婚約予定の令嬢の評判が悪すぎるんだけど?!

よーこ

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05:大事だからこそ

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 呼び出されたカミラ・ブルグント男爵令嬢は、ディータとルイーゼが婚約したと知らされた途端、真っ青になった。

 さて、どんな言い訳をするつもりか。きっと見苦しくみっともない言い逃れをすることだろう。
 そんなことを思いながら、ディータは冷めた目でカミラを見据える。

 すると予想に反して、カミラは思いっきり頭を下げた。頭を上げたカミラの視線は真っ直ぐにルイーゼに向かっていて、その瞳には涙が浮かんでいる。

「ごめっ、ごめんなさい、ルイーゼ! 知らなかったのよ、あなたがシュレーダー伯爵令息様の婚約者になるなんて」
「言っていなかったのだもの、当然だわ。でも、どうして嘘をついたり、わたくしのフリをしたりしたの?」
「そ、それは……」
「それだけじゃないわ。学園に入学した途端、あなたが変わってしまったのは、なぜ?」
「……」

 悲痛な表情で黙り込んだカミラの手を、ルイーゼの両手が包み込む。

「なにか理由があるのでしょう? どうか話してちょうだい。そして、大切なあなたのことをわたくしに助けさせて。お願い」

 ルイーゼがそこまで言ってもカミラは口を開こうとはしない。
 隣で黙って二人の話を聞いていたディータは、このままでは埒が明かないと少し威圧的にカミラを睨みつけてみせた。

「このまま黙っているつもりなら、名誉棄損の慰謝料請求を君の父上宛てに送らせてもらうことになる」
「え?!」

 俯いていたカミラが勢いよく顔を上げる。

「慰謝料?! そ、それは困ります!」
「だったら今すぐ正直に話してくれるかい? そうしてくれれば、こまれでのことはすべて不問にするから」

 しばらく考え込んでいたカミラは、やがてポツリポツリと話しだしたのだった。


 カミラのブルグント男爵家は、昔はそれなりの資産を持つ裕福な家だったが、先代当主が事業に失敗したことにより、大きな借金を負うことになったという。それを当代当主であるカミラの父親は必死に返済していた。ところがちょうど一年ほど前、カミラの母親が質の悪い金貸しからブルグント男爵家名義で大きな借金を作り、その金を持って男と逃げたことで、もうどうにも立ち行かなくなったという。

「このままだと家も爵位も売り払うことになる。父は死ぬまで鉱山で働かされて、弟と妹は奴隷商、わたしは娼館に売られることになる。それを回避するために、借金を肩代わりしてくれる裕福な家の令息との結婚を目論んだの。借金さえどうにかしてくれるなら、愛人になって日陰の身になってもかまわなかった」

 行きつく先はどうせ娼婦。だったら一人を相手にすればいい愛人の方がマシだと思ったのだとカミラは語った。

 そもそも、金がないのにカミラが無理して学園に通っている目的は、金持ちの結婚相手を探すためだったのである。一年経っても相手が見つからなければ、退学して娼館に売られる予定だった。
 だからこそ恥も外聞も捨て、カミラは必死になって学園で男漁りをしていたのである。

「わたしが娼婦になるのはいい。でも、父が鉱山で過労死するのも、まだ幼い弟と妹が奴隷になるのも絶対に嫌だった。そうならないためなら、わたしはなんだってやるわ! 尻軽でも淫売でも、好きに呼べばいい。家族が助かるなら、わたしはどんな汚名をきてでも金持ちのパトロンを手に入れてみせるって、そういう気持ちで学園で男漁りをしていたの……」

 自分こそがルイーゼだとディータに嘘をついたのは、美しい女の噂を聞いただけで一年生棟にまで足を運ぶ女好きの高位貴族令息からルイーゼを守るためだった、とカミラは言った。

「そんなろくでもない男を、純粋なルイーゼに近付けてはいけないと思ったの。まさか婚約者になる人だったなんて思わなくて……本当にごめんなさい」
「わたくしを守るためだったのね」

 感動したルイーゼがカミラに抱きついた。

「ありがとう、カミラ」
「ううん。逆に迷惑をかけてしまって……ごめんなさい。許して」

 二人が抱き合うその横では、ディータが情けない顔をしていた。
 あの時の咄嗟の言い訳は、確かに女好きと勘違いされても当然のものだったと、恥ずかしくてたまらなかったからだ。

 そんなディータとルイーゼの顔を、カミラが交互に伺い見る。

「シュレーダー伯爵令息様に自分が口説かれたとルイーゼに言ったのは……ほら、ルイーゼは学園に入ってすぐに、シュレーダー伯爵令息様に一目惚れしたでしょう? その後はずっと健気に想いを寄せていた。でもその人は女好きの最低男だったわけで、だから早くルイーゼにシュレーダー伯爵様をあきらめさせようと思って、それであんな嘘をついたの」
「そうだったの……」
「わたし、結婚相手やパトロンになってくれそうな高位貴族の令息たちと知り合っていく内に、真面目だと評判だったり婚約者がいたりするくせに、すぐにわたしと密室で二人きりになろうとする令息たちのあまりの多さに、実は少し男性不信になりかけてたところだったの。そのせいで、シュレーダー伯爵令息様も同じ穴のむじなだと簡単に決めつけてしまって……本当に申し訳ありませんでした」

 改めて頭を深く下げたカミラに、ディータは首を横に振った。

「いや、いいんだ。確かに僕にも悪いところがあったのだから。そうか、君は幼馴染を守るために、あんな嘘をついたんだね」
「はい……でも、よかったわね、ルイーゼ。好きだった人と婚約できて。本当におめでとう」

 ルイーゼに祝福の言葉をかけるカミラは、本当に嬉しそうに微笑んでいる。

 今日、この会議室に来る前のディータは、正直なことを言うと、カミラに対するルイーゼの「とてもいい子」という評価を疑っていた。けれど、今は違う。

 目の前にいる赤毛の令嬢は、男好きのする妖艶な見た目とは違い、家族や友人を心から大切に思い、彼らを守るためならば自分を犠牲にすることを厭わない、心優しき女性だった。




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