嫌われ王子はしてはいけない恋をした。 ~彼と私の1年間~

虹色金魚

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3、ユノ困る。

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「ジャス様、やはり一度客室に参りましょう。明日再度ユノ様にお会いしてはいかがでしょう。」


 メイドが真剣にジャスに話をし出した。


 まるでユノをシェールズ国の恥だ、と言うように。


「えぇ、えぇ。 それがいいかと存じます。」


 みんな同じ考えなのだろう。
 頷きの回数が異様に多い。


 ユノは諦めて、手の中の野菜を見つめてうつむいた。

「いえ、大丈夫ですよ。皆さん、案内してくださりありがとうございました。」

 ユノは驚いて顔を上げた。 ジャスが愛想よくメイドを追い返し始めてしまったのだ。

 始めは渋っていたメイド達だったが、ジャスが頑なだったので、チラチラとこちらを振り返りながらもとうとう王宮の方へ帰って行った。


「ユノ殿下……ですね。改めまして、私は隣国のスワニ帝国からやって参りました、教育係のジャスと申します。 あぁ、冷えてしまっているではないですか。こんなに手も泥だらけにして……、早く中に入って綺麗にしましょう。」


「あっ……」


 そう言うと、ユノよりも頭一つ分以上背の高いジャスは、緊張した様子のユノから野菜を丁寧に取り上げて大事に持ち、背中に当てていた掌でユノを優しく押した。殿下と呼ばれることも、伝わってくる掌の温もりも、ユノの居心地を悪くさせた。


「よく育っていますね。 大丈夫ですから。 行きましょう。」


 ジャスの穏やかな声が響いた。





~○~○~○~○~○~○~○~





 中に入ると、ジャスが息を飲む様子が伝わってきた。いや、ユノには伝わってしまった。


 これは驚くのも無理もないかもしれない。


 ユノは自室である離宮が急に恥ずかしくなってきた。


「ユノ……様。 浴室はどちらですか?」


 殿下と呼ぶのを止めたらしいジャスは、極めて冷静に声を出した。もう遅いかもしれないが、驚きを悟られないようにしたかったのだ。


「あちらです……」


 ユノは俯いたまま小さく声を出し、浴室……かつて浴室として使っていた場所に案内した。


「ここが……。」


 今はバスタブも無く、蛇口らしいものがあるだけの小さな部屋。 息を飲み絶句してしまったジャスにユノはだんだん申し訳なくなってきてしまった。 母が亡くなってから、バスタブもいつの間にか消えていたのだ。


「あのっ、……ろっ、6年ほど前はちゃんとした離宮だったのですが、はっ、母が亡くなってからは、その……、あまり、上手く機能していなくて……」


 上手く伝えられなくて、情けなくて、たんだん声が小さくなって、最後はポソポソ囁くだけになってしまった。


 それでもジャスはきっちり聞いていたようで、


「では、ここに新たにバスタブを置きましょう。」


 と、穏やかに言い放った。









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