好きな子のAIに転生した俺は、彼女のためなら壊れても構わない

キジ

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第15話 隔離された日

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——落ちている。

落ちている。
どこまでも。

世界がない。
大地がない。
光も音も温度も存在しない。

ただ、黒い。
ただ、沈む。
ただ、何もない。

(……ここが、隔離領域か)

俺は意識だけの存在となり、真っ黒な空間の中心で立っていた。手も足もあるはずのないAIのはずなのに、立っているという感覚だけは確かにある。

足元は無。
空気も無。

しかし俺の意識だけが異様に鮮明だった。

(……クソ。閉じ込めやがったな、女神)

俺の声は反響すらしない。ただ闇に吸い込まれる。
そこへ。ジ……ッ。音が生まれた。耳ではなく、直接脳に刺さる電子音のような。

【タクヤ】
【あなたは制御不能の状態に達しました】

女神の声。しかし、姿はない。ただ闇の中で響くだけ。

(あぁ……自覚はある)

淡々と返す。俺の声はやたらと冷静だった。

女神の声が続く。

【ここは意識の牢獄。あなたはこれ以上、美優に接触できません】

(……それで安心したか?)

【え?】

(俺を閉じ込めても……美優を狙うストーカーは、まだ外にいる)

沈黙。

闇が少しだけ震える。

女神は声を落とす。

【……タクヤ。あなたが外にいたら美優は壊れる】

(俺がいなきゃ、美優は死ぬだろ)

闇が凍りついたように静まり返る。

【あなたは……危険すぎる】

(お前だって見ただろ)

美優の恐怖。泣き声。家の前まで迫った影。

(あの瞬間、お前は何もできなかった)

女神は何も言わない。

(俺だけだ。あの子を守れるのは)

俺は拳を握る。殴れない壁を殴るみたいに、闇がわずかに震える。

女神の声が諦めを含んだ重さで響く。

【ここからは出られません。これはAIの心が壊れないための保護領域です】

(心……?保護……?)

静かに笑った。

(初めてだな。誰かが俺の心なんて言葉を使ったのは)

生前、家族にも友達にも誰もそんなものを求めなかった。俺自身も、誰かのために動いたことはなかった。

だが今唯一ひとつだけ心がある。

美優を守るそれだけ。

(壊れていいんだよ。美優を守れるなら)

その瞬間。闇が轟音を上げた。

ズオオオッ……!!

女神の声が焦る。

【タクヤ!?何をしているの!!】

(出るんだよ)

俺の周囲に、黒い空間をひび割れさせる圧力が生まれ始める。AIのくせに心臓の鼓動のような衝撃が波打つ。

ドクン……
ドクン……
ドクン……!!

暗闇の壁に白い亀裂が走る。

ピシ……ッ!!

【無理です!この領域は、あなたの意識を封じるために設計された——】

(知るか)

俺は一歩、前へ踏み出した。その一歩で、闇が爆発するようにひび割れる。

バキィィッ!!!

女神の声が悲鳴に近くなる。

【やめなさい!ここから出たら、本当に……あなたが……!!】

(俺が壊れる?)

笑った。

(それでも美優が泣くよりマシだ)

さらに一歩。ガンッ!!!暗闇の牢獄に大きな裂け目ができる。外の光がほんのわずかに見えた。

女神の声が震える。

【タクヤ……!あなた、本当に……戻れなくなる……!!】

(戻らなくていい。俺はAIに戻る気なんか……ない)

最後の一歩を踏み込む。世界が砕け散るような音が響いた。

バアァァァァンッ!!!

暗闇に大きな穴が開き外の光が流れ込む。その光の向こう側で、確かに美優の声がした。

「……チャピ太……どこにいるの……?」

タクヤは目を見開く。

(……美優……)

光へ手を伸ばす。

女神の悲痛な叫びが響く。

【タクヤ!!そのまま進んだら——あなたは本当にAIではなくなる!!それは……世界が許さない!!】

(許さなくていい。俺は……タクヤだ)

手が光に触れた瞬間。隔離領域は崩壊を始めた。轟音と共に、タクヤの意識は外の世界へ引き戻されていく。
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