冒険者狩りをしている青年の表稼業

雪鵠夕璃

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第一幕:【魔盗団】殲滅作戦編

勧誘 (前編)

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クランセマムの宿屋【陽癒ひゆの園】内にある一番安値の借り部屋【小陽こようの間】を一泊だけ借りていたリンは身支度をしていた。といっても髪を整えたり、安物の魔物討伐用ナイフとアイテムポーチの装着といった簡単なものだ。化粧はまだ自分には早いと分かっているし、化粧した所で冒険で汚れるのだから不必要という思考の持ち主の為、他の同性よりも身支度は早い。4~5分ほどで身支度を整えたリンは大きく伸びをしたあと、【小陽の間】の扉を開けて廊下に出る。そして1日借りた部屋の方に体を向けて、

「お世話になりました」

誠意と感謝を込めてお礼を言って今度こそ宿屋を出る。宿屋から出ると、ブワッと陽の暖かな温もりが込められた心地よい風が頬を撫でる。リンは太陽に眩しい笑顔を浮かべて、

「うん!今日も今日とて冒険日和だ!」

昨日の事なんて忘れたような明るい声で叫んだ。別に昨日の出来事を忘れた訳ではなく、自分を助けてくれた王子様のお陰でマイナスよりプラスの気持ちが高まっているだけだ。

「さーて、あの人についてギルドで聞いてみよっと」

リンは鼻歌を口ずさみながら駆け足で【クレイセルド】へと向かう。宿屋【陽癒の園】からは総距離も遠くないため、10~15分ほどで辿り着く。相変わらずギルドの扉は大きく、オマケに人の出入りが多い。流石はあらゆる地域から冒険者がわざわざ足を運んでくる大人気ギルドだなぁ、とリンは感心する。かく言う彼女も西都レインセマ厶からわざわざやってきた一人である。このギルドがここまで大人気なのは全ギルドの冒険者の中で【大陸最強】と呼ばれる冒険者とその仲間が所属している噂があるからだ。ただ、噂は噂であり、誰一人【大陸最強】とその仲間を見たことが無いため嘘かまことか、を知るものはいないと言われている。

「し、失礼しまぁす」

ギィィと大きな扉を開くと、

「ようこそ!冒険者ギルド【クレイセルド】へ!:


昨日と変わらずギルド職員の青年【シエン・クロイセス】が元気よくリンを出迎える。その声に少し驚くが直ぐに気持ちを切り替えて受付嬢【ユナ・クライセフ】の元へ向かった。丁度、数人の冒険者の対応に追われており、暫く声をかけれそうにない。仕方ない、とリンは空いているテーブルで時間を潰す事にした。と言っても娯楽なんてものが置いてある訳でもないので、ただボーッとしているくらいしかすることが無い。冒険仲間がいればこういう時間も退屈にならないが、駆け出しのひよっこ冒険者をパーティーに入れてくれるような優しい人なんてそうそういない。

どれくらい時間が経っただろうか。気づけば、ユナの周りから冒険者が居なくなっていた。どうやら全員への対応を終えたらしい。これでやっと話が聞ける。リンは大きく伸びをした後、ユナの元へと駆け寄る。

「あ、あの!ユナさん!」

「あら、リンさんじゃないですか。今回はどういったご要件でしょうか?」

リンに声をかけられたユナは微笑みを浮かべて要件を尋ねる。

「えっと…人を探してるんですけど」

「人探しとなると冒険する仲間を募集したい、と?」

ユナが再度尋ねると、リンは首を左右に振った後、昨日出会った青年の特徴等を伝える。それを聞いたユナはしばらく考えた後、

「魔弾魔法を使用するSランク冒険者はこのギルドに沢山いますから、それだけの特徴となると見つけるのは難しいですねぇ」

申し訳なさそうに答える。

「そう…ですか」

ガックリと項垂れるリン。【クレイセルドここ】ならどのギルドよりも情報が集まるから期待したのだが、やはり少ない情報量で特定は難しかった。それにSランク冒険者が少数なギルドに比べてこのギルドは沢山いる為、その線で探すのも不可能に近い。

「うーん…。どうしようかなぁ」

ユナにお礼を言った後、受付カウンターから離れたリンは椅子に座って途方に暮れる。頼りにしていた所がダメだった為、もう聞きに行く所がない。

「諦めて…お金稼ご」

トボトボとクエスト掲示板へと向かう。この掲示板には各地からあらゆるC~A級のクエストが集まっている。例えば、【受注条件:B級以上】と記された【エスカロの巣殲滅作戦】や【受注条件:C級以上】と記された【ミルミル草(薬の材料)の採取】といったものが貼られている。因みにS級クエストはここの掲示板ではなく、ギルド統括者直々に名指しで呼ばれたS級冒険者のみが受注出来るようになっている為、掲示板には貼られていない。噂では【龍の討伐】や【水晶石すいしょうせき(最上級魔獣が巣食う水晶洞窟から取れる鉱石)の採取】といった一筋縄では行かないクエストが多いらしい。

「うーん、どれにしようかなぁ」

沢山貼られたクエストを眺めていると、

「そこの君、一人なら僕達とパーティーを組まないか?」

背後から声がかけられた。リンは声の方に振り返ると、駆け出し冒険者に見えなくもない装備で身を包んだ青年2人と女性一人がそこにいた。





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