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魔動絵本1
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ユークラスト地方に危険な魔動絵本が見つかった。
魔動絵本は、魔術で絵本の中に読者自身が入り、リアルに絵本の物語を体験してもらうアトラクション型の絵本だ。
立体的に登場人物や背景が出現し、体験者は絵本の絵の範囲内であれば自由に移動が可能だ。
風や水などの表現も「風が当たる」「ひんやりする」など程度を弱めて体感することもできる。さすがに炎や剣戟など怪我や命の危険があるものは体験することはできない。
そんな子供から大人まで楽しめる魔動絵本で死傷者が出た。
件の絵本は、暗殺用に魔術が凶悪なものに書き換えられており、物語の内容も、体験者に死をもたらすようなものに改悪されていた。
今回の事態を重く見た管理者側は、緊急会議を開くことにした。
ユグドラの樹、中層階の会議室に管理者たちが集まった。
参加者は、ウィルフレッド、エイドリアン、メルヴィン、モーガン、エルネスト、アイザック、レイだ。
今回の議題は、ユークラスト地方で発見された魔動絵本の調査員派遣についてだ。
木製の大円卓をぐるりと囲むように管理者たちが座っている中、ウィルフレッドが徐に口を開いた。
「ユークラスト地方で暗殺用に書き換えられた魔動絵本が見つかった。調査員を派遣したいんだが……アイザック、どうだろう?」
「僕かい? 確かに、ユークラストで本だからね。僕が適任だろうね」
アイザックはサファイアブルー色の目を伏せ、口元に手を当て思案顔だ。
アイザックは元々、ユークラスト地方で有名なSSランクのサーペントという魔物だ。
ユグドラの図書館で司書長に就く前は、かの地で洪水を起こしては「ユークラストの水災」として人々に恐れられてきた。
「じゃあ……」
「一つだけいいかな?」
「ん?」
「アシスタントとしてレイをつけて欲しいんだ。そしたら、調査員としてユークラストに行くよ?」
アイザックはにこりと微笑んで、そう言った。
アイザックはレイを非常に気に入っている。
どうせ今回の調査をきっかけにお近づきになりたいとか、レイの魔力を摘み食いしたいとかだろう。
管理者たちは呆れつつ、アイザックを見た。
「アシスタントを付けたいなら、別にレイでなくてもいいだろう?」
「レイはこの前、ミランダと初任務をこなしてきたんでしょう? 管理者をやるなら、僕みたいな先輩のアシスタントをして経験を積んだ方がいいんじゃないかと思って」
「前回は恋や黒歴史の精霊が相手だからそこまででもなかったが、今回はそれよりも危険性が高い。レイにはまだ早いだろう」
「そうかな? あくまでも僕のアシスタントだし、調査段階だよ」
「レイはまだ魔術をそこまで上手く使いこなせてるわけじゃないからな。相手は魔動絵本を改悪するような魔術を使える奴らだぞ。それに、ユークラストは強い魔物が多いだろ」
「今レイにはレヴィがついてるし、使い魔もそこそこ強いんでしょ。それに、ユークラストは僕の古巣だよ。あそこで僕より強い奴はいないし」
ウィルフレッドとの応酬に、アイザックは会議室に底冷えするような圧を発した。
アイザックの圧に、ウィルフレッドはどこ吹く風だ。
だが、管理者全員がそういうわけではない。物作り担当のドワーフ兄弟や、癒し担当のエルネストは少し顔色が悪い。
「おい、会議中に圧を出すのは無しだ」
エイドリアンが低い声できっぱりと注意した。筋肉質で太い腕をがっしりと組み、眉間には皺を寄せている。
魔物としてのランクも高く、いくつものフォレストエイプの群れを束ねてきた大ボスは、こういう時に頼り甲斐がある。
管理者同士の本気の喧嘩は御法度だ。
アイザックは冷たい目線でエイドリアンを流し見たが、大人しく発していた圧を収束させた。
ユークラストに一番詳しいのはアイザックだ。事件の原因が本ということもあり、司書長兼管理者のアイザックが一番適任なのだ。
レイ以外の三大魔女は忙しく、他の人員も今は調整がつけられそうな状態にはなかった。
結局、アイザックに行ってもらうしかないのだ。
「分かった。そこまで言うなら、レイ以外にもう一人つける。それでどうだ?」
「……まあ、それでいっかな。レイ、任務よろしくね!」
はぁ、と溜め息をついてウィルフレッドが出した折衷案に、アイザックもここが落とし所かと渋々頷いた。
レイも自分に決定権は無いんだろうなと思いつつ、よろしくお願いします、と頭を下げた。
レイと一緒の任務に、アイザックは浮き足立っていた。
ユグドラ内ではさりげなくウィルフレッドが、アイザックをレイに近づけないようにしている。アイザックも薄々とそこら辺は気づいていた。
ウィルフレッドの管理者としてのメイン担当は、ユグドラ自体の管理だ。
準備も無しに長期間ユグドラを離れることはできないし、今回のような臨時の調査は、基本的に行くことができない。
つまり、邪魔立てするようなウィルフレッドは、今回の任務にはいないのだ。
アイザックは上機嫌で、鼻歌混じりに任務の準備を進めた。
魔動絵本は、魔術で絵本の中に読者自身が入り、リアルに絵本の物語を体験してもらうアトラクション型の絵本だ。
立体的に登場人物や背景が出現し、体験者は絵本の絵の範囲内であれば自由に移動が可能だ。
風や水などの表現も「風が当たる」「ひんやりする」など程度を弱めて体感することもできる。さすがに炎や剣戟など怪我や命の危険があるものは体験することはできない。
そんな子供から大人まで楽しめる魔動絵本で死傷者が出た。
件の絵本は、暗殺用に魔術が凶悪なものに書き換えられており、物語の内容も、体験者に死をもたらすようなものに改悪されていた。
今回の事態を重く見た管理者側は、緊急会議を開くことにした。
ユグドラの樹、中層階の会議室に管理者たちが集まった。
参加者は、ウィルフレッド、エイドリアン、メルヴィン、モーガン、エルネスト、アイザック、レイだ。
今回の議題は、ユークラスト地方で発見された魔動絵本の調査員派遣についてだ。
木製の大円卓をぐるりと囲むように管理者たちが座っている中、ウィルフレッドが徐に口を開いた。
「ユークラスト地方で暗殺用に書き換えられた魔動絵本が見つかった。調査員を派遣したいんだが……アイザック、どうだろう?」
「僕かい? 確かに、ユークラストで本だからね。僕が適任だろうね」
アイザックはサファイアブルー色の目を伏せ、口元に手を当て思案顔だ。
アイザックは元々、ユークラスト地方で有名なSSランクのサーペントという魔物だ。
ユグドラの図書館で司書長に就く前は、かの地で洪水を起こしては「ユークラストの水災」として人々に恐れられてきた。
「じゃあ……」
「一つだけいいかな?」
「ん?」
「アシスタントとしてレイをつけて欲しいんだ。そしたら、調査員としてユークラストに行くよ?」
アイザックはにこりと微笑んで、そう言った。
アイザックはレイを非常に気に入っている。
どうせ今回の調査をきっかけにお近づきになりたいとか、レイの魔力を摘み食いしたいとかだろう。
管理者たちは呆れつつ、アイザックを見た。
「アシスタントを付けたいなら、別にレイでなくてもいいだろう?」
「レイはこの前、ミランダと初任務をこなしてきたんでしょう? 管理者をやるなら、僕みたいな先輩のアシスタントをして経験を積んだ方がいいんじゃないかと思って」
「前回は恋や黒歴史の精霊が相手だからそこまででもなかったが、今回はそれよりも危険性が高い。レイにはまだ早いだろう」
「そうかな? あくまでも僕のアシスタントだし、調査段階だよ」
「レイはまだ魔術をそこまで上手く使いこなせてるわけじゃないからな。相手は魔動絵本を改悪するような魔術を使える奴らだぞ。それに、ユークラストは強い魔物が多いだろ」
「今レイにはレヴィがついてるし、使い魔もそこそこ強いんでしょ。それに、ユークラストは僕の古巣だよ。あそこで僕より強い奴はいないし」
ウィルフレッドとの応酬に、アイザックは会議室に底冷えするような圧を発した。
アイザックの圧に、ウィルフレッドはどこ吹く風だ。
だが、管理者全員がそういうわけではない。物作り担当のドワーフ兄弟や、癒し担当のエルネストは少し顔色が悪い。
「おい、会議中に圧を出すのは無しだ」
エイドリアンが低い声できっぱりと注意した。筋肉質で太い腕をがっしりと組み、眉間には皺を寄せている。
魔物としてのランクも高く、いくつものフォレストエイプの群れを束ねてきた大ボスは、こういう時に頼り甲斐がある。
管理者同士の本気の喧嘩は御法度だ。
アイザックは冷たい目線でエイドリアンを流し見たが、大人しく発していた圧を収束させた。
ユークラストに一番詳しいのはアイザックだ。事件の原因が本ということもあり、司書長兼管理者のアイザックが一番適任なのだ。
レイ以外の三大魔女は忙しく、他の人員も今は調整がつけられそうな状態にはなかった。
結局、アイザックに行ってもらうしかないのだ。
「分かった。そこまで言うなら、レイ以外にもう一人つける。それでどうだ?」
「……まあ、それでいっかな。レイ、任務よろしくね!」
はぁ、と溜め息をついてウィルフレッドが出した折衷案に、アイザックもここが落とし所かと渋々頷いた。
レイも自分に決定権は無いんだろうなと思いつつ、よろしくお願いします、と頭を下げた。
レイと一緒の任務に、アイザックは浮き足立っていた。
ユグドラ内ではさりげなくウィルフレッドが、アイザックをレイに近づけないようにしている。アイザックも薄々とそこら辺は気づいていた。
ウィルフレッドの管理者としてのメイン担当は、ユグドラ自体の管理だ。
準備も無しに長期間ユグドラを離れることはできないし、今回のような臨時の調査は、基本的に行くことができない。
つまり、邪魔立てするようなウィルフレッドは、今回の任務にはいないのだ。
アイザックは上機嫌で、鼻歌混じりに任務の準備を進めた。
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