命の雫

SHIZU

文字の大きさ
5 / 32

何をした?

しおりを挟む
「そういえば、昨日俺が意識を失っている間、ソウは俺に何かしたか?」

「何かって?」

「いや、怪我してたところの治りが早くて、もしかしたら特別な薬でも塗ったのかと……」

何というつまらない言い訳だ。

「怪我してたの? 大丈夫? 倒れた時? 頭打ったとか?」

と俺の両腕を掴んで揺さぶってくる。

……今掴んでるその腕だよ。

「いや、なんでもない忘れてくれ」

「俺、ずっと怖くて泣いてただけだから、よくわかんないや」

「心当たりがないならいい。それで?何かして欲しいことは見つかったか?」

「うーん。じゃあ一緒に屋台手伝って?」

「俺が?」

「うん」

「……わかった」


~~~~~~~~~~


俺はソウが夜市で屋台を出す日は手伝うことにした。

「どこ行くの?」

今日はユキが来ていた。

「今から屋台を手伝いに行く」

「何それ? バイト? 珍しい」

「この間、ある人間に命を救われてな。その時の礼だ」

「救われた? 命を?」

「ああ……夜明け前に外で倒れてしまってな。彼が起こしてくれなければ、俺は今灰となって消えてただろう」

「そんなことがあったの?」

「だからしばらく手伝うことにした」

「へぇ……屋台ねぇ」

「店の店員なら次のを選ぶのにも都合が良さそうだしな」

「なるほど。じゃあもう手っ取り早く、その子の血を吸っちゃったら? それならバイト手伝わなくても済むじゃん」

「それだとまた次の月に困るだろう?」

「そっか……じゃあ僕帰るよ。頑張って」

「あぁ。またな」

俺は服を着替えて出かけた。


~~~~~~~~~~


「こっち、こっち!」

「待ったか?」

「大丈夫。じゃあそのコンロに火をつけて」

「あぁ」

俺は言われた通りに、コンロに火をつけた。

「このお肉にスパイスをかけて焼いて?」

あ、しまった。

手伝うと言ったが、スパイスにニンニクが入っていることを忘れていた。

鼻をつまんで作業をしようとした俺を見て、

「あ、スパイスの配合を変えたから大丈夫! ニンニクは入ってないよ!」

とソウが笑った。

1人の人間とこんなに長く関わったのは初めてだな。

いつもは30分もすれば目の前に横たわり、そのうち消えていくだけのただのエサだったのに。

「生焼けは困るからしっかり焼いてね?」

「どこへ行く?」

「この時間まだ暇だろうから、少し歌ってきていい?」

「いいが、俺を1人にするのか?」

「大丈夫! 1時間くらいしたら帰ってくるから」

そう言いながらソウは公園の方に走って行った。

「まったく。して欲しいことはないとか言いながら、人使いが荒いやつだな」

ハッとした。俺は何をニヤついている。

30分後。

「~🎵~♩」

「うまいじゃないか」

「そう? ありがとう! って店は!?」

「肉がなくなった」

「なくなった?」

「クーラーボックスの中のやつだろう? 全部売ってしまったが、他には無いのか?」

「えっ!? あれ全部売れたの? 30分で?」

「ああ。他に売るものは無いのか?」

「えっと……今日はあれだけしか持って来てないからもうすることないよ」

「そうか」

「あ! ちょっと待ってて!」

ソウは俺を置いて何処かへ走って行ってしまった。

しばらくして現れた彼は、いろんな色のバラの花が入ったバケツが乗った台車を押して現れた。

「薔薇か……」

「うん。うちの店この近くだから、ちょっと持って来た」

「綺麗だな」

「でしょ? 母さんもだけど、僕も薔薇の花が1番好きなんだ!」

「そうか……なら今度うちの庭を見にくるといい」

「いいの!?」

「ああ。たくさんの種類が咲いているから、気に入ったのがあれば持って帰ってもいい」

「ほんと!? 嬉しい! じゃあその時にこの間約束したDVDも持っていくね!」

あれは約束だったのか。

それにしても、人間というのはこんなにも表情が豊かな生き物だとは知らなかった。

この間は泣いていたが、今日はずっと笑っているな。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...