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異世界編ー創造者

ヴァーニング

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 「ヴァーニング……」
 俺の立つ場所から階段一つくらい高い場所にラークがしゃがむと、
 俺と調度顔の高さが同じくらいの位置で、
 ポンと俺の頭に手を置きながら……

 「まぁ……そのままだと呼びにくいからなヴァニ……俺に子供が出来たらつける予定の名前だからな、それまで貸してやる」
 そう、ラークが俺に言う。

 「……ヴァーニング=フレイム……」
 俺はそう呟く。

 「馬鹿か、フレイムは俺の性だ……そっちまで奪うな」
 「それに、名前も俺に子供が出来たら返してもらうからな」
 男を産むことを見越したようにラークが言う。

 「……結婚できんのかよ」
 そう悪態つく俺に……

 「アホ、それはてめぇの協力次第だろうが」
 最初からその契りは滅茶苦茶で……
 俺にとって、かけがいの無いものだった。


 ・・・


 「もっと腰を落とせ、拳に体重をかけろ」
 そう、俺の繰り出す拳を軽々しく受け止めてラークが言う。

 「今……お前は自分の拳で俺が倒せない、そう思って拳をふるってるだろ?」
 繰り返される拳を受け止めながら……

 当然だ……そう俺は心の中で思いながらも……
 大人……自分よりもずっと戦場を潜り抜けてきただろう男……

 「いいか、ヴァニ……お前がどれだけ強くなっても世界には上が常に存在する……そんな強い奴に勝負に勝つにはどうすればいい?」
 そうラークが言う。

 「錯覚するのさ……」
 そうラークが言う。

 「錯覚?」
 そう疑問を返す。

 「自分はつえー、そいつに絶対勝てるってな」
 そうラークが返す。
 
 「何度も立ち上がれ、限界なんてもの決めるんじゃねぇ……相手に自分の拳では自分を倒せない……そう恐怖《さっかく》させろ……あきらめの悪い奴ほど恐ろしい奴はいねぇーよ……」
 そうラークが言う。
 もちろん今の俺には理解ができなくて……
 理解できるのは……あいつと出会う交流戦での生徒会戦で……

 「……そうだな、命をはれる人間に出会え……男でも女でもいい……そいつのために立ち上がれ……それは他でもない、自分《てめぇ》の意地だ……」
 そのラークの言葉に……

 そしてしゃがみこんだラークの額に、ガードすらしない俺の拳を叩き込む。
 びくりとも動じないラーク。

 「どうだ……俺程度の強さを求めるってのは……そういうことだ」
 そうラークはやさしく笑い、右手を俺の額に持ってくると、
 親指で力強く中指を押さえる。
 チリッと中指に小さな炎が宿り……

 親指と中指をこすり合わせるように、開放された中指が俺の額を強く叩くと、
 ゴロンと体が後ろに一回転しながら転がる。

 「……立てるか?」
 そうラークが俺に声をかけるが……

 「いぃ……」
 そんなラークの引きつった声と同時に不意に俺に人影が日差しを隠す。

 「何……してるんですか?」
 シーナがまゆを吊り上げながらラークを睨んでいる。

 シーナは俺を起き上がらせると、両手で抱き寄せるように俺の体を囲うように守るようにラークを再び睨みつける。

 「いやぁ……今のは、その……誤解で……えっと、シーナさん、よければこれから飯でも……」
 そう強引にラークが話を進める。

 「この状況で、何を言ってるんですかっ!」
 そうさらに睨まれる。

 「あぁ……そうだよ……な……」
 そう助けを求めるようにラークの瞳が俺に向く。

 「……母《かぁ》さんに頼むからさ、ラーク……四人《おれたち》で家で食事にしないか?」
 そう、俺が二人に言う。

 「……あ……あぁ、悪くないな」
 戸惑いながらもラークが乗っかるが……

 「シーナは?」
 その俺の言葉に……

 「どうぞ、ご勝手に……」
 その言葉に取り合えず、一緒に食事にありつけたと勘違いするが……

 「でも、私が同席する必要は無いよね?」
 そう不機嫌に返される。

 「あ……あぁ……」
 不機嫌に立ち去るシーナの背中を黙って二人で見送る。

 「まぁ、せっかくだし……家で飯食ってけよ、親父」
 そんな俺の台詞に……

 「……デートの1回は約束だからな……」
 そうぼそりとラークが言う。

 「……俺の母も……今は独り身だぜ?」
 俺の言葉に……

 「ざけんなッ」
 そう返される。

 ・・・・


 そんな繰り返しのような日が何日が続き……

 そして、数日後の昼過ぎ……
 俺のフォローも空しく、ラークのアタックが失敗する中で、
 俺はシーナに手を引かれ歩いていた。

 そんな俺たちに立ちふさがる4つの影……
 その中央に立つのが、貴族っぽい男……

 「シーナ、余り俺に恥をかかせるな」
 そう貴族の男が言う。

 「この俺が君を気にかけてやってるのだぞ、いい加減、俺のモノになれよ」
 そう男が言う。

 「何度もお断りしているはずですが……」
 冷たく返すシーナの言葉に……

 「……手荒な真似はしたくない、もう一度言う俺のモノになれ」
 そう繰り返す。

 その間に俺は黙って立ち……

 「悪いけど、この人にはもう婚約者《いいひと》がいるんだ……」
 そう俺が変わりに言う。

 「はぁ……シーナ、誰だそいつは?」
 そう戸惑うように男が言うが……

 「どうでもいいだろ……二人の邪魔をするってなら、俺が相手してやる」
 そう拳を構える。

 「ガキが……そんな理由で容赦などしないぞ」
 そう後ろの三人が能力を開放《ぶそう》する。

 「だめっ、やめなさい……」
 そうシーナが俺を止めようと叫ぶが……

 俺は大人、3人相手に立ち向かう。
 殴り飛ばされようが、魔法で吹き飛ばされようが……

 それ以上に強い親父《にんげん》を知っている……

 立ち上がり……
 必死に俺を止める声を振り切って……

 幾度も……幾度も……

 「な……なんだ……このがき……」
 3人組の一人が、諦めずに立ち上がる俺に恐怖《さっかく》する……

 その好機《チャンス》を……

 腰を落とし、全体重をかけた一撃を……

 吹き飛ばされた男に瘴気が覆う……

 「障落ち……?」
 貴族の男が恐怖の目で……その黒き影に飲み込まれる男に言う。

 「恐れるな……」
 そう自分に言い聞かせる。

 地を強く蹴り、その一歩を踏み出す。
 シーナの必死で止める声を無視して……
 その瘴気の塊に……化物に……

 だが、俺の身体は簡単に弾き飛ばされて……
 そんな俺の身体をシーナが駆け寄りこれ以上身動きできないように抱きかかえる。

 ゆっくりと進んでくる化物に……

 震える女性《シーナ》に抱きかかえられ……
 迫った黒い影に……振り上げられる拳に二人で目を伏せる。

 「ナイスファイトだ……ヴァニ」
 そう二人《おれたち》の前に立つ男に……

 「……おやじ」
 俺はその背中に……

 黒い影の拳がラークの額に落ちる。
 微動他にしないラーク。

 「……どうした?腰が引けてるぜ?その一撃で俺を倒せないと思ったか?」
 そう障り落ちした影にラークは返し、
 右腕に激しい炎を宿す。

 全体重を乗せた一撃が黒き影に叩き込むと化物ははるか後方へと吹き飛ぶ。

 「エミルっ!!どうして、私の言うことを聞かなかったのっ、あなたに何かあったら私はっ!!」
 ラークの登場に安堵したのか、シーナはその心配とその怒りを俺にぶつける。

 「あんな無茶どうして……私のためになると思ったのっ、約束して、もうあんなことを二度としないって……誓ってっ!!」
 そう俺を言い聞かせるように叫ぶ。

 そんな……黒い影に、二人《おれたち》にラークは背を向けて……

 「えっ?」
 シーナが戸惑う声をあげる。

 当然だ……ここに居る誰もがその瘴気を打ち払ってくれるものだと……

 「……1回……俺と食事の約束お願いできます?」
 そうこんな時にさえも、ラークは少し意地悪な笑みでシーナを見下ろし……

 「さいてー……」
 そうぼそりと一言呟いた後に……

 「わかりました……それで満足して頂けるなら」
 そうシーナは返すと。

 その言葉で再びラークは180度身体を回転させると……
 両腕に炎を宿す……

 「炎舞っ……火炎乱舞っ!!」
 拳のラッシュが黒い影をとらえる。
 そして、右腕がその身体《かげ》の額をつかみ上げ……

 「炎舞……火葬っ」
 黒い影は燃え上がり塵となる。

 「ひっ」
 ラークは一瞬貴族の男を見た後、背を向け俺とシーナの元へと戻ってくる。

 しゃがみこみ、俺を見る。

 「……頑張ったな」
 そう俺の頭をなでる。

 「……褒められる事じゃありません」
 そう俺の代わりにシーナが答える。

 「……食事《やくそく》は守ります……でも、これ以上、エミルを巻き込まないでください」
 そんなシーナの言葉に……
 
 「……約束《そのはなし》は……一度破棄でいいです……」
 そうラークはその権利を放棄する。

 「……あ、ただ、諦めた訳じゃないけど……」
 そう諦めの悪い笑みで……

 「きちんと素直な貴方の言葉でYESを貰うとします」
 そうラークは言い……

 「……それよりも……まずは、彼《ヴァニ》に謝ってくれるか」
 そう天を見て、一瞬誰に向けた言葉なのか理解できなかったが……

 「す、すまなかったっ」
 そう自分に向けた言葉だと、貴族の男がそう返す。

 「てめぇは黙ってろ」
 そうラークはその謝罪《ことば》を否定して……

 「……貴方《シーナ》……に言ってるんだ」
 天を向いていた顔が何時の間にかシーナに向いていて……
 光の無い瞳がシーナを見つめている。
 思わず恐怖を覚える瞳《えがお》に……

 「え……」
 何処かで自分に好意《とくべつ》な感情で居るのだと奢りがなかったかといえば……あったのだろう。
 それでも、その言葉にシーナは驚いたような目でラークを見る。

 「こいつが……どんな思いで……誰のために……拳を振るっていた?」
 そう笑顔で……

 「震える身体をふるい立たして、後ろを向いて逃げ出したい身体を、どんな思いで前に立ち向かっていた?」
 光の無い瞳がシーナを覗く。

 「褒められた事だ……褒められるべき事だ……否定される事じゃねぇよ」
 そう……ラークがシーナの正論《ことば》を否定する。

 「あんたのために命をかけた……諦めずに立ち向かった……こんな小さな身体でだ」
 そうラークは続ける……

 「それを、てめぇの正論《くだらねぇことば》でヴァニの努力《ゆうき》を実力《こんじょう》を否定《まちがってる》なんて言うんじゃねぇ」
 そう、笑顔でそれでいて感情的に……

 その言葉に戸惑うシーナの手から俺は解放されて……
 親父《ラーク》の胸元に……

 「胸をはれ、てめぇを誇れ……俺だけはお前を評価してやる」
 そう俺の頭を優しくなでた。
 
 
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