クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

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いつもより遅い起床となったクロッカが外に出ると、昨日までの重い曇空から一転して、日差しが雪に反射して鏡で反射しているかのように眩しく感じるほどよく晴れていた。


「おはようクロッカ。道の雪も今日中には退かせそうだし、明日には出発できそうだよ!」



「おはようございます。それは良い知らせですね。」



まだ吐く息は白く寒の存在を知らせ、白く吐く息は混ざり合って消えていく。



「あら、殿下はまた身長が伸びたんじゃないですか?」


「当たり前じゃないか、僕は今成長期だよ?これからもっと伸びるよ」


「そういえば弟にも学園に入る前に身長が抜かされましたわ」


「クロッカは身長の高い人は好き?」


身長の高い男性と聞かれて、クロッカはアルベルトを思い出していた。


「そうですねえ…身長で好きになることはないと思いますが、初対面ではやはり、身長の高い方の方が、男性なのだなと実感するかもしれませんね」



クロッカも背は高い方だがヒールを履いてもアルベルトは頭一つ大きいし、手も、そして足もクロッカとは別の生き物かのように大きい。
左指に嵌められた指輪を見つめてしまうのは抗えないことだ。



「あー婚約者のこと考えてるんでしょう?背が高い人なの?僕より?」


「うーんと高いですよ。それは魔物のように!さぁ、寒いですからテントに入られてはいかがですか?」


ケラケラと笑いながら2人は温められたテントへと入っていく。
毎日顔を合わせていれば、やはり仲良くはなるもので、クロッカも自然と笑顔が増えて、益々アガトンを虜にしていたが、クロッカの引いた線を超えた途端弾かれるようにしてかわされてしまう。
それでも天使のようなその笑顔を見たくて会いに来る毎日を送っていた。



「あら、殿下いらっしゃいませ」


キャサリンも慣れたもので、クロッカは自分で追い払うことができるのだと分かると、アガトンを威嚇することもなく自由にさせていた。


「ねぇキャサリン。宝石言葉を知っているんじゃない?教えて欲しいんだけど」



「宝石言葉ですか。まぁ宝石を売るのには必須なものですから大抵のものは知っていますが、私も帝国では店先に出ていたわけではありませんから、全ては分かりかねますよ」



「宝石言葉って何?」



帝国では一般的になりつつある宝石言葉も、王国では石に込められた力を信じるパワーストーンという観点から宝石を求める声が大きいことから馴染まなかった。
それでも宝石言葉を推しの一手として商人たちは口にすることもあるが、クロッカが宝石言葉を知らないことも無理はない話だ。



「宝石には力が宿っているというのは聞いたことがありますよね?」


「えぇ。幸運を呼び寄せたり、癒やしたりする力ですよね?」



「そうです。その力のある石たちには、花言葉のように、石の力に合わせて込められたメッセージがあるんですよ」



「王国では宝石言葉は一般的じゃないのか!帝国ではロマンチックだから花と石を同時に贈ることが多いよ。僕は婚約者もいないから贈った事はないから勉強したい!」




一気に騒がしくなった室内に、侍女たちは朝食の準備を後回しにしてお茶の準備を始めていた。
クロッカはキャサリンの隣に座り、その対面にアガトンが座る。
組み立て式の簡素な椅子にももう慣れてしまっていた。




「宝石言葉…興味はありますね。キャサリン先生、よろしくお願いします」



「え、一つ一つ言えって言ってるの?朝食が終わったら、お客様にお渡しする一覧を持って来させるわよ」



「え、待てないよー!少し先に教えてよ」


「じゃあ代表的なダイヤモンドからいきましょうか?」


「「お願いします」」


クロッカもアガトンも興味津々な様子にキャサリンは寝起きで働かない頭を、フル回転させることになった。



「仕方ないですね。絆を深めるとか未来を切り開く力を持つと言われているダイヤモンドは、婚約指輪や結婚指輪にもよく選ばれていますが、恋人へ贈るアクセサリーに選ぶ石の代表とも言える、人気の高い宝石です。宝石言葉は永遠の絆。愛を誓うのにぴったりでしょう?」



「永遠の絆ですか。結婚指輪に本当にぴったり。でも石にあると言われる力と一緒すぎてあまり意外性はありませんね…」


「確かに…」


急に勢いを無くした2人に、キャサリンは顔を引き攣らせた。



「その反応だとなんだか教えるのもつまらないわね。じゃあクロッカの着けている指輪のラピスラズリの宝石言葉にしましょう」



「え、この石にも宝石言葉…私この石の持つ力も知りませんわ」


「あらそうなの?それは教えがいがあるわね」



興味のなさそうに侍女が持ってきた紅茶を飲み始めたアガトンとは違い、キャサリンはクロッカの心は掴んだと確信を持った。
彼女は負けず嫌いなのかもしれない。



「神につながる石とも言われるラピスラズリは、幸運をもたらす石です。その宝石言葉は成功の保証。人生の岐路にいるクロッカにはぴったりの石ね」


「成功の保証…」


もっと甘い言葉が出てきたら良かったのにと思ったクロッカは少し残念そうだったがアルベルトがこの石にメッセージを込めたのだとしたら、瞳の色だけじゃない意味を知っていたとしたら、それはクロッカを励ます素敵な言葉だ。
キラキラと金粉かのように輝くパイライトがより美しく見える気がしていた。


「アルベルトの目の色の宝石が成功に導いてくれるということね」


「そうね。まぁうちの商会から買ったのなら、宝石言葉を添えられたはずよ。意味は知って送ったんじゃないかしら」


「まぁ!それはアルベルトが成功を保証してくれると受け取った方がいいかしら。それはそれは盛大に期待しなくてはいけませんね」



クスクスと笑う2人を他所に、アガトンはパクパクとブドウを口に運んでいた。


「殿下にはエメラルドをお勧めいたしますわ。恋愛最強の石で宝石言葉は恋愛成就と癒し。新しい恋を探す殿下にはピッタリです。まぁクロッカにも同じようにお勧めできますね」


「もぅ…理由が全然優しくない。そのまま成就を願ってくれたらいいのに」



そんな話をしていたら新しいアクセサリーが欲しくなったクロッカは、キャサリンの話術にはめられ、何故か恋愛最強の石、エメラルドのネックレスがクロッカの首元に光った。
そして、アガトンの左耳にも同じエメラルドのピアスが光り、アガトンは満足そうに帰って行くことになった。



次の地区へついてしばらく経てば、彼は帝都にある学園へ入るために、旅を終える。
クロッカからの学園への入学祝いという形でアガトンへプレゼントをすることにしたのだ。
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