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4話:床下の微笑
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4話:床下の微笑
誠司が帰った翌朝。
アラームより先に、目が覚めた。
いつも通りだ。
赤いヨガマットを広げる。
鮮やかな赤が、くすんだフローリングの上に広がった。
黒のブラジャーと、黒のショーツ。
それだけの格好で、麗奈は右脚を前に伸ばした。
金髪が、床にさらさらと落ちる。
深く、息を吐く。
体の奥から、昨日の夜がほぐれていく気がした。
誠司は、うまく転がっている。
距離を詰めて、引いて、また詰める。
その繰り返しの中で、誠司の目がだんだん本気になってきた。
いい傾向だ。
左脚に替えて、また倒す。
開脚の姿勢で、床に両手をつく。
体が、じんわりと熱くなる。
十五分かけて全身をほぐして、麗奈は立ち上がった。
汗が、首筋をつたう。
それから、絨毯の端を足先でめくった。
毎朝の儀式だ。
床下収納の取っ手を引き上げる。
暗い空間に、封筒が並んでいる。
白い封筒。
茶封筒。
銀行の袋。
一番上に、新しい封筒が増えていた。
昨日届いた、誠司からの分だ。
数えない。
確認するだけでいい。
まだある。
今日も、負けていない。
麗奈は封筒を手に取って、少しだけ重さを感じた。
紙の束。
男の感情の、残骸。
誠司はあの封筒を渡すとき、少し迷った顔をしていた。
「受け取ってくれよ」と言いながら、目が泳いでいた。
情が移り始めている証拠だ。
情が移ると、金額が増える。
金額が増えると、執着が生まれる。
執着が生まれると、手放せなくなる。
計算通りだ。
封筒を元の場所に戻した。
絨毯をめくったまま、麗奈はしばらく床下を見ていた。
暗い空間に、封筒が静かに並んでいる。
誰も知らない場所。
誰にも見せない場所。
これだけあれば、誰にも頼らなくていい。
これだけあれば、母親みたいにはならなくていい。
これだけあれば、泣かなくていい。
麗奈は絨毯を戻した。
スマホを確認すると、誠司からLINEが来ていた。
『昨日はありがとう。また来週、会えるかな』
麗奈は少し間を置いてから、返信した。
『うん。待ってる』
送信する。
誠司から、すぐに既読がついた。
待ってる、という言葉を今まで使ったことはなかった。
いつもは「いいよ」とか「また来て」で止めていた。
今日は、少しだけ前に進めた。
待ってる、という言葉が男に与える力を、麗奈は知っている。
自分を待っている人間がいる。
それだけで、男は一週間を乗り越えられる。
一週間後、誠司はまた来る。
またプレゼントを持って来る。
麗奈は赤いマットを巻いて、部屋の隅に戻した。
窓の外に、薄い朝の光が差し込んでいる。
金髪が、光を受けて揺れた。
今日も儀式が終わった。
今日も、完璧だ。
麗奈は鏡の前に立って、自分の顔を一秒だけ見た。
目が大きく、潤んで見える。
声が少し低くて、かすれる。
使える顔だと、今日も思った。
感情は、一切動かなかった。
――5話へ――
誠司が帰った翌朝。
アラームより先に、目が覚めた。
いつも通りだ。
赤いヨガマットを広げる。
鮮やかな赤が、くすんだフローリングの上に広がった。
黒のブラジャーと、黒のショーツ。
それだけの格好で、麗奈は右脚を前に伸ばした。
金髪が、床にさらさらと落ちる。
深く、息を吐く。
体の奥から、昨日の夜がほぐれていく気がした。
誠司は、うまく転がっている。
距離を詰めて、引いて、また詰める。
その繰り返しの中で、誠司の目がだんだん本気になってきた。
いい傾向だ。
左脚に替えて、また倒す。
開脚の姿勢で、床に両手をつく。
体が、じんわりと熱くなる。
十五分かけて全身をほぐして、麗奈は立ち上がった。
汗が、首筋をつたう。
それから、絨毯の端を足先でめくった。
毎朝の儀式だ。
床下収納の取っ手を引き上げる。
暗い空間に、封筒が並んでいる。
白い封筒。
茶封筒。
銀行の袋。
一番上に、新しい封筒が増えていた。
昨日届いた、誠司からの分だ。
数えない。
確認するだけでいい。
まだある。
今日も、負けていない。
麗奈は封筒を手に取って、少しだけ重さを感じた。
紙の束。
男の感情の、残骸。
誠司はあの封筒を渡すとき、少し迷った顔をしていた。
「受け取ってくれよ」と言いながら、目が泳いでいた。
情が移り始めている証拠だ。
情が移ると、金額が増える。
金額が増えると、執着が生まれる。
執着が生まれると、手放せなくなる。
計算通りだ。
封筒を元の場所に戻した。
絨毯をめくったまま、麗奈はしばらく床下を見ていた。
暗い空間に、封筒が静かに並んでいる。
誰も知らない場所。
誰にも見せない場所。
これだけあれば、誰にも頼らなくていい。
これだけあれば、母親みたいにはならなくていい。
これだけあれば、泣かなくていい。
麗奈は絨毯を戻した。
スマホを確認すると、誠司からLINEが来ていた。
『昨日はありがとう。また来週、会えるかな』
麗奈は少し間を置いてから、返信した。
『うん。待ってる』
送信する。
誠司から、すぐに既読がついた。
待ってる、という言葉を今まで使ったことはなかった。
いつもは「いいよ」とか「また来て」で止めていた。
今日は、少しだけ前に進めた。
待ってる、という言葉が男に与える力を、麗奈は知っている。
自分を待っている人間がいる。
それだけで、男は一週間を乗り越えられる。
一週間後、誠司はまた来る。
またプレゼントを持って来る。
麗奈は赤いマットを巻いて、部屋の隅に戻した。
窓の外に、薄い朝の光が差し込んでいる。
金髪が、光を受けて揺れた。
今日も儀式が終わった。
今日も、完璧だ。
麗奈は鏡の前に立って、自分の顔を一秒だけ見た。
目が大きく、潤んで見える。
声が少し低くて、かすれる。
使える顔だと、今日も思った。
感情は、一切動かなかった。
――5話へ――
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