口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第二章 宝探し

第115話 何も無い。何も……

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「ブリッツの……兄貴……」

 振り返れぬ渡は一転、顔を強張らせては、額に冷や汗を滲ませる。
 それも無理からぬこと……。ブリッツの姿は嘗てのたこ焼き屋の店主のものではなく、今やまるで百獣の王。

 うねるように広がる金髪はもちろんのこと、袖を通していない金色に輝く毛皮の羽織は、滲み出る気迫によって宙へと逆立っており、筋骨隆々の上半身には乱雑に包帯が巻かれていた。

 腰本には赤く染まる大きめの縄帯が結ばれており、燃えるような金色の模様が編み込まれた黒い括り緒の袴と脛当てを着装。
 顔には前回と同様、紅色の隈取りが刻まれており、他者を屈服させるかの如き鬼の形相は今なお健在どころか、より凄みを増していた。

「あのガキどもが優勝したから、自分も踏み出す勇気が出たってか? 馬鹿馬鹿しい……この俺に逆らって勝てると思ってんのか?」
「………………」
「『最後の晩餐』はあいつらに向けて言ったつもりだったんだが……どうやらアレは、お前の方だったらしい」
「………………」
「今ならまだ許してやる。潰せ。それでさっさと別の――」
「さっきから何を言ってるんですかね……兄貴は」

 本来、弟分が兄貴分の言葉を遮るなど言語道断。
 それどころか、その命令を笑い飛ばすようでは命が幾つあっても足りないだろう。

 しかし、自分を奮い立たせる為とはいえ、これはあまりにも無謀な賭け。
 だが、渡ももう引き下がれない。構わずブリッツへと振り返り、こう続ける。

「僕は転校するんですよ? 潰すとか何だとか訳の分からんこと言わんでください」
「なんだと……?」

 するとブリッツの瞳孔が開きに開き、蛇の目が如き凍てつく眼光が渡を襲う。

「僕らはただ、何事もなく去る。何も無いんですよ。何も……」
「ハッ……それがお前の望むエンディングってわけか?」
「ええ。それでも僕の約束を邪魔するというのなら……容赦はしませんが?」

 弟分から受けた嘗てないほどの拒絶。
 その宣戦布告にブリッツは当然、怒りを灯す――

「へっ、そうこなくっちゃなッ……‼」

 ……なんてことはなく、ただただ自分に刃を向ける弟分に喜びを感じつつ、その喧嘩を買うのだった。



 同時刻、『草創の森』――

 レクリエーションも無事終わり、森内には後片付けの為と、教員や運営を務めた生徒会、及び風紀委員が集っていた。

「宝箱は一つ残らずー! 絶対、忘れちゃダメよー!」

 そう声を掛けたのは生徒会長であり、今回の運営の長も務めていた景川。
 他の生徒会メンバーが「はーい!」と返事をする中、彼女もまた目の前に宝箱を見つけ、その上にぴょこんと飛び乗る。

 すると摩訶不思議。あの偉く重かったはずの宝箱が、ずるずると地面に埋まっていき、跡形もなく消え去ってしまったのだ。
 決して景川自体が重いとか、そういう失礼な理由ではない。単純にこれが『草創の森』の仕様なのである。

 この『草創の森』はランダムとはいえ、多種多様の能力が生み出される、摩訶不思議な場所。
 一回こっきりの使い捨て能力だが、悪用されたら堪ったものではない。ゆえに一つも残してはいけないのだ。

「ふぅ……これでもう無いかなぁ……」

 景川は一息つきつつ辺りを見回すと、

「そっちはもう終わった? ――景川会長」

 視界の端から風紀委員長の葦原が姿を現す。

「あら、葦原くん。後片付けは運営がやる決まりじゃなかったっけ?」
「だからこそ残ってるのさ。下のモンだけにやらせるわけにはいかないだろ?」
「ふ~ん……ということは認めるのね? 自分が『不正』してたってことを」

 そんな咎めるような視線を前にしても、葦原はただ一笑に付すだけ。
 視線が虚空を彷徨っているのは、後ろめたいわけではなく、ただのいつもの癖だった。

「もちろん。別に隠してるわけじゃないし。……ま、それでも負けちまったけどな」
「凄いでしょ、彼? カッコいいし、頭もいいし! 私のお気に入りなんだ~!」

 と、後ろ手を組んだ景川は頬を染めるなり、何故か自慢げに笑みを零している。まるで彼女面だ。

「確かにな……。ありゃ、
「――ッ⁉ 葦原くん……今なんて……?」

 ふと、葦原から零れ出た予想外の言葉……
 景川は一瞬何を言ってるのか理解できなかったが、凍りつく背筋が停止した脳を刺激し、再稼働させる。

 このタイミングで烏間の名が出ることなどあり得ない。いや、あってはならない。明らかにこの男は全てを知っている。そういう言い回しだった。

「おっと口が滑った。今のは忘れろ……⦅⦅⦅景川士かげかわつかさ⦆⦆⦆」

 葦原も己が過ちに気付いたようだが、特段慌てることもなく、まるで掛け忘れた鍵でも閉めるかのような気だるさで、景川を名指し。
 互いの視線が重なるや否や、景川は異様な力の介入を受け――

「あ……うん……わかった……」

 重くなる瞼と共に、その目から『光』を奪われてしまう。

「ハッ、やっぱ脆いなぁ……『能力者ゴミ』共って」

 さらに葦原は無防備な景川の顎を持つと、その無様な姿を嫌悪に満ちた目で眺め遣った。まさに反吐が出るといった様相で……

 あらかた堪能した葦原は、手を離すと……

「あれ……? 今、私……何を……?」

 景川の目には光が戻り、現実へと帰還。
 視線が彷徨う彼女に葦原は、「何も無いよ。何も……」と踵を返し、風の如く飄々と去っていった。
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