星を継ぐ少年 ~祈りを受け継ぎし救世主、星命創造の力で世界を変え、星の危機に挑む~

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動乱篇

第四十八話:王都の喝采

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グリフォンの砦での、信じがたいほどの圧倒的な勝利。
その報せは、翼を持つ伝令魔獣によって、その日のうちに王都へと届けられた。当初、そのあまりにも劇的な内容に、王宮内は混乱と不信に包まれた。「馬鹿な!」「帝国の罠ではないのか!」と、歴戦の将軍たちですら、その報告を信じようとはしなかった。
だが、次々と舞い込む、帝国軍潰走の続報によって、それは紛れもない事実であると証明される。やがて、混乱は熱狂的な歓喜の渦へと変わり、王都は数十年ぶりの大勝利に沸き立った。

数日後、ルシアンたちが王都へ帰還すると、彼らを待っていたのは、道という道を埋め尽くす、民衆からの大歓声だった。
「英雄の凱旋だ!」「ルシアン様!」「エリアナ様!」
花びらが舞い、英雄たちの名を呼ぶ声が、割れんばかりに響き渡る。ルシアンたちは、その熱狂ぶりに、ただ戸惑いながら、王城へと向かった。

王城での戦勝報告。国王アラルディスと、シルベリアの重鎮たちが並ぶ謁見の間で、ガウェイン騎士団長が、まだ興奮冷めやらぬ、しかし震える声でその戦果を報告した。

「報告します! グリフォンの砦攻防戦、我らシルベリア王国軍の、完全なる勝利にございます!」
その言葉に、謁見の間がどよめく。

「帝国軍の被害は甚大。司令官であったダリウス将軍は戦死。その司令部隊も、彼らの切り札であった正体不明の巨大魔導兵器二基と共に、完全に消滅!」
「なんだと…!?」
「ダリウス将軍が、死んだ…?」
貴族や将軍たちの囁きが、波のように広がっていく。

ガウェインは、構わず続けた。
「さらに、主力であった第一軍団(重装歩兵)、及び、帝国が誇る魔術師団は壊滅。第二軍団(重装騎馬兵)も、追撃によって半数以上を失い、潰走。帝国は、この一戦で、前線兵力の六割以上を喪失したものと推定されます!」

その、誰もが予想しえなかった圧倒的勝利に、その場にいた誰もが言葉を失っていた。
国王アラルディスは、玉座から立ち上がると、信じられないといった表情で、しかしその瞳に確かな光を宿して、ガウェインに問いかけた。
「…ガウェインよ。それは、まことか。あの帝国を、これほどまでに打ち破ったというのか」

「はっ。全て、ルシアン殿の、神懸かりとしか言いようのない知略と、彼とその仲間たちが持つ、規格外の力によるもの。このガウェイン、生涯でこれほどの戦いは、見たことがございません」

国王は、玉座を降り、ルシアンたちの前まで歩み寄ると、高らかに宣言した。
「まずは、この国を救った全ての兵士たちに、十分な休息を! そして何より、この奇跡を成し遂げた英雄たちに、最大限の賞賛と栄誉を!」

クロスロードとアステリアには、後方支援に対する国家としての正式な褒賞が。そして、ルシアンたち個人には、ほぼ独力でこの戦争を圧勝に導いた、その功績に見合う、破格の褒賞が与えられることが、その場で約束されたのだった。



その頃、ヴァルカス帝国、帝都の玉座の間。
皇帝ザハールは、グリフォンの砦から届くはずの、勝利の報せを待っていた。ダリウスの完璧な作戦。揺るぎない戦力差。勝利以外の未来など、あり得なかった。

しかし、玉座の間に駆け込んできた伝令兵の顔は、血の気を失い、絶望に染まっていた。
「も、申し上げます! グリフォンの砦にて、我が軍は…! 我が軍は、壊滅いたしました!」

「……は?」

ザハールは、その言葉の意味が理解できず、ただ呆然と問い返した。
伝令兵が、震える声で同じ言葉を繰り返す。その、あまりにも現実離れした報告に、皇帝の表情から、ゆっくりと血の気が引いていく。

「何を…何を言っている…? ダリウスと、二基のネメシスがおって、負けるはずがないだろうが!」
彼の声は、やがて怒声へと変わった。
「ま、まだ軍は残っているのだろう!? すぐにでも反撃を開始させよ!」

しかし、その言葉を遮るように、老宰相が震える声で進み出た。
「陛下…! 詳細な報告が…!」

宰相が読み上げる内容は、ザハールの、そして帝国の絶対的な自信を、根底から打ち砕くものだった。
ダリウス将軍以下、司令官たちが全員戦死。二基のネメシスは完全に消滅。主力であった第一軍団と魔術師団は壊滅。そして、潰走した兵の一部が、統制を失って暴徒化し、帝国内の村々で略奪を始めている、と。
もはや、すぐに体制を立て直せる状況ではなかった。

「なんということだ…なんと…」
皇帝は、そのあまりの事態に、もはや怒りすら忘れ、ただ呆然と呟くことしかできない。
「ネメシスは…? ネメシスはどうした? あれは、魔法を吸収するはずだ…! あの小僧は、一体、何をしたというのだ…?」

その問いに、答えられる者は誰もいない。
ザハールは、玉座から崩れ落ちるように倒れ、側近たちに抱えられて自室へと運ばれていく。

静まり返った玉座の間で、老宰相が一人、震える声で呟いた。
「ルシアン…。報告によれば、彼が放った光は、魔法ではなかったと…。もはや人間が立ち向かえる相手ではない。我らは、神話にでも手を出してしまったというのか…」

帝国の絶対的な自信は、この日、一人の少年によって、完全に砕け散った。



王都での熱狂が少しだけ落ち着きを取り戻した、数日後のこと。
休息を終えたルシアンたちが滞在する屋敷に、王城からの使者が訪れ、国王主催の祝賀会及び褒賞授与式が、三日後に執り行われるという知らせを届けた。

「祝賀会…!」
エリアナは、その知らせに、ぱあっと顔を輝かせた。
「大変! ルシアン、準備をしなくちゃ! 一緒に、王都のお店を見に行きましょう!」
彼女は、目を輝かせながら、有無を言わさずルシアンの腕を取った。

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、それまで静かにお茶を飲んでいたレンが、すっと立ち上がり、真顔で告げる。
「私も行きます」

「なっ…!」「当然です」
エリアナとレンの間で、見えない火花が散る。
ルシアンは、両腕を二人にがっちりと固められ、深く、深いため息をついた。
「…分かったから。仲良くしてくれよ…」

三人(と、ルシアンのバッグに隠れるネロ)は、王都の華やかな大通りへと繰り出した。
エリアナは、高級な仕立て屋に入るなり、目を輝かせながらルシアンの衣装を楽しそうに選び始める。「ルシアンには、やっぱり白が似合うと思うの!」「こっちの青いのも素敵よ!」
しかし、その隣から、レンが冷静な声で口を挟む。「いいえ。彼の髪の色と瞳を考えれば、こちらの黒を基調とした礼服の方が、彼の威厳を引き立てます」
「むっ…!」「何か?」

ルシアンは、その光景を、呆れながらも、どこか楽しそうに見守っていた。
貧民街で育った彼にとって、こんなにも華やかで、温かい喧騒は、まるで夢のようだった。

買い物を終えた三人は、王都で評判のレストランで、少しだけ休憩することにした。
「見てルシアン! このお店、川魚のグリルが名物ですって!」
エリアナは、懐かしそうに目を細めると、メニューの一点を指差した。「昔、貧民街で、漁師のおじさんが焼いてるのを、いつも羨ましそうに見てたの、覚えてる?」
彼女は、思い出の川魚のグリルを注文した。

一方、レンはメニューを真剣な眼差しで吟味すると、別の料理を注文した。
「こちらを。長旅の疲労回復には、魚よりも、高タンパクな赤身肉のステーキの方が合理的です。今のあなたに、最も必要な栄養素が含まれています」
彼女は、分厚いステーキを注文した。

席に戻ると、二人は同時に、自分の選んだ料理の皿をルシアンの前に差し出した。
「「どうぞ」」

その、あまりにも真剣な眼差しに挟まれ、ルシアンがどうしたものかと固まっていると、彼のバッグから、香ばしい匂いに誘われたネロが、ひょっこりと顔を出した。
その瞬間、レンの意識が完全にネロへと切り替わる。彼女は、自分のステーキを一口分、ナイフでそっと切り分けると、真顔のまま、ネロの口元へとゆっくりと差し出した。
(さあ…お食べなさい…! こちらの方が、栄養価が高いのですよ…!)
しかし、ネロは、そのあまりにも強すぎる圧に、ぷいっと顔をそむけてしまう。

その様子を見ていたルシアンは、苦笑しながら、エリアナの川魚のグリルから、ふっくらとした白身を少しだけ取ると、ネロの口元へ持っていった。ネロは、嬉しそうにそれにぱくりと食いついた。
してやったり、とでも言うように、エリアナが小さく笑う。レンは、無表情のまま、しかしその肩をがっくりと落とした。

ルシアンは、そんな二人を見て、深く、一つため息をつくと、両方の皿から一口ずつ、交互に口に運んだ。
「どっちも、美味いよ。ありがとう、二人とも」
その言葉に、エリアナとレンは、顔を見合わせると、少しだけ照れたように、そして嬉しそうに、微笑み合った。



祝賀会当日。王城は、これまでにないほどの熱気に包まれていた。
壮麗な大広間には、シルベリア王国の有力貴族や騎士たちが、一堂に会している。

やがて、ファンファーレが鳴り響き、広間の巨大な扉が開かれた。
万雷の拍手と喝采に包まれながら、主役であるルシアン、エリアナ、レン、そしてユリウスの四人が、正装に身を包んで姿を現す。

ルシアンは、エリアナとレンに選ばれた、黒を基調とした礼服を纏い、その銀髪をより一層輝かせている。
エリアナは、淡い青色のドレス姿で、その美しさに誰もが息を呑んだ。
レンもまた、普段の厳格な雰囲気とは違う、優雅な深緑のドレスを身に纏い、その隣に立つ。
そして、ユリウスは、ボーモン家の者としてではなく、一人の誠実な若者として、静かに、しかし堂々と前を見据えていた。

彼らは、国王陛下の元へと、ゆっくりと歩みを進める。
それは、ただの祝宴の始まりではなかった。

シルベリア王国の、そして、彼ら自身の新たな運命を決定づける、重要な交渉の始まり。
そして、アステリアという小さな村が、歴史の表舞台へとその姿を現した、記念すべき瞬間だった。
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