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初遅刻
しおりを挟む朝日が差し込み、眩しくて目が覚めると机に突っ伏して寝ていた事に気がつく。
気持ちの良い日差しにもう一度目を閉じたい所だけど体が痛い。
まだ若いと言っても机に突っ伏して寝るのは良くないみたい。
痛む体を伸ばしてからあくびをすると背中にあった温かいものがバサリと落ちた音がする。
コハクさんが布団をかけてくれたのかな?彼は世話好きというか気が利く人だと感心する。
落ちた布団の埃をポンポンと払い、ベッドへ戻すと変な寝方をしたせいで痛い首を手で揉みほぐした。
部屋をぐるりと見渡すと視界の端で机に置かれた時計がカチカチと妙に耳につく。
今の時間は・・・。
確認した途端に背中がヒヤリとして胃をぎゅっと鷲掴みにされた様な感覚になった。
「授業が始まる時間!?」
作った試作品をかき集め、鞄に詰めると寝不足と机で寝た事による体の痛みに堪えながら走った。
手に残るヒリヒリする感覚も焦りですっかり忘れていた。
◆◆◆
そして授業中の教室に忍び込もうとした私は。
「うわぁぁ!!」
先生の仕掛けたであろう何かの魔法で、教室の入り口から反対側の窓まで吹っ飛ばされた。その勢いで、持っていた試作品も教室中にばらまいてしまい教室中がキラキラとした粒によってファンシーな雰囲気に。
持っていた試作品はビーズ程の小さくキレイにカットされた石達。
わぁ、綺麗。
「ヒスイさんは病欠と聞いてましたが、ただの遅刻だったのですね。そしてこのとても小さな宝石は何なんです?」
小さいとは言え宝石の様な大量の石が散らばる。他の生徒達と先生の視線が痛い。
お前、早速泥棒でもしたのか?という疑いの眼差し。
だから宙吊り状態から静かに下ろされながら必死で説明した。
「遅れてすみません、これは研究開発科の課題なんです。宝石ではなく色が綺麗なだけのただの石を小さく可愛い形に出現させたもので。」
色が綺麗な石を宝石とも言う場合もあるけど、あくまでも宝石としては小さく価値はありませんという事を言いたかった。
そう言いながら証明する為に手から小さく透き通った石を出して見せる。
「なるほど、それでこの石で何の研究と開発に繋がるのです?」
先生の目が「こんなお遊びで寝坊したのか?」とでも言いたげだった。
「先生、手を貸して下さい、これスゴいと思うんですよ。纏う魔力へ影響を与える作品です!」
「ふむ、そう言えば貴方の纏う魔力にも変化がありますね?ちゃんと節度ある生活を心掛けているのですか?」
あ、そうだった。
呪印のせいでコハクさんの纏う魔力が私の纏う魔力に少しだけ混じってるのだった。
生徒や先生の視線が急に教室の端っこにいたコハクへ。そのコハクさんはお面を付けていても分かるほど気まずそうに視線を逸らしている。
「勿論、節度ある生活しているのですがコハクさんに色々手伝って貰っていたら彼に迷惑をかけてしまいました。ほらっコレ見てください!」
床から起き上がると先生の手を取り、爪に小さな石の粒を花の形に付けた。
ネイルをすると気分が上がるとニホン時代の友人が言っていた。それを参考に自分の魔力を注ぎなからネイル用の石を作成。
最初は呪印から発想を得て肌に押すボディスタンプを開発していた。
魔力を込めた石を粉末にしてインクに混ぜた物を付けたスタンプで肌に印が付くことで纏う魔力に影響が出るのではと思った。
だけど見た目が小さなタトゥーという感じでかっこよくはなったけど可愛くはならなかった。
体に直接付けて自然なもの。
そう考えて次に思い付いたのがネイルストーンだった。
小さな輝きのある花の粒を爪に着けた先生は少しソレを眺めると、周囲の生徒からザワザワと話始めた。
「せ、先生の纏う魔力に少しですがヒスイさんの魔力と同じキラキラが現れてます!!」
「・・・なんと破廉恥な。」
そうなるよね。纏う魔力に他人の魔力が混じるのは交わった証拠みたいなモノだものね。しかし。
「纏う魔力でモテ方が違うって聞いて考えたんです。生まれながらに持った魔力で自分にはどう変える事も出来ないそれを変えられる新しい発明ですよ。お洒落と何も変わりません。」
先生が再び爪の装飾を眺めた後。
「宝石を盗んだ訳でもなく、節度ある生活を送っているのでしたら良いでしょう。ですが遅刻はいけませんね反省するように。これだから研究開発科は・・・」
研究開発科は遅刻が多いらしい。
先生はハァとため息をつくと授業を進めるためにカツカツと教壇に戻っていった。
反省しながら教室中に散らばったネイルストーンを地道に集め始めると授業は問答無用で進められる。
後でコハクさんに内容教えてもらおう・・・。だけど僕に混じったコハクさんの魔力の事、誤魔化せて良かった。
先生の声をBGMにただひたすらネイルストーンを集めるけれど細かくて集めきれる自信がない。無心にそれを続けていると、とある女生徒の机近くにやってくる。女子生徒の辺りはスカートの中覗いてるとか思われないように慎重に・・・そう思っていたのに小さな声で話しかけられてしまった。思わずビクリと体が震える。
「ねぇ、ヒスイ君。」
「な、んですか?」
誤解で罰が増えるのは勘弁願いたい!冷や汗が出ながら女子生徒を見るとポッと頬を染める。
「ねぇ、さっきの爪の飾りキレイね。あれって取りたくなったらすぐに取れるの?」
良かった、冤罪が追加されなくて。
「弱いノリしか持ってないですから、爪で引っ掻けばすぐに取れます。」
「少しで良いから私にも付けてくれない?」
「いいんですか?僕の魔力が移りますけど。」
「いいよ、だって回り見てよ。ヒスイ君がさっきあっちこっちに石を飛ばしたから教室だけじゃなく他の生徒の服にも入り込んで皆に貴方の魔力が移ってるわよ?今さらだから。」
みんな、ごめん。
「それに、先生も取らないで授業してるでしょ?爪の飾りは可愛いし、着けてから先生とてもキレイになったわ。」
「そんなに変わるんですね、じゃあ授業見ながら手だけ貸して下さい。」
そうしてこっそり一人の女生徒に付けてから次の石を探しに行こうとすると、先ほどの様子を見てた他の女生徒から声を掛けられる。その後は「男にもこんなのあるの?」と男子生徒に話しかけられ、夜中に考えた中二病感溢れるデザインのタトゥー風スタンプも進める事が出来た。
結果的に、殆どの生徒がキラキラの魔力が加わり魅力度アップ。他のクラスにも噂が広まり見に来る人がチラホラ見えた。
これは良い商売ができるぞ!!と悪い笑み浮かべた頃。一週間もすると、それが問題視されて職員会議にかけられ、罰としてまだキラキラ石が残る教室の徹底清掃を行う事が決定したのだった。
ただ、駄目だったのは使用許可を得ていないアイテムを他の生徒に使った事であってアイテム事態は咎められなかった。それを良い事に今も改良を重ねている。
・・・
「あ゛~、教室広い。」
これから夕日に変わるであろう光を窓から感じながら掃除用具を手に持ち、武術訓練の授業で着る男女同じデザインの服に着替えた。
掃除をする教室に訪れたものの1人で絶望している。
皆、午後の専攻授業があるから誰も居ない。コハクさんは手伝ってくれようとしたけど午後の専攻授業が終わっても終わらなかったらお願いする事にした。
黙々と清掃をしているとニホンでの人生を思い出す。ニホンでは一般庶民で大学の時、友達の1人にネイルの好きな子がいた。それから大学を卒業して・・・普通に就職して・・・。結婚して。
「あ・・・」
今まで忘れていたけど前世の結婚について思い出した。
「嫌な事思い出したな・・・。」
思い出したのは元婚約者にそっくりの人物。結婚し、相手の浮気による離婚をした相手だった。
子供も成人して、夫婦二人で楽しく暮らしていこうと思ったら浮気されてると知って離婚。
離婚したと言うのに浮気相手から凄い恨まれたんだっけな。子供達や夫の親族と上手くやれなくて元夫も早く亡くなって。
『貴方がもっと早く離婚してくれたら幸せだったのに!!』
浮気を知ってから即離婚したし、ごねたのはアイツなのに。嫌な思い出を洗い流す様にモップで床をゴシゴシした。
荷馬車に乗せられた時に現れた婚約者の番の香り。あの香りは前世の浮気相手のイメージを彷彿とさせた。
「この世界では生まれ変わった浮気相手と二人、仲良く暮らしてめでたしって事?・・・はぁ、結婚する前で良かったと思うしかないか。」
自分勝手なアイツらについイライラとしてモップを持つ手に力を入れる。
今思うのは子供や孫の幸せだけ。
すると胸元にある【王家の印章】が温かくなる。
初代王妃の子孫の幸せを願う気持ちが詰まってるから共感してくれたのかも知れない。
初代王妃の熱に触れ、胸に手を当て考える。
・・・死からの逆行。
強大な魔力を持ち生まれるはずの王族、なのに私には石を出すしか出来ないのは何故?
私の現状は国民を守る役目は果たされた事で用済みとなったからなのだろうか。と今の状況を悲観する考えがふと浮かんできてしまう。
【王家の印章】とチョーカー。このまま自分が持っていたい。初代王妃の子孫への思いがこもった宝だもの。純粋に私を見守ってくれるし信じられる物。
プツリとチョーカーを外し【王家の印章】と共に夕日に照らされた机へ置く。
キラキラと光るそれらが何か言ってくれるのではないかと期待して。
「私はこれからどうしたら良いのでしょう。」
ピカピカに磨いた席で夕日がキラキラと差し込む教室が心地良い。
「はぁ・・・」
物音一つしない静かな空間に耳を澄ましてみるけれど何も聞こえない。
眠いな。
そう言えば昨日殆ど寝てなかった。掃除も終わったし、チョーカーを付けて部屋に戻ろう。
そう思った時、ギィ・・・と扉が開く音がした。
「ヒスイー。手伝いに来たよー。」
教室の扉から入ってきたのはコハクさんだった。来るだろうと予想は出来たけど思ってたよりも早いな。友人がやらかした罰の手伝いなんて本当にお人好しだ。
そんな彼の純粋な優しさに触れる度に暗くなった気持ちが少し和らぐ。
トロルゴアに来てからずっと彼に心が救われていた。彼の純粋な善意が私の恐怖や不安を和らげる光になっていた。
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