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その先の裏側
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「こっちは無事に爆弾の回収を終えた。そっちはどうだ?」
悟は無線機を通じて、3階のフロアにいる梨乃へとそう言った。
『こっちも悟に言われたとおり、中心部の柱の近くに爆弾があったよ。ただそっちみたいに飾りの中に偽造していた訳ではなくって、柱の近くに飾られていた小さな置物用の花の花壇の中にあったの。それに加えて、花壇の土の表面が薄い粉みたいなものになっていた』
「おそらくそれは小麦粉か何かだろうな。多分、それは他のフロアにも爆弾とセットで設置されているかもしれないな」
『あと他の刑事さん達から連絡が来て、1階のフロアは爆弾の回収が終わったみたい。悟の言っていたように、爆弾が1、2個見つかっただけで、それに加えてダミーの爆弾が幾つか見つかったみたいだよ』
「やっぱりな……」
悟は小さく呟き、そして少し考えるように梨乃へと、
「分かった。また何かあったら連絡する」
そう言って通信機を切った。
そして、丁度爆弾の処理を終えた桐島の方へと振り向いた。
「向こうも爆弾の回収が終わったらしいぜ。予想通り、柱の中心部に爆弾が仕掛けられていた。取り敢えずこの会場内の爆弾全ては回収が終わった」
「そうか……、なら会場内はひとまず安心だ。後は星野リリと一般人の厳重な警護、外部から来る犯人を捕まえるだけだな」
真剣な顔で言う桐島に悟は頷く。
「そうだな。あとコイツの鑑識も頼んだぞ。多分犯人のものと一致するかもしれないしな」
「分かった。おそらく鑑識の結果もそんなに掛からないはずだ。鑑識も何人がこっちに来ているからな。なぁ、種原……」
桐島は一度言葉を切り、真剣な表情で悟へと視線を向けた。
だが、その視線は彼を射抜くような鋭い視線だった。
「お前もういい加減警察と関わるな」
「関わるなと言われてもなぁ……何でか知らねーけど、毎回俺事件に巻き込まれているだけなんだけど」
そう言い、悟は苦笑しながら小さく肩をすくめた。
「誤魔化さなくても良い。お前は数年前の事件……自分の両親を殺した犯人を追っているのか?」
誤魔化すように笑う悟に、桐島は表情を変えないままそう言った。
警察の影の頭脳(プレーン)と呼ばれる少年が、自分の手柄を簡単に警察へと差し出す。
そこに彼にとって何かしらの利益、または得るものがあると考えるのが普通だ。
彼……種原悟が欲しがるものは何なのか。
それは警察の管理された”情報”。
基本それは、警察の人間でしか得る事が出来ないものだ。
どうして彼がそんなものを求めているのか。
それは数年前のある事件が関わっている可能性がある。
その数年前の事件とは、ある研究所で数名の科学者達が、何者かによって殺害された。
遺体の腕には血痕で描かれた五芒星のエンブレムが刻まれており、殺害の手掛かりとなるもの全て持ち去られ、または破壊されていた。
当日、警察内部でも不可解すぎる点が多いとされ、また危険性が高い事件として扱われた。
警察が持てる情報源を全て屈し、全力を上げて捜査したが、結局は犯人の手掛かりとなるものは一つも掴めず、結果は未解決事件として闇の中に葬られる事となった。
その事件はのち、”五芒星のエンブレム事件”と呼ばれるようになった。
その被害者の中に彼の両親がいた。
そして、その数年後にその被害者の息子がことごとく毎回のように事件に首を突っ込んでいた。
それも自称高校生探偵と言い張って。
彼が”五芒星のエンブレム事件”を意識していないとはとても考えられなかった。
だから桐島は彼の核心に触れる為に敢えて直球に訊ねたのだ。
それに彼は被害者なのだ。
自ら進んで泥を被り、暗い絶望に似た真実を知る必要は何処にもない。
そう思い、桐島は悟へと真っ直ぐな視線をぶつける。
「もしそうなら、もう警察に任せろ。いくらお前が天才的な推理力を持つ高校生だからと言って、お前が一般人である事は変わらない。それに警察とこれ以上深く関わらない方が良い。でないと本当に引き返せなくなってしまうぞ」
その言葉に悟はスッと瞳を細め、そして唇の端を緩めると小さくふっと笑った。
「桐島さん、アンタやっぱりいい人だよな」
彼が自分の身を案じてくれている事を感じながら、悟はそう言葉を口にした。
桐島と言う人間は悟から見たら他の警察関係者とは違って見えていた。
今の時代警察と言う組織は下のものは上のものの命令に従い、自分の保身を重要視するものに近かった。
本来今の警察は日本国家の情報を管理する機関組織《道標の遺産》の隠れ蓑として使われている。
その為警察の情報と証言が強くなっていた。
つまり簡単に言ってしまうと警察が黒だと判断をすれば、幾ら加害者が無実を訴えたところでそれは簡単に犯人に確定されてしまう。
そのようになっていた。
だが桐島の場合は真剣に事件と向き合い、事件にあった被害者を護りまた罪を犯した加害者を本当の意味で助けようとする。
熱血でいつも突進して突っ走てばかりだが、その先にあるものは自分の出世、利益になる為でない。
それは困っている人、助けを求めている人を警察官として救いたい。そんなシンプルなものだった。
そんな彼だから悟は桐島と言う人間は嫌いでは無かった。
「悪ぃけど、もう引き返せない位置にいるんだ。だから俺はどんな事があっても引き返さない。それに知っときたいだろ?自分がどんな理由で、どんな目的で狙われているって事ぐらい」
真剣味を帯びた声音で告げる悟に、
「種原……お前……」
桐島は彼の決意に似た信念を強く、強く感じた。
それはこの先どんな理不尽な足が竦むような絶望が待っているとしても彼はその先を自ら突き進む。
そんな想いを感じると、同時に彼の瞳は酷く冷たかった。
それは何処か凍てつくように冷えきるのではなく、心の底から相手に恐怖を与えさせる。
そのような目をしていた。
そして悟は表情を変え、小さく苦笑した。
「だから俺は俺のやり方でやらせてもらうぜ。けどせっかく忠告してくれたのに悪いな桐島さん。アンタの忠告は全く聞けなさそうだ」
「別に良いよ。お前は言っても聞かない奴だしな。もう半分諦めもついてるし」
ため息混じりで桐島はそう言った。
「そうそう何事も諦めは肝心だ。さてと、会場内の爆弾は一応全部撤去出来たみてーだし、じゃぁあと宜しくな」
悟はそう告げると踵を返す返し、その場から歩き出した。
「ちょっと待て……」そう制する桐島の声を背に悟は片手を上げ、ひらひらと振ってみせる。
そして彼は手をポケットに突っ込み歩を進めていく。
それと共に彼は先程の軽い表情とは一変し、真剣な顔つきへと変え、再び思考を巡らせた。
悟は無線機を通じて、3階のフロアにいる梨乃へとそう言った。
『こっちも悟に言われたとおり、中心部の柱の近くに爆弾があったよ。ただそっちみたいに飾りの中に偽造していた訳ではなくって、柱の近くに飾られていた小さな置物用の花の花壇の中にあったの。それに加えて、花壇の土の表面が薄い粉みたいなものになっていた』
「おそらくそれは小麦粉か何かだろうな。多分、それは他のフロアにも爆弾とセットで設置されているかもしれないな」
『あと他の刑事さん達から連絡が来て、1階のフロアは爆弾の回収が終わったみたい。悟の言っていたように、爆弾が1、2個見つかっただけで、それに加えてダミーの爆弾が幾つか見つかったみたいだよ』
「やっぱりな……」
悟は小さく呟き、そして少し考えるように梨乃へと、
「分かった。また何かあったら連絡する」
そう言って通信機を切った。
そして、丁度爆弾の処理を終えた桐島の方へと振り向いた。
「向こうも爆弾の回収が終わったらしいぜ。予想通り、柱の中心部に爆弾が仕掛けられていた。取り敢えずこの会場内の爆弾全ては回収が終わった」
「そうか……、なら会場内はひとまず安心だ。後は星野リリと一般人の厳重な警護、外部から来る犯人を捕まえるだけだな」
真剣な顔で言う桐島に悟は頷く。
「そうだな。あとコイツの鑑識も頼んだぞ。多分犯人のものと一致するかもしれないしな」
「分かった。おそらく鑑識の結果もそんなに掛からないはずだ。鑑識も何人がこっちに来ているからな。なぁ、種原……」
桐島は一度言葉を切り、真剣な表情で悟へと視線を向けた。
だが、その視線は彼を射抜くような鋭い視線だった。
「お前もういい加減警察と関わるな」
「関わるなと言われてもなぁ……何でか知らねーけど、毎回俺事件に巻き込まれているだけなんだけど」
そう言い、悟は苦笑しながら小さく肩をすくめた。
「誤魔化さなくても良い。お前は数年前の事件……自分の両親を殺した犯人を追っているのか?」
誤魔化すように笑う悟に、桐島は表情を変えないままそう言った。
警察の影の頭脳(プレーン)と呼ばれる少年が、自分の手柄を簡単に警察へと差し出す。
そこに彼にとって何かしらの利益、または得るものがあると考えるのが普通だ。
彼……種原悟が欲しがるものは何なのか。
それは警察の管理された”情報”。
基本それは、警察の人間でしか得る事が出来ないものだ。
どうして彼がそんなものを求めているのか。
それは数年前のある事件が関わっている可能性がある。
その数年前の事件とは、ある研究所で数名の科学者達が、何者かによって殺害された。
遺体の腕には血痕で描かれた五芒星のエンブレムが刻まれており、殺害の手掛かりとなるもの全て持ち去られ、または破壊されていた。
当日、警察内部でも不可解すぎる点が多いとされ、また危険性が高い事件として扱われた。
警察が持てる情報源を全て屈し、全力を上げて捜査したが、結局は犯人の手掛かりとなるものは一つも掴めず、結果は未解決事件として闇の中に葬られる事となった。
その事件はのち、”五芒星のエンブレム事件”と呼ばれるようになった。
その被害者の中に彼の両親がいた。
そして、その数年後にその被害者の息子がことごとく毎回のように事件に首を突っ込んでいた。
それも自称高校生探偵と言い張って。
彼が”五芒星のエンブレム事件”を意識していないとはとても考えられなかった。
だから桐島は彼の核心に触れる為に敢えて直球に訊ねたのだ。
それに彼は被害者なのだ。
自ら進んで泥を被り、暗い絶望に似た真実を知る必要は何処にもない。
そう思い、桐島は悟へと真っ直ぐな視線をぶつける。
「もしそうなら、もう警察に任せろ。いくらお前が天才的な推理力を持つ高校生だからと言って、お前が一般人である事は変わらない。それに警察とこれ以上深く関わらない方が良い。でないと本当に引き返せなくなってしまうぞ」
その言葉に悟はスッと瞳を細め、そして唇の端を緩めると小さくふっと笑った。
「桐島さん、アンタやっぱりいい人だよな」
彼が自分の身を案じてくれている事を感じながら、悟はそう言葉を口にした。
桐島と言う人間は悟から見たら他の警察関係者とは違って見えていた。
今の時代警察と言う組織は下のものは上のものの命令に従い、自分の保身を重要視するものに近かった。
本来今の警察は日本国家の情報を管理する機関組織《道標の遺産》の隠れ蓑として使われている。
その為警察の情報と証言が強くなっていた。
つまり簡単に言ってしまうと警察が黒だと判断をすれば、幾ら加害者が無実を訴えたところでそれは簡単に犯人に確定されてしまう。
そのようになっていた。
だが桐島の場合は真剣に事件と向き合い、事件にあった被害者を護りまた罪を犯した加害者を本当の意味で助けようとする。
熱血でいつも突進して突っ走てばかりだが、その先にあるものは自分の出世、利益になる為でない。
それは困っている人、助けを求めている人を警察官として救いたい。そんなシンプルなものだった。
そんな彼だから悟は桐島と言う人間は嫌いでは無かった。
「悪ぃけど、もう引き返せない位置にいるんだ。だから俺はどんな事があっても引き返さない。それに知っときたいだろ?自分がどんな理由で、どんな目的で狙われているって事ぐらい」
真剣味を帯びた声音で告げる悟に、
「種原……お前……」
桐島は彼の決意に似た信念を強く、強く感じた。
それはこの先どんな理不尽な足が竦むような絶望が待っているとしても彼はその先を自ら突き進む。
そんな想いを感じると、同時に彼の瞳は酷く冷たかった。
それは何処か凍てつくように冷えきるのではなく、心の底から相手に恐怖を与えさせる。
そのような目をしていた。
そして悟は表情を変え、小さく苦笑した。
「だから俺は俺のやり方でやらせてもらうぜ。けどせっかく忠告してくれたのに悪いな桐島さん。アンタの忠告は全く聞けなさそうだ」
「別に良いよ。お前は言っても聞かない奴だしな。もう半分諦めもついてるし」
ため息混じりで桐島はそう言った。
「そうそう何事も諦めは肝心だ。さてと、会場内の爆弾は一応全部撤去出来たみてーだし、じゃぁあと宜しくな」
悟はそう告げると踵を返す返し、その場から歩き出した。
「ちょっと待て……」そう制する桐島の声を背に悟は片手を上げ、ひらひらと振ってみせる。
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