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動乱篇
第四十六話:グリフォン砦攻防戦(後編)
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砦から、三つの属性が融合した、シルベリアの起死回生の一撃が放たれる。その、天地を揺るがすほどの魔力の奔流を前に、ダリウス将軍は、全てが計画通りに進んでいることに、確信の笑みを浮かべていた。
「ネメシス、起動。敵の魔力を、根こそぎ『収穫』せよ」
丘の裏に秘匿されていた新型魔導兵器『ネメシス』が起動する。機体に埋め込まれた漆黒の鉱石が、ブゥゥゥン…という地を這うような低い共振音と共に、この世の全ての魔力を喰らい尽くさんばかりに、その輝きを増していく。
シュゴオオオオオ…!
砦から放たれた巨大な魔力の奔流は、ネメシスの目前で、まるで巨大な口に吸い込まれるかのように、音もなく、完全に吸収されてしまった。
そして、敵の魔力を満タンまで吸収したネメシスは、即座にそれを必殺の魔力砲撃として撃ち返すべく、その砲口を、静かにグリフォンの砦へと向けた。砲口に、絶望的なまでの紫色の光が、バリバリバリッ!と空間を歪ませながら収束していく。
「放て」
ドォォォォォンッ!!!
ダリウスの冷徹な命令と共に、世界そのものに亀裂を入れるかのような、破壊の奔流が放たれた。
(終わりだ、シルベリア)
ダリウスは、完全な勝利を確信していた。
しかし、ネメシスの主砲が砦に着弾する、まさにその瞬間。
凄まじい破壊の光は、目標に到達する寸前で、まるで蜃気楼のように、何の抵抗もなく霧散した。
「な…何が起きている!? 報告しろ!」
ダリウスの怒声が飛ぶ。
「どうした!」「目標は!?」「消えました…!何の兆候もなく、ただ…!」
観測兵も、兵器のオペレーターも、何が起きたのか全く理解できずに混乱している。
彼らが混乱している、まさにその時。砦の最も高い尖塔に、一つの人影――ルシアン――が現れた。
彼が天にかざした手から、光が放たれる。
それは魔法ではない。魔力の揺らぎも、詠唱の気配もない。
ただ、純粋な、星そのものが地上に墜ちてきたかのような、絶対的な光の柱だった。
ゴオオオオオオオオオオオッ!
閃光が、帝国軍本陣の、第一ネメシスを直撃する。
ズドォォォォォォォンッ!!!
天と地を揺るがす轟音と衝撃波が、全てを薙ぎ払った。帝国の切り札の一基が、その周囲の部隊ごと、一瞬にして消し飛んだのだ。
辛うじて爆発を逃れたダリウスは、目の前で起きた光景に、初めて戦慄を覚える。
「馬鹿な…! ネメシスは、魔力を吸収するはずでは…!? 今のは、魔法ではないというのか!?」
彼の完璧なはずだった作戦が、今、根底から崩れ去ろうとしていた。
◇
「第一ネメシス、消滅! 司令部隊との連絡が途絶!」
「馬鹿な…! 何が起きた!?」
「不明です! 砦の尖塔から放たれた、正体不明の光によって…!」
帝国軍本陣は、瞬時にして混乱の坩堝と化した。絶対の切り札であったはずのネメシスが、いとも容易く破壊された。その事実は、ダリウスの完璧な絵図に、あり得べからざる亀裂を入れた。
その、混乱を助長するかのように、砦から再び、大規模な魔法の兆候が観測される。
「将軍! 砦より再び大規模な魔力の奔流を観測! 複数の属性が一点に集中していきます!」
観測兵の報告に、ダリウスは怒声で司令部を静めると、即座に次の一手を打った。
「うろたえるな! 第二ネメシスを起動! 砦からの魔法を、全て吸収しろ!」
丘の裏に隠されていた、最後の一基が起動する。
砦の上空では、シルベリアの魔術師たちの総力を結集したであろう、赤、金、翠色の三つの光が渦を巻き、一つの巨大な光の槍へと姿を変えていた。
「来るぞ!!」
光の槍が、帝国軍本陣めがけて放たれる。しかし、その軌道上に、ネメシスの黒い機体が立ちはだかった。
シュゴオオオオオ…!
光の槍は、ネメシスの目前で、まるで巨大な口に吸い込まれるかのように、音もなく、完全に吸収されてしまった。
遠見の水晶には、自分たちの攻撃がまたしても消え去ったことに、砦の魔術師たちが動揺している様子が、かすかに映し出されている。
(…ふん、二基目があるとは思わなかったようだな)
ダリウスは、まだ勝機はあると確信した。
「よし、作戦続行! 溜め込んだ力で、今度こそ城壁を吹き飛ばせ!」
第二ネメシスの砲口に、再び紫色の破壊の光が、バリバリバリッ!と空間を歪ませながら収束していく。
ゴオオオオオオオッ!
今度こそ、妨害は入らない。紫色の破壊の奔流が、砦の城壁へと放たれた。
ズガアアアアアンッ!!!
轟音と共に、砦の城壁に直撃した。シルベリア兵が必死に展開したであろう魔法障壁は、薄いガラスのように砕け散り、その奥にある分厚い城壁の一角が、まるで砂の城のように、塵となって消滅した。
巨大な突破口が、黒い煙を上げて、ぽっかりと口を開けている。
◇
「よし!作戦通り、全軍突撃ィィィッ!!」
ダリウスの号令が、戦場に響き渡った。
鋼鉄の奔流が、砦の突破口へと殺到する。勝利は、再び帝国の手にあるはずだった。
しかし、その時。
突破口の奥から、まばゆいばかりの黄金の光が放たれた。突撃していた帝国軍の先鋒が、まるで見えない壁に阻まれたかのように、押し戻されていく。
「何事だ!?」
ダリウスが叫ぶ。
その直後、天が裂けたかのような稲光が、帝国軍の左翼に突き刺さった。さらに、右翼からは、全てを浄化するかのごとき純白の炎が立ち上る。
砦の周辺に展開していた兵力が、一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とされた。
「なんだ!? 聞いていないぞ、あのような高出力の魔法など!!」
ダリウスの司令部に、前線からの悲鳴のような報告が次々と飛び込んでくる。
「早く、ネメシスの第二波の準備だ! 魔力吸収を再開しろ! 主砲の冷却はまだか!」
「魔力吸収はいつでも可能ですが、主砲の冷却に、まだ時間がかかります!」
(くそっ! まだ実戦では、砲身の冷却時間がネックか…!)
「相手の大規模魔法が来る前までになんとかしろ! 作戦変更だ! 魔術師団! 最高出力で攻撃! あの三人を砦に釘付けにしろ!」
帝国魔術師団から、数百の魔法がシルベリア陣地へと放たれ、巨大な爆発を引き起こす。
「よしいいぞ! 続いて騎馬隊も突撃! 一気に攻めつつ、時間を稼げ! ネメシスは冷却を急げ!」
だが、前線からの報告は、絶望的なものだった。
「駄目です! シルベリア兵が、倒れても倒れても立ち上がってきます! なぜか、すぐに傷が癒え、前線を維持している模様! 状況が打開できません!」
「クソッ! 我々が把握していない能力か…厄介な…! だが…!」
ダリウスが、歯噛みした、その時だった。
待ち望んだ声が、司令部に響き渡った。
◇
「将軍! ネメシス、主砲冷却完了! いつでも撃てます!」
ダリウスは勝利を確信した。
「よし! 敵の魔法を待つ必要はない! 魔術師団、ネメシスに魔力を注ぎ込め! 強制的に充填させるのだ!」
その非情な命令に、魔術師団長は一瞬ためらうが、すぐに覚悟を決めた。
「全魔術師団、聞け! 我が身の魔力の全てを、ネメシスに捧げよ!」
五百名の帝国魔術師から放たれた、色とりどりの魔法の奔流が、第二ネメシスへと注ぎ込まれていく。機体は、自軍の魔力すら貪欲に喰らい尽くし、その砲口に、先程とは比較にならないほど、禍々しく、そして凝縮された破壊の光を収束させていった。
バリバリバリッ!
空間が悲鳴を上げ、大地が震える。砲口に生まれた紫色の太陽は、もはや砦一つを消し飛ばすどころか、この一帯の地図を塗り替えかねないほどの、絶対的な破壊の化身と化していた。
(これで、終わりだ! あの忌々しい砦の中枢ごと、全てを吹き飛ばせば、一気に勝負は決まる!)
「ネメシス、魔力充填完了!」
「よしっ! 放…」
ダリウスが、勝利を確信して叫ぼうとした、その時だった。
――また、閃光。
天から降り注いだそれは、一度目よりも、さらに巨大で、神々しく、そしてあまりにも静かな、純粋な光の奔流だった。それは、まるで天そのものが、地上の愚かな争いを裁くために降らせた、裁きの光柱。
(馬鹿な…! 砦からだと!? あの距離から、これほどの攻撃を、寸分の狂いもなく、我らの頭上へ…!?)
ダリウスは、その光が、砦の尖塔から放たれ、美しい放物線を描くように、寸分の狂いもなく自らの頭上へと降り注いでいることに気づき、初めて、その顔に純粋な恐怖を浮かべた。
(我らは、盤上で戦っていたのではなかったのか…? 違う…奴は、最初から、盤そのものを見ていたというのか…!)
【竜星の咆哮】の第二射が、帝国軍司令部の頭上に着弾した。
世界から、音が消えた。
次の瞬間、凄まじい光と衝撃波が、全てを飲み込んだ。大地はえぐられ、鋼鉄の鎧は蒸発し、悲鳴を上げる間もなく、第二ネメシスと、ダリウスがいた司令部隊の全てが、その絶対的な光の中に、跡形もなく消滅した。
戦場に、一瞬の静寂が訪れる。
指揮系統と最強兵器を同時に失った帝国軍の兵士たちは、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と、かつて司令部があった場所を見つめていた。
その静寂を破ったのは、砦から響き渡る、地鳴りのような雄叫びだった。
「総員、突撃ィィィッ!!」
城門から、そして巨大な突破口から、シルベリアの兵士たちが、堰を切ったように溢れ出した。
その先頭に立つのは、黄金の翼を広げたユリウス。彼の翼から放たれる慈愛の光が、傷ついた兵士を癒し、その士気を極限まで高めていく。
そして、その両翼を、二人の魔女が悪夢のように蹂躙していく。エリアナが放つ太陽の炎の薙ぎ払いが、帝国兵の盾ごと蒸発させ、レンの雷霆が、指揮官と思しき兵士たちを次々と貫いていく。
指揮系統と最強兵器を同時に失い、さらには人知を超えた三体の『怪物』に蹂躙された帝国軍は、もはや軍隊ではなかった。ただの、逃げ惑う烏合の衆だった。
帝国軍は、その兵力の六割を失い、ただ、潰走した。
戦場に響き渡るのは、シルベリア王国の、勝利を告げる歓声だけだった。
「ネメシス、起動。敵の魔力を、根こそぎ『収穫』せよ」
丘の裏に秘匿されていた新型魔導兵器『ネメシス』が起動する。機体に埋め込まれた漆黒の鉱石が、ブゥゥゥン…という地を這うような低い共振音と共に、この世の全ての魔力を喰らい尽くさんばかりに、その輝きを増していく。
シュゴオオオオオ…!
砦から放たれた巨大な魔力の奔流は、ネメシスの目前で、まるで巨大な口に吸い込まれるかのように、音もなく、完全に吸収されてしまった。
そして、敵の魔力を満タンまで吸収したネメシスは、即座にそれを必殺の魔力砲撃として撃ち返すべく、その砲口を、静かにグリフォンの砦へと向けた。砲口に、絶望的なまでの紫色の光が、バリバリバリッ!と空間を歪ませながら収束していく。
「放て」
ドォォォォォンッ!!!
ダリウスの冷徹な命令と共に、世界そのものに亀裂を入れるかのような、破壊の奔流が放たれた。
(終わりだ、シルベリア)
ダリウスは、完全な勝利を確信していた。
しかし、ネメシスの主砲が砦に着弾する、まさにその瞬間。
凄まじい破壊の光は、目標に到達する寸前で、まるで蜃気楼のように、何の抵抗もなく霧散した。
「な…何が起きている!? 報告しろ!」
ダリウスの怒声が飛ぶ。
「どうした!」「目標は!?」「消えました…!何の兆候もなく、ただ…!」
観測兵も、兵器のオペレーターも、何が起きたのか全く理解できずに混乱している。
彼らが混乱している、まさにその時。砦の最も高い尖塔に、一つの人影――ルシアン――が現れた。
彼が天にかざした手から、光が放たれる。
それは魔法ではない。魔力の揺らぎも、詠唱の気配もない。
ただ、純粋な、星そのものが地上に墜ちてきたかのような、絶対的な光の柱だった。
ゴオオオオオオオオオオオッ!
閃光が、帝国軍本陣の、第一ネメシスを直撃する。
ズドォォォォォォォンッ!!!
天と地を揺るがす轟音と衝撃波が、全てを薙ぎ払った。帝国の切り札の一基が、その周囲の部隊ごと、一瞬にして消し飛んだのだ。
辛うじて爆発を逃れたダリウスは、目の前で起きた光景に、初めて戦慄を覚える。
「馬鹿な…! ネメシスは、魔力を吸収するはずでは…!? 今のは、魔法ではないというのか!?」
彼の完璧なはずだった作戦が、今、根底から崩れ去ろうとしていた。
◇
「第一ネメシス、消滅! 司令部隊との連絡が途絶!」
「馬鹿な…! 何が起きた!?」
「不明です! 砦の尖塔から放たれた、正体不明の光によって…!」
帝国軍本陣は、瞬時にして混乱の坩堝と化した。絶対の切り札であったはずのネメシスが、いとも容易く破壊された。その事実は、ダリウスの完璧な絵図に、あり得べからざる亀裂を入れた。
その、混乱を助長するかのように、砦から再び、大規模な魔法の兆候が観測される。
「将軍! 砦より再び大規模な魔力の奔流を観測! 複数の属性が一点に集中していきます!」
観測兵の報告に、ダリウスは怒声で司令部を静めると、即座に次の一手を打った。
「うろたえるな! 第二ネメシスを起動! 砦からの魔法を、全て吸収しろ!」
丘の裏に隠されていた、最後の一基が起動する。
砦の上空では、シルベリアの魔術師たちの総力を結集したであろう、赤、金、翠色の三つの光が渦を巻き、一つの巨大な光の槍へと姿を変えていた。
「来るぞ!!」
光の槍が、帝国軍本陣めがけて放たれる。しかし、その軌道上に、ネメシスの黒い機体が立ちはだかった。
シュゴオオオオオ…!
光の槍は、ネメシスの目前で、まるで巨大な口に吸い込まれるかのように、音もなく、完全に吸収されてしまった。
遠見の水晶には、自分たちの攻撃がまたしても消え去ったことに、砦の魔術師たちが動揺している様子が、かすかに映し出されている。
(…ふん、二基目があるとは思わなかったようだな)
ダリウスは、まだ勝機はあると確信した。
「よし、作戦続行! 溜め込んだ力で、今度こそ城壁を吹き飛ばせ!」
第二ネメシスの砲口に、再び紫色の破壊の光が、バリバリバリッ!と空間を歪ませながら収束していく。
ゴオオオオオオオッ!
今度こそ、妨害は入らない。紫色の破壊の奔流が、砦の城壁へと放たれた。
ズガアアアアアンッ!!!
轟音と共に、砦の城壁に直撃した。シルベリア兵が必死に展開したであろう魔法障壁は、薄いガラスのように砕け散り、その奥にある分厚い城壁の一角が、まるで砂の城のように、塵となって消滅した。
巨大な突破口が、黒い煙を上げて、ぽっかりと口を開けている。
◇
「よし!作戦通り、全軍突撃ィィィッ!!」
ダリウスの号令が、戦場に響き渡った。
鋼鉄の奔流が、砦の突破口へと殺到する。勝利は、再び帝国の手にあるはずだった。
しかし、その時。
突破口の奥から、まばゆいばかりの黄金の光が放たれた。突撃していた帝国軍の先鋒が、まるで見えない壁に阻まれたかのように、押し戻されていく。
「何事だ!?」
ダリウスが叫ぶ。
その直後、天が裂けたかのような稲光が、帝国軍の左翼に突き刺さった。さらに、右翼からは、全てを浄化するかのごとき純白の炎が立ち上る。
砦の周辺に展開していた兵力が、一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とされた。
「なんだ!? 聞いていないぞ、あのような高出力の魔法など!!」
ダリウスの司令部に、前線からの悲鳴のような報告が次々と飛び込んでくる。
「早く、ネメシスの第二波の準備だ! 魔力吸収を再開しろ! 主砲の冷却はまだか!」
「魔力吸収はいつでも可能ですが、主砲の冷却に、まだ時間がかかります!」
(くそっ! まだ実戦では、砲身の冷却時間がネックか…!)
「相手の大規模魔法が来る前までになんとかしろ! 作戦変更だ! 魔術師団! 最高出力で攻撃! あの三人を砦に釘付けにしろ!」
帝国魔術師団から、数百の魔法がシルベリア陣地へと放たれ、巨大な爆発を引き起こす。
「よしいいぞ! 続いて騎馬隊も突撃! 一気に攻めつつ、時間を稼げ! ネメシスは冷却を急げ!」
だが、前線からの報告は、絶望的なものだった。
「駄目です! シルベリア兵が、倒れても倒れても立ち上がってきます! なぜか、すぐに傷が癒え、前線を維持している模様! 状況が打開できません!」
「クソッ! 我々が把握していない能力か…厄介な…! だが…!」
ダリウスが、歯噛みした、その時だった。
待ち望んだ声が、司令部に響き渡った。
◇
「将軍! ネメシス、主砲冷却完了! いつでも撃てます!」
ダリウスは勝利を確信した。
「よし! 敵の魔法を待つ必要はない! 魔術師団、ネメシスに魔力を注ぎ込め! 強制的に充填させるのだ!」
その非情な命令に、魔術師団長は一瞬ためらうが、すぐに覚悟を決めた。
「全魔術師団、聞け! 我が身の魔力の全てを、ネメシスに捧げよ!」
五百名の帝国魔術師から放たれた、色とりどりの魔法の奔流が、第二ネメシスへと注ぎ込まれていく。機体は、自軍の魔力すら貪欲に喰らい尽くし、その砲口に、先程とは比較にならないほど、禍々しく、そして凝縮された破壊の光を収束させていった。
バリバリバリッ!
空間が悲鳴を上げ、大地が震える。砲口に生まれた紫色の太陽は、もはや砦一つを消し飛ばすどころか、この一帯の地図を塗り替えかねないほどの、絶対的な破壊の化身と化していた。
(これで、終わりだ! あの忌々しい砦の中枢ごと、全てを吹き飛ばせば、一気に勝負は決まる!)
「ネメシス、魔力充填完了!」
「よしっ! 放…」
ダリウスが、勝利を確信して叫ぼうとした、その時だった。
――また、閃光。
天から降り注いだそれは、一度目よりも、さらに巨大で、神々しく、そしてあまりにも静かな、純粋な光の奔流だった。それは、まるで天そのものが、地上の愚かな争いを裁くために降らせた、裁きの光柱。
(馬鹿な…! 砦からだと!? あの距離から、これほどの攻撃を、寸分の狂いもなく、我らの頭上へ…!?)
ダリウスは、その光が、砦の尖塔から放たれ、美しい放物線を描くように、寸分の狂いもなく自らの頭上へと降り注いでいることに気づき、初めて、その顔に純粋な恐怖を浮かべた。
(我らは、盤上で戦っていたのではなかったのか…? 違う…奴は、最初から、盤そのものを見ていたというのか…!)
【竜星の咆哮】の第二射が、帝国軍司令部の頭上に着弾した。
世界から、音が消えた。
次の瞬間、凄まじい光と衝撃波が、全てを飲み込んだ。大地はえぐられ、鋼鉄の鎧は蒸発し、悲鳴を上げる間もなく、第二ネメシスと、ダリウスがいた司令部隊の全てが、その絶対的な光の中に、跡形もなく消滅した。
戦場に、一瞬の静寂が訪れる。
指揮系統と最強兵器を同時に失った帝国軍の兵士たちは、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と、かつて司令部があった場所を見つめていた。
その静寂を破ったのは、砦から響き渡る、地鳴りのような雄叫びだった。
「総員、突撃ィィィッ!!」
城門から、そして巨大な突破口から、シルベリアの兵士たちが、堰を切ったように溢れ出した。
その先頭に立つのは、黄金の翼を広げたユリウス。彼の翼から放たれる慈愛の光が、傷ついた兵士を癒し、その士気を極限まで高めていく。
そして、その両翼を、二人の魔女が悪夢のように蹂躙していく。エリアナが放つ太陽の炎の薙ぎ払いが、帝国兵の盾ごと蒸発させ、レンの雷霆が、指揮官と思しき兵士たちを次々と貫いていく。
指揮系統と最強兵器を同時に失い、さらには人知を超えた三体の『怪物』に蹂躙された帝国軍は、もはや軍隊ではなかった。ただの、逃げ惑う烏合の衆だった。
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