星を継ぐ少年 ~祈りを受け継ぎし救世主、星命創造の力で世界を変え、星の危機に挑む~

cocososho

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動乱篇

第四十七話:英雄

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帝国軍を退けたシルベリア兵たちの、地鳴りのような歓声が、グリフォンの砦に響き渡っていた。崩れた城壁、立ち上る黒煙、そして大地に刻まれた無数の傷跡。その全てが、先程までの死闘の激しさを物語っている。
その歓喜の輪の中心には、一人、静かに戦場を見つめる、弱冠16歳の少年の姿があった。

この、誰もが奇跡と呼ぶ勝利は、しかし、決して偶然の産物ではなかった。
それは、数週間前の、あの戦略会議から始まっていたのだ。



(回想:王都、戦略会議室)

「――以上が、帝国軍の戦力分析だ」
カインが報告を終えると、会議室は重い沈黙に包まれた。絶望的な戦力差を前に、シルベリアの将軍たちは、なすすべなく俯いている。
その沈黙を破ったのは、ルシアンだった。

「この作戦の要は、敵の切り札を、我々の引き金として利用することです」

彼は、地図の上に駒を置きながら、その驚くべき作戦の全貌を語り始めた。

「まず、第一の手。エリアナとレンの二人には、その高速移動を活かして、敵の攻城兵器に強力な一撃を加えては即座に姿を消す、というヒット&アウェイ戦術を繰り返してもらいます。これにより、進軍速度を遅らせるのです。その間、俺とネロは、完全に気配を消して潜伏します」

「次に、第二の手。戦況が膠着し、敵が焦り始めた頃合いを見計らい、こちらも勝負を仕掛けます。エリアナ、レン、そしてユリウスの三人が城門の真上に集結し、砦の全魔力を集めたかのような、偽りの超大規模魔法の詠唱を開始する。これは演技ですが、敵には、自軍が壊滅しかねない必殺の一撃に見えるはずです。奴らが持っていると想定される、魔法を妨害する切り札を、ここで使わせるのです」

ルシアンは、そこで一度、言葉を切った。

「そして、第三の手。敵が切り札を発動した、その瞬間。隠していたネロが、その効果を完全に無力化します。必殺兵器が理由も分からず不発に終わった敵本陣は、最大の混乱に陥るでしょう」

「最後に、敵が混乱の極みにある、まさにその時。今まで沈黙を守っていた俺が、砦の最も高い尖塔から【竜星の咆哮】を、混乱している敵の本陣、すなわち指揮系統と沈黙した切り札に向けて放ちます。頭脳と切り札を同時に失った軍隊など、もはやただの烏合の衆。そこを、城門を開いた精鋭部隊で一気に叩く」

その、あまりにも大胆で、しかし唯一の勝ち筋を示した少年の言葉に、絶望に沈んでいた将軍たちの目に、初めて確かな希望の光が宿ったのだった。



そして、運命の日。戦いは、当初ルシアンの描いた絵図通りに進んでいた。
エリアナとレンの二人が、その圧倒的な機動力で帝国軍の攻城兵器を次々と破壊し、ユリウスの支援魔法が、砦の兵士たちの士気を極限まで高める。

やがて、敵の焦りが頂点に達したのを見計らい、エリアナ、レン、ユリウスの三人は、砦の中央、城門の真上へと集結。天地を揺るがすほどの、偽りの超大規模魔法の詠唱を開始する。

その、あまりにも巨大な魔力の奔流を前に、帝国軍はついに、その切り札を姿を現した。
丘の裏から、ゆっくりと姿を現す、巨大な黒い機体。ルシアンですら、その存在を予測できていなかった、未知の兵器だった。

(あれが…帝国の秘密兵器…! 想像以上の大きさだ…!)
ルシアンは【星見の瞳】で、ネメシスから放たれる、禍々しいまでの魔力の波動を観測し、その脅威に戦慄する。
(だが、動きは作戦通り。魔法発動の兆候で起動した。間違いなく、魔法を妨害する何らかの装置のはずだ)

作戦を止めるわけにはいかない。

「放て!」

エリアナたちの偽りの大規模魔法が、帝国軍陣地めがけて放たれる。しかし、その魔法は、ネメシスの目前で、まるで巨大な口に吸い込まれるかのように、音もなく、完全に吸収されてしまった。

「魔法を吸収する装置か…!」
ルシアンがそう呟いた、次の瞬間。
彼の【星見の瞳】が、ネメシスの砲口に、あり得ないほどの魔力が、一点に収束していくのを捉えた!

「違う! 吸収するだけじゃない! あれは、撃ち返してくる気だ! 全員、最大防御!」

ルシアンの絶叫と同時に、ネメシスから、絶望的なまでの紫色の破壊の光が放たれた。
「クソッ! あれが、奴らの本当の切り札か!」

「ネロ! 頼む!」

ルシアンの叫びに、彼の影から、漆黒の相棒が飛び出す。

ネロは、その小さな体から、光すら飲み込むほどの巨大な闇の渦を発生させると、ネメシスの魔力砲撃を、跡形もなく飲み込んでしまった。霧散したエネルギーの余波が、戦場に静かに散っていく。

(まずい…! 作戦では、無効化した隙に、司令部隊ごと吹き飛ばすはずだったが…! あの兵器、予想以上に厄介だ。今、ここですぐ破壊するしかない!)
焦りから、ルシアンは間髪入れず、砦の尖塔から【竜星の咆哮】を放った。
星そのものが地上に墜ちてきたかのような絶対的な光の柱が、ネメシスを直撃し、その機体と周囲を跡形もなく消し飛ばした。

(想定よりも相手の切り札が強力だった…これで終わってくれれば良いが…)
一方、ルシアンの一抹の不安とは別にその、あまりにも衝撃的な一撃に、シルベリアの兵士たちからは、地鳴りのような歓声が上がっていた。



「みんな、今なら魔法が届くはずだ! 一気に叩くぞ!」
(ここは予定通り、攻勢に出るぞ!)

ルシアンの檄が、砦中に響き渡る。
その言葉に応え、エリアナ、レン、そしてユリウスが、再び城門の上へと集結した。
「くらえっ!」
三人の魔力が一つとなり、巨大な光の槍となって帝国軍陣地へと放たれる。

しかし、その光の槍が着弾する寸前、帝国軍の後方から、もう一基の『ネメシス』が、その黒い巨体を現した。
「何!? もう一基あったのか!」
ルシアンが驚愕するも、時すでに遅し。光の槍は、先程と同様、ネメシスの目前で、音もなく完全に吸収されてしまった。

そして、即座に、その砲口に絶望的なまでの紫色の光が収束していく。
「まずい! ネロも、今は動けない! みんな、最大防御だ!!」

次の瞬間。

ズガアアアアアアアアアアンッ!!!

世界が、白く染まった。
ネメシスの砲撃は、シルベリア兵が必死に展開した魔法障壁を紙のように引き裂き、グリフォンの砦の城壁そのものを、塵となって消し飛ばした。
凄まじい轟音と衝撃波が、砦全体を揺るがし、多くの兵士たちが、ただの衝撃だけで吹き飛ばされていく。


「み、みんな、大丈夫か!」
(相手の力を見誤った…!みんな…すまない)


爆風に吹き飛ばされながらも、ルシアンは叫ぶ。ユリウスもまた、自らの傷を顧みず、すぐさま黄金の翼を広げ、負傷した仲間たちに癒しの光を降り注ぎ始めた。砦の救護班も、準備していた物資を湯水のごとく消費しながら、必死に応急処置を進めていく。

負傷者は多数。だが、ユリウスの回復支援を受けながら、シルベリア兵は崩壊した城壁の前に、即座に防御陣形を組み上げた。

「突撃ィィィッ!!」
帝国兵が、巨大な突破口から雪崩を打って殺到する。

「行かせるもんですか!!」

レンの雷霆が、突撃してくる騎馬兵を貫き、エリアナの太陽の炎が、重装歩兵の盾を溶かす。ユリウスの支援魔法によって能力を底上げされたシルベリア兵もまた、鬼神のごとき奮戦で、帝国軍の猛攻を食い止めていた。

ルシアンは、戦況を分析する。
(まずいぞ。相手の切り札は予備もあったか…少し作戦と変わってきたが、どうする?…次の砲撃は?すぐには来ない?時間がかかるのか…?だが、まだ何か隠している可能性もある。俺の【竜星の咆哮】も、無闇には使えないが…)

「…!?」
そして見つめた先、驚くべきことにユリウス、エリアナ、レンの三人が中心となり、シルベリア軍が、数で勝るはずの帝国軍を、逆に押し戻し始めていた。
(すごい…)

その光景に、ルシアンの心に、一つの確信が生まれた。



「みんな…!」

ルシアンは、戦況を見つめていた。ユリウスの黄金の翼が、エリアナの太陽の炎が、そしてレンの雷霆が、帝国軍の鋼鉄の奔流を、凌駕している。今、戦況の潮目が変わっている…!
(そうか…悩んでいる暇はない。ここで全力で敵を討つ!)

「全力で行くぞ!!!」
ルシアンは、天を仰ぎ、精神を極限まで集中させる。彼の瞳に、再び、星々がまたたく宇宙が宿った。

直後、【星見の瞳】が、帝国軍の後方で、おびただしい数の魔力が、一つの地点へと急速に収束していくのを捉える…
(自軍の魔術師を使って、強制的に充填しているのか…向こうも焦っているな…先に動いて正解だった!!)

(これでも、くらえぇ!!!)
カッッッッ!!!

一瞬の閃光、ルシアンの最強の一撃が、ネメシスに一足先んじて、放たれた。

天から降り注いだそれは、一度目よりも、さらに巨大で、神々しく、そしてあまりにも静かな、純粋な光の奔流だった。
それは、まるで天そのものが、地上の愚かな争いを裁くために降らせた、裁きの光柱。
2基目のネメシスと、その周囲にいた帝国軍の魔術師団、そして後方部隊の全てを、その絶対的な光の中に飲み込んだ。



………



次の瞬間!
凄まじい光と衝撃波が、全てを飲み込んだ。大地はえぐられ、鋼鉄の鎧は蒸発し、悲鳴を上げる間もなく、帝国の切り札と、その周辺にいた数万の兵士が、跡形もなく消滅した。

戦場に、一瞬の静寂が訪れる。
指揮系統と最強兵器を同時に失った帝国軍の兵士たちは、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と、かつて仲間がいた場所を見つめていた。

その静寂を破ったのは、ルシアンの、戦場全体に響き渡る、魂の叫びだった。



「今だぁぁぁ!!!!! 総員、突撃ィィィッ!!!!!」



その言葉を合図に、ルシアン、エリアナ、レン、ユリウスの四人を先頭に、シルベリアの兵士たちが、堰を切ったように溢れ出した。
指揮系統を失い、完全に混乱している帝国軍は、もはや軍隊ではなかった。ただの、逃げ惑う烏合の衆だった。

こうして、圧倒的な不利と見られた一戦は、シルベリアの、奇跡としか言いようのない圧勝という形で、その幕を閉じたのだった。
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