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第一章 冒険者から神官へ
ポーション作り
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「よしっ。ちょうどいいサイズだ」
真新しい神官服に袖を通した。
俺の気持ちもパリッと引き締まる。
鏡の中の俺も、どことなく気合が入ったような顔つきになっていた。
詰襟の神官服は、全体的に白と青を基調としていて、襟元のラインだけ緑色だ。ここは属性ごとに色が異なっていて、制服の色を見ればどの属性の神官か分かるようになっているらしい。
ちなみに、緑色が癒し属性で、黄色が光属性、青色が聖属性だ。
支給されたフード付きのケープの裾にも、緑色のラインが入っていた。
「おっ。よく似合ってるな」
初日に宿舎まで案内してくれた先輩が、そのまま俺の指導役になった。
先輩の名前はグラントさん。癒し属性の上級神官だ。今朝、俺の制服を届けてくれた。
緑色の短髪で、ニカッと目尻に皺を寄せて笑う姿が、爽やかな好青年だ。
まだ教会には知り合いが少ないし、グラントさんは気さくで話しやすいから、彼が指導役だと聞いて嬉しかった。
「癒し属性の神官の仕事は、大まかに三つだ。治癒院での治療、ポーションや魔術薬の調薬、騎士団から要請があった時の支援だ」
グラントさんが歩きながら説明してくれた。
「騎士団からの要請はだいたい、年に数回だ。大抵は高ランク魔物の討伐や軍事演習の支援、結界張りの同行で、負傷者の治療がメインだな。普段は癒し属性の神官は、治癒院に来院した患者の治療か、ポーション作りをしている。早速だが、今日は調薬をやるぞ」
グラントさんに連れて来られたのは、調薬室だ。
一歩足を踏み入れると、独特な薬草や魔術薬の匂いが鼻をくすぐった。
壁沿いにはいくつも背の高い棚が並んでいて、ポーションや魔術薬の材料が置かれている。
テーブルの上には、ポーションを入れるためのガラス瓶や材料を細かく加工するための薬研やすり鉢が並び、かまどには調薬用の魔術鍋がいくつも置かれていた。
調薬室は、教会の裏手にある薬草園に繋がっているらしく、裏口の扉が付いていた。
調薬室内には、年若い聖女見習いや神官見習いが何人もいた。
「調薬は一人で学ぶより、何人かで一緒に学んだ方が、お互いの良い点悪い点が分かって、上達が早まるからな。ノアと同じチームは、あそこの子たちだな」
グラントさんが示した先には、調薬デスクのそばに座る二人の聖女見習いがいた。
「二人とも。彼が新しいチームメイトのノア君だ」
グラントさんは気軽に二人の聖女見習いに声をかけて、俺を紹介してくれた。
「中級神官のノアです。ノアと呼んでください」
俺はドキドキと緊張しながら挨拶をした。
「聖女見習いのリリアン・コールマンですわ。リリアンとお呼びください」
リリアンは、今まで見た女の子の中で一番美人だと思った。
淡い金髪の長い髪は清楚にハーフアップにまとめられていて、ツンと釣り上がった猫目の瞳はラベンダー色で、まさに高嶺の花のお嬢様だ。
どこか禁欲的な詰襟の聖女候補のワンピースを着ていても分かるほど、スタイルが抜群だ。
「聖女候補のエラ・キャンベルです。私もどうぞエラとお呼びください」
エラは、ココアブラウンのウェーブがかった柔らかい髪に、好奇心の強そうなペリドット色の瞳をしている。背も低くて小柄で、リスみたいな小動物系の可愛らしい女の子だ。
「中級神官なのに、調薬を?」
リリアンが尋ねてきた。
中級神官といえば、通常であれば治癒も解毒も調薬も一通り修めているはずだ。そうだよな。気になるよな。
「実は、今まで冒険者ギルドで治癒師をしていたので、神官に転職したばかりなんです」
同じチームだし、いつかはバレることだろうから、俺は正直に答えた。
「それでいきなり中級神官になったなんて、すごいですね! 治癒魔術が得意なんですか?」
エラがペリドット色の瞳を輝かせて、びっくりしていた。
「うん。まぁね」
俺は少し照れくさくて、曖昧に答えた。
「あら、そうですの」
リリアンはツンと澄ました顔で相槌を打っていた。
あれ? リリアンはあまり興味なさそうかな?
「ハイハイ。お互いを知り合うなら、追々ね。まずは基本のポーション作りね」
グラントさんが、注意を引きつけるように、パンパンッと手を叩いた。
グラントさんが説明してくれたのは、初級の回復ポーションだ。
ちょっとした怪我によく使われるもので、一番需要があるポーションらしく、教会でも常に在庫を切らさないようにしているらしい。
街の薬屋でもポーションは売っているけど、どうしてもポーションの作り手のレベルがまちまちになるから、店によって効果にばらつきが出てしまう。
それに比べて、教会は癒し属性の専門家が揃っているから、ポーションの質も高くて、効果も安定している。
その分、街の薬屋で買うよりも少し割高だ。
なので討伐や遠征に出る騎士や魔術師、少しお金に余裕がある家庭や稼いでいる冒険者なんかは、よく教会でポーションを買っている。
「初級の回復や解毒のポーションは、癒し属性のどの神官も聖女も作れるように必修になっている。調薬に適性が高いようなら、さらに薬師になって、もっと専門的な魔術薬やポーションを作れるようになるぞ……まぁ、とにかく、まずはポーションを作ってみるか」
グラントさんが簡単に必要な材料と作り方の流れを説明した後、俺たちは裏口の扉から薬草園に連れて行かれた。
今日のポーション作りは、薬草の生えている場所や採集の仕方からスタートする、本格的なものだ。
「きゃっ! 虫が!」
「うぅっ。上手く茎が切れない……」
聖女見習い二人は、慣れない作業に戸惑っているようだった。
「ノアはずいぶん手際がいいのね」
リリアンが俺の手元を覗き込んできた。虫にびっくりしたからか、ちょっぴり涙目だ。
「子供の頃から薬草採集はやってたからね」
俺は照れ隠しに、頬を指でポリポリ掻きながら言った。
「ノアは薬草の切り口も綺麗だな」
グラントさんが、中腰になって覗き込んできた。
「薬草の鮮度や扱い方で、ギルドでの買取価格が結構変わったので、丁寧に採るようにしてました」
俺は採集した薬草を、葉や茎にどこにも折れが無いように丁寧にまとめた。
「薬草の鮮度は、ポーションの質を左右するからな。まずは、ノアくらい綺麗に採れるようになるのが目標かな」
「「はい」」
グラントさんが説明すると、リリアンとエラは素直に頷いた。
薬草の採集が終わったら、今度こそポーション作りだ。
「薬草は生でも乾燥していても、ポーション作りの材料に使える。だが、新鮮な方が効果が高めに安定するから、教会では採りたての薬草を使うようにしている。早速、さっき採ってきたやつで作るか」
グラントさんが、まずは見本で一つ初級の回復ポーションを作った。
採りたての薬草を細かく刻んで、魔術鍋に水と一緒に入れて加熱し、癒し属性の魔力を込めながらかき混ぜる。
鍋の中の液体が、魔力反応を起こして澄んだ緑色になれば、完成だ。
あとは鍋の中身を濾して、冷まして瓶に詰める──まるで料理みたいだ。
「水と薬草の分量は、そこに書いてあるやつを使う。火加減や、込める魔力の属性や魔力量によって、かなりポーションの質が変わってくる。質が均一なポーションを作れるようになったら、一人前だ」
魔術鍋の前には、分量が記されたレシピが貼り付けられていた。
レシピがずっとそこに貼ってあるためか、はたまた鍋の湯気にでもやられたのか、紙は黄ばんで、端っこが丸まっていた。
「よしっ。まずはノア、やってみようか」
「はいっ!」
俺はグラントさんがやった通りにポーションを作り始めた。
まずは、まな板とナイフで薬草を細かく均一に切り刻む。
「わぁ。丁寧なのに早い!」
「器用ね」
エラとリリアンは、感心しながら、じ~っと俺の作業を見ていた。
「そういえば、俺は『器用』っていうスキルを持ってるんだ」
あれ? もしかして「器用」スキルがここにきて役立ってる?
確かに、調薬って細かな作業が多いけど……
魔術鍋に分量の水と薬草を入れ、火にかけ、魔力を込めてかき混ぜる。
「このぐらいかな?」
レシピには「魔力:少々」と書かれていて、なんとも曖昧だ。
魔力を込めながらぐるぐるかき混ぜていくと、鍋の中身は、あっという間に魔力反応を起こして、濃い緑色の液体になった。
「わっ!? これって、やっちゃいましたか?」
「これは……」
俺がこわごわグラントさんの方を振り向くと、なぜだかすごく驚いていた。
グラントさんは、俺が作った濃い緑色の液体を濾すと、瓶に詰め始めた。
「ノアは『調薬』スキルは持ってるか?」
「いえ、持ってないです」
「それなら、新たに『調薬』スキルが付いたかもな……事務局にスキル板があるから、後で確認した方がいい」
「? はい」
グラントさんの言葉に、俺はとりあえず頷いた。
グラントさんは、俺が作った濃い緑色の液体について話し始めた。
「これは『調薬』スキル持ちが魔力を込めすぎた場合にできる、中級もどきの回復ポーションだ」
「中級もどき?」
エラがリスのように、くりっと小首を傾げた。
「初級の回復ポーションの材料だけで、中級の回復ポーション並みの効果があるんだ」
「「「えっ!?」」」
俺とリリアンとエラの、びっくりした声が合わさった。
「ただ、作れる者は少ないし、魔力量も結構必要になるから、量産するにはあまり効率的ではないんだ。ほとんど出回っていないから、知らなくても仕方ない」
「……そうなると、このポーションはどうするんですか?」
俺はおそるおそる、濃い緑色のポーションを指差した。十本はある。捨てるにはもったいない。
「騎士団が好んで買っていくから、できても問題はない」
「それなら、良かったです……」
俺はホッと息を吐いた。
グラントさんが「普通、作ってる途中で失敗するんだけどな……」とか何とか呟いていたが、初めてのポーション作りでいっぱいいっぱいだった俺は、聞き流すことにした。
次は聖女見習い二人のポーション作りだ。
リリアンとエラは伯爵令嬢と子爵令嬢らしく、こういった手を使う作業はあまりやったことがなかったみたいで、苦戦していた。
「次は失敗しませんわ」
「えへへ。練習が必要かも」
リリアンは少し不機嫌そうに、エラは笑って誤魔化していた。
「一発で成功するなんて、ノアは凄いですね」
「いや~、成功って言っていいのかな?」
エラに褒められて、俺は少し誤魔化した。あまり褒められ慣れてないから、ずいぶんと照れ臭い。
「でも、初級以上の回復ポーションができたじゃない。誇っていいはずだわ」
リリアンがそっぽを向きながら言った。
リリアンも、たぶん、褒めてるんだよね?
でも、リリアンの言葉はストレートで、なぜだかスッと俺の心に入ってきた。
「うん、そっかな。ありがとう」
初めてのポーション作りは、存外悪くなかった。
真新しい神官服に袖を通した。
俺の気持ちもパリッと引き締まる。
鏡の中の俺も、どことなく気合が入ったような顔つきになっていた。
詰襟の神官服は、全体的に白と青を基調としていて、襟元のラインだけ緑色だ。ここは属性ごとに色が異なっていて、制服の色を見ればどの属性の神官か分かるようになっているらしい。
ちなみに、緑色が癒し属性で、黄色が光属性、青色が聖属性だ。
支給されたフード付きのケープの裾にも、緑色のラインが入っていた。
「おっ。よく似合ってるな」
初日に宿舎まで案内してくれた先輩が、そのまま俺の指導役になった。
先輩の名前はグラントさん。癒し属性の上級神官だ。今朝、俺の制服を届けてくれた。
緑色の短髪で、ニカッと目尻に皺を寄せて笑う姿が、爽やかな好青年だ。
まだ教会には知り合いが少ないし、グラントさんは気さくで話しやすいから、彼が指導役だと聞いて嬉しかった。
「癒し属性の神官の仕事は、大まかに三つだ。治癒院での治療、ポーションや魔術薬の調薬、騎士団から要請があった時の支援だ」
グラントさんが歩きながら説明してくれた。
「騎士団からの要請はだいたい、年に数回だ。大抵は高ランク魔物の討伐や軍事演習の支援、結界張りの同行で、負傷者の治療がメインだな。普段は癒し属性の神官は、治癒院に来院した患者の治療か、ポーション作りをしている。早速だが、今日は調薬をやるぞ」
グラントさんに連れて来られたのは、調薬室だ。
一歩足を踏み入れると、独特な薬草や魔術薬の匂いが鼻をくすぐった。
壁沿いにはいくつも背の高い棚が並んでいて、ポーションや魔術薬の材料が置かれている。
テーブルの上には、ポーションを入れるためのガラス瓶や材料を細かく加工するための薬研やすり鉢が並び、かまどには調薬用の魔術鍋がいくつも置かれていた。
調薬室は、教会の裏手にある薬草園に繋がっているらしく、裏口の扉が付いていた。
調薬室内には、年若い聖女見習いや神官見習いが何人もいた。
「調薬は一人で学ぶより、何人かで一緒に学んだ方が、お互いの良い点悪い点が分かって、上達が早まるからな。ノアと同じチームは、あそこの子たちだな」
グラントさんが示した先には、調薬デスクのそばに座る二人の聖女見習いがいた。
「二人とも。彼が新しいチームメイトのノア君だ」
グラントさんは気軽に二人の聖女見習いに声をかけて、俺を紹介してくれた。
「中級神官のノアです。ノアと呼んでください」
俺はドキドキと緊張しながら挨拶をした。
「聖女見習いのリリアン・コールマンですわ。リリアンとお呼びください」
リリアンは、今まで見た女の子の中で一番美人だと思った。
淡い金髪の長い髪は清楚にハーフアップにまとめられていて、ツンと釣り上がった猫目の瞳はラベンダー色で、まさに高嶺の花のお嬢様だ。
どこか禁欲的な詰襟の聖女候補のワンピースを着ていても分かるほど、スタイルが抜群だ。
「聖女候補のエラ・キャンベルです。私もどうぞエラとお呼びください」
エラは、ココアブラウンのウェーブがかった柔らかい髪に、好奇心の強そうなペリドット色の瞳をしている。背も低くて小柄で、リスみたいな小動物系の可愛らしい女の子だ。
「中級神官なのに、調薬を?」
リリアンが尋ねてきた。
中級神官といえば、通常であれば治癒も解毒も調薬も一通り修めているはずだ。そうだよな。気になるよな。
「実は、今まで冒険者ギルドで治癒師をしていたので、神官に転職したばかりなんです」
同じチームだし、いつかはバレることだろうから、俺は正直に答えた。
「それでいきなり中級神官になったなんて、すごいですね! 治癒魔術が得意なんですか?」
エラがペリドット色の瞳を輝かせて、びっくりしていた。
「うん。まぁね」
俺は少し照れくさくて、曖昧に答えた。
「あら、そうですの」
リリアンはツンと澄ました顔で相槌を打っていた。
あれ? リリアンはあまり興味なさそうかな?
「ハイハイ。お互いを知り合うなら、追々ね。まずは基本のポーション作りね」
グラントさんが、注意を引きつけるように、パンパンッと手を叩いた。
グラントさんが説明してくれたのは、初級の回復ポーションだ。
ちょっとした怪我によく使われるもので、一番需要があるポーションらしく、教会でも常に在庫を切らさないようにしているらしい。
街の薬屋でもポーションは売っているけど、どうしてもポーションの作り手のレベルがまちまちになるから、店によって効果にばらつきが出てしまう。
それに比べて、教会は癒し属性の専門家が揃っているから、ポーションの質も高くて、効果も安定している。
その分、街の薬屋で買うよりも少し割高だ。
なので討伐や遠征に出る騎士や魔術師、少しお金に余裕がある家庭や稼いでいる冒険者なんかは、よく教会でポーションを買っている。
「初級の回復や解毒のポーションは、癒し属性のどの神官も聖女も作れるように必修になっている。調薬に適性が高いようなら、さらに薬師になって、もっと専門的な魔術薬やポーションを作れるようになるぞ……まぁ、とにかく、まずはポーションを作ってみるか」
グラントさんが簡単に必要な材料と作り方の流れを説明した後、俺たちは裏口の扉から薬草園に連れて行かれた。
今日のポーション作りは、薬草の生えている場所や採集の仕方からスタートする、本格的なものだ。
「きゃっ! 虫が!」
「うぅっ。上手く茎が切れない……」
聖女見習い二人は、慣れない作業に戸惑っているようだった。
「ノアはずいぶん手際がいいのね」
リリアンが俺の手元を覗き込んできた。虫にびっくりしたからか、ちょっぴり涙目だ。
「子供の頃から薬草採集はやってたからね」
俺は照れ隠しに、頬を指でポリポリ掻きながら言った。
「ノアは薬草の切り口も綺麗だな」
グラントさんが、中腰になって覗き込んできた。
「薬草の鮮度や扱い方で、ギルドでの買取価格が結構変わったので、丁寧に採るようにしてました」
俺は採集した薬草を、葉や茎にどこにも折れが無いように丁寧にまとめた。
「薬草の鮮度は、ポーションの質を左右するからな。まずは、ノアくらい綺麗に採れるようになるのが目標かな」
「「はい」」
グラントさんが説明すると、リリアンとエラは素直に頷いた。
薬草の採集が終わったら、今度こそポーション作りだ。
「薬草は生でも乾燥していても、ポーション作りの材料に使える。だが、新鮮な方が効果が高めに安定するから、教会では採りたての薬草を使うようにしている。早速、さっき採ってきたやつで作るか」
グラントさんが、まずは見本で一つ初級の回復ポーションを作った。
採りたての薬草を細かく刻んで、魔術鍋に水と一緒に入れて加熱し、癒し属性の魔力を込めながらかき混ぜる。
鍋の中の液体が、魔力反応を起こして澄んだ緑色になれば、完成だ。
あとは鍋の中身を濾して、冷まして瓶に詰める──まるで料理みたいだ。
「水と薬草の分量は、そこに書いてあるやつを使う。火加減や、込める魔力の属性や魔力量によって、かなりポーションの質が変わってくる。質が均一なポーションを作れるようになったら、一人前だ」
魔術鍋の前には、分量が記されたレシピが貼り付けられていた。
レシピがずっとそこに貼ってあるためか、はたまた鍋の湯気にでもやられたのか、紙は黄ばんで、端っこが丸まっていた。
「よしっ。まずはノア、やってみようか」
「はいっ!」
俺はグラントさんがやった通りにポーションを作り始めた。
まずは、まな板とナイフで薬草を細かく均一に切り刻む。
「わぁ。丁寧なのに早い!」
「器用ね」
エラとリリアンは、感心しながら、じ~っと俺の作業を見ていた。
「そういえば、俺は『器用』っていうスキルを持ってるんだ」
あれ? もしかして「器用」スキルがここにきて役立ってる?
確かに、調薬って細かな作業が多いけど……
魔術鍋に分量の水と薬草を入れ、火にかけ、魔力を込めてかき混ぜる。
「このぐらいかな?」
レシピには「魔力:少々」と書かれていて、なんとも曖昧だ。
魔力を込めながらぐるぐるかき混ぜていくと、鍋の中身は、あっという間に魔力反応を起こして、濃い緑色の液体になった。
「わっ!? これって、やっちゃいましたか?」
「これは……」
俺がこわごわグラントさんの方を振り向くと、なぜだかすごく驚いていた。
グラントさんは、俺が作った濃い緑色の液体を濾すと、瓶に詰め始めた。
「ノアは『調薬』スキルは持ってるか?」
「いえ、持ってないです」
「それなら、新たに『調薬』スキルが付いたかもな……事務局にスキル板があるから、後で確認した方がいい」
「? はい」
グラントさんの言葉に、俺はとりあえず頷いた。
グラントさんは、俺が作った濃い緑色の液体について話し始めた。
「これは『調薬』スキル持ちが魔力を込めすぎた場合にできる、中級もどきの回復ポーションだ」
「中級もどき?」
エラがリスのように、くりっと小首を傾げた。
「初級の回復ポーションの材料だけで、中級の回復ポーション並みの効果があるんだ」
「「「えっ!?」」」
俺とリリアンとエラの、びっくりした声が合わさった。
「ただ、作れる者は少ないし、魔力量も結構必要になるから、量産するにはあまり効率的ではないんだ。ほとんど出回っていないから、知らなくても仕方ない」
「……そうなると、このポーションはどうするんですか?」
俺はおそるおそる、濃い緑色のポーションを指差した。十本はある。捨てるにはもったいない。
「騎士団が好んで買っていくから、できても問題はない」
「それなら、良かったです……」
俺はホッと息を吐いた。
グラントさんが「普通、作ってる途中で失敗するんだけどな……」とか何とか呟いていたが、初めてのポーション作りでいっぱいいっぱいだった俺は、聞き流すことにした。
次は聖女見習い二人のポーション作りだ。
リリアンとエラは伯爵令嬢と子爵令嬢らしく、こういった手を使う作業はあまりやったことがなかったみたいで、苦戦していた。
「次は失敗しませんわ」
「えへへ。練習が必要かも」
リリアンは少し不機嫌そうに、エラは笑って誤魔化していた。
「一発で成功するなんて、ノアは凄いですね」
「いや~、成功って言っていいのかな?」
エラに褒められて、俺は少し誤魔化した。あまり褒められ慣れてないから、ずいぶんと照れ臭い。
「でも、初級以上の回復ポーションができたじゃない。誇っていいはずだわ」
リリアンがそっぽを向きながら言った。
リリアンも、たぶん、褒めてるんだよね?
でも、リリアンの言葉はストレートで、なぜだかスッと俺の心に入ってきた。
「うん、そっかな。ありがとう」
初めてのポーション作りは、存外悪くなかった。
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