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21話 過去3
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スペンサー王国の社交の季節が終わり、領主夫婦が領地に帰郷してきた。
エドワード=ダグラス伯爵とその夫人アリス=ダグラスだ。
エドワードは平凡な見た目だが、夜空を思わせる漆黒の髪はレヴィと共通していた。それよりもアリスの美貌に人は惹きつけられる。純金の長い髪に薄い水色のアーモンドの形の瞳。整った鼻筋に桜色の小さな唇。ほっそりとした華奢な身体。大輪の薔薇を連想させる美貌。可憐なデイドレスを身に纏っていて、良く似合っていた。
レヴィとエリンは、二人を出迎えに玄関ホールで待機していた。
両親と久しぶりに会うレヴィが浮かない顔をしているのをエリンは不思議に思う。
「レヴィ、久しぶりだな」
人の好さそうな笑顔を浮かべたエドワードがレヴィを抱き上げる。
「お父様」
レヴィは嬉しそうにエドワードに抱き着いた。
エリンはウーファを右手で持って、二人を眺めていた。
「エリン?」
アリスがエリンの名を可憐な声音で呼ぶ。
アリスは、我が子であるレヴィに見向きもせずにドレスの裾を翻して、エリンの許へやってくる。小さなエリンに合わせて身体をかがめて、視線を合わせた。
「まあ、マーガレットにそっくり。茶色の髪もだけどこの零れ落ちそうな瞳」
エリンのぷっくりとした頬に白魚のような手が触れる。
「レヴィのママ、エリンのママのこと知っているの?」
エリンがアリスに聞き返した。
「ええ……。エドワードと結婚してからだけど、マーガレットとは仲が良かったのよ」
ふふと華やかな笑い声を漏らして、アリスは微笑んだ。
エリンは、アリスの言葉に顔を輝かせる。
「ママのお友達!」
エリンは、無邪気にアリスに抱き着いた。
アリスは、一瞬驚くがすぐにエリンを抱きしめ返す。花の香りがエリンの鼻腔をくすぐった。
「まあ、エリンは人懐っこいのね。可愛いわ」
エドワードの胸の中からレヴィはアリスをちらりと見て、そして視線を戻した。
エリンは、レヴィの視線に気づく。アリスとレヴィの間の違和感を察知して、二人をじっと眺めていた。
エドワードとアリスが王都から戻ってきた日の夜。
その日の夜は星の見えない薄暗い夜空だった。
エリンは、幼心に覚えていた。
何だか嫌な予感が胸をよぎった。
何かが起きそうな、そんな感覚がエリンを襲う。
「エリン?」
不安そうな顔をしたエリンにレヴィが声をかける。
「レヴィ」
エリンは、レヴィに抱き着いた。
レヴィはアリスが戻ってから表情が硬い。
いつもならエリンに柔らかな笑顔を向けてくれるのに。
レヴィの中の小さな異変をエリンは察知していた。
「レヴィ、あのねあのね。エリン、レヴィのこと、だいすき」
エリンは必死に抱き着いて、レヴィの憂いを取り除こうとする。
エリンの懸命な青の瞳がレヴィを凝視する。
レヴィとエリンの瞳が出逢う。
ふっとレヴィの深紅の瞳が笑う。
その瞳が寂しげに見えたことにエリンは不安を覚える。
「エリン、大丈夫だよ。僕は大丈夫。お父様とエリンがいるから」
エリンの青の瞳をじっと見つめ返して、小さな身体をぎゅっと抱きしめ返す。
「うん」
少しだけ胸の中の不安が和らいで、エリンは安堵する。
エリンは、レヴィの胸の中で瞳を閉じた。
エリンは指で目をこすった。
「レヴィ。エリン、ねむい……」
一番安心できるレヴィの胸の中、エリンは眠りに落ちる。
エリンを彼女があてがわれた客間のベッドに寝かしつけて、レヴィは客間を出る。
寝る前に父親へ寝る前の挨拶をしようと両親の寝室へ足を向けた。
寝室の扉を叩いて、レヴィが入ろうとした時に両親の言い争う声がした。
「お前はレヴィに視線ひとつ合わせないで、何故エリンの許へ向かったんだ!」
普段は温厚な父が声を荒げている。
「あの子は、私の子じゃないわ! あんな化け物!」
アリスは、エドワードに怒鳴り返す。
「知っているでしょう! あの子は赤ん坊の時から泣きながら近くの物を燃やしたのよ! あなたは良いわ! レヴィの世話もしなかったんだもの! 私がどれだけ悩んだか!」
「それは赤ん坊の時だろう! 今やあの子は八歳で感情の制御も出来る!」
言い争いを続ける両親の声がする寝室からレヴィは、逃げるように走り去った。
エドワード=ダグラス伯爵とその夫人アリス=ダグラスだ。
エドワードは平凡な見た目だが、夜空を思わせる漆黒の髪はレヴィと共通していた。それよりもアリスの美貌に人は惹きつけられる。純金の長い髪に薄い水色のアーモンドの形の瞳。整った鼻筋に桜色の小さな唇。ほっそりとした華奢な身体。大輪の薔薇を連想させる美貌。可憐なデイドレスを身に纏っていて、良く似合っていた。
レヴィとエリンは、二人を出迎えに玄関ホールで待機していた。
両親と久しぶりに会うレヴィが浮かない顔をしているのをエリンは不思議に思う。
「レヴィ、久しぶりだな」
人の好さそうな笑顔を浮かべたエドワードがレヴィを抱き上げる。
「お父様」
レヴィは嬉しそうにエドワードに抱き着いた。
エリンはウーファを右手で持って、二人を眺めていた。
「エリン?」
アリスがエリンの名を可憐な声音で呼ぶ。
アリスは、我が子であるレヴィに見向きもせずにドレスの裾を翻して、エリンの許へやってくる。小さなエリンに合わせて身体をかがめて、視線を合わせた。
「まあ、マーガレットにそっくり。茶色の髪もだけどこの零れ落ちそうな瞳」
エリンのぷっくりとした頬に白魚のような手が触れる。
「レヴィのママ、エリンのママのこと知っているの?」
エリンがアリスに聞き返した。
「ええ……。エドワードと結婚してからだけど、マーガレットとは仲が良かったのよ」
ふふと華やかな笑い声を漏らして、アリスは微笑んだ。
エリンは、アリスの言葉に顔を輝かせる。
「ママのお友達!」
エリンは、無邪気にアリスに抱き着いた。
アリスは、一瞬驚くがすぐにエリンを抱きしめ返す。花の香りがエリンの鼻腔をくすぐった。
「まあ、エリンは人懐っこいのね。可愛いわ」
エドワードの胸の中からレヴィはアリスをちらりと見て、そして視線を戻した。
エリンは、レヴィの視線に気づく。アリスとレヴィの間の違和感を察知して、二人をじっと眺めていた。
エドワードとアリスが王都から戻ってきた日の夜。
その日の夜は星の見えない薄暗い夜空だった。
エリンは、幼心に覚えていた。
何だか嫌な予感が胸をよぎった。
何かが起きそうな、そんな感覚がエリンを襲う。
「エリン?」
不安そうな顔をしたエリンにレヴィが声をかける。
「レヴィ」
エリンは、レヴィに抱き着いた。
レヴィはアリスが戻ってから表情が硬い。
いつもならエリンに柔らかな笑顔を向けてくれるのに。
レヴィの中の小さな異変をエリンは察知していた。
「レヴィ、あのねあのね。エリン、レヴィのこと、だいすき」
エリンは必死に抱き着いて、レヴィの憂いを取り除こうとする。
エリンの懸命な青の瞳がレヴィを凝視する。
レヴィとエリンの瞳が出逢う。
ふっとレヴィの深紅の瞳が笑う。
その瞳が寂しげに見えたことにエリンは不安を覚える。
「エリン、大丈夫だよ。僕は大丈夫。お父様とエリンがいるから」
エリンの青の瞳をじっと見つめ返して、小さな身体をぎゅっと抱きしめ返す。
「うん」
少しだけ胸の中の不安が和らいで、エリンは安堵する。
エリンは、レヴィの胸の中で瞳を閉じた。
エリンは指で目をこすった。
「レヴィ。エリン、ねむい……」
一番安心できるレヴィの胸の中、エリンは眠りに落ちる。
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「お前はレヴィに視線ひとつ合わせないで、何故エリンの許へ向かったんだ!」
普段は温厚な父が声を荒げている。
「あの子は、私の子じゃないわ! あんな化け物!」
アリスは、エドワードに怒鳴り返す。
「知っているでしょう! あの子は赤ん坊の時から泣きながら近くの物を燃やしたのよ! あなたは良いわ! レヴィの世話もしなかったんだもの! 私がどれだけ悩んだか!」
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