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学園編-学園武術会

最終戦

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 緊張くらいするさ……

 開かれたドアから外に出る。
 日差しを浴びる。

 「決勝戦……本当の最終戦」
 入場する選手を見ながら司会のラビが叫ぶ。

 「3年B組……クエス=オールランド選手」
 最初に大人びた女性がリングに登る。

 「1年特別クラス……レス選手」
 その紹介と共にリングにあがる。
 一瞬、クエスと呼ばれた女性が俺をにらむように見るが、
 すぐに興味なく目を反らす。

 
 「3年B組……ニアン=キャノン選手」
 そう呼ばれ、敵の黒幕《たいしょう》がリングに登る。

 「そして……3年A組……ルンライト=ブレイブ選手っ」
 登る女性に観客席からは今日一番の歓声が飛び交う。


 「……場違い過ぎるだろ」
 そう自分の立場を改めて弁える。

 「いくぞ……レス……私を皆《みな》の様に英雄へ導いてくれ」
 そう微笑む。

 「……せめて、俺の精一杯を出すよ」
 そう……自信なく返す。

 「転入生……この僕を二度も殴れると思うなよ」
 そうニアンが俺を睨むように言う。

 「……まぁ、それは俺の役目じゃないからな……俺は俺で役目《サポート》を果たすよ」
 そう……返す。


 「それでは、決勝……最終戦……はじめっ!」


 俺とクエスと違い……大将《ふたり》は、いきなりフルスロットルに切り替えるように……

 ニアンから数多の水晶が飛び交い……ライトも創り出した青白い魔力の剣を握り一気に攻め寄る。
 顔は敵《ニアン》を一直線に見ながらも……その瞳は忙しなく水晶の動きを追っている。

 「勇者《バケモノ》が……」
 数多の水晶から放たれる光線のようなビーム……その光線の隙間は人、一人通るのもやっとの隙間を身体を器用にくるくるとまわし操りながら一気にニアンに詰め寄り、身体を回転させた勢いのまま右手を振りかざす。


 「くっ……」
 その右腕がニアンをとらえる寸前で止まる。

 ジャリ……と鎖が伸びきるような音……
 いつの間にかライトの右腕に絡み付いていた淡い紫に光る鎖……

 冷めた目で……じっとそれを見ていた女性。
 書物を左手に広げ、右手をライトの方にかざしている。

 ニアンの水晶がすぐに身動きをとれないライトを取り囲む。
 即座に状況を把握するように、ライトは左手に魔法剣《つるぎ》を握り直すと、
 自分の頭上に振りかざし、鎖を断ち切ると一度大きく後ろに飛び距離を取る。

 頭上の断ち切られた鎖が消滅する。
 そして、ライトの右手にからまっていた鎖がライトの右腕に吸収されるように消滅する。

 「……くっ」
 ライトが少し右腕を気にするように右の手でグーパーを繰り返している。


 そして、再びクエスが書物を広げ、右手をライトに向けると……

 淡い紫に光る剣がライト目掛け一直線に飛ぶ。
 横に大きく跳びそれを回避するが……

 その着地する瞬間を見逃さず、ニアンの水晶がライトを包囲し一斉射撃をする。

 「レス……助かった」
 ライトの全方位に結界をはりそれを防ぐ。

 「あぁ……」
 瞬間、クエスの右手が俺に向いている事に気がつく。
 俺の防御能力を封じるつもりなのだろう……
 先ほどの鎖が一直線に飛んできている。

 が……ライトに結界《まりょく》をほとんど使っている……
 間に合わないと思ったが……

 ライトが俺の目の前に差し出した右腕にその鎖が絡まる。

 「……呪縛《こんなもの》で私を縛れると思ったか」
 そうライトが言い……

 その右腕を強く引き寄せる。

 「なっ!?」
 無表情の冷めた顔を貫いていたクエスの顔が一瞬曇る。

 即座に本のページをめくると、魔剣《あわいけん》を創りだし、その鎖を自ら断ち切る。

 再びライトに巻きついていた鎖が右腕に吸い込まれるように消えていく。


 「………くっ」
 ライトは少し険しい顔をしたまま、魔法剣《つるぎ》を左手で握ったまま再び敵陣へと突進する。

 再び自分《ライト》を包囲する水晶に瞳を忙しく泳がせるが……

 放たれる光線を回避続けるも、先ほどまでの動きに華麗さはなく、
 相手の懐に入れずにいる。

 「……デバフ……さっきの鎖が体内《みぎうで》の中でライトを拘束し続け……猛毒のようにライトの身体を蝕んでいるのか……」
 そうようやくライトが自分を犠牲にして俺なんかを守ってくれたことを知る。

 守るのは俺の役目のはずだろ……それしか無いだろ……俺《てめぇ》は……


 ……だが、俺の能力ではせいぜいどちらか片方の能力を防ぐのがやっとだ……
 だったら……その片方《せめて》くらいは役立てよ……

 俺は両腕に結界を巻きつけると、クエスの相手をつとめる。

 クエスが俺を目掛け呪縛の鎖を飛ばしてくるが、それをあえて左腕で受ける。
 結界によりその呪いを直接受ける事を避ける。
 そして……こうして自分の手に巻いておけば、これ以上ライトに呪縛《これ》が向くことは無い……

 最初に比べ長さが短くなっている?
 ……魔力が尽きてきた?さすがにそれは早すぎるだろう……

 なんせ、相手は自分の基礎能力《ステータス》を調整《チート》しているような奴等だ……

 ライトの体内で拘束につかっている分……短くなっている訳か……

 クエスがページをめくり、魔剣を作り出す。

 「……どっちか一つだけじゃねーのかよ……」
 魔剣の発動で鎖が消えるって訳ではないようだ……

 左腕の結界はそのままに、右手の結界を解くと、その分の魔力の結界の壁を目の前にはり、なんとか魔剣《こうげき》を防ぐ。

 「フフフっ……楽しいわね」
 無口かと思った女性《クエス》は、言葉通り楽しそうに……

 「……厄介な魔女だな……」
 俺の言葉にさらに楽しそうに……

 「魔女《そんなふうに》呼ばれたの始めて……ありがと」
 そう嬉しそうに……

 ページをめくる……

 淡い紫に光る大きな火の玉が現れる。

 一直線上に飛んでくる……

 同じように結界の壁を造り出す。

 その結界にぶつかる寸前で火の玉が数多の数に分裂し、
 結界の壁を避けるように飛んでくる。

 「くっ……」
 咄嗟に左手の結界を解き、自分の周囲に結界をはりそれを防ぐ。

 その結界に切断されるように左手に巻きつけられていた呪縛《くさり》が、
 結界の外と中で断ち切られ、中の鎖が俺の左腕に吸収されていく。


 「ぬっ……がぁ……」
 左腕を右手で押さえるようにその場にうずくまる。
 左腕を締め上げるような痛みが永久的に続いている……

 「……これを二度も受けて……2回分の呪縛の苦しみを我慢して平然と振舞っているのか……ライト……」
 俺はその腕を切り落としたい衝動に駆られながらも……そんなライトに感心する。

 「レスっ」
 ニアンの攻撃を避けながらも何とか応戦していた体制を崩し、俺の心配をし振り返る。

 その隙を狙った光線《こうげき》は俺の結界に防がれる。

 そして……同時に俺の右横を通り過ぎる様にライトを狙ったクエスの呪縛が飛ぶ……
 その鎖を右手で掴む。

 魔力はライトのために使っていた……
 当然、右手は魔力を使わずにその鎖を掴んだ……

 左手同様に激痛が伝わってくる……

 「……てめぇの相手は俺だよ……魔女」
 そう……軽く意識を失いそうな痛みに耐えながらその魔女《あいて》に言う。

 「ほんと……可愛い……殺したいくらいに」
 そう、魔女と呼ばれる事を嬉しそうに不適に笑う。


 「ほんと……痛みで……どうにかなっちまいそうだ」
 ふつふつと……こみ上げてくる何かを……必死で抑えていた……

 楽になりたいのに……


 ニアンの水晶が俺をいつの間にか包囲していて……

 呪縛に両腕を捕らえられた俺に……それをどうすることもできなくて……


 そんな俺に放たれた光線《こうげき》を……
 彼女《ライト》が俺を抱きかかえるように防いでいた……


 多分……その出会いは偶然で必然だったんだ……

 今でも……俺はその力を使う事は認めないし……

 多分……俺は一生俺を軽蔑するだろう……


 「……大丈夫か……レス」
 今、一番苦しい人間が俺の心配をしている……

 何してる……役目も果たせず……
 約束を果たせるのか……
 英雄になんて……お前が……


 ふつふつと湧き上がる何かを……
 ゆっくり、ゆっくり探り出す……

 頭では否定しているのに……
 それを託された理由もわからずに……

 ヴァニのように覚醒《せいとう》な力ではない……

 「……ごめんな……ライト……」
 たぶん……これは裏切りだよな……

 「……それでも……俺《てめぇ》のせいで……負けたなんて……結果だけは残したくない……案外……傲慢なんだ……」
 本当に思い上がりもいいところだ……それでも……

 「ライト……今……助けるから……」
 探り当てる……
 友《フィル》と握手したときに……貰った……何かを……

 追い討ちとライトの背中を狙った呪縛を、俺を囲うように身をていしているライトの脇から結界を巻いた右腕で掴み取る。

 同時にニアンの水晶からの多方向からの光線《こうげき》を全て結界で防ぐ……


 「なっなんで……」
 ニアンが驚くように……

 「貴様の防御能力が優れているからと……これらを同時に防ぐことなど……」
 俺はライトの横をするりと抜けるように立ち上がり……

 「……今度はきちんと守るから……」
 そうライトに告げ、敵《ふたり》の攻撃を完全に防げるだけの結界で彼女を包む。

 そして、それを残したまま両腕に結界のオーラを巻きつける。
 今までの薄い緑とは違い、薄い黒のオーラ……


 「……なぜ……おまえ……その力は……」
 ……なんで貴様がその力を……驚いたようにニアンが俺を見ている。

 「……力《ふせい》に力《ふせい》で抗うのは……やっぱり最低だよな」
 そう……俺は呟く……

 「……なぜ、貴様がっ」
 そう何度もニアンが繰り返す。

 「俺は正義の味方でも英雄でもない……仲間《ライト》達を助けるために……手段なんてえらばねぇーんだよっ」
 そう叫ぶ。

 ニアンの水晶が一つに重なり、一つの大きな水晶に形を変える。

 そして、ニアンの許される全力の光線《ほうげき》が放たれる。

 そっと右手をその光線《ほうげき》の方に手をかざす。
 ビームが俺の手のひらで八方に散るようにかき消される。

 「……なんだ……それは……そんなことが……」
 信じられないものを目の辺りにするように……

 クエスの火の玉が分散し俺を取り巻く……
 その全てが俺に届く前に作り出した結界の壁でかき消されていく。

 「なんだ、その力は……」
 そのニアンの戸惑いに……


 「友達から……貰ったんだ」
 俺はその場でニアンの方に向かい右手を空振りするように振るう。

 薄黒いレーザー砲のような一撃がニアンを捕らえる。


 「……レス……」
 ライトが少し複雑そうに……見ている……

 観客席にいる仲間が……

 ……ニアンがゆっくりと立ち上がる……

 勝負はまだ終わっていない……

 とたんにがくんと膝から崩れ落ちる。

 当然だ……
 今使用した魔力もタダでは無い。

 俺に相応しくない魔力を使った当然の代償だ……

 立たなければ……決勝戦は……まだ続いているんだ……
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