【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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初登校

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 食堂では日替わり定食が無料。それ以外にもメニューがあるけど追加料金がかかる。

 学生の支援のため最低限の衣食住は揃えられているけど更に良い物を求めるには何かしらの方法でお金を稼がなければいけない。

 「いいなぁ、日替わり定食以外も美味しそうですよね。コハクさんは何か学園内で仕事見つかりそうですか?」

 実家から支援がある人は問題ないけれど、支援の無い学生も多い。
 だから学園に仕事の紹介や相談できる場所がある。稼ぐ方法は学生が何かしらの犯罪に巻き込まれない様に学校の仲介する仕事のみと決まっている。
 いくらトロルゴアとはいえ、完全に犯罪が無い訳じゃないそうだ。

 「あぁ、俺は医療関係で仕事を貰えそうだ。」
 「へぇ、コハクさんって医療に詳しいんですか?」

 具体的にどういう能力があって学園に入学したのか知らないから色々すっとぼけて聞いてみる。
 
 「医療に詳しい訳じゃないんだ。これから具体的に勉強する事になる。俺は流れを見るのが得意で・・・例えば川や風の流れとか。この国で風の流れを見て病気が流行りそうなら流を良くしたり、人体では血の流れから情報を見たり。」
 「流を見る・・・それって凄いですね。」
 「そうでもないよ、学の無い今は何となくしか分からないから。何となく悪い流れな気がする・・・みたいに。血は結構具体的な情報があるから分かりやすいけど。」

 その差は何かは分からないけど感覚的なものなのだろう。

 「ヒスイは?」
 「え?」
 「ヒスイは何か仕事できそう?」
 「・・・出来ても大したお金にはならなそうですね。」
 「でも重罪人用の手枷壊してただろ?凄い魔法が使えるんじゃないのか?」
 「僕が出来るのは凄ーく固い石を出せるだけなんです。大きさも手に乗るくらいが限界。入学試験も学園長自慢の手枷を壊せたらいいよって話で壊せると思ってなかったみたいな反応でした。」

 コハクさんが、うーん・・・と反応に困っているのが分かる。

 「いいんです、フォローとか大丈夫ですから。」
 「俺は石とか幼い頃たくさん集めたし好きだよ。」
 「ありがとうございます。」

 話ながらご飯をもぐもぐ食べ終わるとすぐにそれぞれの専攻へ移動となった。
 コハクさんと離れる事に心細さを感じながらもそれを隠して話を続ける。

 「コハクさんは医療学科ですね。」
 「うん、ヒスイは研究開発科だったね。終わったらまた寮で。」
 「はい、僕は話せない事もまだ多いのですが夜までにコハクさんに話せる事を纏めておきます。その代わりコハクさんも色々教えて下さい。僕もコハクさんの事知りたいので。」
 「・・・わかった。」


 私達はそのまま別れてそれぞれの教室に向かった。
 あんなに優しいコハクさんは何の事情がありここに来たのか正直に言えばとても気になる。
 後はお面の下の顔。隠されると気になるのは人間の性だ。だけど代わりに自分に話せる事は。それらを考えながら研究開発科の教室に向かう。


 そこには作業場という言葉がピッタリの雰囲気だった。

 各々で好きな物を作り、先生に助言を貰いながら開発し作る場という所だろう。
 教室に入っても誰もこちらを気にしない。自分の作業に集中している。
 先生だけこちらに気がつくと、再び皆に説明してから各々の作業に戻るのだった。あっさりしてる。

 「ヒスイには、学園長からコレを壊せるか試す様にと依頼が来てるよ。報酬もありだ、良かったな。」
 「壊すだけで報酬までですか?」
 「細かい記録も書いて貰うけどね。コレが確認事項の書類ね。」
 
 女性にしては筋肉質で魔物も一捻りにしてしまいそうな先生が説明してくれる。

 私に来た仕事は製品強度試験の仕事だった。
 貰ったのは手枷、足枷、牢獄の鍵部分。この3つ。

 私はそれぞれの確認事項を読みながら1つ1つ壊していく。ここが弱そうだな、と思うところに石を詰め込むイメージだ。内側から最大限大きな石を作り破裂させて壊していく。

 「先生、終わりました。」
 「お、おお。早いな。学園長もこりゃ泣くわな。」
 「強い石を出すことだけが取り柄ですから僕も負けられません。」
 「はっはっは!!そうかい、そりゃいいね。学園長から、それが壊せたならその固い石の活用方法を課題とするようにって言われてるよ。強度バッチリの素材が何に使えるかしっかり考えるんだよ?」
 「はい!わかりました、先生。」
 「それにしても、君の出現させた石からは君と同様に綺麗な魔力を纏っているね?見た目はただの石だけど魔力で輝いて見える。不思議な石だ。」
 「そうなんですか?」

 ハキハキ喋る先生につられて自分もハキハキ喋ってみると髪をぐしゃぐしゃにするように撫でてくれた。
 何か作れ。と急に言われず、課題項目の指示があって良かったと思う。
 報酬を貰いウキウキしているのが伝わってしまったのか、アイディア出しは家でやって来ても良いが結果はしっかり出せよ?と帰る事を認めてくれた。

 報酬を握り締めると、早速購買部へ駆け込む。


◆◆◆◆◆

 
 色々準備が終わり、まだ時間が余ったので医療科までコハクさんを迎えに行くことにした。監視レベルが低い私達は案外緩い相互監視人になっているけど可能なら一緒の方が望ましい。

 医療科に行くと授業が丁度終った所だった。

 コハクさんは一人で席に着いて帰宅の準備をしている。少しビックリさせようと入り口に隠れ様子を伺う事にした。きっと今、私は悪い笑みを浮かべているだろう。

 「コハクって人も医療科だったんだね。私、同じ教室嫌だなぁ。」
 「視界に入ると空気がとどんよりするのよね。」
 「能力は凄いんだろうけど見た目が不気味過ぎて将来患者も逃げ出すだろー。」

 入り口付近に隠れていた私は去り際の生徒達の声が耳に入る。
 コハクがそう言う風に言われている事が私には衝撃的だった。私は身を隠すのを止めて堂々と教室に入る。

 「コハクさん。僕の方が早く終ったので迎えに来ました。」

 目的の彼に声を掛けた瞬間に室内があからさまにザワついた。

 「あれに普通に声を掛けられるなんて、あいつ結構ヤバい罪人だったりして。」

 そんな声が聞こえ、つい王家の威嚇・・・ではなく威圧感のある眼差しを向けた。
 すると案の定ビクリと肩を震わせ荷物を纏めてそそくさと出ていった。ふんっ、口ほどにもない。

 コハクさんの肩を優しくポンと叩く。

 「あ、ヒスイ。ごめんボーッとしてて。・・・帰ろうか。」
 「はい、帰りましょう。」

 酷く落ち込んでる様に見える。
 さっきの人達の言葉が彼に伝わってしまったのだろうか。いや、言葉に出さなくても態度に出ていたのかもしれない。それが彼を傷つけたのかもしれない。
 何も言える言葉が思い付かないけれど、隣に並んで当たり障りの無い授業内容の話をした。


 どうしよう。今部屋に準備している物が場違い過ぎる。


 「あ、あの。コハクさん。」


 部屋の前に着くと今だに落ち込みぎみのコハクがドアを開ける。

 入ってすぐのそこには私が購買部で揃えたお菓子と飲み物、サンドイッチがあった。色紙で簡単な飾りも作り、見るからにちょっとしたお祝いの雰囲気。
 コハクがポカンとしているのが分かる。

 「あはは・・・二人で入学祝いをしようと思ったんですよ。えぇと、さ。あ、あの。今日、簡単な仕事が来ていて初めて報酬貰ったんです。それで買ったんですけど・・・。」
 「・・・」
 「気分じゃない・・・ですよね。ごめんなさい。」

 コハクの後ろ姿しか見えなくてなに考えているか様子がわからない。
 正面から見てもお面があるからわからないけど。
 プチお祝いな雰囲気の部屋を見て、立ったまま動かないコハクさんの様子を伺おうと覗き込むと急に視界が暗くなった。
 暗いというよりコハクの制服しか見えない。とても温かくて春の風のような香り。

 「・・・ヒスイ、今こんな事されたら本当に好きになっちゃうから。」

 抱き締められてると気が付き我に返るけど、私を包む腕が少し震えていて、離れたらまた彼は傷付くんだろうなとわかった。
 他の生徒からの態度に今日だけでもとても悲しい気持ちになったのだろう。
 落ち着かせる様にコハクさんの背中に手を回してトントンと優しく触れる。

 「好きになればいいですよ。僕は友達としてコハクさんが結構好きですよ。」

 友達として好き、今の自分にはそれが精一杯だった。
 幼い頃から仲良くやって来たと思っていた人物に陥れられるし。一度目の人生で起こった事件を回避し更に発展をと全力を尽くした国から逃げている現状が心にストップをかけてしまう。

 私の中にあったはずの『人との絆』と呼ばれるモノは絶望の炎に燃え灰になっている。
 
 だけど友達という枠なら気楽なモノ。
 環境が変われば「また連絡するねー」と言って音信不通なんて割りとよくある関係だ。
 その瞬間を一緒に楽しく過ごせればそれでいい関係。
 そんな呆気ない関係を言葉にしたのに。

 「友達として結構好き・・・そうか、凄く、凄く嬉しい。」

 お面の中を袖で拭い、とても喜んでくれるコハクさん。
 家族以外からの友好的な関係に憧れを持ちながらも叶わないと諦めていたのだろうか。
 好きになっちゃうから・・・とか、好きになっても良いか聞くのは冗談っぽく相手との距離を図っているのかもしれない。

 飲み物を二人分用意すると飲み物を差し出した私は、

 「じゃあ、入学祝いと未来の親友に。」


 いつか親友に。

 
 この人をそう思える日が来ればいい。
 そんな願いを込めて二人で乾杯をした。
 絆という灰の山から芽が出る日を夢見ている。
 
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