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立国篇
第五十七話:嵐と銀獅子、再び
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リベラポリスの安宿、その薄暗い一室。
大会一日目の興奮と熱狂が嘘のように、そこには静かな、しかしどこか張り詰めた空気が流れていた。明日の決勝トーナメントの対戦表はまだ発表されていない。だが、勝ち進めば、仲間同士で戦うことになる可能性は、極めて高かった。
部屋の隅では、レンが真顔で、ちょこまかと走り回るネロを捕まえようと、静かな追いかけっこを繰り広げている。
その光景を横目に、ルシアンが重い口を開いた。
「明日、もし俺たちが戦うことになった場合だが…」
「真剣勝負よ」
ルシアンが言い切る前に、エリアナが、強い口調でその言葉を遮った。
「それは、結果的に体力を消耗するだけだ。決勝まで、力は温存すべきだろ」
「ルシアン」
エリアナは、静かに、しかし、その瞳に強い光を宿して彼を見つめた。
「それって、結果的にあなたが勝つから、お互いに無駄な体力を使ったり、怪我のリスクを負う必要はないって、そう言いたいのよね?」
「…真剣勝負となれば、だ」
ルシアンの言葉に、エリアナは悲しそうに、そして少しだけ怒ったように、首を振った。
「私たちと、ちゃんと戦ったのは、いつ?」
「……最近は、戦っていないな」
「舐めないで。私たちも、強くなったの。あなたの隣に立つために。だから、あなたの本気を、今の私の全力で受け止めてみたい。…あなたに、ちゃんと、今の私の力を見てほしいの」
その、まっすぐな想い。ルシアンは、自らの驕りを悟った。いつの間にか、彼女たちを「守るべき存在」として、自分より弱いと決めつけてしまっていたことに。
「…分かった。ごめん、エリアナ。勝手に、お前たちを自分より弱いという認識で話していた」
その時、いつの間にかネロを捕まえ、その柔らかな体を膝の上に乗せていたレンが、静かに口を開いた。
「私は、元よりあなたの師の一人です。ルナリアでの借りは、ここで返させてもらいますよ。次は、負けません」
二人の、真剣な瞳を見て、ルシアンは、ふっと笑みをこぼした。
「ああ。そうだな」
彼は、仲間たちを見回し、力強く宣言した。
「じゃあ、明日は真剣勝負だ。全員で、優勝を目指そう」
「「わかった(わ)」」
リベラポリスの夜。三人は、初めて仲間としてではなく、互いを高め合う好敵手として、その覚悟を新たにしたのだった。
◇
翌日。闘技場に張り出された決勝トーナメントの組み合わせ表を前に、会場は朝からどよめきと熱気に包まれていた。
その最大の理由は、Cグループをたった一人で勝ち抜けた、レンの扱いにあった。
「おい! 見ろよ、あのレンとかいうエルフ、いきなり準決勝からじゃねえか!」
「シード権か! 確かに昨日は一瞬で九人吹き飛ばしちまったしな。これくらいの扱いになっても、おかしくはねえか」
「しかし、とんでもねえな…」
貴賓席の資産家たちもまた、そのトーナメント表を興味深げに眺めていた。
「エルフは特別扱いか。まあ、昨日の試合を見る限り、確かに一人だけ格が違ったからな」
「ふん。主催者側も、あのエルフが優勝候補の一角だと見た、ということか」
昨日の圧勝劇は、大会関係者のレンへの評価を、決定的に変えていた。イーグル商会の会頭ヴァルガスもまた、その報告を受け、静かに頷く。
「エルフが優勝候補と見て、大筋間違いはないだろう。だが、グレイには及ばん。せいぜい、大会を盛り上げてもらうとしよう」
トーナメント表によれば、一回戦の第一試合はエリアナ、第三試合にルシアン、そして第四試合にガリオが組まれている。もしガリオが勝ち上がれば、二回戦でルシアンと当たることになる。
控室に戻ると、レンが不満げに腕を組んでいた。
「不本意です」
「あれだけの力を見せたんだ。一つ実力が抜けていると判断されたんだろう」と、ルシアンがなだめる。
「そうなるわよね…」エリアナも、苦笑するしかない。
「では、ネロと試合まで戯れるとします」
レンがそう言って手を伸ばすが、ネロはすっとその手をかわし、ルシアンの背後に隠れてしまった。
そこへ、一人の獣人が歩み寄ってきた。ガリオだった。
「ルシアンさん」
「ガリオか。そうだ、みんな紹介する。もと廃鉱山で、ガルバと一緒にいた仲間の一人、ガリオだ。昨日の一回戦で、たまたま再会してな」
エリアナは、その言葉にぱっと顔を輝かせた。
「ああ! 昨日、ルシアンと一緒に戦っていた人ね! やっぱり、何か繋がりがあったんだ! ガリオさんも、一緒に頑張りましょうね!」
その屈託のない笑顔に、ガリオは少しだけ照れたように頷いた。
「は、はい! よろしくお願いします! …ルシアンさん、一回戦を勝てれば、次はあなたと戦えます。ぜひ、お互いに全力を尽くしましょう!」
「ああ。分かった」
その時、闘技場全体に、銅鑼の音が鳴り響いた。
主催者の声が、熱狂と共に響き渡る。
「紳士淑女の皆様、お待たせいたしました! これより、決勝トーナメントを開始します!!」
観客席から、地鳴りのような歓声が上がった。
血と金が渦巻く、リベラポリスの宴。その第二幕が、今、始まろうとしていた。
◇
「それでは、決勝トーナメント第一試合、開始!」
主催者の声と共に、エリアナが闘技場へと足を踏み入れた。観客席からは、期待と嘲笑が入り混じった声が飛ぶ。
「これは見ものだな! 昨日の幸運の姉ちゃんか!」「まあ、一対一じゃあもう運は通用しないだろう」「早く降参した方が身のためだぜ!」
エリアナは、静かに対戦相手を見据える。昨日勝ち残った、冒険者風の男。彼の目には、昨日までの侮蔑の色はない。慎重に、こちらの隙を窺っている。
(この人は、対人戦に慣れているわね…。ちゃんと相手の力量を測っている。油断がない)
「始め!」
合図と同時に、男はナイフを数本、エリアナへと投げつけた。それは目眩し。安全な距離からの攻撃で視線をずらし、その隙に懐へ飛び込むための布石となるはずだった。
しかし、男がナイフを投げ終わった、まさにその瞬間。
彼の目の前から、エリアナの姿が消えていた。
「なっ!?」
次の瞬間、男の鳩尾に、一瞬のうちに距離を詰めたエリアナの、鋭い肘打ちがクリーンヒットする。男は「ぐふっ」という呻き声も上げられずにくの字に折れ曲がり、そのまま凄まじい勢いで吹き飛ばされ、魔法障壁に激突すると、意識を失って崩れ落ちた。
「し、試合終了!!」
観客席は、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。
「え?」「えぇぇぇぇ!!!」
「なんだ!? 今、何が起きた!?」「昨日の戦いは、一体何だったんだ!」
貴賓席でも、どよめきが起こる。「昨日から、プロフィールと実力が違いすぎるではないか!」。賭けに負けた資産家たちの、嘆きの声が響いた。
しかし、その動揺が過ぎ去ると、会場は「おぉおおおおお!!」「すげぇ!!!」「あの姉ちゃんも、とんでもねぇ!!」と、地鳴りのような喝采に変わった。エリアナの実力を、会場の誰もが認識し、その評価が一変した瞬間だった。
第二試合は、あの狂気を漂わせる細身の男が、相手を一方的に嬲り、瀕死の状態にまで追い込んで勝利した。その残忍な戦い方に、一部の観客からは熱狂的な声援が送られ、会場は異様な雰囲気に包まれた。
そして、第三試合。ルシアンが闘技場へと姿を現す。
会場は、昨日の彼の戦いぶりと、先程のエリアナの圧勝劇を受け、期待と、そしてどこか不気味なものを感じるような視線で、彼一人に注がれていた。「あの兄ちゃんも、本当は実力者なのかもしれねえ!」「本気がどんなもんか、見せてみろ!」
貴賓席では、彼のオッズが、既に優勢へと傾いていた。「こいつも、あの少女と同じく、実力を隠していたということか。もう騙されんぞ」
「試合開始!」
ルシアンの対戦相手である、屈強な斧戦士が、雄叫びと共に突撃してきた。
「俺のパワーは、ガキには止められねえぞ!!」
ルシアンは、その姿を、ただ静かに見つめている。(隙だらけだな。だが、真っ向からねじ伏せるか)
ガンッ!!
戦士が振り下ろした斧を、ルシアンは片手で受け止め、その動きを完全に封じてみせた。
「なっ…! くそ、腕が動かねえ! 離せ!」
戦士は、自分の渾身の一撃が赤子のように止められたことに、動揺を隠せない。
「パワーが自慢じゃなかったのか?」
「!?」
「いくぞ」
ルシアンは、相手の腕を掴んだまま、片手で、まるで小枝でも投げるかのように、その巨体を軽々と投げ飛ばした。
ドオォォン!!
床に叩きつけられた戦士は、一度も動くことなく気絶していた。
「試合、終了!!」
「おおおお!!」「片手であいつを!」「パワーもすげえ!!」
観客の熱狂。貴賓席もまた、その規格外の力に言葉を失っていた。「全く、銀級などと…。実力は本物だな」「これは、分からなくなってきたぞ…!」
控室に戻ったルシアンを、エリアナが出迎える。
「ナイスファイト!」
「戦いというレベルではなかったけどな」
「こんな風になれるなんて、昔は想像もできなかったよね」
「そうだな。俺も、エリアナも、頑張った結果だと思う」
「うん。特別な力のおかげってのも大きいけど、その過程で、努力はしてきたもんね」
「ルシアン。お疲れさま」その時、すっとレンがルシアンの隣に立った。
「…近い」
「レン!!」
……「試合終了!!」
その傍ら、闘技場から、再び声が響く。第四試合では、ガリオが相手の戦士を見事に下していた。
続く第五試合は達人風の剣士が、第六試合はスキンヘッドの巨漢が、それぞれ順当に勝利し、トーナメント一回戦は全て終了した。
◇
そして、二回戦の組み合わせが発表された!
第一試合は、エリアナ対、あの狂気を漂わせる細身の男。
試合前の控室。ルシアンは、エリアナに向き直り、静かに、しかし真剣な声で告げた。
「エリアナ。次の対戦相手だが」
「ええ。嫌な雰囲気ね。でも、負けないわ」
「いや、開始直後に、すぐに倒してくれ。あいつは、お前に指一本触れさせてはいけない相手だ」
「?」
「嫌なんだ。あんな奴には、エリアナの前にすら立っていてほしくない」
その、どこまでも真剣な声に、エリアナは少しだけ驚き、そして、嬉しそうにはにかんだ。
「ふーん。分かったわよ。…ねえ、少しだけ、魔法使ってもいい?」
「ああ。丸焦げにしていい」
「ふふっ。そんなことしたら、ダメなんでしょ? 大丈夫よ。ちゃんと勝ってくる」
「分かった。くれぐれも…」
「私、お腹が空きました」
レンが、二人の会話に割って入る。
「レン、今、エリアナに大事な話を…」
「行ってきます!」
エリアナは、そう言うと、闘技場へと向かった。
「行ってらっしゃい、エリアナ」
レンは、まだ心配そうなルシアンに、静かに告げた。
「大丈夫。信頼して。あんな者に、どうこうされるエリアナではありません。この私が、保証します」
「………そうか。…そうだな。レンが言うなら、信頼するよ」
「まだまだ、幼い部分もあるのですね」
「?」
ネロが、ルシアンの足元で、小さく頷くように「にゃあ」と鳴いた。
大会一日目の興奮と熱狂が嘘のように、そこには静かな、しかしどこか張り詰めた空気が流れていた。明日の決勝トーナメントの対戦表はまだ発表されていない。だが、勝ち進めば、仲間同士で戦うことになる可能性は、極めて高かった。
部屋の隅では、レンが真顔で、ちょこまかと走り回るネロを捕まえようと、静かな追いかけっこを繰り広げている。
その光景を横目に、ルシアンが重い口を開いた。
「明日、もし俺たちが戦うことになった場合だが…」
「真剣勝負よ」
ルシアンが言い切る前に、エリアナが、強い口調でその言葉を遮った。
「それは、結果的に体力を消耗するだけだ。決勝まで、力は温存すべきだろ」
「ルシアン」
エリアナは、静かに、しかし、その瞳に強い光を宿して彼を見つめた。
「それって、結果的にあなたが勝つから、お互いに無駄な体力を使ったり、怪我のリスクを負う必要はないって、そう言いたいのよね?」
「…真剣勝負となれば、だ」
ルシアンの言葉に、エリアナは悲しそうに、そして少しだけ怒ったように、首を振った。
「私たちと、ちゃんと戦ったのは、いつ?」
「……最近は、戦っていないな」
「舐めないで。私たちも、強くなったの。あなたの隣に立つために。だから、あなたの本気を、今の私の全力で受け止めてみたい。…あなたに、ちゃんと、今の私の力を見てほしいの」
その、まっすぐな想い。ルシアンは、自らの驕りを悟った。いつの間にか、彼女たちを「守るべき存在」として、自分より弱いと決めつけてしまっていたことに。
「…分かった。ごめん、エリアナ。勝手に、お前たちを自分より弱いという認識で話していた」
その時、いつの間にかネロを捕まえ、その柔らかな体を膝の上に乗せていたレンが、静かに口を開いた。
「私は、元よりあなたの師の一人です。ルナリアでの借りは、ここで返させてもらいますよ。次は、負けません」
二人の、真剣な瞳を見て、ルシアンは、ふっと笑みをこぼした。
「ああ。そうだな」
彼は、仲間たちを見回し、力強く宣言した。
「じゃあ、明日は真剣勝負だ。全員で、優勝を目指そう」
「「わかった(わ)」」
リベラポリスの夜。三人は、初めて仲間としてではなく、互いを高め合う好敵手として、その覚悟を新たにしたのだった。
◇
翌日。闘技場に張り出された決勝トーナメントの組み合わせ表を前に、会場は朝からどよめきと熱気に包まれていた。
その最大の理由は、Cグループをたった一人で勝ち抜けた、レンの扱いにあった。
「おい! 見ろよ、あのレンとかいうエルフ、いきなり準決勝からじゃねえか!」
「シード権か! 確かに昨日は一瞬で九人吹き飛ばしちまったしな。これくらいの扱いになっても、おかしくはねえか」
「しかし、とんでもねえな…」
貴賓席の資産家たちもまた、そのトーナメント表を興味深げに眺めていた。
「エルフは特別扱いか。まあ、昨日の試合を見る限り、確かに一人だけ格が違ったからな」
「ふん。主催者側も、あのエルフが優勝候補の一角だと見た、ということか」
昨日の圧勝劇は、大会関係者のレンへの評価を、決定的に変えていた。イーグル商会の会頭ヴァルガスもまた、その報告を受け、静かに頷く。
「エルフが優勝候補と見て、大筋間違いはないだろう。だが、グレイには及ばん。せいぜい、大会を盛り上げてもらうとしよう」
トーナメント表によれば、一回戦の第一試合はエリアナ、第三試合にルシアン、そして第四試合にガリオが組まれている。もしガリオが勝ち上がれば、二回戦でルシアンと当たることになる。
控室に戻ると、レンが不満げに腕を組んでいた。
「不本意です」
「あれだけの力を見せたんだ。一つ実力が抜けていると判断されたんだろう」と、ルシアンがなだめる。
「そうなるわよね…」エリアナも、苦笑するしかない。
「では、ネロと試合まで戯れるとします」
レンがそう言って手を伸ばすが、ネロはすっとその手をかわし、ルシアンの背後に隠れてしまった。
そこへ、一人の獣人が歩み寄ってきた。ガリオだった。
「ルシアンさん」
「ガリオか。そうだ、みんな紹介する。もと廃鉱山で、ガルバと一緒にいた仲間の一人、ガリオだ。昨日の一回戦で、たまたま再会してな」
エリアナは、その言葉にぱっと顔を輝かせた。
「ああ! 昨日、ルシアンと一緒に戦っていた人ね! やっぱり、何か繋がりがあったんだ! ガリオさんも、一緒に頑張りましょうね!」
その屈託のない笑顔に、ガリオは少しだけ照れたように頷いた。
「は、はい! よろしくお願いします! …ルシアンさん、一回戦を勝てれば、次はあなたと戦えます。ぜひ、お互いに全力を尽くしましょう!」
「ああ。分かった」
その時、闘技場全体に、銅鑼の音が鳴り響いた。
主催者の声が、熱狂と共に響き渡る。
「紳士淑女の皆様、お待たせいたしました! これより、決勝トーナメントを開始します!!」
観客席から、地鳴りのような歓声が上がった。
血と金が渦巻く、リベラポリスの宴。その第二幕が、今、始まろうとしていた。
◇
「それでは、決勝トーナメント第一試合、開始!」
主催者の声と共に、エリアナが闘技場へと足を踏み入れた。観客席からは、期待と嘲笑が入り混じった声が飛ぶ。
「これは見ものだな! 昨日の幸運の姉ちゃんか!」「まあ、一対一じゃあもう運は通用しないだろう」「早く降参した方が身のためだぜ!」
エリアナは、静かに対戦相手を見据える。昨日勝ち残った、冒険者風の男。彼の目には、昨日までの侮蔑の色はない。慎重に、こちらの隙を窺っている。
(この人は、対人戦に慣れているわね…。ちゃんと相手の力量を測っている。油断がない)
「始め!」
合図と同時に、男はナイフを数本、エリアナへと投げつけた。それは目眩し。安全な距離からの攻撃で視線をずらし、その隙に懐へ飛び込むための布石となるはずだった。
しかし、男がナイフを投げ終わった、まさにその瞬間。
彼の目の前から、エリアナの姿が消えていた。
「なっ!?」
次の瞬間、男の鳩尾に、一瞬のうちに距離を詰めたエリアナの、鋭い肘打ちがクリーンヒットする。男は「ぐふっ」という呻き声も上げられずにくの字に折れ曲がり、そのまま凄まじい勢いで吹き飛ばされ、魔法障壁に激突すると、意識を失って崩れ落ちた。
「し、試合終了!!」
観客席は、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。
「え?」「えぇぇぇぇ!!!」
「なんだ!? 今、何が起きた!?」「昨日の戦いは、一体何だったんだ!」
貴賓席でも、どよめきが起こる。「昨日から、プロフィールと実力が違いすぎるではないか!」。賭けに負けた資産家たちの、嘆きの声が響いた。
しかし、その動揺が過ぎ去ると、会場は「おぉおおおおお!!」「すげぇ!!!」「あの姉ちゃんも、とんでもねぇ!!」と、地鳴りのような喝采に変わった。エリアナの実力を、会場の誰もが認識し、その評価が一変した瞬間だった。
第二試合は、あの狂気を漂わせる細身の男が、相手を一方的に嬲り、瀕死の状態にまで追い込んで勝利した。その残忍な戦い方に、一部の観客からは熱狂的な声援が送られ、会場は異様な雰囲気に包まれた。
そして、第三試合。ルシアンが闘技場へと姿を現す。
会場は、昨日の彼の戦いぶりと、先程のエリアナの圧勝劇を受け、期待と、そしてどこか不気味なものを感じるような視線で、彼一人に注がれていた。「あの兄ちゃんも、本当は実力者なのかもしれねえ!」「本気がどんなもんか、見せてみろ!」
貴賓席では、彼のオッズが、既に優勢へと傾いていた。「こいつも、あの少女と同じく、実力を隠していたということか。もう騙されんぞ」
「試合開始!」
ルシアンの対戦相手である、屈強な斧戦士が、雄叫びと共に突撃してきた。
「俺のパワーは、ガキには止められねえぞ!!」
ルシアンは、その姿を、ただ静かに見つめている。(隙だらけだな。だが、真っ向からねじ伏せるか)
ガンッ!!
戦士が振り下ろした斧を、ルシアンは片手で受け止め、その動きを完全に封じてみせた。
「なっ…! くそ、腕が動かねえ! 離せ!」
戦士は、自分の渾身の一撃が赤子のように止められたことに、動揺を隠せない。
「パワーが自慢じゃなかったのか?」
「!?」
「いくぞ」
ルシアンは、相手の腕を掴んだまま、片手で、まるで小枝でも投げるかのように、その巨体を軽々と投げ飛ばした。
ドオォォン!!
床に叩きつけられた戦士は、一度も動くことなく気絶していた。
「試合、終了!!」
「おおおお!!」「片手であいつを!」「パワーもすげえ!!」
観客の熱狂。貴賓席もまた、その規格外の力に言葉を失っていた。「全く、銀級などと…。実力は本物だな」「これは、分からなくなってきたぞ…!」
控室に戻ったルシアンを、エリアナが出迎える。
「ナイスファイト!」
「戦いというレベルではなかったけどな」
「こんな風になれるなんて、昔は想像もできなかったよね」
「そうだな。俺も、エリアナも、頑張った結果だと思う」
「うん。特別な力のおかげってのも大きいけど、その過程で、努力はしてきたもんね」
「ルシアン。お疲れさま」その時、すっとレンがルシアンの隣に立った。
「…近い」
「レン!!」
……「試合終了!!」
その傍ら、闘技場から、再び声が響く。第四試合では、ガリオが相手の戦士を見事に下していた。
続く第五試合は達人風の剣士が、第六試合はスキンヘッドの巨漢が、それぞれ順当に勝利し、トーナメント一回戦は全て終了した。
◇
そして、二回戦の組み合わせが発表された!
第一試合は、エリアナ対、あの狂気を漂わせる細身の男。
試合前の控室。ルシアンは、エリアナに向き直り、静かに、しかし真剣な声で告げた。
「エリアナ。次の対戦相手だが」
「ええ。嫌な雰囲気ね。でも、負けないわ」
「いや、開始直後に、すぐに倒してくれ。あいつは、お前に指一本触れさせてはいけない相手だ」
「?」
「嫌なんだ。あんな奴には、エリアナの前にすら立っていてほしくない」
その、どこまでも真剣な声に、エリアナは少しだけ驚き、そして、嬉しそうにはにかんだ。
「ふーん。分かったわよ。…ねえ、少しだけ、魔法使ってもいい?」
「ああ。丸焦げにしていい」
「ふふっ。そんなことしたら、ダメなんでしょ? 大丈夫よ。ちゃんと勝ってくる」
「分かった。くれぐれも…」
「私、お腹が空きました」
レンが、二人の会話に割って入る。
「レン、今、エリアナに大事な話を…」
「行ってきます!」
エリアナは、そう言うと、闘技場へと向かった。
「行ってらっしゃい、エリアナ」
レンは、まだ心配そうなルシアンに、静かに告げた。
「大丈夫。信頼して。あんな者に、どうこうされるエリアナではありません。この私が、保証します」
「………そうか。…そうだな。レンが言うなら、信頼するよ」
「まだまだ、幼い部分もあるのですね」
「?」
ネロが、ルシアンの足元で、小さく頷くように「にゃあ」と鳴いた。
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