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心の隙間を埋めたい。※?
しおりを挟む「ヒスイはいませんよ?」
ヒスイなんて存在しない。なのにあの姿は気楽で、今は私が私を演じている。
教室に入ってきたはずの彼は、思ってもいなかった人物に会った為か入り口から入る形で止まっていた。服装は武術訓練の授業で着るジャージみたいな服装でヒスイの掃除を本気で手伝いに来たというのが分かる。
「・・・」
「がっかりしたかしら?ヒスイじゃなくて。」
気楽に友達に会いに来たら元王女がいるなんて妙に気を使う相手だと思う。それが少し好意があるなら尚更。
「そ、そんな事はありません。・・・少し驚いただけですから。」
入り口の扉を閉めて入って来たものの、もっと近づいていいのか考えている様子だ。ソワソワと何か話そうとしてくれているのが分かる。
私は私で机に置いた国宝を懐に入れた。
「さっきのチョーカー、ヒスイがいつも付けている物ですよね?」
「ええ、そうです。初代王妃から代々子孫に伝わる国宝なんです。いつも身に付けてるのに今日はウッカリしているわね。」
「じゃあ、ヒスイも王族?」
「具体的に話せないけれど、貴方の好きに想像してくれて構わないわ。」
まぁ、嘘はついてない。そう思いながら少しの罪悪感がある。
眠いから部屋に帰ろう。
そう思い席を立ち、扉の辺りに立っているコハクさんの横を通り教室を出ようとすると、慌てて話題を切り出した。
「あの!好きな食べ物とかありますか!!」
急に何を言い出すのかと思えば好きな食べ物の話だった。
確かに会ったら何話したいか聞いた時に言ってたけども。それを、思い出すと何故だか面白くて笑ってしまう。
「ふふふ。そんな事に興味があるのですか?」
「そんな事ではありません、重要な事です。」
お面を付けたまま真剣な姿勢を見せるコハクさんも面白い。
「そのお面、取れない?話すならお顔を見て話したいわ。」
「それは、その。俺の顔には呪印があって見苦しいので。」
呪印があって見苦しい。
彼はずっとそう思い、思われ生きてきたのだろうか。その言葉に胸が苦しくなる。
そんな事無いのに。
そう思わない人が確かにここに居るのに。
彼の目の前まで歩いて行くと、不思議そうにお面越しからこちらを見る彼。
「見苦しい、と誰かに言われたのですか?」
「それは、はい。何度も。恐ろしいとか見苦しいとか怖いとか・・・っ!!」
話している途中の彼に構わず、お面と彼の隙間に指を入れグイッと上まで上げた。
お面の下からは驚いたコハクさんの顔が現れる。
「っ、あの。話聞いてま」
「こんなに美しいのに」
夕日に照らされる彼はとても美しかった。
彼の気にしている呪印は彼を引き立てるアクセントかの様にも見えてくる。
彼は彼で、私の反応に信じられないという顔を見せた後、瞳は今にも涙が溢れそうになっていた。それなのに戸惑いながらも嬉しそうで。
胸が苦しくなる。
隙だらけの彼の両頬を手で包み込み、呪印に触れる。大丈夫だと伝えたくて。
次第に呪印が触れる右手に熱を感じる。
「隠すのが勿体ないわね。」
「待って下さい。コレに触れてはダメです!」
触れたらどうなるか知っている。彼に近づきたくて仕方なくなる。だけど過去から繰り返された裏切りを思いだした今、自分に向けられる愛を少しでいいから感じたいと思ってしまった。
少しでいい。
今は知らないフリをさせてほしい。
両手で彼の頬を包み引き寄せると、近くに見える彼の唇はやはり魅力的で・・・。
どんどん近くなる彼の顔に胸が高鳴り、やっと触れる事のできた唇は柔らかくて、ふわりとした。
少しだけ離れれば彼の息遣いを近くで感じられる。驚き大きく開いた彼の瞳に私が映り、顔はみるみると赤くなると恥じらう様に目を伏せる仕草に色気を感じる。
そんな反応につられて私も頬が熱くなる。
もっと。
もっと触れたい。
キスだけなのに体の芯が痺れる様な感覚が私を更に貪欲にしていった。
再び重ねた唇の感触が気持ちをフワフワとさせて心地よく何度も求めてしまう。
ちゅっと静かな教室に響くリップ音がとてもいやらしい。
だけどそれが更に気分を高める。
夕日の沈み、暗くなった教室というのは悪いことをしている様で少し楽しい。
私はとても悪い生徒なのかもしれない。
体がとても熱い。熱くて熱くて堪らない自分の体に左手で彼の手を引き寄せた。弱々しく抵抗する手は少しヒヤリとして、大きく逞しい手を衣服の裾から腹部に這わせるとそれだけで気持ちよかった。
「っぁ・・・」
そのまま腹部から上にと手に力を込めて導く。
胸の膨らみにその手が到達すると待っていた痺れが訪れるけど、されるがままの彼の手がこれ以上はダメだと言う様に導く私の手を止めてしまう。
キスを止めて彼の瞳を見ると、コクリと喉が上下する。
「お願い。触れてほしいの。」
「だけど、俺は・・・」
抵抗する力が弱くなった彼の手に私の胸を押し付ける。ピクリと動揺するように動いた彼の手が胸の頂点に当たり再び甘い刺激がやってきて更に私を変にする。
クラクラとして彼の胸にもたれかかると私の体を支えて床に座らせてくれる。ぎゅっと抱き寄せてくれる優しい腕はとても安心できた。このままずっと包まれていたい。
そんな初心な気持ちとは裏腹に、床に座った彼の膝の上に座る体制はなかなかに恥ずかしく刺激的だった。
「貴方から触ってはくれないの?」
「ぃ、や。でも。これ以上は・・・」
「私の事、触るのも嫌?」
顔を真っ赤にしてフルフルと首を左右に振る彼に安心して自然に口元が緩む。呪印のせいにしてすり寄り彼の温もりを堪能した。誰かにこんな風に甘えるのはいつぶりだろう。きっと彼なら拒絶しないだろうという安心感がそうさせていた。
彼に再びキスをすると遠慮がちにやわやわと胸の形を確かめる様に指が動いた。
コハクさんも触れたいと思ってくれているのだろうか。その意思を感じて嬉しい。
「んっ、ふぁ・・・」
彼の口に舌の先で触れてみると、控えめに口が開く。私の事を拒否しない、もっと深く繋がりたくて彼の舌に絡めると噛みつく様なキスが返ってきた。
どちらのものか分からない程ドキドキと高鳴る鼓動が聞こえ、それだけ近くにいるんだと理解する。
お互い余裕をなくし、とにかく深く繋がりたいという衝動だけで動いているのかもしれない。
私が導かなくても自分の意思で動く彼の手を離し、私も彼の体に触れたくて服の下から手を入れる。
少しだけ汗に滲む体の温かさと直接触れる肌の感触。彼の体は思っていたより筋肉が付いていて逞しい。
もじもじと腰を少しでも動かせば、彼の服の中で主張するソレが下腹部に当たり体が熱でとろとろに溶けてしまいそう。
彼も興奮していると言う事だろうか。そうだったら凄く嬉しい。
彼の硬くなった部分を服の上から触ると彼から苦しそうな声が漏れる。
「くっ、ぅ」
「嬉しい、私でこんなに感じてくれて。」
彼の瞳を見つめ、微笑むと彼から深く繋がり絡む口付けをされる。お互いの欲のままに舌を絡め、お互いの存在を確かめる様に体に触れる。
暗くなった教室にも気がつかないほど私は夢中になっていた。
「っ、ぁ。はぁ、熱い。」
・・・
「・・・っ!!ぁ、待って。まさか、火傷!!」
ハッと息を吐き、強い力で呪印に触れる私の手を捕まれた。
「暗くてよく見えないですが火傷しているかも知れません。すぐ冷やす何かを持ってきます!ここで待っていて下さい。」
手際よく教室の椅子を引き寄せ、私を座らせると急いで教室を出ていってしまったコハクさん。
椅子に座り、彼が離れた途端に熱が引くとやっと我に帰る。
私は何をやっているのだろう。コハクさんに悪いことをしたな。完全にやらかした・・・あれでは痴女でしかない。
額に手を当ててはぁ、と息を吐く。
反省しながらも、胸に手を当てるとドキドキと高鳴る鼓動がハッキリと分かる。
しばらく恋なんて出来ないと思っていたのに。
こんなにも彼に心を許すなんて。私は学習しないヤツだ。
だけど、出会った日からずっと一緒な訳で。出会ってからの密度は高いというか・・・。そんな言い訳をしながら再びヒリヒリとした痛みの帰ってきた手を見ると昨日と同様に火傷をしている。
コハクさんには重ね重ね申し訳ないけどチョーカーを着け、何事も無かったように部屋に戻る事にした。
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