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1.鋼鉄の文学少女と三人ヒロイン
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「それでだ、わが助手よ! 事件についてなのだが」
「ちょっと聞いてるの!? アンタ!」
「話の途中でよそ見をするでないわ、我が眷属よ」
「一人ずつだ、一人ずつ喋れ。俺は聖徳太子じゃないんだぞ」
俺はそう言ってパイプ椅子に座りながら、長く伸ばした前髪の奥から、目の前に座る少女を見た。
すると、最初に話し出したのは、格好を付けた口調が特徴の少女からだった。
「では、わが助手よ。事件の内容について、改めて振り返ってみるとしようではないか!」
彼女は、霧と雨に包まれた『魔術都市東京』で女子高生兼、探偵業を営んでいる有栖川碧。
青髪のショートヘアが特徴的な小柄な少女であり、事件の犯人を一発で見抜く魔眼『証明終了』を使って、これまでに数々多くの怪事件を解決してきたプロの探偵だ。
碧の問いかけに、俺は頭をかきながら以前までの記憶を思い起こす。
「確か『怪物騒動』だったか? 街で正体不明の怪物が突然現れて襲ってくるっていう、あの」
「そうだ、わが助手よ! 最近巷で有名になっている、あの『怪物事件』についてだ!」
『怪物事件』とは、魔術都市東京都内で最近起き始めた怪物騒動の名称だ。
体長約二メートルの、様々な生き物が混じり合ったかのような見た目の怪物がどこからともなく現れて、なりふり構わず暴れ出す。
そんな、怪獣映画さながらの事件だった。
普通に考えれば、それは大事件のように聞こえるが、この魔術都市東京ではこの程度なんのことはない。ただの日常の一騒動にすぎない。
どんな化物だろうが、怪物だろうが、武装した警察部隊がものの数時間で対処し、害虫駆除感覚で処理してくれる。
最初に聞いた時は、どこのヘルサレムズロッドだと思ったものだが、この街ではこれ当たり前なのだ。
だから、この事件も特に気にするような事件ではないはずだが、碧は持ち前の透き通るような青色の瞳を輝かせ、口元を上げる。
「報道の発表では、『犯罪組織が密輸してた実験動物説』や、『違法外来生物の異常進化説』などがあげられているが、ボクの勘ではそのどちらでもない――!
これは事件は、なんらかの大事件に繋がっていると、ボクの魔眼がそう言っている!」
「へぇー、ならその持ち前の魔眼使って、とっとと犯人割り出せばいいんじゃねぇの?」
俺の言葉に、碧は呆れたとばかりに溜息をついて首を振る。
「前にも説明したけど、ボクの魔眼『証明終了』は、特定の事件に関わった時いしか使えないの。
今使ったとしても、周りの人間全員が何かしらの犯人に見えちゃって絞りきれないんだよ。悪事をはたらいていない人間なんて、この世にいないだろ?」
「使い勝手が悪いて意味なら、俺の目と同じだな」
「ん? 何の話だい?」
碧はキョトンとした顔で首をかしげた。
「設定にないところは、そう反応するんですね……。まあ、いいすけど。
それじゃあ、今後の方針は、その『怪物事件』を追っていくてわけだな」
碧は格好を付けたポーズを取り、右手を前に突き出して、ふてきみに笑った。
「流石はボクの見込んだ助手だ! 話しが早くて助かる!」
よかった。どうやらこの展開が、彼女的には正解だったようだ。
「それじゃあ、碧はこれでいいとして、次は――」
「私よ」
次に出てきたのは、言葉の中にトゲを含んだ少女だった。
「本当に最悪だわ! なんでオーバーロード家の娘であるこの私が、アンタみたいな冴えない庶民なんかを守護者にしなくちゃいけないのよ!? アンタの所為で、私がこれまでに積み重ねてきた完璧なイメージが全部台無しだわ! どうしてくれるのよ!?」
ビックリマーク多めのハイテンションで俺を糾弾してきたのは、ドラゴンの獣人にして貴族の少女、ドラコニカ・フレア・ザ・メ・ラ・オーバーロード。
よく似合うツインテールヘアの左右からピンク色の角を生やし、スカートの中からは同色の鱗がついた尻尾が伸ばしているのが特徴の獣人だ。
普段ならば目も覚めるような可愛らしい美少女の彼女も、今はただでさえ鋭い目つきを更にとがらせて、逆鱗に触れたドラゴンのような顔をしている。
まさに、ヘビに見られたカエルの気分だ。
めっちゃ怖い。
俺はこれ以上荒波を立てないように、探り探り言葉を繋ぐ。
「いや、そんなキレられても困るんだが……」
「なによっ! その負抜けた返事は!?」
会話失敗。
ドラコニカは更に顔を真っ赤にし、頭上に怒りマークを二つ追加された。
俺、また何かやっちゃいました?
「け、契約とはいえ、この私が……き、き、き……きっ! キスまでしたっていうのに! なんでアンタはそう平然としていられるのよ!?」
ドラコニカは震えた指で、自分の口元を守るよう隠す。
「あー、そういえばそんな展開だったな」
彼女は、人と獣人が共存する異世界にある、シルバニア騎士学園の生徒だ。
この異世界では、『騎士』と呼ばれる職種がある。
騎士は、守護者と呼ばれている精霊と契約し、特殊な力を使う事ができる。
そんなファンタジーな異世界こそが、ドラコニカの住む世界だった。
ドラコニカもこの学園で騎士を目指す、立派な騎士見習いの一人らしく、彼女も本来であれば精霊の守護者と契約するはずだったのだが、ドラコニカが召喚したのは、よりにもよって、現代日本からきた男子高校生だったのだ。
契約のためとはいえ、ドラコニカは他のクラスメイトたちがいる前で、キスをさせられたため、今まで作り上げた完璧な優等生の面目を丸々潰されて怒り心頭。
先ほどからこの調子で、頭に複数の怒りマークを点滅させていたと言うわけだ。
なんともまあ、言いがかりもいいところである。
「急に召喚されて、ファーストキス奪われたこっちの身にもなれよな? 大体今の時代、異世界転生ものなんて、もうとっくの昔に廃れてるんだよ。異世界人は異世界人と話を展開してろ」
「訳のわかんないこと言って誤魔化すんじゃないわよ!」
「騒いだってしょうがないだろが。とにかくこれからは一緒に暮らすようになるんだ。今からいがみ合ってたら、身が持たないぞ」
「それはそうだけど……はぁ……本当、どうしてこうなったのかしら……。『剣』の属性だったら本来、『ワルキューレ』や『ブリュンヒルデ』と契約するはずだったのに……」
どっちも神話とか、ゲームでよく聞く名前だな。
異世界なのにいいのか、それ?
「とにかくこうなった以上、アンタにはこれから私の召使いよ! 私の言うことはなんでも聞きなさい! いいわね?」
「えー、面倒すわー」
「分かったわね!?」
「あー、はいはい。んじゃあ、これでドラコニカも終わりと。最後は――」
「我輩じゃ」
そう言って出てきたのは、古風な口調の幼女だった。
「して、我が眷属よ。貴様は今の状況を理解しておるのか?」
幼女はその滑らかな白い生足を組むと、手に顎を乗せて、目の前に座る俺を見下げて座る。
その風格は、王者を思わせる雄大さを醸し出していた。
「えーと、聞いた話をまとめると、
学校の帰り道に俺を襲ったのは『協会』て呼ばれる集団で。殺されかけた理由は、俺があなたの眷属だから。
てことでしたっけ? 吸血鬼のブラッディ・カオス・デッドさん」
「さよう。我は最強にして最狂の吸血鬼。『血の王』――ブラッディ・カオス・デッド。して、貴様は我輩の唯一の眷属じゃ」
彼女は、現代社会に生きる唯一の吸血鬼。
最強にして最狂の・ブラッディ・カオス・デッド。
彼女との出会いは、学校の下校途中、突然謎の集団に襲われた時だった。
いきなり鉄鎖のようなもので身体を突き刺され、拘束された。
体中の傷から血を吹き出し、意識が朦朧とする最中、彼女は突然現れ助けてくれたというわけだ。
「『吸血鬼』という存在そのものが、最早、風前の灯火。
灰になる寸前の、燃えた紙切れと同じじゃ。
じゃが、たったそれだけの存在だったとしても、その力は絶大。
故に協会側としても、この機会に我らそのものを根絶やしようという魂胆なのじゃろう」
長々と語るブラッディに、俺は以前から気になっていた質問をなげかける。
「それで、俺はいつあなたの眷属になったんですか?」
「遙か昔のことじゃ。お主も憶えていないほど、昔にのう……」
ブラッディは意味深げに語りつつ、目を細めた。
その瞳はどこか悲しそうで、または愛おしい何かを見ているようにも見えた。
「いや、そんな訳ありみたいに言われても……。憶えてるも何も、まず俺、細かい設定とか知らないし」
「なんじゃ? 何か言ったか? よく聞こえんかったのう?」
ブラッディは耳に手を当てて、こちらに向ける。
「あーはいはい、余計なことは言いませんよ。それで、これから俺は何をすればいいんですか?」
「襲ってきた以上、協会の連中は既にこの街の何処かに潜んでおる。今後も間違いなく我々を襲ってくるじゃろう――それこそ、いつでも何処でも、じゃ」
「一般市民がいてもお構いなしにですか?」
「やつらには、それを隠蔽するだけの組織力を持っておる。
たかが人間が数十人亡くなろうと、どうとでも言い訳できよう。なんせ上を取り仕切るのは、あの忌まわしき『ヴァチカン』の連中なのじゃからな」
「いや一応、俺も一般人なんですけど……」
「じゃから、我輩が貴様を戦士にしてやると言っておるのじゃ。
貴様はただの人間ではない――我輩の眷属なのじゃぞ。本気になればあんなザコ共、片手間で殺せられる」
「ヘー、スッゲースネー、カッケース」
ブラッディは、笑みを深めた。
どうやら、俺の皮肉は通じなかったらしい。
「主の日常は昨日の夜、既に崩れ去った。
これからは、血と死が混じり合う非現実こそ、我らが世界――そのことを覚悟するがよい。それとその敬語はやめい。我々はいわば家族そのもの、飾った言葉など不要じゃ」
「分かったよ。てことは、俺はこれからブラッディと一緒に、その協会の連中と戦うことになるってことだな?」
「そうじゃ。言っておくが生半可な訓練などではないぞ?
それこそ、不死の吸血鬼だからこそできる命がけのトレーニングじゃ。楽しみにしておるがよい」
「そうですか。俺としては、『んじゃ、頑張ってね』としか言いようがないですけど。はい、それじゃあ、これでブラッディも終わりと」
「では、早速事件の捜査に行こうではないか、助手よ!」
「それじゃあ、早速アンタに最初の命令だけど」
「ではまずは、基本となる『血の形成技術』について教えるとしよう」
「よーし、ちょっと一旦黙ろうか? 先輩」
俺はげっそりしつつ、そう彼女に言った。
先輩。
そう呼ばれて顔を上げたのは、俺の目の前に座っていた、一人の女子高校生だった。
黒縁眼鏡をかけて、髪を三つ編みにまとめた、『文学少女』というワードが似合う彼女。
学校指定の古風なデザインのセーラー服が、ますますそのイメージを定着させている。
彼女は、その細い線で引かれた美しい顔に右手を当てて、軽くかしげた。
しかし、その顔に写るのは、感情ゼロの真顔である。
「三人でなく、どうして私に言うのかしら? 百目鬼君。私はただ部室の片隅で本を読んでいただけよ」
「アハハハハっ、何言ってるんですか。今喋っていたのは全員、あなたでしょうが」
俺が乾いた笑い声をあげても、先輩はノーリアクション。
先ほどから、口以外の顔のパーツが全く動いていない。
これで、察しのいい人ならば、気付いただろう。
そう、先ほどの三人の少女の会話は全て、先輩こと隠神刑部鉄火が自分で書いた小説のキャラクターを一人芝居、一人朗読していただけだったのだ。
種を明かせばなんてことはない、普通の出来事だ。
ちょっと痛い少女がキャラクターになりきっていただけの、学生時代にありがちな少し痛い話にすぎない。
一部の人間が聞けば悶え苦しむが――まあよくある話しだよねぇ――と、片付けられてしまえるような、そんなあるあるエピソードでしかない。
しかし、先ほどまでの出来事を目の当たりにしていた俺からしてみれば、今起こったことは、それらあるあるを遙かに超えていた。一線を画していた。
本当、一体どうやったら……真顔のまま、演技して喋れることができるんだよ……?
そう。
先ほどの三人のヒロインを、隠神刑部鉄火は真顔のままそれぞれ演じ別けてみせたのだ。
それも、圧倒的完成度で。圧倒的演技力で。圧倒的表現力を用いて。
物語のキャラが、まるで本当に喋っているように会話を成立させた。
だから、俺の目には、目の前で喋る人物が先輩には見えなかった。
時には、有栖川碧、が。
時には、ドラコニカ・フレア・ザ・メ・ラ・オーバーロード、が。
時には、ブラッディ・カオス・デッド、が。
そこには、いた。
確かに、彼女たちの姿が見えた。
確かに、目の前に存在していた。
確かに、彼女たちと話しをした。
そう『認識』させられたんだ。
存在の認識を歪める程の演技力――その事実に、俺の額からは汗がにじみ出て、開いた口が塞がらなかった。
だが、こんな端から見れば異常にすら見えるこの状況も、俺こと百目鬼深読と隠神刑部鉄火からしてみれば、いつもの部活動の一風景にすぎなかった。
「ちょっと聞いてるの!? アンタ!」
「話の途中でよそ見をするでないわ、我が眷属よ」
「一人ずつだ、一人ずつ喋れ。俺は聖徳太子じゃないんだぞ」
俺はそう言ってパイプ椅子に座りながら、長く伸ばした前髪の奥から、目の前に座る少女を見た。
すると、最初に話し出したのは、格好を付けた口調が特徴の少女からだった。
「では、わが助手よ。事件の内容について、改めて振り返ってみるとしようではないか!」
彼女は、霧と雨に包まれた『魔術都市東京』で女子高生兼、探偵業を営んでいる有栖川碧。
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「確か『怪物騒動』だったか? 街で正体不明の怪物が突然現れて襲ってくるっていう、あの」
「そうだ、わが助手よ! 最近巷で有名になっている、あの『怪物事件』についてだ!」
『怪物事件』とは、魔術都市東京都内で最近起き始めた怪物騒動の名称だ。
体長約二メートルの、様々な生き物が混じり合ったかのような見た目の怪物がどこからともなく現れて、なりふり構わず暴れ出す。
そんな、怪獣映画さながらの事件だった。
普通に考えれば、それは大事件のように聞こえるが、この魔術都市東京ではこの程度なんのことはない。ただの日常の一騒動にすぎない。
どんな化物だろうが、怪物だろうが、武装した警察部隊がものの数時間で対処し、害虫駆除感覚で処理してくれる。
最初に聞いた時は、どこのヘルサレムズロッドだと思ったものだが、この街ではこれ当たり前なのだ。
だから、この事件も特に気にするような事件ではないはずだが、碧は持ち前の透き通るような青色の瞳を輝かせ、口元を上げる。
「報道の発表では、『犯罪組織が密輸してた実験動物説』や、『違法外来生物の異常進化説』などがあげられているが、ボクの勘ではそのどちらでもない――!
これは事件は、なんらかの大事件に繋がっていると、ボクの魔眼がそう言っている!」
「へぇー、ならその持ち前の魔眼使って、とっとと犯人割り出せばいいんじゃねぇの?」
俺の言葉に、碧は呆れたとばかりに溜息をついて首を振る。
「前にも説明したけど、ボクの魔眼『証明終了』は、特定の事件に関わった時いしか使えないの。
今使ったとしても、周りの人間全員が何かしらの犯人に見えちゃって絞りきれないんだよ。悪事をはたらいていない人間なんて、この世にいないだろ?」
「使い勝手が悪いて意味なら、俺の目と同じだな」
「ん? 何の話だい?」
碧はキョトンとした顔で首をかしげた。
「設定にないところは、そう反応するんですね……。まあ、いいすけど。
それじゃあ、今後の方針は、その『怪物事件』を追っていくてわけだな」
碧は格好を付けたポーズを取り、右手を前に突き出して、ふてきみに笑った。
「流石はボクの見込んだ助手だ! 話しが早くて助かる!」
よかった。どうやらこの展開が、彼女的には正解だったようだ。
「それじゃあ、碧はこれでいいとして、次は――」
「私よ」
次に出てきたのは、言葉の中にトゲを含んだ少女だった。
「本当に最悪だわ! なんでオーバーロード家の娘であるこの私が、アンタみたいな冴えない庶民なんかを守護者にしなくちゃいけないのよ!? アンタの所為で、私がこれまでに積み重ねてきた完璧なイメージが全部台無しだわ! どうしてくれるのよ!?」
ビックリマーク多めのハイテンションで俺を糾弾してきたのは、ドラゴンの獣人にして貴族の少女、ドラコニカ・フレア・ザ・メ・ラ・オーバーロード。
よく似合うツインテールヘアの左右からピンク色の角を生やし、スカートの中からは同色の鱗がついた尻尾が伸ばしているのが特徴の獣人だ。
普段ならば目も覚めるような可愛らしい美少女の彼女も、今はただでさえ鋭い目つきを更にとがらせて、逆鱗に触れたドラゴンのような顔をしている。
まさに、ヘビに見られたカエルの気分だ。
めっちゃ怖い。
俺はこれ以上荒波を立てないように、探り探り言葉を繋ぐ。
「いや、そんなキレられても困るんだが……」
「なによっ! その負抜けた返事は!?」
会話失敗。
ドラコニカは更に顔を真っ赤にし、頭上に怒りマークを二つ追加された。
俺、また何かやっちゃいました?
「け、契約とはいえ、この私が……き、き、き……きっ! キスまでしたっていうのに! なんでアンタはそう平然としていられるのよ!?」
ドラコニカは震えた指で、自分の口元を守るよう隠す。
「あー、そういえばそんな展開だったな」
彼女は、人と獣人が共存する異世界にある、シルバニア騎士学園の生徒だ。
この異世界では、『騎士』と呼ばれる職種がある。
騎士は、守護者と呼ばれている精霊と契約し、特殊な力を使う事ができる。
そんなファンタジーな異世界こそが、ドラコニカの住む世界だった。
ドラコニカもこの学園で騎士を目指す、立派な騎士見習いの一人らしく、彼女も本来であれば精霊の守護者と契約するはずだったのだが、ドラコニカが召喚したのは、よりにもよって、現代日本からきた男子高校生だったのだ。
契約のためとはいえ、ドラコニカは他のクラスメイトたちがいる前で、キスをさせられたため、今まで作り上げた完璧な優等生の面目を丸々潰されて怒り心頭。
先ほどからこの調子で、頭に複数の怒りマークを点滅させていたと言うわけだ。
なんともまあ、言いがかりもいいところである。
「急に召喚されて、ファーストキス奪われたこっちの身にもなれよな? 大体今の時代、異世界転生ものなんて、もうとっくの昔に廃れてるんだよ。異世界人は異世界人と話を展開してろ」
「訳のわかんないこと言って誤魔化すんじゃないわよ!」
「騒いだってしょうがないだろが。とにかくこれからは一緒に暮らすようになるんだ。今からいがみ合ってたら、身が持たないぞ」
「それはそうだけど……はぁ……本当、どうしてこうなったのかしら……。『剣』の属性だったら本来、『ワルキューレ』や『ブリュンヒルデ』と契約するはずだったのに……」
どっちも神話とか、ゲームでよく聞く名前だな。
異世界なのにいいのか、それ?
「とにかくこうなった以上、アンタにはこれから私の召使いよ! 私の言うことはなんでも聞きなさい! いいわね?」
「えー、面倒すわー」
「分かったわね!?」
「あー、はいはい。んじゃあ、これでドラコニカも終わりと。最後は――」
「我輩じゃ」
そう言って出てきたのは、古風な口調の幼女だった。
「して、我が眷属よ。貴様は今の状況を理解しておるのか?」
幼女はその滑らかな白い生足を組むと、手に顎を乗せて、目の前に座る俺を見下げて座る。
その風格は、王者を思わせる雄大さを醸し出していた。
「えーと、聞いた話をまとめると、
学校の帰り道に俺を襲ったのは『協会』て呼ばれる集団で。殺されかけた理由は、俺があなたの眷属だから。
てことでしたっけ? 吸血鬼のブラッディ・カオス・デッドさん」
「さよう。我は最強にして最狂の吸血鬼。『血の王』――ブラッディ・カオス・デッド。して、貴様は我輩の唯一の眷属じゃ」
彼女は、現代社会に生きる唯一の吸血鬼。
最強にして最狂の・ブラッディ・カオス・デッド。
彼女との出会いは、学校の下校途中、突然謎の集団に襲われた時だった。
いきなり鉄鎖のようなもので身体を突き刺され、拘束された。
体中の傷から血を吹き出し、意識が朦朧とする最中、彼女は突然現れ助けてくれたというわけだ。
「『吸血鬼』という存在そのものが、最早、風前の灯火。
灰になる寸前の、燃えた紙切れと同じじゃ。
じゃが、たったそれだけの存在だったとしても、その力は絶大。
故に協会側としても、この機会に我らそのものを根絶やしようという魂胆なのじゃろう」
長々と語るブラッディに、俺は以前から気になっていた質問をなげかける。
「それで、俺はいつあなたの眷属になったんですか?」
「遙か昔のことじゃ。お主も憶えていないほど、昔にのう……」
ブラッディは意味深げに語りつつ、目を細めた。
その瞳はどこか悲しそうで、または愛おしい何かを見ているようにも見えた。
「いや、そんな訳ありみたいに言われても……。憶えてるも何も、まず俺、細かい設定とか知らないし」
「なんじゃ? 何か言ったか? よく聞こえんかったのう?」
ブラッディは耳に手を当てて、こちらに向ける。
「あーはいはい、余計なことは言いませんよ。それで、これから俺は何をすればいいんですか?」
「襲ってきた以上、協会の連中は既にこの街の何処かに潜んでおる。今後も間違いなく我々を襲ってくるじゃろう――それこそ、いつでも何処でも、じゃ」
「一般市民がいてもお構いなしにですか?」
「やつらには、それを隠蔽するだけの組織力を持っておる。
たかが人間が数十人亡くなろうと、どうとでも言い訳できよう。なんせ上を取り仕切るのは、あの忌まわしき『ヴァチカン』の連中なのじゃからな」
「いや一応、俺も一般人なんですけど……」
「じゃから、我輩が貴様を戦士にしてやると言っておるのじゃ。
貴様はただの人間ではない――我輩の眷属なのじゃぞ。本気になればあんなザコ共、片手間で殺せられる」
「ヘー、スッゲースネー、カッケース」
ブラッディは、笑みを深めた。
どうやら、俺の皮肉は通じなかったらしい。
「主の日常は昨日の夜、既に崩れ去った。
これからは、血と死が混じり合う非現実こそ、我らが世界――そのことを覚悟するがよい。それとその敬語はやめい。我々はいわば家族そのもの、飾った言葉など不要じゃ」
「分かったよ。てことは、俺はこれからブラッディと一緒に、その協会の連中と戦うことになるってことだな?」
「そうじゃ。言っておくが生半可な訓練などではないぞ?
それこそ、不死の吸血鬼だからこそできる命がけのトレーニングじゃ。楽しみにしておるがよい」
「そうですか。俺としては、『んじゃ、頑張ってね』としか言いようがないですけど。はい、それじゃあ、これでブラッディも終わりと」
「では、早速事件の捜査に行こうではないか、助手よ!」
「それじゃあ、早速アンタに最初の命令だけど」
「ではまずは、基本となる『血の形成技術』について教えるとしよう」
「よーし、ちょっと一旦黙ろうか? 先輩」
俺はげっそりしつつ、そう彼女に言った。
先輩。
そう呼ばれて顔を上げたのは、俺の目の前に座っていた、一人の女子高校生だった。
黒縁眼鏡をかけて、髪を三つ編みにまとめた、『文学少女』というワードが似合う彼女。
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彼女は、その細い線で引かれた美しい顔に右手を当てて、軽くかしげた。
しかし、その顔に写るのは、感情ゼロの真顔である。
「三人でなく、どうして私に言うのかしら? 百目鬼君。私はただ部室の片隅で本を読んでいただけよ」
「アハハハハっ、何言ってるんですか。今喋っていたのは全員、あなたでしょうが」
俺が乾いた笑い声をあげても、先輩はノーリアクション。
先ほどから、口以外の顔のパーツが全く動いていない。
これで、察しのいい人ならば、気付いただろう。
そう、先ほどの三人の少女の会話は全て、先輩こと隠神刑部鉄火が自分で書いた小説のキャラクターを一人芝居、一人朗読していただけだったのだ。
種を明かせばなんてことはない、普通の出来事だ。
ちょっと痛い少女がキャラクターになりきっていただけの、学生時代にありがちな少し痛い話にすぎない。
一部の人間が聞けば悶え苦しむが――まあよくある話しだよねぇ――と、片付けられてしまえるような、そんなあるあるエピソードでしかない。
しかし、先ほどまでの出来事を目の当たりにしていた俺からしてみれば、今起こったことは、それらあるあるを遙かに超えていた。一線を画していた。
本当、一体どうやったら……真顔のまま、演技して喋れることができるんだよ……?
そう。
先ほどの三人のヒロインを、隠神刑部鉄火は真顔のままそれぞれ演じ別けてみせたのだ。
それも、圧倒的完成度で。圧倒的演技力で。圧倒的表現力を用いて。
物語のキャラが、まるで本当に喋っているように会話を成立させた。
だから、俺の目には、目の前で喋る人物が先輩には見えなかった。
時には、有栖川碧、が。
時には、ドラコニカ・フレア・ザ・メ・ラ・オーバーロード、が。
時には、ブラッディ・カオス・デッド、が。
そこには、いた。
確かに、彼女たちの姿が見えた。
確かに、目の前に存在していた。
確かに、彼女たちと話しをした。
そう『認識』させられたんだ。
存在の認識を歪める程の演技力――その事実に、俺の額からは汗がにじみ出て、開いた口が塞がらなかった。
だが、こんな端から見れば異常にすら見えるこの状況も、俺こと百目鬼深読と隠神刑部鉄火からしてみれば、いつもの部活動の一風景にすぎなかった。
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恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!
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