【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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夢だと思ってた。【コハク視点】※?

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 ゴロンと俺の腕に頭を乗せるし、きっとヒスイは俺の事を何も意識してないのだろう。いつだったかの様にあっさり寝てしまった。

 可愛い、可愛すぎる。

 彼女が言った欲しい物は俺なら用意出来るのに。
 そんな風に自惚れてしまう。
 俺の中には君しか居ないから。だから側に置いてくれないだろうか。

 腕に乗った重みは幸せの重みで、それなのに好きな子が無防備に寝る姿は毒でしか無くて。
 少しくらい触ってもバレないのではないかと思う気持ちで揺らぐ度に手が宙をさ迷う。

 少しして現れたガーネットさんが布団を掛けてくれたのだけど居たたまれなかった。

 「コハク君生殺しね。頑張れ!」
 「・・・そうですね。幸せだけど辛いです。」

 幸せと辛さって両方訪れる事があるんだな。暫く寝られないまま彼女の寝顔を見ながら眠気が訪れるまで必死で耐えた。

 耐えたのに!

 「おはようございます、あなた。よく眠れた?早く起きないとせっかくの朝食が冷めてしまいますよ?」

 「んー。」

 これは、いつもの夢だ。
 美味しそうな香りと共に今回はとても現実味がある。きっとヒスイが帰ってきたから想像しやすいのかも知れない。
 
 いつもの様に強引に引寄せ、彼女の唇を奪うと本当に彼女がそこに存在する様で興奮した。
 ふかふかのベッドに押し倒せば驚いた顔をする。いつものとろんとした溶けきった眼差しでなくてヒスイらしいと思う表情だった。
 触れば律儀に反応を返してくれて身をよじり恥ずかしそうにする。
 隅から隅まで触りたい。だけどすぐに消えてしまう夢なのだから触りたい所を重点的に触る方が良い。

 手を動かせば易々と侵入させ胸の膨らみまでたどり着く。いつか触れた胸を思わせるスベスベの肌。手に吸い付く柔らかい弾力のある感触。
 胸の頂点は心なしかぷくりと立っていて。
 お尻を撫でれば下着のレースが彼女を包んでいるのが分かる。

 最高の夢。

 ・・・

 夢?
 

 その後をは言うまでも無く自己嫌悪しか無かった。

 食事をするヒスイはいつも通り落ち着いていて、彼女をドキドキさせる事すら出来ないのかと落ち込んだ。落ち込んだ俺を見て彼女は気を使って励ましの言葉をくれるのか口を開いた。
 だけど可愛らしく色付いた唇から紡がれる言葉は俺にとって衝撃的な内容だった。
 
 「コハクさんが大好きだなって。」

 「・・・え?」

 「これが恋なんだなって。」


 その後に語られる彼女の心中は今まで思っていた事を覆す俺にとって都合の良すぎる想い。
 本当に夢かと思ったのに、確認のキスを許された。

 この唇にキスをしていい、俺が?

 さっき寝ぼけて濃厚に絡み合ったばかりなのに、寝ぼけていたとか呪印のせいとかの理由では無く許可を貰った上で改めてキスをするのは緊張した。

 近づいて彼女の肩に手を添えるとドクドクと自分の心臓が煩くて。
 彼女の顔に近づけば、目を閉じてくれる。
 
 キス顔が可愛い。

 ゆっくり近づき触れるとフワリとして一瞬で終わってしまった。

 「私しか好きにならないで下さい。他の人を見ないで欲しいんです。」

 ヒスイからこんな熱のこもった瞳でこんな言葉を言われたら胸を撃ち抜かれる程に心が震えた。
 こんな日が来るなんて、という驚きと好きだと言っても信じきれない彼女の心の傷に触れる。

 絶対に変わらない気持ちをずっと伝え続けるだけでなく、行動も気に止めて改めようと心に決めた。
 
 卒業したら結婚。

 もう勢いに乗るしか無かった。今の勢いでプロポーズしなければ他のやつに拐われてしまうかもしれない!気が変わらない内に!!と必死だった。

 本来ならヒスイの卒業を待つのが格好よく紳士なのだろうけど俺にはそんな余裕はない。
 ヒスイはそんな俺を受け止めてくれる。

 彼女を幸せにする為だけに生きたいと思えた。

◆◆◆

 プロポーズを受けて貰い有頂天の俺は貴族寮の入り口で堂々とヒスイの手を握り離せずにいた。

 この幸せをずっと噛み締めていたい。

 だけど貴族寮からベリルが現れた。
 貴族なのに庶民の俺とも仲良くしてくれるベリル。友人の中では一番仲が良いと俺自身は思っている。

 そのまま一緒に学園へ向かうと可笑しな噂話で盛り上がる生徒達がチラホラ現れる。

 「えー!!アスティリーシャさんってそういう人!信じられない。」

 聞こえてくる内容は彼女の男遊びの激しさなどがあった。だけどヒスイが寮に入ってから泊まったのは多分俺くらい。なぜこんな噂に・・・。

 「これはラピスがやらかしたな。コハク、もし人間関係で大変だと感じたら大切な人の事だけ考えれば良い。他は気にするな。」

 ポツリと言うベリルに何か見透かされている様な気がした。

 「わかった。いつも助言ありがとう。」
 「いいよ。何かあれば手助けはする。それにしても、ラピスは良いね。」

 この悪い噂を流したのがラピスだとして・・・そう思った上でラピスを良いと言う彼は好みが変わっている。

 「ベリルは・・・好みが変わっているね。」
 「見た目はとても可愛らしいじゃないか。なのに中身は獰猛で躾甲斐がありそうだ。あの強い精神を従わせられたらと思うとワクワクするね。
 コハクとラピスが番だと聞いて特に目は付けてなかったけど、ラピスを狙ってないってハッキリ分かったからやっと本腰を入れられるよ。」
 
 にこりと微笑む彼の笑顔にゾワッとする。

 ベリルの家はトロルゴアの罪人を監視し従わせる事に秀でている。それは代々引き継がれる能力によるものだとか。その性質が彼の好みに影響するのだろうか。前から好きな女性の好みは『ちょっとやそっとじゃ挫けない強い女性』とか言っていたな。
 
 その後ベリルにはラピスの事で色々と協力してもらい本当に助かった。普通の友人としては頼もしく優しいけど趣味だけは特殊だ。


 婚約の証を身に付け、両親に挨拶をしてもらって。二人で居るところを周知されて噂も減り。
 鬼人の自分を受け入れてくれたヒスイをもっと守れる様に祖父の残した記録を調べ、能力についても学んだ。
 これでヒスイを心配させる要因は無くなった。・・・かと思えばヒスイが倒れたと聞いて生きた心地がしなかった。

 医務室で俺の目の前に運ばれてきた彼女は息もしているのか分からない程静かで。とにかく彼女の状態を確認しなければ、助けなければと能力を最大限使い検査すると魔力切れとの結果で落ち着いた。

 先生にも状態を見て貰うと答えは同じ。

 だけどとても嫌な気配が存在し、まだ解決していない何かがある。

 ヒスイと居ると心臓に悪い事ばかりだ。
 
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