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帰国の知らせ
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「約一年半王領内の訪問に同行していた、クシュリプト王国のハイランス伯爵令嬢がこの度帰国することになった。同行していた彼女からの提案で行ったもので、すでに利益の出ているものもある。我々にとっても惜しい存在だが、王国での期待度も高いことだろう。これからの王国との友好の架け橋となってくれることに期待している。ハイランス伯爵令嬢こちらへ」
「はい」
生誕パーティーでの皇帝陛下の挨拶の後、国外からの賓客も多く集まる中、壇上に呼ばれて陛下の紹介を聞いていた。
側室達の増えるドレスはドレスを扱う商会へ払い下げられていたが、それをオークション形式で貴族達に落札させてはどうかと、側室達とのお茶会の場での話が実現し、流行の最先端とも言われる側室達のドレスの価値は上りに上がることとなった。貴族達は娘から強請られ、彼女達は出身地では憧れの的である為、値が張っても落札したいと思うようで、値段は釣り上がっていく。
商会に払い下げるよりもかなり高額で売ることができ、定期的な収入となっているということだ。
他の国ではあまり見かけないお茶も、王国でも好まれるものも多かった為、お茶の輸出に力を入れてみてはどうかと提言もした。
ルフェーベル商会もお茶の販路拡大は目をつけていたようで、王国にも多く輸出されることになり、また、他国にも売り込んでみたら好評で、外貨獲得に役立っているという。
「短くていいから少し挨拶をしてくれるかな?うちでも君は人気者でね」
語弊があるが、主に女性からだと付け加えてくれたら嬉しかった。
王国からの使者もパーティーに来ていると聞いているから、誤解されては困るのだけど、文句を言うことなんて出来るわけもなかった。
「ありがとうございます。クロッカ・マーガレット・ハイランスです。皇帝陛下の誕生日を祝う場にお招きいただけた上に、ご挨拶までさせていただく時間をいただけたこと、大変光栄です。まだなんの知識もなかった未熟者の私を、皇帝陛下始め王族の方々が優しく迎え入れてくださったことを思い出すと、今でも心が温まります。賓客の1人として同行させていただき、クシュリプト王国の小さな世界でしか通用しない価値観を塗り替えることとなりました。領地で上がる問題をスピーディーに議題に上げ、早期解決に取り組む官僚方の姿は勇ましく、広い帝国内の状況を把握する、同行する皆様の知的な会話には、会話の中で勉強させられているようでした。私の小さな思い付きが実を結んで、利益を生むことが出来たと聞いた時は、小さな恩返しが出来たと喜んだものです。アガトン殿下が王国に留学をしに来てくださることも決まり、今後、両国の交流はより活発になることでしょう。両国に利益のある友好的な関係が続くよう、尽力して参ります。皇帝陛下、お誕生日おめでとうございます」
予め用意させてもらったカンニングペーパーが、机上に置かれていたが、途中から緊張のあまりどこまで言っているのか分からなくなっていた。
官僚の方に添削され出来上がった原稿も、帝国中の貴族と、交流のある国の王族関係者達の集まる大きすぎる規模のパーティーの前では白紙の紙と化してしまう。
自分の笑顔は引き攣っていなかっただろうか。
こんなにも緊張する場がこの世にあるなんて思ってもいなかった。
脚の透けるドレスのことも忘れるくらい何も考えられない。
女は度胸とばかりに笑顔を貼り付けてはいたが、出来れば誰か腰を支えて欲しいと思うくらいには足に力が入らない。
「ハイランス伯爵令嬢、ありがとう。今日は最後まで楽しんでいってくれ。君と踊りたいと考えている者も多い。まずは私と一曲踊ってくれるかな?」
「は、はい」
皇帝陛下がクロッカの手を取ると、帝国では定番の曲が流れ始める。
一曲目を皇帝陛下と踊るなんて恐れ多い。
陛下のエスコートで階段を下りると、もうあちこちでダンスに誘う男性の姿があった。
一度不安げに壇上を見ると、正妃と側室の方々はヒラヒラと手を振っている。
気にせずに踊れということだろう。
「おや、少し緊張しているのかい?」
「もちろんです。皇帝陛下と踊れるなんて乙女の夢の中でしかありえないことですもの」
「はっはっは面白い。期待に添えるようなダンスにしようじゃないか」
握られた手をそのままにカーテシーをとり、皇帝陛下へニッコリと返事の代わりに微笑むと、腰に手が添えられて、コントラバスの始まりの合図と共に右へ左へとステップを踏み始める。
緊張のほぐれてきたクロッカは、ドレスの裾で床を撫でながらステップを艶やかに踏み、たくさんの目線が注がれる中、身を任せるように何度も踊ってきたダンスを披露することになった。
「はい」
生誕パーティーでの皇帝陛下の挨拶の後、国外からの賓客も多く集まる中、壇上に呼ばれて陛下の紹介を聞いていた。
側室達の増えるドレスはドレスを扱う商会へ払い下げられていたが、それをオークション形式で貴族達に落札させてはどうかと、側室達とのお茶会の場での話が実現し、流行の最先端とも言われる側室達のドレスの価値は上りに上がることとなった。貴族達は娘から強請られ、彼女達は出身地では憧れの的である為、値が張っても落札したいと思うようで、値段は釣り上がっていく。
商会に払い下げるよりもかなり高額で売ることができ、定期的な収入となっているということだ。
他の国ではあまり見かけないお茶も、王国でも好まれるものも多かった為、お茶の輸出に力を入れてみてはどうかと提言もした。
ルフェーベル商会もお茶の販路拡大は目をつけていたようで、王国にも多く輸出されることになり、また、他国にも売り込んでみたら好評で、外貨獲得に役立っているという。
「短くていいから少し挨拶をしてくれるかな?うちでも君は人気者でね」
語弊があるが、主に女性からだと付け加えてくれたら嬉しかった。
王国からの使者もパーティーに来ていると聞いているから、誤解されては困るのだけど、文句を言うことなんて出来るわけもなかった。
「ありがとうございます。クロッカ・マーガレット・ハイランスです。皇帝陛下の誕生日を祝う場にお招きいただけた上に、ご挨拶までさせていただく時間をいただけたこと、大変光栄です。まだなんの知識もなかった未熟者の私を、皇帝陛下始め王族の方々が優しく迎え入れてくださったことを思い出すと、今でも心が温まります。賓客の1人として同行させていただき、クシュリプト王国の小さな世界でしか通用しない価値観を塗り替えることとなりました。領地で上がる問題をスピーディーに議題に上げ、早期解決に取り組む官僚方の姿は勇ましく、広い帝国内の状況を把握する、同行する皆様の知的な会話には、会話の中で勉強させられているようでした。私の小さな思い付きが実を結んで、利益を生むことが出来たと聞いた時は、小さな恩返しが出来たと喜んだものです。アガトン殿下が王国に留学をしに来てくださることも決まり、今後、両国の交流はより活発になることでしょう。両国に利益のある友好的な関係が続くよう、尽力して参ります。皇帝陛下、お誕生日おめでとうございます」
予め用意させてもらったカンニングペーパーが、机上に置かれていたが、途中から緊張のあまりどこまで言っているのか分からなくなっていた。
官僚の方に添削され出来上がった原稿も、帝国中の貴族と、交流のある国の王族関係者達の集まる大きすぎる規模のパーティーの前では白紙の紙と化してしまう。
自分の笑顔は引き攣っていなかっただろうか。
こんなにも緊張する場がこの世にあるなんて思ってもいなかった。
脚の透けるドレスのことも忘れるくらい何も考えられない。
女は度胸とばかりに笑顔を貼り付けてはいたが、出来れば誰か腰を支えて欲しいと思うくらいには足に力が入らない。
「ハイランス伯爵令嬢、ありがとう。今日は最後まで楽しんでいってくれ。君と踊りたいと考えている者も多い。まずは私と一曲踊ってくれるかな?」
「は、はい」
皇帝陛下がクロッカの手を取ると、帝国では定番の曲が流れ始める。
一曲目を皇帝陛下と踊るなんて恐れ多い。
陛下のエスコートで階段を下りると、もうあちこちでダンスに誘う男性の姿があった。
一度不安げに壇上を見ると、正妃と側室の方々はヒラヒラと手を振っている。
気にせずに踊れということだろう。
「おや、少し緊張しているのかい?」
「もちろんです。皇帝陛下と踊れるなんて乙女の夢の中でしかありえないことですもの」
「はっはっは面白い。期待に添えるようなダンスにしようじゃないか」
握られた手をそのままにカーテシーをとり、皇帝陛下へニッコリと返事の代わりに微笑むと、腰に手が添えられて、コントラバスの始まりの合図と共に右へ左へとステップを踏み始める。
緊張のほぐれてきたクロッカは、ドレスの裾で床を撫でながらステップを艶やかに踏み、たくさんの目線が注がれる中、身を任せるように何度も踊ってきたダンスを披露することになった。
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