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第13話 蜜月△トライアングル!?

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 "アリシア・クリスハート"は可愛い。
 ゲーム「悠久のチェリーブロッサム」のパッケージイラストや、グラフィック、スチルでも凄く可愛かったけど、実物はそれどころではない。
 普段テレビや雑誌で見ている芸能人も、生で見るともっと綺麗だったり可愛くて感動する…なんてことをどこかで聞いたことはあったけれど、あれは本当だったんだ…って、死んで生まれ変わってから今更実感することになるなんて、思いも寄らなかった。
 顔だけではない。仕草も、表情も、雰囲気も、声も、話し方も、もう全てが可愛い。(こんなことを言うと気持ち悪いと思われそうだけど…)
 友達になりたいと言った私の言葉に快諾してくれたアリシアに、完全にデレデレの状態になってしまっていた私は、その高揚と興奮のまま「わたくしたち、もうお友達なのですもの。わくしのことはエリスって呼んで下さいませね」なんて呼び方まで半ば強引に変更させて、かなり浮き足立っていた。
 さすがにアリシアも貴族の令嬢を呼び捨てに!?と最初は戸惑っていたが、私の食い下がりに負けたのか、最後にはちょっとだけ恥ずかしそうに「じゃ、じゃあ…、え…エリス……?///」と呼んでくれた。可愛い。とんでもなく可愛い。生まれてきて良かった。
 もう気分は新婚さん。蜜月もいいところだった。
しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。アリシアと向かい合って彼女の笑顔を満喫している私の肩に誰かの両手が置かれたかと思うと、そのまま体はぐいっと後方に引き剥がされた。

「え」

「あ」

 私とアリシアの声が重なる。
 何事かと思い、私は自分の肩を掴んだ誰かに向き直る。私の至福の時を邪魔するなんて不届きにも程がある。私の顔は恐らく相当不機嫌なものだったろうと思う。

「…ちょっと!…急になんですの………って……え」

 そこには、普段とはまるで違う厳しい表情をしてアリシアを見つめるジェイドの姿があった。その雰囲気はかなりピリリと張り詰めている。

「…メイドから、ここでエリスレア様が泣いていた…と、聞きました。……先ほど陛下から王子の婚約者候補の話があったばかりですし、アリシア様が何か……」

「えぇ…???」

 全く何処で誰か見ているか、油断も隙もない…。
そりゃあ、いつもの私を考えたら、泣いているのをみたら騒がれても仕方がないのは確かだけど、ここまで情報伝達が早いなんて…(いや、これはジェイドの密偵としての特性もあるかもしれないが…)

「…アリシアは何もしていませんわ。彼女に失礼なことを言わないで頂戴」

 ジェイドの険しい表情を向けられたアリシアは、さぞかし怖い思いをしていることだろう。私は自分が彼女を守らなければ…と言う思いで、つい口調は強くなる。

「ですがエリスレア様」

「ジェイド、私が彼女とお話がしたくて声をかけたのですわ」

「彼女が貴女に何か失礼な振る舞いをしたのではないのですか?」

「言いがかりは止めてと言っているの!」

 ゲームでのジェイドは本当に優しくて礼儀正しい青年だ。
 ゲームのイベントでは、政敵相手以外にこんな攻撃的な姿を見たことなんてなかった。口調こそまだ丁寧で穏やかだが、凄い剣幕でしつこいくらいに食い下がってくる。
 彼がアリシアに惚れたら困る…とは思ったのは確かだけれど、嫌ってしまうのも困る。彼女が怖い思いや辛い思いをしてしまうかも知れないし、そんなのは絶対に嫌だ。適度に仲良く、挨拶くらいは普通に出来るくらいの仲で居て欲しい。
 私がジェイドとの好感度をうっかり上げすぎたからこんなことになってしまったの???相対的にアリシアの好感度が低くなっちゃったの?????
 私は困惑しつつも、何とかこの場をやり過ごさないといけないので、必死にジェイドを宥めた。
 しかし、私が抑えなければいけないのはジェイドだけではなかった。
 私がジェイドとあーだこーだと問答していると、突然私の腕に柔らかい感触が押し付けられる。

「え、え、あ、アリシア????」

 視線を向けると私の腕にアリシアがぎゅっとしがみ付くように抱きついている。
 彼女の顔がすぐ近くまで近づいていて、彼女の髪の良い香りが鼻をくすぐってクラクラしてしまう。
 腕から伝わってくる彼女の身体の柔らかさも相まって、女である私だってこうなのだ。男だったらこんなの一発でアリシアのことを好きになってしまうに違いない……。
 ………いや、今はそれどころではない。

「あ、アリシア…?…急に、どうしましたの…?」

 そう問いかけた私ではなく、ジェイドの方にアリシアは話しかける。

「エリス…様が、困っています。止めてください」

 え、え、ええええ…アリシア…!?
 ジェイドに睨まれて怖い思いをしていると思ったのに、彼女は今、私の腕を抱きしめて、ジェイドを真っ直ぐに見つめ、彼に抗議している!!
 そうだ…。アリシアがただ優しくてふわふわしている女の子でないことは、私が一番良く知っているじゃないか…。
 友達である"エリスレア"が突然現れた男に困らされていると思い、助けようとしてくれているんだ……!!
 かつて大好きだったゲームのヒロインと攻略対象のイケメンキャラが…、わ、私の為に争い合っている…?!!!!!
 私の中の"波佐間悠子"のキャパシティはもう破裂寸前だ。
 厄介で面倒な状況には違いないのに、ちょっと嬉しい気持ちがないと言ったら嘘になってしまう。だって、私にとってはアリシアもジェイドも思い入れがあるキャラなんだもの…!!!!!
 美少女とイケメンが!!!!私を挟んで!!!!私の為に争っている…!!!!!
 「私の為に争わないで!!!!」なんて台詞を言えるシチュエーションが実際に訪れるなんて……。とトンチキな感激すら覚えてしまう。

 …まぁ、言わないけど!!!!

「…アリシア、ジェイド。お願いだから落ち着いて頂戴」

 私はともすれば飛びそうな理性を必死に押さえつけ、クールに二人に対応する。
 今この状態を何とかすることができるのは私自身しかいないのだ。こ
 の天国みたいな地獄の様相を、私は自分で解決しなければいけない。

「エリスレア様」

「エリス…」

 私を愛称で呼ぶアリシアに、ジェイドがまたちょっとムっとした様子で彼女を睨んでから私を見る。一方アリシアはジェイドの視線など気にする様子もなく、私の方を見た。

「アリシア、紹介しますわ。こちらはジェイド。クルーゼ王子付きの従者で、わたくしも日頃から何かとお世話になっていますの。普段から真面目で、気さくで…頼りになる方なのだけれど、少し心配性みたいですわね」

 私は言葉を慎重に選んで、出来るだけ柔らかい調子でジェイドをアリシアに紹介する。ジェイドが私の言葉に少しだけ気恥ずかしそうな顔をしたのが視界の端に映った。アリシアも最初はジェイドに関する警戒心を解けない様子ではあったが、私の言葉に段々と表情が和らいで行っているように見える。

「きっとわたくしが同じ王子の婚約者候補として選ばれたアリシアに対抗意識を持って喧嘩を売りに行って、返り討ちにあって騒いだとでも思ったに違いないですわ」

「そ、そんな、エリスレア様…自分は…」

「…喧嘩を売りにって。…エリスったら…普段はそんなに喧嘩っ早いの?」

「ふふ。貴女から見たらどう見えるかしら?」

「…うーん……。エリスは凄く美人だから…、一見ちょっと近寄り難い雰囲気はあるけれど…、実際に話してみたらとても優しくて面白い人だと思ったし、誰かに喧嘩を売ったり意地悪を言うような人には見えないかな…」

 アリシアは、恥ずかしげもなくそんなことを言う。私は思わず照れて言葉を失ってしまうし、ジェイドも毒気を抜かれたようできょとんとしているようだった。
 ……ああ、やはりアリシアは可愛い。
 そして、とてもとても良い子!!!!!
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