の形をしたピアスに手を触れた。
その瞬間。
ピアスがチカリと瞬くように一瞬、微かに光り、それと同時にリリの表情が強ばったものへと変わったのを時雨は気づいた。
それは彼の中である確信へと繋がった。そして彼は乱暴に彼女のピアスを外した。
「…………痛っ」
リリは突然の痛みに顔をしかめる。それに対して時雨は柔らかい表情から一瞬で酷く、冷たい表情へと変えた。

「これはリリには似合わないよ」

その場からスッと立ち上がり、彼は手にしたピアスを地面に落とすと、それを靴で踏みつけた。
バキンと、乾いた音がリリの耳へと届いたのだった。
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