口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

文字の大きさ
119 / 132
第二章 宝探し

第116話 裏切りニャンコ

しおりを挟む
 打ち上げを終え、自室のあるマンションへと帰宅する大和。
 朝っぱらから頭と体を酷使した所為か、完全に疲労が顔に出ている。残業終わりのサラリーマンのよう。

「ふぁ~ぁ……」

 エレベーターに乗るなり、大和は大きな欠伸をかます。
 この時点でだいぶ気が抜けており、恥ずかしいかな自室前まで、その小さな存在に気付かなかった。

『ハ~イ、坊や。優勝おめでとう』

 祝いの言葉をかけてきたのは、扉の前にちょこんと座る黒猫のカーポ。
 もはや説明不要の喋れるお姉さんなのだが、当の大和は不意を突かれたように肩をビクつかせてしまう。

「カーポ……」
『ん? 何よそのリアクションは? 喋れる猫は初めてじゃないでしょう?』

 器用に小首を傾げてみせるカーポは、傍から見れば非常に愛らしい猫だろう。
 しかし、『内通者問題』の真実を知った今、その仕草の意味合いはコペルニクス的転回をもたらす。

「カーポ……お前、なんでオレに内通者がいると報告した?」
『え……? 何よいきなり……』
「あの策はオレと伍堂、そしてお前しか知らなかった。他の誰にも教えていない。となれば消去法で伍堂の線が濃厚になるが、あいつがやったとなると辻褄が合わなくなる。部外者って線も考えたが、正直思い当たる節がない。つまりだ。『内通者』として一番可能性があるのはもう……お前しかいないんだよ、カーポ」

 大和がそう指摘すると、カーポはあからさまに動揺してみせる。
 ただ、『慌てている』というよりも、『予想外』といった印象の方が強い。

『ちょっ……ちょっと待ってよ⁉ 私は報告してあげた側なのよ⁉ それで『内通者』っておかしくない? 普通、言わないと思うんだけど……』
「確かにそうだ。だがもし、奴に情報を流したこと自体を覚えていないとしたら?」

 さらにカーポは耳を伏せると、『どういう意味よ、それ……?』と声を曇らす。
 猫は本来、表情が乏しいと言われるものだが、こうも不安を前面に押し出されると、やはり自覚はなかったと判断せざるを得ない。大和もそう思い始めていた。

「葦原はレクリエーションの終盤、神田を操って手駒にしているようだった。お前もその例になぞらえるなら、情報を抜き取られていた可能性は充分に考えられる……という意味だ」
『そんな……』
「ま、なんにせよ葦原はお前が喋れることを知っていた。これが意味する最悪のケースは……」

 視線を彷徨わせるとこと数瞬、目を見開いたカーポは恐る恐る、その答えを口に出す。

『あの葦原計都が……『異能狩り』ってこと……⁉』
「そういうことになる。あくまでも可能性の話だがな」
『じゃあ、今まで話した内容も全部……?』
「ああ」
『あの子……牧瀬友愛のことも……?」
「筒抜けだろうな」

 言葉も出ず、暫し罪悪感に苛まれるカーポ。
 だが、一つの疑問が頭をよぎると、どこかバツが悪そうにゆっくりと言葉を紡いでいく。

『でも、それだったらなんで彼女は無事なの? 『異能狩り』にとって牧瀬浩一の娘は復讐対象のはず。葦原計都が『異能狩り』であるなら、今ごろ消されてるんじゃ……?』
「そう。そこがずっと引っ掛かってるところだ。何故、奴は真相を知ってなお、牧瀬を生かしているのか……。単純に人違いだったって話なら楽なんだが、奴からは何かこう……異様なものを感じる。この一件から安易に外すことのできない、黒く輝く何かが……」

 結局、大和も大した回答は持ち合わせていないようで、一人と一匹の間には嘗てないほどの重い空気だけが流れていた。が、しばらくすると……

『どちらにしても、もうここには来れないわね。坊やとももう……』

 カーポは目を伏せるなり、暗澹たる面持ちで、とぼとぼと歩き出す。

「………………」

 すり抜けていく彼女に対し、大和はただ無を貫くだけ。
 カーポはというと寂しげに歩を止め、背を向けたまま最後のケジメへ……

『本当にごめんなさい。彼女を守ってと言っておきながら、その私が足を引っ張っちゃって……。この失態は必ず――』
「まあ、纏めると現状は問題ないということだ」

 だが一転、大和から発せられた予想外の言葉に、『え……?』と素っ頓狂な声で振り返ってしまうカーポ。

「牧瀬に危害が加えられてない以上、お前が気に病む必要も汚名返上する必要もない。要は込み入った話をしなければいいだけのこと。だから……また、いつでも遊びに来い」

 その見開いた目には顔を見せることなく、そそくさと自室へ姿を消す大和の後ろ姿が。

『ありがとう……坊や』

 そんな恥ずかしがりやな坊やに、お姉さんは喉をゴロゴロと鳴らした。



 翌日、AM.7:30――

 携帯のアラームが鳴るなり、即座に止めて起床する大和。
 寝癖がぴょこぴょこ生えてる中、寝惚け眼で隣を見遣ると、ぐっすりと丸まるカーポの姿が。

「………………」
『スゥー……』
「………………」
『スゥー……』
「いや……遊びに来るの早すぎだろ……」

 そんなどこからともなく入ってきた来訪者を撫でつつ、大和は今日も今日とて学園へ行くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...