【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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また試験。

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 その後、あっさり学園長から王家の宝は帰ってきた。すぐにチョーカーを着けると学園長から「おおっ」と声が漏れる。

 「では、女王。」
 「学園長、ここではヒスイと名乗る事にしました。」
 「ヒスイですか。良い名ですね。コハク君と同様に遠くの地域で宝石として扱われる物の名前でしたか。親にとって宝だと表しているのでしょうね。」

 親にとっての宝。
 この言葉が学園長からでなければ胸が温かくなる言葉だ。

 「ではヒスイ。貴女は我が学園の研究開発課に進学を許可します。これからどの学年に入るかテストを行います。結果は後日。」
 「これからテストですか!?」
 「はい、こちらに。」

 抜き打ちテストなんて酷すぎる。
 その後のテストに一度目の人生・ニホンに居た前世・今生の全ての記憶を掘り起こし、終わる頃にはヘトヘトになっていた。
 私にもプライドがある。せめて年相応の学年に入りたい。初等部に入れられたら泣く。

◆◆◆◆

 「ただいまぁ~。疲れた~。」
 「・・・。」

 寮に帰ってきたけど返事は無く、寝室に入ると制服姿のコハクさんがぼんやり外を眺めていた。返事が無いからきっと邪魔しちゃいけない。二段ベッドの上を目指し、梯子をギシギシと登った所でコハクさんが驚いた様子で振り返った。

 「ヒスイ帰ってきてたんだ。」
 「さっき帰って来た所です。学年決めの試験があってヘトヘトですよ。」

 二段ベッドの上から寝転がりながらコハクさんを見ると、耳が赤くなり落ち着きがない。

 「試験って何処の建物だった?」
 「学園長室のある一番大きい建物です。」
 「ヒスイも今日そこの建物に居たのか!凄い美人に会わなかった?」
 「凄い美人?会ってませんよ。」
 「そうか・・・。」

 コハクさんが凄くその人を気にしている事が分かる。今後、コハクさんの恋の話を沢山聞く事になるんだろうな。それはそれで楽しそうだ。

 「ははーん。早速誰か好きになっちゃったんですか?コハクさん惚れっぽいですね。」
 「惚れっぽい自覚はあるけど・・・今までとは比べ物にならないトキメキを感じるんだ。」
 「恋する度にそう思うんですよ、きっと。」
 「いや、コレは本物。」
 「そうですか。」
 「でも俺と格差が有りすぎる。」
 「終わりましたねー。次見つけましょ次。」
 「終わらせるの早くないかな!?」

 格差がある恋愛なんて自ら大変な道に進まなくても。そう思いながらまだ昼過ぎだと言うのに布団の上でゴロゴロした。

 「・・・ヒスイ。」
 「何ですか。」
 「明日から学校に入れるって決まって、こうして友達と一緒に過ごして気楽に話もして。恋もして。俺さ、今凄く幸せだなって。夢じゃないかなって思うくらい。」
 「そうですか。僕もコハクさんに会ってから、なかなか楽しいですよ。」
 「・・・そうか。俺といて楽しいのか・・・。」
 「コハクさんの次の目標は何ですか?」

 そう聞くと、コハクさんはうーんと顎に手を当てて考える。

 「学園入学が決まったら家族をこの国に呼ぶ約束をしてるんだ。それが次の目標・・・かな。」
 「へぇ、良いじゃないですか。呼びましょう。」
 「いいの?結構ヒスイにも絡んでくると思うよ?」
 「良いですよ、こっちはコハクさんにお世話になりっぱなしですから色々協力します。」
 「そうか、ありがとう。早速手紙を書こうかな。」

 この人の幸せがもっともっと増えると良い。昼寝の前にそんな事を考えながら寝ることができた。
 外から香る匂い。暖かな光。コハクさんのお休みを言う声。



 私も幸せなのかも知れない。



◆◆◆


 次の日。
 試験結果の通達があった。

 「どうしましょう。このペラっペラの封筒を開けるのが怖いです。」
 「分かる、その気持ち。」

 手元には私の通う学年が記されているはず。頼む、年相応かそれ以上!!
 薄目でピリピリと封筒を開け、中の紙を取り出す。隣で見ているコハクさんも緊張した面持ち。

 「高等部2年、研究開発課。」
 「なんだ、ヒスイと学年一緒か。13歳で高等部2年なんてヒスイはすごいな!同じ学年なら午前の授業は全学科共通だから一緒だ、相互監視人としては楽で良い。」

 私の体は16歳。一個上の学年か・・・。未来の王として結構勉強したはず、ましてやニホンでは寿命まで生きたというのに。実はもっと上を期待していた。でもコハクさんと一緒ならいいか。

 「コハクさん、今何歳ですか?」
 「俺は17。」
 「へぇー。トロルゴアでは18歳が成人でしたっけ?もうすぐですね。」
 「そうだなーお酒飲んでみたいなー。」
 
 私達は他愛もない話をしながら朝食を貰う為、食堂へ向かった。だけど食堂はザワザワと騒がしい。騒ぎの元を辿ると掲示板に張られている指名手配の紙。

 内容は、女王の寝室に忍び込み王家の宝を盗んだ諜報員。捕らえた後、処刑場まで道のりで逃亡。その後女王も行方不明。その他背丈や逃走時の衣服の特徴や時期が記されていた。
 その情報から少し調べれば私だと気がつく者も多いだろう。

 更にその隣を見て驚く。
 女王、アスティリーシャ・グレングールシア。他国の諜報員と裏で手を組み情報を流していた疑惑有り。売国行為が明るみになり失跡の可能性。
 
 何ともメチャクチャな言い分であるけれど、何をしようとしているかは分かった。
 男装している私、本当の私両方を追い詰めに来ているという事だ。男装していても、それを解いても逃げ場は無いと。
 しかし、亡命した私をどうして捕まえたいのか。
 そのまま国内を好きにすれば良いのに。
 私を捕まえる目的、私を悪者にして国民の支持を増やしたい?
 若しくは【王家の印章】を私が持っていると気が付き奪いたいのか。
 【王家の印章】が必要な書類は全て解除したはず・・・それとも国のトップとしての象徴が必要なのか・・・まさかまだ完全に王政を廃止しないつもり?
 
 「ははは、可笑しい。」

 つい笑いが出てしまう。そんな私を周囲の生徒が観察するように見ている気がする。

 「ヒスイ?」

 心配そうに見るコハクさんに申し訳なく思う。一ミリも私を疑っていない態度だ。
 だから、こういう時こそ空元気でも強く堂々としようと思う。

 「僕は学園長の前で無実を証明して入学を許可されたんです。国で何と言われようと僕がする事は変わらない。」

 ニッと笑って見せればコハクは何か察した様に頷いた。

 「そうだな。」


 彼はこの諜報員として書かれた特徴通りの衣服を私が着ていた事を知っている。どろどろではあったけれど、収容されてすぐはこの服を着ていて食事を与えられるほど近くに居たのだから。
 それなのに何も問いただす事もなく、私が無実だと分かっている様なそぶりをする。
 この人はいつか悪い人に騙されるんじゃないだろうか。

 何はともあれ、心の中で気合いを入れ記事をもう一度睨みつけるとコハクと共に朝食を貰いに行った。

 「よし!!初めての授業もあるし、今日はいっぱい食べる。大盛りでお願いします!」
 「じゃあ俺も大盛りで。」

 朝食の後半には大盛りを後悔しながら、これから訪れる日々の不安をご飯と一緒に押し流した。

 登校初日。
 高等部2年の教室に向かう。

コハクさんは相変わらずニコニコのお面を身に付けてフードを深く被っている。私は私で両手足に壊れた古い枷が付いたままで元犯罪者感が凄い。

 午前授業は全学科合同の一般科目。午後は専攻学科によって変わる。
 私達は相互監視人なので午前授業は同じクラスに途中入学となった。

 先生に改めて簡単に紹介され適当な席に着く。
 高等部だけど特に席に指定は無く、教壇を囲む様に半円の長いテーブルがある。
 空いている空間にコハクさんと隣で座り授業が始まるのだけど・・・何だろう。
 凄くさらっとしてる。あまり馴れ合いはしないみたいな雰囲気だろうか。

 いや、明らかに元犯罪者っぽい自分とお面にフードの男二人だ。キャラは濃いけど関わりたくは無いのかも知れない。

 だけど授業が面白い。
 ニホンの生活では寿命まで生きた私だ、学ぶ大切さと楽しさは私の中にしっかり生きていた。
 初めての授業が終わると大興奮だ。

 「コハクさん、さっきの所・・・ココなんですけど。」
 「あぁ、ここか。少しややこしかったな。」

 次の授業が、始まるまでついコハクさんと授業内容の話をしてしまった。


◆◆◆


 昼の食堂。

 
 「授業は楽しかったですけど、友達作ろうって雰囲気ではありませんでしたね。」

 人が少ない所を見つけ受け取った料理を二人で食べ始める。

 「あー。うーん。そんな雰囲気があったとしても俺と友達になりたい人なんて居ないと思うよ。」
 「そんな事無いですよ。僕はコハクさんと友達になれて楽しいから。」

 その言葉にまじまじと私の顔を見るコハクさん。ずっと見られるとテレるんですが。

 「ヒスイってさ。俺の素顔も見ずによくこんなに仲良く出来るよね。前に牢獄に居た時も暗くてよく見えてなかっただろ?」
 「見てませんけど、それはコハクさんも条件は一緒ですから。僕も色々話してないし隠してますよ。」

 男装しているし。隠しているのはお互い様だから。

 「ねぇ、ヒスイ。」
 「何ですか?」
 「今夜、ヒスイの事もっと知りたいんだけど。」

 もぐもぐ咀嚼しながらコハクの顔を見ると多分真剣な姿勢でこちらを見ている。お面で分からないけど。

 「そのお誘い、なんかエロいですね。」
 「ぇえ!?どこが!?何で!!」

 ガタッ
 「ぃっ!!」

 勢いよく立ち上がったコハクさんがテーブルに体をぶつけて料理が一回跳ねた。
 その料理達の無事を確認してからコハクさんの心配をする。

 「大丈夫ですか?」
 「・・・大丈夫、大丈夫。」

 椅子に座り直したコハクさんが少しモヤモヤしながらも日替わり定食を食べ始めた。
 チラッと見えた口元が少しムスっとしていて可愛かった。
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