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第四章 ウォーグラフト領
慰問最終日(グラント視点)
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俺はグラント・エイミス。聖鳳教会ガシュラ支部に所属する癒し属性の上級神官だ。
今回は、慰問メンバーのまとめ役兼聖者ノアのサポート役として、ウォーグラフト領にやって来た。
ウォーグラフト領は、水竜王様の不興を買って、つい最近まで長雨が続いていた。あちこちで河川の氾濫や土砂崩れが起こっていたらしい。
水竜王様のお怒りが解けて長雨も止んだため、被災地にある教会の五ヶ所に聖者が派遣されることになった。
慰問の仕事は、俺も今回が初めてだった。俺も人型の癒しの精霊とはいえ、ただの一神官として働いているから、そういったことをする立場にはないしな。
そして、俺が担当するチームメンバーたちも、もちろん慰問の仕事は初めてだった。
聖者のノアは、癒しの精霊の先祖返りだ。
精霊は、派生元となったモノの性質に縛られる。
たとえば、恋の精霊であれば、誰かの恋を応援したり自分自身が恋することに執着するし、呪いの精霊であれば、自分自身が呪い魔術として消費されることに喜びを感じるという。
癒しの精霊の本能は、ズバリ「癒すこと」だ。
誰かが傷ついていれば、癒したくなる──俺たち癒しの精霊にとっては、息を吸うように当たり前の感覚だ。
ノアはまだ若いし、人間の血も流れていて、癒しの精霊の先祖返りだと気付いたのもごく最近のことだ。癒しの精霊の本能に、知らず知らずのうちに影響されていてもおかしくはなかった。
初日は、ウォーグラフト領でも中規模の都市アンボスにある支部に向かった。
アンボスは大きな川が近くを流れ、特に浸水被害が酷かったらしい。
アンボス支部の治癒院には、やはりたくさんの患者さんがいた。
元々あったベッド数では足らず、床にまで毛布やシーツを引いて寝込んでいる患者さんも多かった。
そんな光景に俺も心を痛めたが、気づいたらノアがどんどんと病室の真ん中まで歩いて行っていた。「あっ!」と思った瞬間には、すでにノアは魔力を練り始めていた。
下手に発動中の魔術を止めるわけにもいかず、俺はその時にできること──周りの人がノアに近づきすぎて、回復魔術の発動を邪魔しないようにだけ注意した。
案の定、ノアは病室いっぱいに巨大なエリアヒールをかけていた。
教会に来たての頃に比べて、随分と成長が感じられる立派なエリアヒールだった。
だが、エリアヒールは特に魔力消費量の多い魔術だ。俺は魔力切れを起こしたノアに、すぐに魔力回復ポーションを手渡した。
その日は、アンボス支部の司教様に許可をとって、反省会を開くために一室、貸してもらった。
確認してみると、やはりノアは癒しの精霊の本能から、無意識に「皆を助けたい」と思って、エリアヒールをかけていたらしい──俺も癒しの精霊として、その気持ちは分からなくもない。
特にこういった被災地では、普段の治癒院での癒し業務よりも悲惨な状況のことが多い。そうなると、普段は冷静でも、イレギュラーな状況下で「癒したい」という癒しの精霊の本能が強く刺激されてしまって、いつも以上に無茶しすぎてしまう可能性がある。
だが、「慰問」の仕事では、無茶は禁物だ。
特に今回の慰問のメインである聖者のノアにとっては。
何も傷を回復させるだけが慰問じゃない。
「わざわざ王都にいる聖者が来てくれる」──これだけで、被災者や教会関係者の気持ちがどれだけ救われることか。
教会本部は、忙しいはずの聖者をわざわざ被災地に送ってくれた。教会本部は決して被災地を見放してはいないと、彼らの心を励ましたり、元気づけたりするのも慰問での大切な仕事だ。
そのためには、まずはノア自身が元気で明るい笑顔を見せることが大切なんだ。
二日目は、ウォーグラフト領の領都ランサルドに向かった。
ノアは初日とは違って、「とにかく治す」のではなく、一人一人の患者さんと向き合うように治療をしていた。
昨日の反省会から、いろいろと感じ取ってもらえたのかもしれない。
この日は、ノアは落ち着いて患者さんに治療を施していた。
途中、領主も治療の見学にあらわれたが、ノアは穏やかに対応していた。
ウォーグラフト領の領主は、今回の長雨の原因となった人物だ。
ノアはそんなことは知らされてなかったためか、屈託なく領主に癒しの魔力を流し込んでいた。
単純に、領主の非常に疲れた様子を見て、癒したくなったから癒しただけだろう。
何の悪意も悪気もなく癒したノアに、領主は感激したようにお礼を口にしていた。
三日目、四日目は、チームも慰問の仕事に慣れてきたのか、これまで以上にキビキビと積極的に動いてくれた。
ノアだけでなく、リリアンやエラも慣れたもので、笑顔で患者さんたちに対応していた。
これらの日は、特に問題なく一日が終わった。
慰問最終日、エルツ村にある支部では、今までとは全く状況が異なっていた。
エルツ村は山の麓にある村だ。隣町までは、山と崖に囲まれた道が一本あるだけだった。
そのため、長雨の影響で土砂崩れが起こり、たった一本しかない道が塞がってしまっていたのだ。
エルツ支部の神官と聖女は、中級以上の熟練の治癒師だった。村自体には土砂被害はなかったためか、怪我人もそこまで多くはなかったらしく、治療すべき患者さんはほとんどいなかった。
このため、エルツ支部では治療ではなく、土砂の撤去作業を手伝うことになった。
現場に着くと、モノケロス卿がノアに声をかけていた。
「ノアさん、とりあえずガラガルディアを出して聞いてみては?」
──ガラガルディアって、以前、モノケロス卿がノアに与えていた聖武器だよな……?
俺は一瞬、聞き間違いかと思って、モノケロス卿を二度見してしまった。
ノアに与えられたのは、ハンマーだ。
確かに、強力な聖武器であれば、こんな土砂の一つや二つ、簡単に吹き飛ばせるかもしれないな……
ノアは空間収納から破邪の大鎚ガラガルディアを取り出して、何やらブツブツ呟いていた。
聖武器と正式な契約がある者は、意思疎通が取れるというから、それなのかもしれない。
土砂の撤去作業で周りにいた村人たちはもちろん、護衛で一緒に王都からやって来た聖騎士たちも、あきらかに特別な武器であるガラガルディアに見入っていた。
ノアが土砂の前まで歩いて行く。
モノケロス卿に誘導され、俺たちはノアの邪魔にならないようかなり後ろに下がった。
ノアは大きくガラガルディアを振りかぶると、勢いよく道を塞いでいた土砂に打ちつけた。
「うおぉおりゃあぁっ!!!」
ボッコーーーンッ!!!
道を塞いでいた岩や土が弾け飛び、崖の方へと勢いよく飛んでいった。
激しい土煙が立ち込めて、一瞬、ノアの姿が見えなくなった。
しばらくすると土煙が落ち着き、道を塞いでいた土砂の大半が消え、向こう側まで道が続いているのが、ハッキリと見えた。
「……これが、ガラガルディアの力……」
ノアは非戦闘員だ。だが、聖武器の力を借りれば、こんなこともできてしまうのか……!
土砂がほとんど消えたことで、村人たちから歓声があがった。
ノアがストンと膝から落ちて、ガラガルディアにしがみついたのが見えた。
「大丈夫か、ノア!?」
俺はすぐさま駆けつけた。
どうやら慣れない聖武器で大技を放ったため、魔力不足と疲労感が出ているようだった。
魔力回復ポーションを渡せば、ノアは一気にゴクゴクと飲み干した。
「ぷはぁ! でも、これで隣町に行けそうで良かったですね!」
「「……」」
確か、土砂崩れは隣町までの間に何ヶ所か発生してるって話だったはず……
モノケロス卿も同じことを指摘していて、ノアはショックを受けて絶望的な表情になっていた。
結局、ノアは他の場所の土砂も、ガラガルディアで吹き飛ばした。
ノアの体調や体力も心配だったが、本人がやると決めて実行しようとしているからには、俺はとにかくサポートに回ることにした──ほとんど魔力回復ポーションを渡すだけだったけどな。
最後の土砂を吹き飛ばした後、ノアが地面に大の字に倒れ込んだ。
慌てて駆け寄ってみれば、ノアはやり切ってスッキリとした表情で寝転んでいた。
そんなノアの様子を見て、心配するあまり途中でストップをかけなくて良かったかもしれないな、と俺は思った。
今回の慰問では、ノアは最初から最後までよく頑張ってくれた。
明日は特別休暇もいただいてるし、ゆっくり休んで疲れを癒して欲しい。
今回は、慰問メンバーのまとめ役兼聖者ノアのサポート役として、ウォーグラフト領にやって来た。
ウォーグラフト領は、水竜王様の不興を買って、つい最近まで長雨が続いていた。あちこちで河川の氾濫や土砂崩れが起こっていたらしい。
水竜王様のお怒りが解けて長雨も止んだため、被災地にある教会の五ヶ所に聖者が派遣されることになった。
慰問の仕事は、俺も今回が初めてだった。俺も人型の癒しの精霊とはいえ、ただの一神官として働いているから、そういったことをする立場にはないしな。
そして、俺が担当するチームメンバーたちも、もちろん慰問の仕事は初めてだった。
聖者のノアは、癒しの精霊の先祖返りだ。
精霊は、派生元となったモノの性質に縛られる。
たとえば、恋の精霊であれば、誰かの恋を応援したり自分自身が恋することに執着するし、呪いの精霊であれば、自分自身が呪い魔術として消費されることに喜びを感じるという。
癒しの精霊の本能は、ズバリ「癒すこと」だ。
誰かが傷ついていれば、癒したくなる──俺たち癒しの精霊にとっては、息を吸うように当たり前の感覚だ。
ノアはまだ若いし、人間の血も流れていて、癒しの精霊の先祖返りだと気付いたのもごく最近のことだ。癒しの精霊の本能に、知らず知らずのうちに影響されていてもおかしくはなかった。
初日は、ウォーグラフト領でも中規模の都市アンボスにある支部に向かった。
アンボスは大きな川が近くを流れ、特に浸水被害が酷かったらしい。
アンボス支部の治癒院には、やはりたくさんの患者さんがいた。
元々あったベッド数では足らず、床にまで毛布やシーツを引いて寝込んでいる患者さんも多かった。
そんな光景に俺も心を痛めたが、気づいたらノアがどんどんと病室の真ん中まで歩いて行っていた。「あっ!」と思った瞬間には、すでにノアは魔力を練り始めていた。
下手に発動中の魔術を止めるわけにもいかず、俺はその時にできること──周りの人がノアに近づきすぎて、回復魔術の発動を邪魔しないようにだけ注意した。
案の定、ノアは病室いっぱいに巨大なエリアヒールをかけていた。
教会に来たての頃に比べて、随分と成長が感じられる立派なエリアヒールだった。
だが、エリアヒールは特に魔力消費量の多い魔術だ。俺は魔力切れを起こしたノアに、すぐに魔力回復ポーションを手渡した。
その日は、アンボス支部の司教様に許可をとって、反省会を開くために一室、貸してもらった。
確認してみると、やはりノアは癒しの精霊の本能から、無意識に「皆を助けたい」と思って、エリアヒールをかけていたらしい──俺も癒しの精霊として、その気持ちは分からなくもない。
特にこういった被災地では、普段の治癒院での癒し業務よりも悲惨な状況のことが多い。そうなると、普段は冷静でも、イレギュラーな状況下で「癒したい」という癒しの精霊の本能が強く刺激されてしまって、いつも以上に無茶しすぎてしまう可能性がある。
だが、「慰問」の仕事では、無茶は禁物だ。
特に今回の慰問のメインである聖者のノアにとっては。
何も傷を回復させるだけが慰問じゃない。
「わざわざ王都にいる聖者が来てくれる」──これだけで、被災者や教会関係者の気持ちがどれだけ救われることか。
教会本部は、忙しいはずの聖者をわざわざ被災地に送ってくれた。教会本部は決して被災地を見放してはいないと、彼らの心を励ましたり、元気づけたりするのも慰問での大切な仕事だ。
そのためには、まずはノア自身が元気で明るい笑顔を見せることが大切なんだ。
二日目は、ウォーグラフト領の領都ランサルドに向かった。
ノアは初日とは違って、「とにかく治す」のではなく、一人一人の患者さんと向き合うように治療をしていた。
昨日の反省会から、いろいろと感じ取ってもらえたのかもしれない。
この日は、ノアは落ち着いて患者さんに治療を施していた。
途中、領主も治療の見学にあらわれたが、ノアは穏やかに対応していた。
ウォーグラフト領の領主は、今回の長雨の原因となった人物だ。
ノアはそんなことは知らされてなかったためか、屈託なく領主に癒しの魔力を流し込んでいた。
単純に、領主の非常に疲れた様子を見て、癒したくなったから癒しただけだろう。
何の悪意も悪気もなく癒したノアに、領主は感激したようにお礼を口にしていた。
三日目、四日目は、チームも慰問の仕事に慣れてきたのか、これまで以上にキビキビと積極的に動いてくれた。
ノアだけでなく、リリアンやエラも慣れたもので、笑顔で患者さんたちに対応していた。
これらの日は、特に問題なく一日が終わった。
慰問最終日、エルツ村にある支部では、今までとは全く状況が異なっていた。
エルツ村は山の麓にある村だ。隣町までは、山と崖に囲まれた道が一本あるだけだった。
そのため、長雨の影響で土砂崩れが起こり、たった一本しかない道が塞がってしまっていたのだ。
エルツ支部の神官と聖女は、中級以上の熟練の治癒師だった。村自体には土砂被害はなかったためか、怪我人もそこまで多くはなかったらしく、治療すべき患者さんはほとんどいなかった。
このため、エルツ支部では治療ではなく、土砂の撤去作業を手伝うことになった。
現場に着くと、モノケロス卿がノアに声をかけていた。
「ノアさん、とりあえずガラガルディアを出して聞いてみては?」
──ガラガルディアって、以前、モノケロス卿がノアに与えていた聖武器だよな……?
俺は一瞬、聞き間違いかと思って、モノケロス卿を二度見してしまった。
ノアに与えられたのは、ハンマーだ。
確かに、強力な聖武器であれば、こんな土砂の一つや二つ、簡単に吹き飛ばせるかもしれないな……
ノアは空間収納から破邪の大鎚ガラガルディアを取り出して、何やらブツブツ呟いていた。
聖武器と正式な契約がある者は、意思疎通が取れるというから、それなのかもしれない。
土砂の撤去作業で周りにいた村人たちはもちろん、護衛で一緒に王都からやって来た聖騎士たちも、あきらかに特別な武器であるガラガルディアに見入っていた。
ノアが土砂の前まで歩いて行く。
モノケロス卿に誘導され、俺たちはノアの邪魔にならないようかなり後ろに下がった。
ノアは大きくガラガルディアを振りかぶると、勢いよく道を塞いでいた土砂に打ちつけた。
「うおぉおりゃあぁっ!!!」
ボッコーーーンッ!!!
道を塞いでいた岩や土が弾け飛び、崖の方へと勢いよく飛んでいった。
激しい土煙が立ち込めて、一瞬、ノアの姿が見えなくなった。
しばらくすると土煙が落ち着き、道を塞いでいた土砂の大半が消え、向こう側まで道が続いているのが、ハッキリと見えた。
「……これが、ガラガルディアの力……」
ノアは非戦闘員だ。だが、聖武器の力を借りれば、こんなこともできてしまうのか……!
土砂がほとんど消えたことで、村人たちから歓声があがった。
ノアがストンと膝から落ちて、ガラガルディアにしがみついたのが見えた。
「大丈夫か、ノア!?」
俺はすぐさま駆けつけた。
どうやら慣れない聖武器で大技を放ったため、魔力不足と疲労感が出ているようだった。
魔力回復ポーションを渡せば、ノアは一気にゴクゴクと飲み干した。
「ぷはぁ! でも、これで隣町に行けそうで良かったですね!」
「「……」」
確か、土砂崩れは隣町までの間に何ヶ所か発生してるって話だったはず……
モノケロス卿も同じことを指摘していて、ノアはショックを受けて絶望的な表情になっていた。
結局、ノアは他の場所の土砂も、ガラガルディアで吹き飛ばした。
ノアの体調や体力も心配だったが、本人がやると決めて実行しようとしているからには、俺はとにかくサポートに回ることにした──ほとんど魔力回復ポーションを渡すだけだったけどな。
最後の土砂を吹き飛ばした後、ノアが地面に大の字に倒れ込んだ。
慌てて駆け寄ってみれば、ノアはやり切ってスッキリとした表情で寝転んでいた。
そんなノアの様子を見て、心配するあまり途中でストップをかけなくて良かったかもしれないな、と俺は思った。
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