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魔女との旅
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アデリーナは長い髪をまとめ、フードを深く被り、騎士の男二人と家族ということになっている。エマはアデリーナの兄の嫁ということになったらしい。昼間、女性がローブで肌を隠して日焼けを防ぐことは往往にしてある為、然程不自然とは受け止められない。
旅の最中ともなれば汚れを防ぐ為にもローブは多くの者が着用している。
エマは馬車の中で、アデリーナの置かれた立場の説明を受けた。噂話でもするように話すアデリーナは、どこか他人事のようだったが、乗合馬車の酷い揺れと絶え間なく続く振動に文句の一つも付けないことに、彼女の覚悟を感じた。
「美しいのにもったいないですね」
「美しいことの利点なんてない。子供の頃から何度も誘拐されそうになって、パーティに行けば強引に犯されそうになり、女性は私が誘惑したからだと助けてもくれない。アカデミーでもそうだった。女性は私を侮辱するのは当然だと言って、男性は私を手に入れようとするのも分かるって、誰も味方はいなかった。護衛だってそうよ。自分の家の騎士だからって信用できる人はとても少なかった。これまで何人も騎士が追い出されたの。私は笑っただけで男性を誘惑出来るらしいわ。魔女みたいでしょ?」
エマが貴族の地位を捨てることを勿体無いといえば、アデリーナは笑いながら自らを卑下した。
夕方には馬車は宿街に着き、エマは三人について行きながらも、求人募集看板の前で足を止めた。
「エマさんは仕事を探しているの?」
エマは気付かれないと思っていたが、アデリーナは前にいたにも関わらずすぐに足を止めた。
「私にも出来る仕事はあるものなのかと思っただけです」
まだ王都に近い。せめて次の宿場である商業都市を過ぎた辺りから探し始めたい。そうでなければ王との噂が耳に入りすぎる。そう考えていたので、エマは需要のある仕事だけ確認するつもりだった。
「村に帰ると言っていたけれど、紹介状は出してもらわなかったの?」
侍女の仕事は信用が第一なので、紹介状がなければ仕事は難しい。だけど、貴族の家や大きな商家を選ばなければ雇ってくれるところはあるはずだ。
「はい。急に辞めて来たので…ご迷惑をかけたことでしょう」
「じゃあ、もし困ることがあれば私が紹介状を書いてあげるわ!騎士団で客室の担当になるのは高い評価があったらでしょうし、仕事姿は一度見てる。もし私と別れた後でも、シュタインハート家にこの話をすればお父様から紹介状を書いてもらえるし、もし必要なら仕事も紹介してもらえると思うわ。仕事のことなら頼ってちょうだい」
「あ…りがとうございます」
「行きますよ!」
騎士が振り向いて二人を呼んだ。
紹介状というのはその人の仕事ぶりに保証するということ。何か不利益が及べば責任を取るという意思表示でもある。それなのに従事したこともないエマにそこまで言ってくれたことに居心地の悪さを感じていた。一度ほんの少しだけ会話しただけのエマを信用しているかのような言い草を不思議に思いながらも、エマはアデリーナの後ろをついて行った。
四人は宿ではなくアデリーナの母方の家の所有する商店の二階に身を潜めた。エマですら宿を取るのに、彼らは平民が休憩に使う小さな部屋で眠ると言った。二日目からは宿は使わないと決めていたらしい。
「エマさんの村はどの辺りなんですか?」
エマの夫役を兼務することになった騎士ハデスが入り口に腰掛けて地図を広げた。
「私は七つ目の街、ランケードを西に行った先です」
エマは広げられた地図のランケードを指差して道を指した。
「私たちは…五つ目の宿場を北に向かうからそこまでは一緒ね」
「お嬢はちゃんと椅子に座ってください!」
「はいはーい」
アデリーナもエマの横にちょこんと座ったが、ハデスがすぐに追い払う。分かっていたが貴族が床に座るのは本当に許されないらしい。
「明日は朝一の馬車に乗って日没ギリギリまでかかるから今日は早く休むように」
夕食を取った私たちは、その日は早くに蝋燭を消して床についた。半日馬車に乗っただけだったが、疲れていたらしい。エマはすぐに眠りについた。トーマスのことを思い出す暇もなかった。
次の日は明るくなってはいたが日の出よりも早く馬車に乗った。休憩も少なく、御者も先を急いでいるように見えた。
「今日は新月だから、暗くなる前に街に着きたいんだろう。暗くなると危険も増えるからな」
父役のキャンライという騎士は、馬車に乗っていても気を抜くことはなく、同乗者をぐるりと確認した後は、ずっと外を見ていた。
「到着~到着~」
エマはその声を聞いて立ちあがったが、一歩目はすぐに出なかった。お尻は痛く揺れる度に隣に当たらないように足に力を入れていたので足はプルプルしている。王都に出て行った時は人が多くなるのは王都に近づいてきてからで、慣れて来たころに満員の馬車に乗った。だが、王都からはずっと満員で、特に今回の馬車は常に肩が触れ合っているほどの混雑だった。
「少し…疲れたわね…エマさんは大丈夫?」
エマと同じように疲れた表情を見せたのはアデリーナだけだった。他の乗客は慣れたようにすぐに降りて行った。
「私も今日は辛かったです…」
エマとアデリーナは騎士二人の手を取って馬車を降りた。
「ここは本当に人が多いわね…」
馬車から降りると、乗合馬車の到着を待っていたかのように辻馬車や貸馬車にがずらりと並んでいた。
「各方面ににいく中間地点ですからね。宿が取れずに馬車のまま寝る人の為の貸しスペースもあるほどです。今日はそこが私たちの宿となるわけです」
キャンライはアデリーナのフードをより深く被せ直し、私たちは夕日を避けて休憩が必要だと判断され、貸馬車を持ってくるようにとハデスに言い、すぐ目の前の茶屋へと入ることになった。
アデリーナを庇うようにキャンライは彼女の横を歩き、エマは仕事の仲介所はどこだろうと、辺りを見ながら彼らの後を追った。
「エマ!」
エマが数歩歩いたところで、フワッと横から抱きしめられた。不意に襲われると叫び声は出ないとは聞いたことがあったが、急に抱きしめられても身を固めることしかエマには出来なかった。
旅の最中ともなれば汚れを防ぐ為にもローブは多くの者が着用している。
エマは馬車の中で、アデリーナの置かれた立場の説明を受けた。噂話でもするように話すアデリーナは、どこか他人事のようだったが、乗合馬車の酷い揺れと絶え間なく続く振動に文句の一つも付けないことに、彼女の覚悟を感じた。
「美しいのにもったいないですね」
「美しいことの利点なんてない。子供の頃から何度も誘拐されそうになって、パーティに行けば強引に犯されそうになり、女性は私が誘惑したからだと助けてもくれない。アカデミーでもそうだった。女性は私を侮辱するのは当然だと言って、男性は私を手に入れようとするのも分かるって、誰も味方はいなかった。護衛だってそうよ。自分の家の騎士だからって信用できる人はとても少なかった。これまで何人も騎士が追い出されたの。私は笑っただけで男性を誘惑出来るらしいわ。魔女みたいでしょ?」
エマが貴族の地位を捨てることを勿体無いといえば、アデリーナは笑いながら自らを卑下した。
夕方には馬車は宿街に着き、エマは三人について行きながらも、求人募集看板の前で足を止めた。
「エマさんは仕事を探しているの?」
エマは気付かれないと思っていたが、アデリーナは前にいたにも関わらずすぐに足を止めた。
「私にも出来る仕事はあるものなのかと思っただけです」
まだ王都に近い。せめて次の宿場である商業都市を過ぎた辺りから探し始めたい。そうでなければ王との噂が耳に入りすぎる。そう考えていたので、エマは需要のある仕事だけ確認するつもりだった。
「村に帰ると言っていたけれど、紹介状は出してもらわなかったの?」
侍女の仕事は信用が第一なので、紹介状がなければ仕事は難しい。だけど、貴族の家や大きな商家を選ばなければ雇ってくれるところはあるはずだ。
「はい。急に辞めて来たので…ご迷惑をかけたことでしょう」
「じゃあ、もし困ることがあれば私が紹介状を書いてあげるわ!騎士団で客室の担当になるのは高い評価があったらでしょうし、仕事姿は一度見てる。もし私と別れた後でも、シュタインハート家にこの話をすればお父様から紹介状を書いてもらえるし、もし必要なら仕事も紹介してもらえると思うわ。仕事のことなら頼ってちょうだい」
「あ…りがとうございます」
「行きますよ!」
騎士が振り向いて二人を呼んだ。
紹介状というのはその人の仕事ぶりに保証するということ。何か不利益が及べば責任を取るという意思表示でもある。それなのに従事したこともないエマにそこまで言ってくれたことに居心地の悪さを感じていた。一度ほんの少しだけ会話しただけのエマを信用しているかのような言い草を不思議に思いながらも、エマはアデリーナの後ろをついて行った。
四人は宿ではなくアデリーナの母方の家の所有する商店の二階に身を潜めた。エマですら宿を取るのに、彼らは平民が休憩に使う小さな部屋で眠ると言った。二日目からは宿は使わないと決めていたらしい。
「エマさんの村はどの辺りなんですか?」
エマの夫役を兼務することになった騎士ハデスが入り口に腰掛けて地図を広げた。
「私は七つ目の街、ランケードを西に行った先です」
エマは広げられた地図のランケードを指差して道を指した。
「私たちは…五つ目の宿場を北に向かうからそこまでは一緒ね」
「お嬢はちゃんと椅子に座ってください!」
「はいはーい」
アデリーナもエマの横にちょこんと座ったが、ハデスがすぐに追い払う。分かっていたが貴族が床に座るのは本当に許されないらしい。
「明日は朝一の馬車に乗って日没ギリギリまでかかるから今日は早く休むように」
夕食を取った私たちは、その日は早くに蝋燭を消して床についた。半日馬車に乗っただけだったが、疲れていたらしい。エマはすぐに眠りについた。トーマスのことを思い出す暇もなかった。
次の日は明るくなってはいたが日の出よりも早く馬車に乗った。休憩も少なく、御者も先を急いでいるように見えた。
「今日は新月だから、暗くなる前に街に着きたいんだろう。暗くなると危険も増えるからな」
父役のキャンライという騎士は、馬車に乗っていても気を抜くことはなく、同乗者をぐるりと確認した後は、ずっと外を見ていた。
「到着~到着~」
エマはその声を聞いて立ちあがったが、一歩目はすぐに出なかった。お尻は痛く揺れる度に隣に当たらないように足に力を入れていたので足はプルプルしている。王都に出て行った時は人が多くなるのは王都に近づいてきてからで、慣れて来たころに満員の馬車に乗った。だが、王都からはずっと満員で、特に今回の馬車は常に肩が触れ合っているほどの混雑だった。
「少し…疲れたわね…エマさんは大丈夫?」
エマと同じように疲れた表情を見せたのはアデリーナだけだった。他の乗客は慣れたようにすぐに降りて行った。
「私も今日は辛かったです…」
エマとアデリーナは騎士二人の手を取って馬車を降りた。
「ここは本当に人が多いわね…」
馬車から降りると、乗合馬車の到着を待っていたかのように辻馬車や貸馬車にがずらりと並んでいた。
「各方面ににいく中間地点ですからね。宿が取れずに馬車のまま寝る人の為の貸しスペースもあるほどです。今日はそこが私たちの宿となるわけです」
キャンライはアデリーナのフードをより深く被せ直し、私たちは夕日を避けて休憩が必要だと判断され、貸馬車を持ってくるようにとハデスに言い、すぐ目の前の茶屋へと入ることになった。
アデリーナを庇うようにキャンライは彼女の横を歩き、エマは仕事の仲介所はどこだろうと、辺りを見ながら彼らの後を追った。
「エマ!」
エマが数歩歩いたところで、フワッと横から抱きしめられた。不意に襲われると叫び声は出ないとは聞いたことがあったが、急に抱きしめられても身を固めることしかエマには出来なかった。
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