クライニング?セクニッション~天才でオタクな彼のラストストーリー

せあら

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タイムミリット2

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「って……アイツ一体何処にいるんだよ!!」

夜闇の中、誰もいない廃工場の敷地屋の中で、バイクに跨ったまま悟は小さく眉をひそませながら軽く悪態をついた。

数時間前。
拐われたリリを探し出すべく、彼女に付けていたGPSを手掛かりに悟は廃工場へと向かった。
だが、廃工場の敷地の中に入った瞬間にGPSの反応が突然消えたのだった。
周囲は薄暗く、廃工場が三ヶ所同じ敷地に連なって建てられており、近くに街灯が立ってはいるが、電球の明かりが切れかけている為かチカチカと光っているだけだった。
おそらく犯人はリリに付けていたGPSに気づき、それを壊したのだろう。
犯人に気づかれないように敢えてアクセサリーとしてカモフラージュしてはいたのだが、GPSが起動すると、イヤリングが微かに光を放つ使用となっていた。
だが、光ると言っても彼女に至近距離で近づかない限り気づく事は難しい筈だ。
それを犯人は気づき、破壊した。

「まぁ、さすがにそんな上手くいかないよな。いっていたら超楽だったのにな……」

短い息を吐き、悟はそうぼやきながらズボンのポケットの中から、ディバイスを取り出した。
手にしたディバイスの画面へと彼はキータッチで今自分がいる場所を入力していく。
ものの数秒も掛からないうちに画面には現在地が表示されていた。
それは簡単な地図のようなものであり、三つの廃工場が縦へと長く連なっていた。
一見、パッと見しただけでも無駄にただ広いイメージが強く、それこそ連れさらわれた一人の少女をこの場所から一人で時間内に見つけ出す事は困難にも思えた。
例え警察が動いたとしても予想以上に時間が掛かってしまう可能性が高い。
だからこそ犯人は敢えてこの場所を選んだのだ。
彼女をライブから遠ざける為に。
そしてもし彼女が犯人を否定し、拒絶した場合、ここで誰にも気づかれず殺害する為に。

犯人は”星野リリ”を殺害したりはしない。

それはまだ自分の想いを受け入れてもらえるかもしれないと言う可能性に基づき、計算されたものだ。

もし仮にその想いが否定された場合どうなるか?

決まっている。
相手を殺すだけだ。
そこに”諦める”と言う文字は一切存在しない。
相手を酷く嫌悪し、”憎しみ”をぶつけるか、
相手を”理解”していると言う勘違いをし、自らも共に命を立つ。
あるいはその両方になる。

だが、悟はそれを理解したうえで、唇の端を吊り上げた。

(リリを見つけ出させるのに時間を掛けさせる為の計画かもしれねぇが、全く詰めが甘めぇよな)

内心そう呟きながら悟は画面の中に表示された地図を指でタッチする。
すると、廃工場の場所を示していた地図は、即座に廃工場の見取り図へと変わった。
一つの建物の中にある機会の近くの場所に、一瞬だけほんの一点の青白い点滅が瞬いた気がした。

(ん?)

一瞬見間違いかと思ったが、彼はそれを思い直し、ディバイスの画面を切り替え、リリが身につけ付いた筈のGPSの追跡画面へと変える。
反応が消えた筈のGPSの解析を悟は画面へと素早く指を動かしながら次々と入力していく。
画面がいくつも表示され、彼はその度にその表示されたものを処理していった。

もしも壊されたGPSが辛うじて生きていたとしたら彼女の居場所を掴める可能性が出てくる。

それに普通のGPSならば壊されれば再び起動しなくなる。
だが、リリが身に付けているのは悟が独自に開発したものであり、彼が作ったものは市販のものと遥かに違うものだ。
華のかたちをしたイヤリング型のGPSは華の蕾自体がGPSの役割になっている。
それは表面が粉々に割れたとしても、場合によっては一瞬だけ場所を知らせる機能を持つ場合が備わっている。
しかしそれは壊れる寸前の一瞬だけ。
それを見間違えだと勘違いをし、見逃せばそこまでだ。
だから少しの可能性が残っているのならば、それを試さない手は無い。
そう思い、感じながらも彼は指を動かし続ける。
そして。

表示された画面がクリアになり、画面が建物の見取り図へと変わると共に、先程建物の中の機会のすぐ側の場所が一瞬だけチカチカと再び蒼白い点滅の光を瞬かせていた。
この壊れたGPSの点滅自体は壊された相手には見えず、点滅が分かるのは解析の復旧に成功した悟だけだ。
それに、そもそも相手に悟られないように基本彼はそのように設定をし、作ったのだった。

……よし!何とか生き返ったな……

悟はGPSが再び起動した事を確認すると、バイクのアクセルを捻った。

「さて、いっちょ助け出してやるとするか。あの我儘で生意気なお姫様を」

彼は不敵に笑い、そしてブロロッとけたたましいエンジン音を鳴らしながらバイクを再び夜闇の中へと走らせたのだった。


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