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奮闘する事1ヶ月

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 あれから1ヶ月。

 「はぁ・・・はぁ・・・・・」
 (はぁ、はぁ。これ以上は・・・もぅ・・・無理。)

 薄暗い寝室にベッドの上で横たわる私に覆い被さる様にギリギリ触れない位置で手をつき項垂れる魔術師様。
 汗だくなのにカッコいい。良い匂いがする。

 私は変態か。

 魔術師様は王城での仕事が終わると夜に訪れてくれる。そして私の中の魔物を祓う為に全力を尽くしていた。私はそれを全力で拒否している。

 本来の魔物祓いは本人が望まなければ何も干渉できない。
 それを知っていたから拒否をつづければ祓われないだろうと甘く見ていたのだけど・・・さすがは王城勤務の魔術師。
 こちらの拒否をあっさり乗り越え魔物を剥ぎ取りに来る。

 体の外に引っ張り出されようとする魔物を精神世界?で必死に引き戻そうと引っ張ること1ヶ月。毎日が綱引き大会でした。
 努力はしたものの地道に剥ぎ取られ魔物さんは半分の大きさにまでなってしまった。

 拒否されては魔術を組み直し、本来なら出来ないはずの干渉に成功した私好みの魔術師様、お名前はルナス・ウォルズマー様。
 【ツノ・控えめだけど鋭い牙・尖った耳・鋭い目】と4つも醜の象徴が揃っているので醜い魔術師として有名で、普段は見た目の事もあり有事でなければ表には出ない。ほとんど魔術の研究をしているそうだ。私も噂は聞いた事がある。

 この1ヶ月、彼の真面目な仕事ぶりに両親は私の横で雑談するくらいには気に入ってる。実力主義な両親だ。そして彼の事が知れて嬉しい。グッジョブ両親。


 「今回の魔術で体を動かせるようになったはずです。どうですか?」

 聞かれて観念した私は上半身を起こし、手を開いたり閉じたりして感触を確かめた。

 「自分の意思で動かせるみたいです。1ヶ月もご迷惑お掛けしました。」

 私が無駄に抵抗したからとても迷惑をかけてしまった。謝罪をしようと魔術師様へ目を向けようとすると、フードを更に深く被り席を立って離れてしまう。

 「1ヶ月も魔物祓いを拒否したのには何か理由があるのでしょう。しっかりご両親に話してみるといいです。今後は僕でなくても祓えるでしょうから明日からは他の者にご依頼ください。僕はこれで失礼します。」

 早口で言うとさっさと部屋を出てしまった。

 「きっと貴方を怖がらせないように配慮してくれたのね。」とポツリと呟くお母様の声が届いた。ウォルズマー様にお礼とお見送りして来るわ。と部屋を出て行ってしまう。しばらくして戻って来ると事情聴取が始まった。

 「さ、何で魔物祓いを拒否していたのか話せるかしら。心配してたのよ?」

 私は殿下の婚約者に選ばれたくなかった事、ついでに断りづらい縁談は魔憑きを理由に穏便に断って貰おうと思った事を伝えた。

 「まぁ、確かに穏便に断れるでしょうけど、やり方が良くないわ。魔物に憑かれるのは病気にかかるのと一緒で体を弱らせるのよ?」

 この世界では、下級の魔物に取り憑かれると病気になり弱り亡くなってしまう人もいる。
 中級だと憑いた者の意識を乗っ取ってしまう。
 上級になると憑かれた者は完全に魔物にしてしまう。

 なのでその後しっかりお説教を聞かされた。

 だけど、この1ヶ月で私が魔憑きになってしまった事は知れ渡り縁談もソレを理由に断る事はできそうだ。

 「母親としては、殿下の婚約者になれなくても他の貴族から話はあったから勿体無く思うのだけど。その中に好きになれそうな人がいないという事で良いのよね?」
 「はい!」
 「無駄に良い返事だわ。じゃあ・・・アーシェリアは今後どうしたいと思っているのかしら?
 婚約者に選ばれなかった時の謝礼として他の貴族との縁談や希望職種への紹介状だとか色々優遇して貰えるのは聞いていたわよね。」


 目の前の縁談を断ることに専念していて忘れていた。今後どうしよう、私の進路。18歳になるまで「婚約者に選ばれたら嫌だな、逃げれないかな」とばかり考えていた。だけど決まっている事は1つだけある。


 「ウォルズマー様にアピールしたいのですがどう思いますか?」
 「魔術師になるのは難しいんじゃ・・・」
 
 お母様は当たり前の様に私が魔術師になりたいと思ったようだ。だけどここはしっかり主張しなくては。母親に恋心を話すのは恥ずかしいけど勇気を出して話始めた。

 「いいえ、誠実で素敵な人だと感じました。私を背負って走ってくれた姿や仕草、仕事に真面目な所、そして魔術の才能。どこをとっても欠点など見つかりません!!この1ヶ月もぅドキドキで、あぁ・・・どうしましょうお母様。恋ですこれは!!」

 「え、欠点が見当たらない?そ、そう。アーシェリアはそう思うのね?本心でそう思うのなら良いお相手だと思うわよ?
 ・・・あ、でも。・・・いえ、まずお相手と親しくなってから考える事よね。」

 お母様の表情には戸惑いが隠しきれていない。だけどお兄様お姉様も素敵な恋をして結婚をした。跡継ぎや交流関係も既に安泰のトランヴェジェール家。4番目の末っ子である私にも好きな人と巡り会って欲しいと言っていた。戸惑いながらも応援してくれるらしい。

 「えぇと、まず確認なのだけどアーシェリアは魔憑きになってからも周囲の様子が分かっていて覚えているのよね?・・・目は・・・見えてるのよね?」
 「はい、しっかり見えています。」

 今日はあの人が少し荒れるかも知れないわね、とポツリと呟いたお母様。きっとお父様の事だ。

 「それなら魔物を完全に祓ってから、お医者様に健康状態を見ていただきましょう。
 だけど困ったわね、ウォルズマー様は先ほど魔物祓いは他の人にっておっしゃっていたし、もうお帰りになられたから接点が無くなるわね。
 ウォルズマー様に婚約を提案してみる?だけどあの方は貴族では無いし急に婚約と言われても困るかしら。アプローチしたいのなら何かしら接点を見つけなければならないわ。」

 お母様、めっちゃ考えてくれてる。大好き。
 ルナス・ウォルズマー様は王城の魔術師団所属。接点と言えばお仕事で関わり徐々に親睦を深めるのが定番よね。

 「王家から仕事の紹介状を頂きましょう!魔術師団関係でお仕事して親睦を深め、お心を射止めてきます。就職活動頑張ります!」
 「とても気合いが入ってるわね。元気そうで安心したわ。」

 そう、私は憑かれたら最後、体が弱くなるとされている魔憑きになったけど元気です。それは私に憑いた魔物のやる気の無さによるもので1ヶ月自分の意思で体を動かせなかっただけに留まっている。
 余談だけど食事等の生きるために必要な行動はウォルズマー様の人形を操る魔術の応用でどうにかなったとか。本当にすごい。

 私の様子に目を細め嬉しそうなお母様。お父様も程なくしてお見舞いに来てくれたけど私のウォルズマー様アプローチ作戦を話したら項垂れていた。「彼は結構気に入ってるけどね・・・でも寂しい。」と呟きながらお母様と「今夜は飲みましょう。」と話している。

 王妃の教育を無駄に受けてきてマナーや知識はあるし、王族の紹介状も貰える。魔憑きのままでもきっと就職出来るはず。

 1ヶ月一緒にいた為に完全に愛着の沸いた魔物と二人きりの精神世界?で半分の大きさになった魔物を抱き締めながら私は考えていた。
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