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混戦 Ⅰ

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「皆、すまん。」
 
 グロールさんが頭を下げる。
 その様子に、皆が少し慌てる。
 
「謝らないで下さい!グロールさんは何も悪くないです!」
「そうですよ。それに俺もエドワードに対して油断してました。完全にしてやられましたね。」
 
 今にして思えば、あいつが俺をいじめてこなかったのも俺に復讐されないためだったのか。
 もう少し疑いを持って接するべきだったな。
 
「奴等は最後は俺達を殺す。だからアルフレッド、お前だけはなんとしても生かす。お前は今後のためにも必要だ。」
「今後?……グロールさんは何をしようとしてたんですか?」
 
 しかし、グロールさんは話さない。
 
「すまん。エドワードの件があった以上、軽率には話せない。だが、お前が生きていれば希望はあるんだ。」
 
 確かに、俺達が囚われているこの小屋も絶対に見張りはついているし、中の会話も聞かれているだろう。
 それに、このゲルグ達も信用が置けなくなってきた。
 隠密部隊の人間ならば恭順を示したフリをして潜入するなんてこともあるかもしれない。
 本当に信用が置けるのはレインさんとグロールさんだけだ。
 
「さて、取り敢えずは陽炎部隊を始末する方法だな。」
「本気でやるんですか?」
「あぁ。先の戦闘で弱兵とはいえ戦力を削いだ。残されたのは精鋭だが数は少ない。スロール殿の力も借りれば難しい事ではない。」
 
 だが相手はあのシャルだ。
 中々厳しいのでは無いだろうか。
 
「安心しろ。あいつを鍛えたのは俺だし、残された奴を育てたのも俺だ。戦い方は分かってる。」
「確かにそうですね。グロール副隊長なら安心です。」
 
 レインさんがそういうのならばそうなのだろう。
 確かに考えてみれば相手の手の内は手に取るように分かるのだ。
 心配するほどのことでは無かったな。
 
「問題はその後だ。恐らく隙を与えずに蜃気楼は仕留めに来る。それを潜り抜けてお前には逃げてもらう。その時間を俺達で稼ぐ。良いな?」
 
 グロールさんはレインさんに聞く。
 レインさんはすぐに頷いた。
 
「勿論です。」
 
 するとグロールさんは話しながら地面に指でゆっくりと文字を書き始めた。
 俺達にもわかるようにゆっくりと。
 これならば筆跡も残らないし外の奴らにも聞こえない。
 流石はグロールさんだ。
 
「作戦を話す段階でスロール殿にお前が離脱しやすい位置に兵を配置してもらう。お前はスロール殿の護衛で逃げるんだ。」
「……何処へ?」
「何処か遠い所だ。生きていれば策を練られる。」
 
 次々と策を書いていくグロールさん。
 なるほど、この作戦ならば……。
 
「よし、良いな。この策で行くぞ。」
「分かりました。でも、陽炎部隊は来るでしょうか。」
「来るだろうな。恐らくだが酒場での出来事を奴等はみていた。つまり、蜃気楼の思惑通りに事が運べば俺達は死ぬ。つまり、陽炎部隊の目標が達成されることになる。その後自分達が死んでもお構いなしだ。」
 
 成る程。
 それがわかっていたからシャインはその提案をしてきた。
 そういうことだったのか。
 
「ま、取り敢えず頑張りましょう。」
 
 作戦がうまくいくかはわからない。
 が、やるしかないのだ。
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