6 / 9
6.インフルエンザA型②
しおりを挟む
熱が上がってきたのか、夜になると頭がぼーっとしてきて、うとうとしては目が覚めるの繰り返しだった。
「大丈夫か?」
ぼんやりと目を開けると、聞きなれた低い声が耳に入る。
「とーさん…」
いつも夜遅くに帰ってくる父さんが氷枕を交換してくれていた。
「しんどいなあ」
父さんが頭を撫でてくる。兄貴と違う、大きくて少しざらっとした手。その重みと温かさを感じながら、俺の意識は再びぼんやりとした眠りの中へ引き込まれていった。
朝になって、目を覚ました時、変わらず体はだるく、頭もぼんやりとしていた。
寝ている間に少しは楽になっているかと思ってたんだけどなあ。
「おはよう、いつき」
兄貴が声をかけで目を開ける。体温計を脇に入れられて、ぼんやりしている俺に代わって兄貴が手際よく熱を測ってくれる。
「下がってないな」
兄貴が体温計を取り出して、表示を確認した。体温は相変わらず高く、まだ38度を超えている。兄貴が母さんを呼んで、病院に行くことになった。
「いつき、お兄ちゃんが学校行ったら、病院に行こう。まだしんどそうだしちゃんと診てもらおう」
俺は小さくうなずいたけど、体がだるくて起こすのがしんどい。
母さんにさっと着替えさせられて、リビングのソファまでゆっくり歩いて座る。
朝ごはんは食べられないので兄貴があったかいお茶を持たせてくれる。
ぼーっとテレビを見ていると、兄貴が「じゃあ行ってくるからな」と頭を撫でてくる。
「いってらっしゃい」と兄貴に言ったけど、声がかすれてうまく出なかった。そんな俺の様子を見て、兄貴は心配そうに眉をひそめた。
もう一度軽く頭を撫でて玄関に向かった。兄貴、ほんとによく撫でるよなあ。
玄関の閉まる音を聞いて、持っていたお茶のコップをそばのローテーブルに置く。体のだるさは変わらず、重たい毛布を何枚もかけられているみたいだ。
母さんが準備を整えて戻ってくる。
「さ、行くよ。ちょっとだるいだろうけど、頑張って歩こうか」
俺は小さくうなずいたけど、いざ立ち上がろうとすると足がふらついてしまう。
「ちょっと待ってね。ほら、腕に掴まって」
母さんが俺の片腕を支えながら、ゆっくり立たせてくれる。母さんに支えられながら靴を履いて車に乗って助手席をちょっと倒してもらう。
車に揺られながら、俺はうとうとしていた。
病院の消毒液のにおいを思い出して、嫌だなあと思う。
「着いたよ」
母さんの声に目を開けると、病院の駐車場だった。母さんが車を降りて助手席のドアを開ける。
「歩ける?」
「うん」
俺はうなずいてみせたけど、体はまだふらふらで、結局母さんの腕に掴まってゆっくり歩くことになった。
自動ドアが開いて、病院特有の薬の匂いが鼻に入る。受付で母さんが名前を伝えると、待合室に案内された。
椅子に座って、順番を待つ。
「予約してるからすぐだよ」
母さんがそう言ってかばんから水筒を出す。中身は冷たいお茶で、冷たいお茶が喉を通て少しだけ気持ちが楽になった。
数分すると名前が呼ばれて診察室に入る。中にはいつもの先生が待っていた。
「いつきくん、今日はどうしましたか?」
「昨日の夕方から熱があって、朝は38度5分でした」
母さんが先生に症状を説明してくれる。先生はうなずきながら、俺のリンパ節や喉を診察する。
「今からインフルエンザの検査をしようね」
先生が細い棒を持って鼻の奥に入れる。一瞬びくっとなるくらい痛かった、これが嫌いなんだよなあ。
「検査結果が出るまで少し待ってね」
先生に言われて俺たちはまた待合室に戻る。母さんが横に座って、手を握ってくれた。
いつもは恥ずかしいって思うけど、しんどいときは安心する。
数分後、名前が呼ばれて診察室に戻る。先生がカルテを見ながら説明を始めた。
「インフルエンザA型だね。予防接種のおかげで症状が軽いかもしれないけど、薬をしっかり飲んで家でゆっくり休むようにしてください」
母さんが薬の説明を受けている間、俺の頭の中は「やだなあ」だった。予防接種受けたのに。また学校行けない。
帰り道、母さんが薬局に寄って薬を受け取ってくれる間、俺は車の中でぼんやり外を見ていた。
時間は3時間目くらいか。時間割なんだっけ、給食なんだっけ…と思いながら、目を閉じた。
「大丈夫か?」
ぼんやりと目を開けると、聞きなれた低い声が耳に入る。
「とーさん…」
いつも夜遅くに帰ってくる父さんが氷枕を交換してくれていた。
「しんどいなあ」
父さんが頭を撫でてくる。兄貴と違う、大きくて少しざらっとした手。その重みと温かさを感じながら、俺の意識は再びぼんやりとした眠りの中へ引き込まれていった。
朝になって、目を覚ました時、変わらず体はだるく、頭もぼんやりとしていた。
寝ている間に少しは楽になっているかと思ってたんだけどなあ。
「おはよう、いつき」
兄貴が声をかけで目を開ける。体温計を脇に入れられて、ぼんやりしている俺に代わって兄貴が手際よく熱を測ってくれる。
「下がってないな」
兄貴が体温計を取り出して、表示を確認した。体温は相変わらず高く、まだ38度を超えている。兄貴が母さんを呼んで、病院に行くことになった。
「いつき、お兄ちゃんが学校行ったら、病院に行こう。まだしんどそうだしちゃんと診てもらおう」
俺は小さくうなずいたけど、体がだるくて起こすのがしんどい。
母さんにさっと着替えさせられて、リビングのソファまでゆっくり歩いて座る。
朝ごはんは食べられないので兄貴があったかいお茶を持たせてくれる。
ぼーっとテレビを見ていると、兄貴が「じゃあ行ってくるからな」と頭を撫でてくる。
「いってらっしゃい」と兄貴に言ったけど、声がかすれてうまく出なかった。そんな俺の様子を見て、兄貴は心配そうに眉をひそめた。
もう一度軽く頭を撫でて玄関に向かった。兄貴、ほんとによく撫でるよなあ。
玄関の閉まる音を聞いて、持っていたお茶のコップをそばのローテーブルに置く。体のだるさは変わらず、重たい毛布を何枚もかけられているみたいだ。
母さんが準備を整えて戻ってくる。
「さ、行くよ。ちょっとだるいだろうけど、頑張って歩こうか」
俺は小さくうなずいたけど、いざ立ち上がろうとすると足がふらついてしまう。
「ちょっと待ってね。ほら、腕に掴まって」
母さんが俺の片腕を支えながら、ゆっくり立たせてくれる。母さんに支えられながら靴を履いて車に乗って助手席をちょっと倒してもらう。
車に揺られながら、俺はうとうとしていた。
病院の消毒液のにおいを思い出して、嫌だなあと思う。
「着いたよ」
母さんの声に目を開けると、病院の駐車場だった。母さんが車を降りて助手席のドアを開ける。
「歩ける?」
「うん」
俺はうなずいてみせたけど、体はまだふらふらで、結局母さんの腕に掴まってゆっくり歩くことになった。
自動ドアが開いて、病院特有の薬の匂いが鼻に入る。受付で母さんが名前を伝えると、待合室に案内された。
椅子に座って、順番を待つ。
「予約してるからすぐだよ」
母さんがそう言ってかばんから水筒を出す。中身は冷たいお茶で、冷たいお茶が喉を通て少しだけ気持ちが楽になった。
数分すると名前が呼ばれて診察室に入る。中にはいつもの先生が待っていた。
「いつきくん、今日はどうしましたか?」
「昨日の夕方から熱があって、朝は38度5分でした」
母さんが先生に症状を説明してくれる。先生はうなずきながら、俺のリンパ節や喉を診察する。
「今からインフルエンザの検査をしようね」
先生が細い棒を持って鼻の奥に入れる。一瞬びくっとなるくらい痛かった、これが嫌いなんだよなあ。
「検査結果が出るまで少し待ってね」
先生に言われて俺たちはまた待合室に戻る。母さんが横に座って、手を握ってくれた。
いつもは恥ずかしいって思うけど、しんどいときは安心する。
数分後、名前が呼ばれて診察室に戻る。先生がカルテを見ながら説明を始めた。
「インフルエンザA型だね。予防接種のおかげで症状が軽いかもしれないけど、薬をしっかり飲んで家でゆっくり休むようにしてください」
母さんが薬の説明を受けている間、俺の頭の中は「やだなあ」だった。予防接種受けたのに。また学校行けない。
帰り道、母さんが薬局に寄って薬を受け取ってくれる間、俺は車の中でぼんやり外を見ていた。
時間は3時間目くらいか。時間割なんだっけ、給食なんだっけ…と思いながら、目を閉じた。
11
あなたにおすすめの小説
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる