ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 1*最悪の再会

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 翌日、私は資料室に籠っていた。秋山さんはデータ管理全般を担当していて、私は過去の資料と向き合うことになった。とは言え、蓮兄がSIINAを立ち上げてからまだ五年だから、資料も五年分しかない。私には都合が良かった。

 資料室の鍵は社長と副社長と野々村さんが管理していて、基本的には三人の誰かに直接解錠してもらう。ドアはオートロックになっているから、一度外に出たらまた鍵を使って入らなければならない。

資料はプロジェクトごと、年度ごとにファイリングされていて、それ以外のデータはUSBメモリかディスクで保管されている。持ち出しには社長か副社長の許可が必要で、記録もつけている。


 極秘情報を持ち出すなら、ここに頻繁に出入りしている人間……?


 咲さんには、しばらくはSIINAの業務に集中するように言われているけれど、一人で極秘資料に囲まれている状況を使わない手はない。それに、秋山さんはあと三日で退職。彼女が情報の売買を行って『いない』確証を掴むには、今しかない。

 私は『人事』と書かれたディスクをデータ閲覧用のパソコンに入れた。極秘資料だから、もちろんロックが掛かっている。私は持って来たUSBメモリを差し込み、アップロードした。数秒でロックが解除される。用意しておいたもう一つのUSBメモリを差し込み、ディスクのデータをコピーした。

 ディスクを取り出した時、間近で人の声を聞いた。鍵穴に鍵が差し込まれる。私は急いでデータをコピーしたUSBメモリを外し、もう一つのUSBメモリに履歴の消去を指示した。これで、このUSBメモリが差し込まれている間の履歴は全て消去される。



 早く――!



 ドアが開いた瞬間、私はUSBメモリを引き抜いてポケットに入れ、ディスクをファイルの間に隠した。パソコンのディスプレイは、それまで閲覧していた資材管理の資料に切り替わる。



 あっぶな――。
 


「あら? 使用中だったのね」

 入って来たのは経理部の三浦さんと、圭。

「お疲れ様です」と、私は三浦さんを見て言った。

「お疲れ様。あなたも過去データの閲覧?」

「はい」

「じゃあ、芹沢くんはこっちの席を使って」

 三浦さんは私の隣の席を指さす。

「はい」と言って、圭がチラリと私を見た。

 三浦さんは圭に経理・財務関連の資料について説明を始めた。私はディスプレイとファイルを見比べながら、ディスクを戻すタイミングを計っていた。



 ん…………?



 私はディスプレイに表示されている表の数字と、ファイルに収まっている表の数字が違うことに気がついた。

 ディスプレイに表示されているのは集計用のExcelの表で、この表を基に必要な項目の集計がシート分けされている。私はマウスを動かして、Excelの表の更新日時を確認した。



 二日違う……。



ファイルに閉じられているのはExcelの基データから必要な項目を抽出して作られた報告書。だから、基データの更新日時が報告書の作成日時の後なのは不自然だ。



 改ざん……?

 いや、更新したのが報告書関連のデータとは限らない……?



「二人ともお昼にはここを出てね」

 三浦さんの声に、私はハッとして顔を上げた。圭への説明を終えたようで、彼女は部屋を出て行くところだった。

 圭は私の隣の席でファイルを開いている。

「わかりました」と言って、私はディスプレイに視線を戻した。

 シートを順に開いていき、数字を確認する。同時に、ファイルの資料の他のページにも目を通す。

「――り」



 古いデータから見たけど、不自然な箇所はなかったはず……。



「……伊織」



 いや、でも、基データの更新日時と報告書の作成日時の確認まではしなかったし……。



「おい!」 

「ちょっと黙ってて!」

 考えを邪魔されて、私は咄嗟に大きな声を出してしまった。隣で圭が面食らった顔をしている。

「あ……、ごめん。何?」

「そんな怖い顔して、どんだけ集中してんだよ」と言いながら、圭がディスプレイを覗き込む。

「二年前の資材管理表?」

「項目が複雑でわけわかんなくなっちゃって……」

 私は報告書のファイルを閉じた。



 あ、ディスク!



 人事のディスクを戻していないことを思い出し、私は丁寧にファイルを持ち上げた。圭の席から、ディスクの保管場所は死角になっている。
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