3 / 176
Mission 1*最悪の再会
3
しおりを挟む翌日、私は資料室に籠っていた。秋山さんはデータ管理全般を担当していて、私は過去の資料と向き合うことになった。とは言え、蓮兄がSIINAを立ち上げてからまだ五年だから、資料も五年分しかない。私には都合が良かった。
資料室の鍵は社長と副社長と野々村さんが管理していて、基本的には三人の誰かに直接解錠してもらう。ドアはオートロックになっているから、一度外に出たらまた鍵を使って入らなければならない。
資料はプロジェクトごと、年度ごとにファイリングされていて、それ以外のデータはUSBメモリかディスクで保管されている。持ち出しには社長か副社長の許可が必要で、記録もつけている。
極秘情報を持ち出すなら、ここに頻繁に出入りしている人間……?
咲さんには、しばらくはSIINAの業務に集中するように言われているけれど、一人で極秘資料に囲まれている状況を使わない手はない。それに、秋山さんはあと三日で退職。彼女が情報の売買を行って『いない』確証を掴むには、今しかない。
私は『人事』と書かれたディスクをデータ閲覧用のパソコンに入れた。極秘資料だから、もちろんロックが掛かっている。私は持って来たUSBメモリを差し込み、アップロードした。数秒でロックが解除される。用意しておいたもう一つのUSBメモリを差し込み、ディスクのデータをコピーした。
ディスクを取り出した時、間近で人の声を聞いた。鍵穴に鍵が差し込まれる。私は急いでデータをコピーしたUSBメモリを外し、もう一つのUSBメモリに履歴の消去を指示した。これで、このUSBメモリが差し込まれている間の履歴は全て消去される。
早く――!
ドアが開いた瞬間、私はUSBメモリを引き抜いてポケットに入れ、ディスクをファイルの間に隠した。パソコンのディスプレイは、それまで閲覧していた資材管理の資料に切り替わる。
あっぶな――。
「あら? 使用中だったのね」
入って来たのは経理部の三浦さんと、圭。
「お疲れ様です」と、私は三浦さんを見て言った。
「お疲れ様。あなたも過去データの閲覧?」
「はい」
「じゃあ、芹沢くんはこっちの席を使って」
三浦さんは私の隣の席を指さす。
「はい」と言って、圭がチラリと私を見た。
三浦さんは圭に経理・財務関連の資料について説明を始めた。私はディスプレイとファイルを見比べながら、ディスクを戻すタイミングを計っていた。
ん…………?
私はディスプレイに表示されている表の数字と、ファイルに収まっている表の数字が違うことに気がついた。
ディスプレイに表示されているのは集計用のExcelの表で、この表を基に必要な項目の集計がシート分けされている。私はマウスを動かして、Excelの表の更新日時を確認した。
二日違う……。
ファイルに閉じられているのはExcelの基データから必要な項目を抽出して作られた報告書。だから、基データの更新日時が報告書の作成日時の後なのは不自然だ。
改ざん……?
いや、更新したのが報告書関連のデータとは限らない……?
「二人ともお昼にはここを出てね」
三浦さんの声に、私はハッとして顔を上げた。圭への説明を終えたようで、彼女は部屋を出て行くところだった。
圭は私の隣の席でファイルを開いている。
「わかりました」と言って、私はディスプレイに視線を戻した。
シートを順に開いていき、数字を確認する。同時に、ファイルの資料の他のページにも目を通す。
「――り」
古いデータから見たけど、不自然な箇所はなかったはず……。
「……伊織」
いや、でも、基データの更新日時と報告書の作成日時の確認まではしなかったし……。
「おい!」
「ちょっと黙ってて!」
考えを邪魔されて、私は咄嗟に大きな声を出してしまった。隣で圭が面食らった顔をしている。
「あ……、ごめん。何?」
「そんな怖い顔して、どんだけ集中してんだよ」と言いながら、圭がディスプレイを覗き込む。
「二年前の資材管理表?」
「項目が複雑でわけわかんなくなっちゃって……」
私は報告書のファイルを閉じた。
あ、ディスク!
人事のディスクを戻していないことを思い出し、私は丁寧にファイルを持ち上げた。圭の席から、ディスクの保管場所は死角になっている。
1
あなたにおすすめの小説
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
嘘コクのゆくえ
キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。
生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。
そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。
アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで……
次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは……
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。
作者は元サヤハピエン主義を掲げております。
アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
恋愛に臆病な28歳のOL椎名澪(しいな みお)は、かつて自分をフッた男性が別の女性と結婚するという噂を聞く。ますます自信を失い落ち込んだ日々を送っていた澪は、仕事で大きなミスを犯してしまう。ことの重大さに動揺する澪の窮地を救ってくれたのは、以前から密かに憧れていた課長の成瀬昇吾(なるせ しょうご)だった。
澪より7歳年上の成瀬は、仕事もできてモテるのに何故か未だに独身で謎の多い人物。澪は自分など相手にされないと遠慮しつつ、仕事を通して一緒に過ごすうちに、成瀬に惹かれる想いを抑えられなくなっていく。けれども社内には、成瀬に関する気になる噂があって・・・。
※ R18描写は後半まで出てきません。「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる