鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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閑話 聖剣見た目会議〜管理者会議編〜

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 聖剣が人型に変身した。

 ウィルフレッドに聖剣レーヴァテインの人型を確認してもらうと、ほぼほぼ人間サイズの耳に、ちょこんと耳の先が尖ったハーフエルフのようだった。
 ただ、このハーフエルフは超絶イケメンで、連れ帰った彼を見たユグドラの女性たちが、顔を真っ赤にしてぶっ倒れた……でもなんだか幸せそうだった。

「正しく麗しいエルフの姿を見た気がします」

 普段、くたびれた服装の残念なイケメンエルフを見てきたレイは、内心感動しつつ、きっぱり言い切った。

「何だ、正しく麗しいって。最近、弟子の言葉が鋭すぎる気がする。あいつはエルフでもハーフエルフでもないからな! 剣だからな!」

 ウィルフレッドが渋い顔をして答えた。

 聖剣レーヴァテイン——略してレヴィと呼んでいる——の人型はスラリとした長身に、厚すぎず細すぎない肢体はバランスが良い。
 エルフらしいサラサラの淡い金髪をしていて、憂いを帯びたアクアマリンのような水色の瞳は、けぶるまつ毛に縁取られている。
 真顔の時は彫像のような硬質な美貌だが、ふとした瞬間の微笑みの艶やかさは、どこぞの巨匠が描いたものか、悠久まで讃えられそうな一級の芸術品だ。

 レヴィをユグドラに連れ帰って三日が経った。
 その間に彼を目にしてぶっ倒れる被害者が増え続けている。昨日だけでも十名、今朝も早くから二名がぶっ倒れた。
 イケメンも度を超すともはや災害である。「美人は三日で飽きる」とは言うが、美人のその上は、その限りではないらしい。

 この現状を重く見た管理者たちは、緊急会議を招集した——聖剣見た目会議である。


 ユグドラの樹の中層階の会議室に、管理者たちは集まった。
 参加者は現在ユグドラにいる管理者たちと聖剣だ。ウィルフレッド、エイドリアン、メルヴィン、モーガン、エルネスト、アイザック、ミランダ、ダリル、レイ、議題のレヴィの十名だ。

 会議室には二十名ほどが座れる大円卓があり、過去のドワーフ管理者の作品だ。

 大円卓の幅広の脚には、会話と集中を促す魔術陣が柄のように丁寧に彫り込まれ、会議を効率的に進められるよう工夫がされている。
 背もたれが高い椅子には、座面に落ち着いた青色の布張りがされていて、淡いクリーム色の糸でユグドラの花の意匠が刺繍されている。
 会議室の白い壁紙には、ボコッと出っ張ったエンボス加工がされていて、よく見ると模様の中に防音の魔術陣が組み込まれていて、会議の内容が外に漏れ出ない仕様だ。

 管理者たちは大円卓をぐるりと囲むように座った。

「そもそも武器を人型に変身させるなど、聞いたことがない」

 ダリルが少し困惑した顔で言った。

「魔力だけあげて、どんな姿にするかはお任せしてたんだけど、そもそもどうしてその姿になったの?」

 レイが真面目な顔で、レヴィに素朴な疑問をぶつけてみた。

「これは十二代目剣聖の姿です。私が彼の剣だった時、彼の周りにはいつも女性がいたため、レイも女性なので喜ばれるかと思ってこの姿にしました」
「え、そんな気遣いされてたの? まあ、その姿だと女性の方から寄ってくるよね。その時はみんな倒れなかった?」
「倒れてましたよ」

(((((((((倒れてたのかよ……)))))))))

 管理者全員の思いが一致した。全員が呆れた目をして、レヴィを見つめている。

「レイは初めてこの姿を見た時に倒れなかったので、問題ないかと思いました」
「問題ありだよ……あの時はそれどころじゃなかったし、私は大丈夫だったけど、他のみんなはなぁ……他の姿にはなれないの?」
「今までのご主人様でしたら誰にでもなれますよ。一通り見ますか?」
「うん、お願い」

 レヴィは初代剣聖から順番に変身していった。
 その都度、管理者たちから「おお」とか「まさか」など、どよめきが聞こえてきた。

「かの英雄をまたこの目で見られるとは……」
「まさか竜人の剣聖がいたとは……」
「私を作ったのは竜人でしたよ」
「歴史的な発見だな。定説が覆されるぞ」

 レヴィは総勢二十五名の剣聖に一通り変身した。
 最後にレイに変身したレヴィは、赤くなってモジモジしている。

「私の姿でそんなモジモジしないで! 恥ずかしい!」

 本物の方のレイも頬を赤らめて、異議を唱えた。

「レイになるのはなんだか背徳感があって……」

 レヴィが女の子らしく、きゃっと小さく叫んで両手で顔を覆っている。

「正しく女の子してる……」

 普段のさっぱりと男らしいレイに見慣れていたウィルフレッドが、こんな女の子らしい表情もできるのかと、目を丸くして零した。

「正しく女の子って何ですか!」

 バシッと、レイはウィルフレッドの背中を叩いた。


「十二代目の姿は刺激が強すぎるから無しだね」

 アイザックの言葉に、管理者全員が頷いている。これ以上被害者を増やしてはいけない。

「八代目か十三代目か十四代目はどうだ?」
「フォレストエイプ一択じゃないですか!」

 含み笑いしているウィルフレッドの提案に、レイが唇を尖らせて渋い顔をした。

 フォレストエイプは、レイの元の世界でいうゴリラのようなAランク魔物だ。ゴリラの約二倍の大きさで、かなり力が強い。
 こちらの世界では、筋骨隆々でがっしりと大柄な体型の者を「フォレストエイプのよう」と例えたりもする。
 ユグドラの防御壁部隊を束ねるエイドリアンもフォレストエイプで、普段はかなり大柄なボディービルダーのような人型に変身している。

「ぱっと見、強そうだぞ~」

 ウィルフレッドが揶揄うような声で、レイを見つめて言った。

(師匠、完全にふざけてる……)

 レイはじと目でウィルフレッドを見つめた。

「お前らふざけてんなよ」

 さすがにエイドリアンから注意が入った。筋肉質の太い腕を組み、人差し指でトントンと叩いている。

 レヴィ曰く、十三代目と十四代目は親子だそうだ。レヴィが剣聖に一通り順番に変身していった時に、十三代目と十四代目がいつ切り替わったのか分からないぐらいのそっくりさんだ。
 フォレストエイプ三名は大柄すぎてかなり目立つ。
 レヴィも彼らに変身していた時は、心なしか、しょぼくれているようだった。

「直近の剣聖は避けた方がいいし、顔が知られてる剣聖も避けた方がいいわね。珍しい竜人も避けた方が無難ね」
「連れて歩くなら、目立ちすぎない方がいいです!」
「十一代目なんてどうだ?」
「逆に影が薄すぎやしないか? それに、あからさまに何人か殺ってる目つきしてるぞ」
「十一代目ご主人様は暗部でしたからね」
「暗部の剣聖がいたのか……」
「その目つきでレイと一緒にいたら、人攫いに間違われない?」

 十一代目剣聖は、やや低めの身長にがっしりとした筋肉質だが、着痩せしそうなタイプだ。肌は浅黒く、グレーの短髪と鋭いグレーの瞳の三白眼で、顎髭が生えてる。暗部で戦闘が多かったためか、耳が一部欠けており、頬や腕にも傷跡がいくつも残っている。
 旅人のような服装ではあるが、醸し出す雰囲気が何か引っかかるような、少し怪しい感じがする。一般人の振りをしている盗賊、といった感じだ。

 喧々諤々けんけんがくがくの会議の結果、レヴィの姿は、多数決で十七代目剣聖に決定した。

 早速、十七代目剣聖に変身を余儀なくされたレヴィは、目線がちょっと不服を訴えている。

 十七代目剣聖の決め手は、ブラウンの髪と瞳で地味で目立たず、印象は十人並み。よく見れば顔が整っている。身長や体格もちょうど良く、レイと一緒にいても違和感が無い。
 どこに行っても目立たず、どこにいてもおかしくない素晴らしい容姿に、管理者全員の意見が一致し可決した。

 レヴィの態度もなかなか失礼だったが、それ以上に、この会議に参加した全員が大変失礼だった。

 レイは「十七代目様、ごめんなさい。お姿使わせていただきます」と心の中で合掌し、十七代目剣聖の冥福を祈った。


 ちなみに何をそんなに嫌がったのか、後でレイがレヴィに訊いてみたところ、フォレストエイプたちは力が強すぎて、レヴィの手入れや扱いが雑だったようで、今回決まった十七代目は、逆にレヴィを溺愛しすぎてて扱いが気持ち悪かったそうだ。

 なお、問題の超絶イケメン十二代目は、一番レヴィの扱いが上手で丁寧だったそうだ。レヴィがご満悦で変身するわけだった。


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